黒外史  第十六話
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黒外史  第十六話

 

 

 水関の城門から出て来た呂布は一歩一歩踏みしめる様に歩き、しかし徐々にその足は早くなって行く。

 城門からもうひとつ、灰色の影が飛び出し呂布に追いついた。

 それは呂布が狩猟大会で服従させ、((灰|かい))と名付けてた狼だった。

 

「………((灰|かい))、思いっきり暴れよう。」

「ワフッ!」

 

 ひとりと一頭は一緒に戦場へ向けて速度を上げて突進を始める。

 その気配を戦場で最初に気付いたのは董卓と孫堅だった。

 二人は斬り結びながらも呂布の放つ氣を感じ取り、二人同時にニヤリと笑う。

 

「やっと動き出しやがったか♪」

「狩りの時から気になってたが、あいつもお前並みみてぇだな♪」

 

 渾身の力で鍔迫り合いをしながら、まるで酒の席での語らいの様な口調の董卓と孫堅。

 いや、彼らにとっては暴力という名の美酒に酔いしれる宴の最中なのだろう。

 

「オレもあの野郎の本気は初めて見るが、どうすんだ、お前?」

「どうするって、今はこうしてテメェと遊んでんのに、どうしようもねえだろうが!」

「このままだと連合が負けちまうぜ?」

「別に連合が負けちまっても俺の軍が無事なら問題ねえさ♪」

「お前、北郷との約束を忘れてるだろ。」

「約束!?…………………あ、そうだった。こりゃ、やべぇなあ♪」

 

 孫策は一刀と交わした『連合が負けたら、自分の((首級|しるし))と配下全部をくれてやる』という約束を思い出した。

 それでも孫堅はこの状況を楽しんでいる様である。

 

「まあ、伯符と太史慈が何とかすんだろ。それに頼もしい軍師も居るしな。」

「間に合うのかあ?呂布は真っ直ぐ劉虞を目指してるぞ。」

 

 董卓の言う通り、呂布は狼を連れて一直線に劉虞の居る本陣に向かっていた。

 途中に塹壕が有ろうが、大岩が転がっていようが、全て飛び越える。

 呂布の突進に気付いた弓兵がその瞬間を狙い撃ちしたが、矢は全て方天画戟によって叩き落とされた。

 そして孫堅の言った事もその通りになっており、孫堅軍の陣から孫策と太史慈が呂布の目指す劉虞の居る本陣へと向かっている。

 

「((梨杏|りあん))!ようやく私らの出番よ♪」

「確かに面白そうな相手だ♪暴れちゃうぞ〜〜♪」

 

 孫堅と太史慈は馬を駆っているが、両軍入り乱れた戦場では思うように進めない。

 その間に呂布は霹靂車を守る袁紹軍と接敵した。

 方天画戟のひと振りで袁紹軍の兵数人が五体を斬られて吹っ飛ばされる。

 呂布の攻撃の凄まじさが袁紹兵には先日の一刀の戦いぶりを思い起こさせた。

 しかし、孫策と太史慈には全力で戦える好敵手として更に興味を惹かせ、闘争心を昂らせる。

 

「やるなぁ〜。あいつの使ってるのも双戟か♪こりゃ是非とも私が相手したいね♪」

「ナニ?私に狼の相手をさせる気!?」

 

 双戟、方天画戟と呼ばれる武具は呼び名が違うだけで同じ種類の武器の事である。「切る」「突く」「叩く」「薙ぐ」「払う」と状況に応じて使い分けられる。

 灰色狼の灰は呂布に負けじと袁紹兵の喉元に噛み付き、次々と屍の山を築いていた。

 孫策もその戦いぶりを見て灰の強さを認めはしても、それ以上に強い呂布を見てしまっては血が騒ぎ、刃を交えたいという衝動を抑えきれない。

 とにかく近付かなければそれも叶わないのだから、孫策は太史慈と競って呂布を目指した。

 

 

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 そして劉虞の居る本陣でも呂布の接近を見て、動きが慌ただしくなっていた。

 袁紹が総大将の劉虞を守るべく声を張り上げる。

 

「劉虞さまっ!お下がりください!ここはこの袁本初があの者を倒してご覧に入れますわっ!!」

 

 袁紹の言葉に顔良、文醜、田豊、張?、郭図の袁紹軍の将が耳を疑った。

 劉虞、劉備、張飛の三人は素直に感心し、袁紹を見直している。

 

