真・恋姫†無双〜比翼の契り〜 一章第九話
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 洛陽へと辿り着いた俺達は違和感を感じていた。

 何かがおかしい。

 街に残っている者は極少数なのだから、人通りが少ないのは当たり前だとしても、早馬をとばさなければならないほどの緊迫した雰囲気を感じるほどではない。

 違和感は洛陽の城門に近づくにつれ次第に大きくなり、正面の大通りを抜け正門に辿り着いたとき明らかになった。

 

 まず、二人一組でいるはずの門番を任された兵の肉塊が四つ落ちていた。

 胴体を鋭利な物で綺麗に真っ二つにされている。地面に出来た血溜まりの端の方は薄っすらと乾き始め、彼らが何者かに襲われてから少しばかり時間が経っていることを物語っていた。

 月に請われてからほぼ毎日顔を合わせていた兵士の死を労る暇はなく、せめて人目に当たらないよう亡骸に羽織っていた外套を被せ門の脇に寄せる。

 そして無駄だとは思うが城内に向けて合図を送る。

 通常、城門というものは外敵から身を守るために作られている。門の内側には大きな閂が取り付けられていて、外から開けるには破城槌などでこじ開けるほかない。

 

「……いく」

 

 そう言って力強く突撃しようとした恋を引き止める。恋ならば力技で開けることも出来るかもしれないが、この状況を知らない民達にいらぬ面倒を作っている場合じゃない。

 鉤縄の要領で愛李に城壁を越えさせ、内側から閂を外してもらうことにした。愛李一人では力が足りないため、華雄にはまた縄でぐるぐる巻になってもらった。

 開けられた門をくぐると、中はより一層不気味に静まり返っていた。そのくせ血の匂いだけは異様に濃い。

 東屋にも廊下にも、普段なら忙しなく動いている侍女の姿さえ見えない。

 逸る気持ちを抑えながら、俺達は玉座の間へと向かった。

 

 

 玉座の間にあったのは、何者かが争ったと思われる戦闘痕と多数の兵の亡骸。

 血生臭さに顔をしかめながら前へと進むと、何かに気付いたのか茉莉が声を上げた。

 

「……何かおかしくないでしょうか」

 

「明らかに兵と誰かが戦った跡があるし、それじゃないのか?」

 

「いえ、確かにそれはそうなのですが……。月様の軍に加わって以来見慣れている部屋ですが、なんと言いますか……ズレてる……そう、ズレてる気がします」

 

 茉莉の言葉にここにあまり訪れたことがない愛李などは首を傾げていたが、恋が指で玉座を指していた。

 

「……椅子……ちょっと右?」

 

 誰かがあっと声を上げた。

 慎重に近づいていき見れば、確かに動かされた形跡があった。さらには点々と続く血痕も。

 そして動かされた玉座に寄り掛かるようにしていたのは……。

 

「……帝様」

 

 たった一度、拝謁を許され月と共に拝見した劉協様の亡骸があった。

 心臓がある位置から血が溢れ出たのか、着ていた衣装は真っ赤に染まり、その瞳は死の間際を鮮明に表すかのように絶望に彩られていた。

 幼くして苛烈な権力争いの渦中に放り込まれ利用され、短い生涯を終えた。

 あまりにも理不尽で、否が応でもこれが戦争なのだと見せつけられているようで……。いたたまれなくなった俺は彼女の瞼をそっと閉じた。

 振り返れば玉座が動かされたせいで顕あらわになった地下へと続く階段があった。

 

「こんなもんがあったんすか」

 

「おそらく帝を逃がすためのものだろうな。……さて、鬼が出るか蛇が出るか」

 

 血痕は階段へと続いている。つまり、この先には戦闘を行っていた何者かがいることになる。

 退けば反董卓連合、進めば鬼か蛇。

 ……戻るよりはいくらかだが進んだほうがマシだな。

 

「行くぞ」

 

 階段はそれほど広くはない。恰幅のいい奴が二人は通れない広さに見える。

 俺と恋が最前列に並び、すぐ後ろに愛李という順番で入っていく。以降の順番は確認していないが、茉莉が仕切っていたようだからおそらく最後尾には華雄と想愁が付いているだろう。

 最後に入り口を閉め完全な暗闇となった。灯りを用意している暇はなかったから仕方ない。

 

 城で言えば二階相当ほど続いていた階段が終わり、なだらかな平地になった。壁に手を当てながら進んでいるが、分岐点は無くただ一直線に続いているようだ。

 

「……いる」

 

「……っ!」

 

 恋が呟くのと同時に目の前に白刃が迫っていた。

 避けられない!

