紫閃の軌跡 |
リィン、フィー、エマ、エステル、ヨシュアの五人は遊撃士である二人の案内によってこの街に張り巡らされた地下水道に来ていた。
「バリアハートにこんな場所が……」
「あたしたちもここに入るのは二度目なんだけれどね。その時は奥まで行かなかったけれど、結構奥まで続いてるのは知ってるわ。」
「きっと、エステルの一撃で綺麗に片付いたんでしょ?」
「……うん、大体あってる。」
「手ごたえがなさすぎよ。見た目は結構頑丈そうだったんだけれどなぁ。」
聞いたところによると、以前地上でちょっとした異変が起き、その原因を突き止めた先がこの地下水路に巣食っていた魔獣だという経験があったからに他ならない。その結果はというと……エステルの一撃で終わったのは言うまでもない。そもそも、彼女が相手してきた連中の練度と魔獣の練度を同列に比べること自体可哀想なレベルだが。
ともあれ、道中の魔獣を片付けつつ、広いところに出ると……城館に引き離された人物の片割れであるユーシスが姿を見せた。
「―――遅かったな。」
「ユーシス……!」
「その、大丈夫なんですか?抜け出しても……」
「フン、そもそも今回このようなことをしでかすために、俺を引き離したのだろう。そして、先月の事も考えてアスベルも引き離したようだが……そこにいるのは誰だ?」
「ああ、説明するよ。」
リィンが簡単に説明し、エステルとヨシュアが自己紹介をする。
「ユーシス・アルバレアだ。まさか、かの“剣聖”と呼ばれる人間の関係者に出くわすとはな……」
「へぇ〜、<五大名門>のねぇ……あのスチャラカ演奏家がそこまで真面目にやってること自体、違和感バリバリなんだけれど。っと、あたしはエステル、エステル・ブライト。エステルって呼んでね。」
「エステル、気持ちは解るけれどオリビエさんだって真面目にやってるだけだよ……その裏は読めないけれど。僕はヨシュア・ブライト。僕の方もヨシュアで構わないよ。」
「……エステルにヨシュア、何か知ってるの?」
「前に、ウチの父さん宛に手紙を送ってきて、それを見せてもらったのよ。書き方自体はいつものオリビエだったけれど。」
色々あるが、エステルとヨシュアは遊撃士として“民間人の保護”という形でマキアスの奪還を手伝うと伝え、ルドガーはエステル達の連れであるレンと共に独自で行動を始めたということも合わせて伝えた。
「まさか遊撃士をこの国で見ようとはな……アスベルからの伝言だ。『こっちでやらなきゃいけないことがある』と言っていたが……」
「う〜ん、アスベルに関しては読めない部分が結構あるのよね。どことなくライナスさんに近しい感じがするし。」
「ともかく、僕達で出来ることをやろう。方角的にはこのまま進めば詰所の地下辺りに出るはずだ。」
「そうだな。フィーとエマもそれでいいか?」
「ん。異存はない。」
「ええ。」
ともあれ、詰所の方角を目指す一行。すると、その終点らしき場所には頑丈な鋼鉄製の扉。壊してもいいのだが、派手に音を立てると気付かれる可能性がある。それに対して声を上げたのは、ほかならぬフィーであった。扉の鍵があると思しき部分、そして扉と壁を繋げている蝶番があるであろう部分に何かを取り付け……
「―――起動(イグニション)」
そう呟いて何かのスイッチを入れると、その何かは爆発し、扉が原形を保ったまま綺麗に倒れた。彼女の素性を知る者はともかく、その素性を知らないユーシスとエマは驚きを隠せなかった。
「ん。うまくいった。ぶい。」
「流石フィー。」
「流石というか何と言うか……」
「はは……」
「フ、フィーちゃん……」
「……フィー、お前は一体……」
流石にユーシスですら彼女がここまでのことが出来るということに驚くのも無理はないという話だ。
「………リィン、エステル、ヨシュア。話してもいいかな?」
「フィーが決めたことなら、別にいいさ。」
「そうね。あたし達が止める理由もないわ。」
「そうだね。」
「ありがと……私は以前“猟兵団”にいた。銃剣の扱いも爆薬と言ったものの扱いもそこで学んだ。ただそれだけなんだけれど。」
