魔法少女と変身ヒーローと悪の科学者の物語 |
第四話「災いという名の女の戦いの幕開け」
幼馴染というのは存在する。そして天道翔介にもそれはいた。それも異性のお向かいさんである。
不幸にもそれが災いを及ぼすことになったのは、今から数十分前の事だ。
長い銀髪を左で一纏めにした女性は、箸を両手で握って机を叩いていた。アメジストの双眸が空腹を訴えたモノとなる。
「今日は早かったね」
朝食時。朝からお腹を空かせることはなんら不思議ではない。だが、彼女に至っては例外である。
「はい! 昨日は深くにも早くに寝てしまったので、今日はお目々がギンギラギンです」
翔介は朝食の準備を進めながらえらいねと漏らす。ノワールはそれに気を良くしたのか、満面の笑みを浮かべる。
ちなみに今現在進行形で腹の虫が警鐘をけたたましく鳴らしていた。
最初こそ恥じらっていたが、すでに慣れているのかノワールも、それを聞いている翔介も気にした素振りを見せない。
翔介は料理を配膳し終えるといいよ告げる。
朝食の内容は炊きたての白米。白味噌の長ネギとわかめ入りの味噌汁。オカズはだし巻き卵にハムにキャベツとトマト、きゅうりの入ったサラダだ。
「今日も美味しそうです」
「お母さんに言ってあげて。俺はよそっただけだから」
「はい。後でお伝えに行きたいと思います」
そうだとノワールは手を打つ。
「翔介さんのお父さんは特撮が好きなのですか?」
「そうだよ。部屋にたくさん玩具があるよ」
「そうですか。それぞれ三つずつ確保しているのは、感服しました」
「おかげでうちの家計はいつも危ないんだけどね」
翔介は困ったように笑うと、箸を進めていく。
ノワールは慣れた手つきでチャンネルを操作しテレビを点ける。
画面に映ったのは魔法少女たちの姿だ。その姿に彼女は少し悔しさをにじませる。
「翔介さんが映っていません」
「そりゃあ、影でこそこそしてますし」
元敵だったということもあってか、彼女の表情には色濃い悔しさを表出する。それもほんの僅かですぐに元へと戻す。
どんなに悔しがっていても翔介がそれでいいと言っているので、無意味なのだ。
「このまま本当に戦い続けるのですか?」
翔介にはアークと戦う義務も理由もない。それでも本人はやるよと言う。
「魔法少女を助けたいしね。女の子を助けるのは男の子の義務みたいなものですし」
「まあ、助けられた手前言うのはなんですが、そこまでしなくても」
真面目にふざけている敵とはいえ、危険がないとは限らないのだ。
「いいんだ。力が手元にあって、やりたいことがある。なら、後はそれを成すだけ」
「そこまで仰るならもう止めませんが、いつでもやめて構いませんし、命は大事にしてください」
翔介はわかったと言うとご飯を一気にかきこむ。
「それにさ。もしかしたら魔法少女や特撮ヒーロー。それらで楽しく話せる、アークもいるかもしれないじゃないですか」
「その可能性は小さいですよ?」
困ったように笑うノワール。対して彼は朗らかだ。
「それでも、と言い続けるよ」
翔介は立ち上がると皿などを片付けていく。食器を水につけると、冷蔵庫を開ける。中から取り出したのはペットボトルのトマトジュースだ。それをとても美味そうに見えない様子で飲み干す。
その様子にノワールは苦笑した。
「よく飲みますね」
「この鼻に抜ける臭いさえなければいいんだけどね」
空のペットボトルを水でゆすいで、逆さにする。ラベルを剥がしてゴミ箱へ。
時計を確認すると足早に自身の部屋へと。
ノワールは遅々として朝食に箸を進めていく。おかずを口の中に入れてから白米をかきこみ、最後に味噌汁で流す。そのルーチンワークを繰り返していく。
翔介は学生カバンを持って玄関へと向かう。
「今日もお店お願いしますね」
「はーい」
彼は返事を確認してから玄関を出て鍵を締める。
ノワールはついに朝食を食べ終えて食器を片付けていく。キッチンの机の上に一つの包みを発見する。
「あ、翔介さんのお弁当」
これが後の事件の引き金になるとは、翔介はまだ気づいていない。
まだ出て間もないことを確認すると、彼女の行動は早かった。ノワールは急いで弁当を掴むと、玄関を飛び出す。
翔介の名前を呼びながら通学路を急ぐ。程なくして翔介の背中を発見。大きな声で呼び止めて駆け寄った。
その隣に女子生徒にいることにノワールは気づく。明らかに警戒を示していた。
ノワールはこの時直感で、自身の敵であると認識した。女性としての敵である。
彼女は態とらしく満面の笑みを作ると、初々しく弁当を差し出した。
「はい翔介さんお弁当をお忘れですよ?」
「あ! ありがとうございます」
「いえいえ。翔介さんのでしたら喜んで――」
そこで隣にいた女子生徒は翔介を勢い良く掴んだ。
「この人は誰ですか?」
「あ、えっと……ノワ――のわるりさん。訳あってうちで預かっているんだ」
咄嗟に彼はノワールの名前を言い換える。ノワールもそれにはっとなると頷いた。
「そんなの聞いてないです!」
「聞かれてないです」
即座に翔介を解放すると、彼女はノワールと向き合う。
彼女もノワールも互いに恋敵であると直感したのだ。
「初めまして。私は赤木天音といいます。翔介とはなが〜いお付き合いをしている幼馴染です」
長いという言葉を意識的に強く言う。それに対してノワールは涼やかに笑う。
「どうも、幼馴染さん。私は翔介さんの、親公認の、のわるりともうします」
勝ち誇った笑みを天音にぶつける。親公認という言葉に天音は顔色を青くする。
「どういうことですか翔介」
「え? えーっと、まあうちで預かっているし?」
翔介は、親公認の意味を理解していない。彼の中では精々、家に住み込んでいることを公認している、という認識だ。もちろんそういう意味ではない。そのことは聡明な読者の皆様ならお分かりであろう。
こうして彼女たちの戦いは幕を切って落としたのだ。
〜続く〜
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