 

 剣を止めたのは恋だ。彼女は迫ってきた剣ではなく剣を持つ腕、その手首を掴み腕力で強引に壁に打ち付け、急襲してきた者が持っていた剣を落とさせた。

 よく見ればその剣には見覚えがある……。

 

「……隼か?」

 

 剣の名は古錠刀。そして持ち主の名は――。

 

「烈蓮……。無事で良かった」

 

 孫堅こと烈蓮であった。

 

「敵……じゃないの?」

 

「へぅ……」

 

 奥からは月と詠の声も聞こえる。

 

「やっぱり君が来るんじゃないかと思っていたんだよ!」

 

「アンタさっきと言ってることが違うわよ」

 

 どうやら屋敷で留守番をしていた華煉もいるようだ。

 恋には烈蓮の拘束を解いてもらい、全員の顔と無事を改めて確認した。

 

「すまん、隼」

 

「気にするな。全員無事でよかった……」

 

「謝罪も喜ぶのも後! 先にこの通路を抜けるわよ!」

 

「あぁ」

 

 しばらくして辿り着いた通路の先は壁しかない行き止まりだったが、それは大きな扉だったようで、華雄と俺、恋の三人で押すと光が差し込み、開けた場所に出た。

 そこは洛陽郊外にある森の入り口にそびえ立つ石碑の裏。

 さすがにまだ連合軍の姿は見えないが安心は出来ない。

 俺達は速やかに移動を開始した。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「虎牢関までもがもぬけの殻、か……」

 

 連合軍最後尾、輜重隊の護衛を任されるという事実上の戦線離脱を総大将である袁紹に命令された馬騰はひとり、馬上に寝そべりながら空を見上げていた。

 空は雲一つない晴天。まるで勝利の女神が反董卓連合軍へと微笑んでいるかのようだ。

 馬騰の横には普段補佐を務めている韓遂はいない。自身の娘達を次代の西涼を纏める長としての経験を積ませるため涼州に残してきた。韓遂には娘達を陰ながら補佐するよう命令したからだ。

 

 馬騰の名は朝廷に仕えている者として有名である。そんな彼女がなぜ朝廷を攻める側に参加したのか。

 確かに彼女には朝廷に忠誠を誓っていた。だがそれは先代の帝への恩返しという面が強い。

 献帝と呼ばれる現在の帝、劉協とは面識もあるし境遇には同情に値する感情を持ってはいるが、政治とはそういうものだと同情以外の感情は特に抱いていない。

 董卓という最近になって台頭してきた者に操られる程度であるなら、とまで考えていたほどだ。

 何よりも、もはや朝廷に日の目が当たらないだろうことは馬騰が最もわかっていた。

 

 馬騰の目的はただ一つ。己の最初で最後の弟子の成長を見極めるため、朝廷という泥沼でどう生き抜きてきたのか、この目で確かめる為。

 見極めた結果が先の戦場での行動であり、輜重隊の護衛を任される結果となったが後悔はなかった。

 

「何も変わっていなかったな……。ただ守りたいものが増えていた、それだけか……くくくっ」

 

 自然と笑みが溢れたのも仕方のない事だ。これほど喜ばしいことはないのだから。

 力に飲まれず、金と権力に溺れず、真っ当に真っ直ぐに生きていた。それが確認できただけでもこの連合に参加した甲斐がある。

 

 とそこへ、馬騰に駆け寄ってくる者がいた。馬騰は気配に気付くと馬上に寝そべりながら手を振って応えた。

 