「(桃香お兄ちゃん、噂で聞いた袁紹ってこんな時に逃げ出す奴だと鈴々は思ってたのだ。)」

「(うん、私もだよ…………人の噂ってアテにならないねぇ。)」

 

 劉備と張飛はヒソヒソと言葉を交わし、劉虞は袁紹に歩み寄り真剣な面持ちで語り掛けた。

 

「本初、気持ちは嬉しいが私は引きません。総大将である私が引けば全軍の士気に関わります。それに私も剣には自信があります。北郷一刀の野望を打ち砕く為、共に参りましょう。」

 

「いいえ、劉虞さま。総大将だからこそ、ここで御身に何か有ってはならないのです。わたくしとわたくしの将にこの場はお任せくださいませ。」

 

 右手を差し出した劉虞に対し包拳礼で応えた袁紹は、振り返って己の将の元へと堂々と歩みを進める。

 主を迎える顔良達は、全員顎が外れそうなくらい口を開けていた。

 何しろこんな“まとも”な事を口にする己が主を初めて見たのだ。

 完全に思考が停止して、息をする事すら忘れてしまいそうだった。

 

「さあ、皆さん。我が袁家に伝わる伝説の武具を纏いなさい。わたくし達であの触覚頭と犬っころを撃退しますわよ。」

 

 袁紹の言葉に田豊が最初に我に返った。

 

「麗羽様!アレをお使いになるのですかっ!?」

 

「ええ、そうですわ。ここで使わずして何の為の伝家の宝具ですの。と言うか、もう既に宝具の入った箱を持って来て有りますわ!」

 

 袁紹が金属で出来た((鎧櫃|よろいびつ))を示した。

 

「ああ、((真直|マァチ))さん。貴方は軍師ですからこの宝具は纏えませんよ。元より五つしか有りませんから。」

 

「え?それは願ったりなんですけど………」

 

「時間が有りませんわ!燃え上がれっ!!わたくしの凰羅っ!!」

 

 気分の盛り上がった袁紹は結局いつもの様に田豊の話を聞いていないが、なんと本当にあの袁紹の身体から凰羅が吹き上がった。

 己の凰羅の圧力で鎧の紐と服が千切れ全裸になる。

 同時に鎧櫃の蓋が開き、中から白い帯の様な物が飛び出した。

 白い帯はまるで意思を持っているかの様に、袁紹に巻きつき、ほんの数秒で宝具はその姿を具現化した。

 

 それは股間から白鳥の首を生やしたマワシ!

 

 首だけしか無い白鳥が鋭い眼光を輝かせる!

 

 

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 呂布が目の前の袁紹の兵を薙ぎ払った時、その笑い声が聞こえて来た。

 

「おーーーーーーっほっほっほっほっほっほっ!そこまでですわ!触覚頭!!」

 

 呂布は目の前に現れた五人を無表情で眺める。

 

「………………………何それ?」

 

「おーーーーーーっほっほっほっほっほっほっ!これこそは、我が袁家に代々伝わる攻防一体の宝具!白鳥マワシですわっ!!」

 

 袁紹が呂布をビシリと指差すと、白鳥の頭がビヨンビヨンと上下に揺れる。

 

「あのぅ……………袁紹様。やっぱりコレ、恥ずかしいんですけど…………」

 

 顔良が白鳥マワシだけを身に着けた姿で恥じ入り、白鳥の頭も項垂れていた。

 

「なんだよ、斗詩ぃ。あたいは男らしくて格好いいと思うぜ♪」

 

 文醜は堂々と仁王立ちをして、白鳥の首をグルングルン回している。

 

「攻防一体って………どう見ても防御に不安が有るんだけど…………」

 

 郭図が自分の肩を抱いて背中を丸めると、白鳥の首が郭図を守る様に左右に揺れた。

 

「弱気な事を!この張?儁乂が袁紹様から頂いた力を見せてやるわっ!!」

 

 張?が飛び出し、呂布目掛けて白鳥の嘴による突きを繰り出した!

 

「………甘い。」

 

 方天画戟が白鳥の首を狙って振り下ろされる!

 白鳥の首を一刀両断………と思いきや、白鳥の首は方天画戟の刃に耐え切った!