本来ならば遊撃士と猟兵は相容れぬ存在……だが、帝国での『とある一件』の影響もあってか、リベールの遊撃士協会支部の見解は『是々非々』という結果に相成った。元S級遊撃士であるカシウス・ブライトは彼等と共闘した経験と、かつてリベールを襲った戦火を退けた要因の一つである猟兵団に対して非公式に会談を行い、話し合いという名の酒盛りで親交を深めたこともあり、そういったスタンスを持つようになったという。
「聞いたことがあります。名実ともに一流の傭兵たちのことをそう呼ぶと。」
「信じられん……“死神”と同じ意味だぞ。」
「私、死神?」
「いや……そうだな、名に捕らわれる愚は犯すまい。経緯はどうあれ、同じクラスメイトだからな。」
「何があろうとも、フィーちゃんはフィーちゃんです。それは紛れもない事実ですから。」
「……ありがと、二人とも。」
フィーの事情も少し明かしたところで、扉の先へと進む六人。
その一方、ルドガーとレンは……詰所の一角にある、とある場所―――軍用魔獣を管理している場所に来ていた。隠密に特化したヨシュアの師匠的存在であるルドガーと、“かくれんぼ”が得意なレンの二人相手には領邦軍の兵士も形無しであり、その証拠として気絶させられた兵士らが部屋の片隅にまとめられていた。
「さて、ここで滅してもいいが……流石に人殺しは拙いし、何より“鉄血宰相”の野郎に目を付けられるからな。というわけで、取り出しましたのは……」
「葉?」
「これに火をつけて……部屋を出よう。」
そうやって部屋を出た二人は詰所の天井裏に身を顰める。
「(そういえば、さっきのって……)」
「(お香の一種みたいなものだ。燃やすと強烈な催眠効果を含む煙を出す。完全に燃えきるよう調合してるから、床に焦げた後ぐらいしか残らないようになってるし、1分位で燃え尽きる。ただ、効力は数時間に及ぶが。)」
何でそんなものを持ってるのかというと……自衛用というべき代物であった。幾度となく貞操を狙われたルドガーにとって、そういった自衛の手段はあって困るものではない……そのためのツールの一つだった。
「(で、ここでも燃やしておいて地下に逃げよう)」
そして、調合次第では煙の重さをも上手く変えられる代物だ。1階で燃やせば今いる天井裏に敵がいたとしても無色無臭の煙から逃れられる方法は防護マスク位だろう。そして、念のためにちょっとした結界でも張っておけば詰所の兵自体を無力化できるという寸法だ。そうなると、定時連絡がないことを不自然に思ったオーロックス砦あたりから増援が来る可能性があるのだが……そこら辺の手筈は彼がやってくれるであろう。
「それじゃ、合流するとしますか。」
「そうね……(ルドガーって、意外とガード堅いってことね……なら、押し倒す方じゃなく、押し倒されるよう仕向けないと)」
「………」
レンが何を考えているのか薄々感じつつも、ルドガーはリィン等と合流するために行動を開始した。地下に向かう途中で見張りの交代と思しき兵士らに遭遇するも、“痩せ狼”仕込みの寸勁で難なく敵を倒した二人であった。
というわけで、詰所を完全に無力化するルドガーとレンでした。元のネタ自体は『前作』のエルベ離宮での制圧ネタの再利用とも言いますが。武力ではなく搦め手で……しかも、ルドガーにとっては自衛用(あの人とかあの人対策)の代物を作戦に投入しましたwネタとも言いますがw
『人の形をしている以上眠らない道理はない』(byルドガー)……片方はともかく、もう片方は眠るのかどうかという疑問はありますが……睡眠は女性を綺麗にするという言葉があるので……考えるな、感じろ(ぇ
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第33話 自己防衛の術(すべ) | ||
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コメント | ||
感想ありがとうございます。 サイバスター様 今回に関しては没落はさせず、上手く落としどころに落とす予定です。ある程度は説得力のある理由ですが。(kelvin) さすがルドガーだなもしかして閃2までユーシスの実家が没落したら凄そう(サイバスター) |
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