「袁紹様より伝令を申し上げます! 我らはこのまま洛陽へと進軍す。貴殿らも進軍の準備を始めたし! とのことです」

 

「分かったと伝えてくれ」

 

「はっ!」

 

 伝令が去っていくと馬騰は目を閉じ深い溜息を付いた。

 

「……董卓も帝もいなかった時、どう決着を付けるつもりなのかねあのお嬢さんは。ま、もうあたしにゃ関係ないか」

 

 

 洛陽に一番乗りを果たしたのは孫策の陣営だった。

 馬騰の予想通り洛陽には董卓の姿は無く、元より誰もその姿を見たことがないのだから判別のしようもなかったという問題が浮上し、頭を抱えた各国の軍師には同情せざる負えない。

 玉座の間には袁紹が一度だけ拝謁したという劉協の亡骸と、いくつかの豪華な衣装を身に付けた者達の亡骸があった。

 曹操軍に下した張遼が唯一董卓の顔を知る人物であったが、玉座の間にそれらしき人物の亡骸は無いと証言。

 諸侯は洛陽周辺を血眼になって探したが見つからず。洛陽の民の多くが長安へと向かったという報を聞き、長安へと幾人かの使者を送るとして連合軍は解散となった。

 連合軍の心に残ったのは、綺麗なままの洛陽と董卓達を擁護する住民達の声。この戦は何のために行われたのかという疑問だけであった。

 

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【あとがき】

 

 え〜、皆様こんばんわ

 九条です

 

 だいぶ遅くなりましたが更新です

 やはりゲームというのはハマってしまうと怖いですね

 今もモンスターを狩りたくてうずうずしています

 ジンオウZ装備は揃えた

 

 昨日になりましたが恋姫の審査落ちLINEスタンプが公式Twitterの方でUPされてましたね

 とりあえず全部保存しました

 そのうち恋ちゃんはアイコンとして使うかもしれません。もぐもぐ恋ちゃんかわいい

 

 

 本編の話をば(今回の話のネタバレ有? 先にあとがきから読む人なんていないだろうけど一応)

 

 おそらく何か追加で書きたいことが思いつかない限り一章はこれで終わりになります

 階段の先で華煉さんは回収したし、馬騰の話もちょっと書いたし……。

 本当なら凪との絡みも入れたかったのですが、曹操といえば張遼という考えしかなかったので没に

 やっぱりね、主人公の周りは自分の好きなキャラでまとめたいのですよ

 恋とか恋とか恋とか(あれ、恋しかいないな

 

 

 今月の20日に無◯シリーズの7 Empiresが出るそうで、すでに予約済みであったりします

 毒舌ツンデレキャラとして恋姫でも屈指(?)の人気を誇る桂花にゃんが出ます。

 ※イケメンさんです。似ているのはツリ目と若さです

 またゲーム三昧になりそうですが仕事も人が立て続けに辞め、年末前だというのに相当しんどくなってます

 さらには思いつきでオリジナルを書いたり、色々と違うことしてて進まないことが多々……

 でもあんまり遅くならないよう頑張りますので、気長にお待ちください

 

 

 それでは今日はここらへんで……、(#゚Д゚)ノ[ばいばいP〜!]

説明
一章 反董卓連合編

 第九話「連合解散」
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コメント
>観珪さん 次章でわかるかもね! メインは主人公の視点なので他はちょっとサラッと……しすぎましたね。まぁ一章は馬騰さん回だったってことで(九条)
>スネークさん 誤字報告あざます! 速攻修正しときました。Twitterは公式とバッジョさんと片桐雛太先生ぐらいは見ておくといいかもね(九条)
これから月ちゃんたちはどうなるんでしょうか…… それにしても反董卓連合はそんなにあっさり解散しちゃっていいのかww 華琳さまとかもうちょっと言ってもいいのよ?(神余 雛)
え、Twitterで?コメントしてる場合じゃねぇ!今すぐ行かなきゃ!(オイw とりあえず誤字報告をば。外套が該当ななっちゃってました!(スネーク)
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