 

 ただ、切れはしなかったが、白鳥の首は中折れして九十度の角度で曲がっている。

 張?は白目を剥き、泡を吹いて倒れた。

 

「この宝具の使い方がなっていませんわ!わたくしが手本を見せて差し上げます!」

 

 袁紹は両腕を頭の後ろで組み、激しく腰を前後に動かして呂布に連続突きを繰り出した!

 

 呂布はその突きを方天画戟で受けるが、なんと防戦一方になり反撃が出来ない!

 

「おーーーーーーっほっほっほっほっほっほっ!この様に凰羅を込めれば如何なる武器もこの宝具を傷つける事叶いませんわ♪」

 

 呂布は白鳥の首の突きを捌きながら違和感を感じた。

 

「あら、気が付きました?この宝具は刺激を受ければ受ける程、硬さを増していきますのよ♪おーーーーーーっほっほっほっほっほっほっ♪」

 

 見た目は布にしか見えないのに、打ち合う音は金属同士のぶつかる音にしか聞こえなくなっていた。

 

「さあ!この技を喰らって吹き飛びなさいっ!」

 

 袁紹は頭の後ろで組んでいた腕を解き、先ずは右腕、次に左腕と、白鳥の羽ばたきの様に動かす。

 

 

「((金剛嵐武|こんごうらんぶ))っ!!」

 

 

 袁紹の腰の動きが速度を上げて、白鳥の嘴がまるでマシンガンの様に襲いかかる!

 呂布も方天画戟で捌く速度を上げて、全て防御して見せた!

 しかし!袁紹の宝具は刺激を受けて更に硬度を増す!

 白鳥の首はビッキビキのガッチガチに固くなり、まるで生きているかの様に嘴から唾液をこぼしていた。

 

「はぁ……はぁ……はぁ………………金剛嵐武を受けきるとはやりますまわね…………貴方、お名前は?…………」

 

「……………………呂布……奉先。」

 

「…呂布奉先………貴方に敬意を表して、袁家の最終奥義をご覧に入れますわ♪」

 

 袁紹が白鳥の首を両手で掴むと、白鳥の瞳が激しく輝いたっ!

 

 

「((極光|きょっこう))!((裂波|れっぱ))あああああああああああああああああああっ!!」

 

 

 白鳥の口が大きく開き、白い凰羅が勢い良く噴出されたっ!

 

 呂布は横に一歩ズレてあっさり躱す。

 躱された白い凰羅は進行方向の敵味方を関係なく吹き飛ばし、霹靂車をも破壊してしまった。

 呂布が次の攻撃に備え方天画戟を構え直すが、袁紹はスッキリした顔で立ち尽くし、白鳥の首もダラリと垂れ下がっている。

 どうやら賢者タイムに入っている様だった。

 

「……………………えい。」

カキィーーーーーーーーーーーン!

 

 呂布が方天画戟を横にひと振りすると、袁紹は吹っ飛んで星になった。

 峰打ちにしたのは男としての武士の情けである。

 

「「「え、袁紹様ぁ〜〜〜〜〜〜〜っ!!」」」

 

 顔良、文醜、郭図の三人は飛んでいった袁紹を拾いに走って行った。

 呂布は改めて劉虞の居る方を向いてフンと鼻息を鳴らす。

 

「………今度こそご主人様をイジメた奴を……………」

 

 背後に新たな殺気を感じて振り返った。

 

「まだ、邪魔をする?」

 

 そこには孫策と太史慈が笑って立っている。

 

「別にあんたの邪魔をする気は無いけど、結果的にはそうなるわねえ♪」

「お前みたいに面白そうな喧嘩相手は雪蓮とやりあって以来だからねぇ♪どっちの相手をしてくれる?」

 

「………面倒だから二人一緒に来い。」

 

「あれぇ?私ら舐められてるよ、雪蓮。」

「せっかくだからお言葉に甘えましょう♪狼さんは向こうで暴れてるし。」

 

 孫策の剣と太史慈の双戟が呂布に襲い掛かる!

 

 

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 孫策と太史慈が呂布の相手をし始めた事で、戦場は再び一進一退の膠着状態になった。

 しかし連合軍は霹靂車を失った事で攻城兵器が衝車のみとなり、このままでは押し返されるのは時間の問題だ。

 劉虞は少々逡巡したが、ここで全滅しては意味が無いと決断を下す。

 

「全軍に後退の合図を!」

 

 直後、戦場に銅鑼の音が鳴り響いた。

 しかし、それは連合軍からでは無く、水関の中から。

 後退の合図では無く、更なる増援の出陣を知らせる物だ。

 劉虞が見つめる先で水関の城門が開き軍勢が姿を現す。

 

 掲げる牙門旗は十文字旗!

 

「遅かったか!…………玄徳殿、後退です!」

「えっ!?でも、愛紗ちゃんがまだ戻ってないから………」

 

 劉備は予定外ではあるが、ここで劉虞を足止め出来れば一刀が劉虞を捕らえると踏んで、咄嗟に関羽の事を言い訳にグズグズする作戦に出た。

 そしてここで連合軍側から後退を知らせる銅鑼が聞こえて来る。

 直後に曹操が己の親衛隊を引き連れてやって来た。

 その中に許緒と、更に筋骨隆々とした巨漢の典韋も居る。

 典韋はやはり流琉と同じ服を着ていた。

 

「劉虞様!我らがお守りします!官渡まで一度引きましょう!」

 

「そうですね………こうなってはそれしか手が有りません………」

 

 劉虞は伝令に官渡までの撤退を伝える様に指示を出す。

 曹操はその間に劉備と張飛を取り囲んだ。

 

「さあ、劉備殿。貴方も早く馬に乗りなさい。」

 

「で、でも……その…愛紗ちゃんがまだ………」

 

 僅かでも一刀が近付く時間を稼ごうとオロオロして見せるが、曹操にはお見通しだった。

 

「関羽程の剛の者なら無事でしょうし、直ぐに追い付くわ。」

 

「そ、それは………」

 

「しょうがないわね。こうなったら……」

 

 曹操は馬から降りて劉備に近付くと、お姫様抱っこで抱え上げた。

 

「桃香お兄ちゃんに何をするのだっ!」

 

 これまでは敢えて動かずにいた張飛も流石に曹操へ食って掛かる。

 しかし劉備の身を危険に晒す事も出来ないので手出しだけはギリギリで踏み止まった。

 

「張飛!貴方も早く馬に乗りなさい!」

 

 曹操の恫喝に張飛は渋々馬に跨る。

 

「季衣、流琉。私をこのまま持ち上げて馬に乗せなさい。」

 

「「御意!」」

 

 許緒と典韋、二人の巨漢は劉備をお姫様抱っこした曹操を軽々と担ぎ上げて馬に乗せた。

 

「劉備、貴方には地獄の底まで私に付き合って貰うわよ♪」

「え!?」

 

 

 遂に連合軍本陣は官渡へ向けて撤退を開始した。

 

 

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 一方、一刀が率いる増援部隊は後退して行く連合軍への追撃戦へと移行した。

 戦場の各所でも逃げる連合軍の兵を追ったり、降伏した部隊の拘束をしたりしている。

 

「ご主君が自ら追撃部隊を指揮されると言い出すとは思いませんでしたな。てっきりもう暫くはウジウジと悩まれると思っていましたので。」

 

 孔明が一刀の横で一緒に馬を駆りながら話し掛けて来た。

 

「うるせぇ!悩んだって後戻りは出来ないんだ!こうなりゃ俺の思うがままに突き進むしか無いだろうが!」

 

 一刀の瞳には決意が籠っている。

 例えそれが遠回りになろうとも、己の意思を貫く。

 この外史を抜け出す為には勝ち続けるしか無いのだと。

 

 一刀の横にはもうひとり、趙雲も従いて来ていた。

 己が主と認めた男が決意を新たにした事を素直に喜び、今日こそは主の為に戦働きが出来ると勇んでいる。

 

「主よ、後退しないで待ち構えてる軍が居る…………………いや、降伏するのか?」

 

「白旗を掲げていますね………あれは……」

 

 孔明はその軍の掲げる牙門旗を確認しようと目を細めた。

 しかし、一刀の目にはその旗とそこに居る者の顔も見えている。

 

「孫堅軍か……………董卓が孫堅を殺さなかったとは………」

(つくづくあいつはこの外史で予想外の行動を取るな。)

 

 後半は孔明と趙雲に聞かせられないので、心の中で呟いた。

 

 近付けば董卓の他に華雄と牛輔、そして呂布と狼の灰もその場に居るのが確認出来た。

 一刀は部隊を一度停止させ、董卓の所に向かう。

 

「董卓、お前よく孫堅の降伏を受け入れたな。」

 

「今後の楽しみを考えたら、こいつらをここで全滅させちまったら面白く無えしな♪」

 

 当然、董卓は孫呉が再び敵となって戦う事になると知っている。

 だから楽しみなのだ。

 

「そうはならないかも知れないだろ。何しろここは外史なんだから。」

 

 一刀はそう言いながら自分の心に刻み込んだ。

 

(そうだ!ここは外史だ!抗ってやるぞ、俺は!)

 

 董卓の横を抜けて孫堅軍の前に立つ。

 孫堅が先頭で仁王立ちしており、その後ろに将兵全てが膝を着き、包拳礼を取っていた。

 

「いよう、北郷♪意外にも早く負けちまったぜ。約奥通り、俺の首級と配下全部をくれてやる。」

 

 サバサバとした態度で笑う孫堅を、一刀は正面から見据える。

 

「孫堅。あんたは自分が漢王朝の臣か?」

 

「ああ、俺は漢王朝の臣だ。まだな♪」

 

 一刀の突然な質問に対し、躊躇無く孫堅は答えた。

 

「では、あんたの首級は貰えないな。裁きは法に則って正式に執り行う。沙汰が有るまであんたには俺の傍に居てもらおう。」

 

「へえ…………こんなおっさんでいいのかい?何だったら俺の末っ子を奪ってもいい立場なんだぜ?」

 

「いや、それは…」

 

「ご主君。その話をお受け下さい。」

 

 孔明が一刀の後ろから割って入った。

 

「こうして言葉を交わすのは初めてですね、孫堅様。私の名は諸葛亮孔明。兄が大変お世話になっております。」

 

「お前が子瑜の弟か♪ははは♪兄貴よりも面白そうな奴じゃねえか♪」

「ははは♪兄はクソ真面目で面白味が有りませんからな♪」

 

 当の本人の諸葛瑾が目の前で跪いて居るのに、いや、知っているからこそこうして話題にするのだから二人共いい根性をしている。

 諸葛瑾は俯きながら顔を赤くして、歯ぎしりをしていた。

 一刀は諸葛瑾が真面目な性格と聴いて、孔明と交換出来ないか本気で考えた。

 

「ではご主君。孫堅様の末っ子の孫尚香様を人質として受け入れる話を進めますが宜しいですか?」

 

「人質か…………まあ、それで孫堅さんの立場を守れるなら受け入れるしか無いだろう。」

 

 孫堅の早々とした降伏は最初から裏切っていたのではと有らぬ疑いを掛けられない為。

 これは飽く迄も孫家の誇りを守る為の措置なのだ。

 

「何だ、解ってるんじゃないですか。」

 

「いや、俺としては人質を取ったという形が出来れば誰でもいいと思ってたからな。」

 

「ほほう、誰でもいいのか。それならもう何人か見繕っておくから期待して待ってろ♪」

 

「何を考えてるんだ、あんたは!?」

 

 孫堅が顎鬚をさすってニヤニヤしながら考えているのを見て、一刀は嫌な予感しかしなかった。

 

「所で孫堅様。この策を考えられたのはどなたですか?私の兄で無い事は確かでしょうけど。」

 

 孔明の言う策とは、孫堅軍が殿を勤め連合軍を逃がす時間を稼ぐ事。

 現在連合軍を追撃しているのは董卓軍の徐栄部隊だけである。

 孫堅軍という北郷軍には無視出来ない軍を囮にすれば、大半の追撃を足止め出来る。

 これで孫堅軍は連合軍に対して義理を果たす事が出来た。

 そして孫堅が一刀とした約束だが、家臣としては一刀が孫堅の首を刎ねないと確信が無ければ降伏など出来る筈がない。

 

「周瑜っていう今うちで一番出世頭の若手軍師だ。洛陽での狩りの時に周瑜も連れてったからな。あいつはあの時に北郷の性格を見抜いたって言って、老いぼれ軍師共を納得させたんだ。」

 

「周瑜か………後で挨拶をさせてもらおう。」

 

 一刀は居並ぶ孫堅軍の将を眺め、冥琳と同じ服装を見付けて周瑜を判別した。

 同じ理由で孫策、孫権、孫尚香、甘寧、周泰、陸遜、呂蒙も見つけ出す。

 最近は慣れてきたとは言え、一度に現実を突き付けられるのはやはり精神的負担が大きい。

 黄蓋は既に知っていたので、まだダメージは少なかったが。

 そんな中に顔を上げて一刀を見ている者が居る。

 一刀が『げんきょう』という名だと勘違いをしている『喬玄』だ。

 

「直接刃を交える事が出来ないまま、この様な結果になりましたね。」

 

「我が主君はこうなる予感が有ったのでしょう。だから北郷様とこの様な約束をなさったに違いありません。」

 

「その割には顔が厳しいですが………」

 

「なに、決断をしていただけです。北郷様に差し出す人質に、我が子も加えようと思ったまでの事。」

 

「…………そうですか。孫尚香殿の世話役としてお預かり致します。」

 

 一刀は深く考えずにそう答えて董卓の所に戻って行く。

 喬玄の脇腹を黄蓋が肘で押してきた。

 

「(喬玄、おぬしはあの二人を北郷に差し出すのか?)」

「(ああ、あの方ならばお任せ出来ると思えた。)」

「(『江東の二喬』と呼ばれ世間に評判になっているのじゃぞ。むしろ良からぬ風評の種にならんか?)」

「(しかし北郷殿ならば大喬を幸せにしてくれると思えるのだ…………儂は既に武将では無く、我が子を思うただの親に過ぎぬ…………もう隠居した方がよいのかもな………)」

「(喬玄…………)」

 

 

 

「北郷、華雄が関羽から手紙を預かって来ているぞ。」

 

 董卓が一刀にその手紙を差し出した。

 

「そうか………早く劉備達を助け出さないとな。」

 

 一刀はこの場で手紙を開かず懐に入れる。何処にどんな目や耳が有るか判らないのだ。

 用心に越した事は無い。

 

「その劉備だが、曹操の野郎が拐う様に連れてったそうだ。」

 

「やっぱり曹操が暗躍してるんだな………それを見たのも華雄なのか?」

 

「いや、呂布が見ていたらしい。」

 

 一刀が隣に立つ呂布を見ると、呂布が小さく頷いた。

 

「ご主人様をイジメた奴にも逃げられた…………ごめんなさい………」

 

「何言ってんだ。呂布のおかげで勝てたんだぞ。何か褒美をあげないとな♪」

 

「………ご褒美?……………白鳥さんが欲しい♪」

 

「白鳥さん?………まあ、用意させよう…………そうだ、董卓。赤兎馬は持ってるか?」

 

「そう来ると思ったぜ………ああ、用意しといてやる。」

 

「それよりもご主人様………孫策と太史慈が強かった♪」

 

 その後は呂布が珍しく戦いの様子を語るのを一刀は水関に戻りながら聴き続けた。

 

 

 

 こうして、水関防衛戦は幕を閉じ、新たに官渡への追撃戦が始まるのだった。

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

袁家の白鳥マワシはアニメ版で出てきたアレですw

白蓮が『聖闘士○矢』のパロディをしてたので袁紹にもやらせてしまいましたw

 

 

 

今回のマヌケ晒し

 

 

「ああ、((真直|マァナ))さん。貴方は軍師ですからこの宝具は纏えませんよ。元より五つしか有りませんから。」

 

説明
呂布出撃!立ち憚るのは誰だ!?

初登場キャラ:甘寧・周泰・陸遜・呂蒙 (但し本当に登場するだけです。)

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新規参戦武将
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コメント
殴って退場さん>袁家は代々あの白鳥マワシを着けて、宴会芸で三公になったのかもwww(雷起)
全身タイツ筋肉さん>大喬の登場させるのを当面の目標に頑張って書いてますので、楽しみにお待ち下さい♪(雷起)
牛乳魔人さん>ご指摘ありがとうございます(><)完璧に読み間違えていました!修正と晒しをいたしました。(雷起)
ルルさん>ある意味、死よりも辛いかも……そんな訳で今回はあの一回だけにしましたw(雷起)
白鳥マワシって…結婚式でやる一発芸じゃあるまいしww。(殴って退場)
大喬の姿が気になる もしいつもの姿なら一刀が暴走しそうだなw(全身タイツ筋肉)
誤字?田豊の真名は「マァナ」ではなく「マァチ」です(牛乳魔人)
嗚呼、また張?が・・・いや、死んでないか?どうも前回読んでから張?が頭が離れなくなったw(ルル)
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