真・恋姫†無双 侍臣墜遇、御遣臣相偶〜第三席〜
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第三席

 

 

 

「もともと、俺の武器と遮侖の武器は違う。だから、振り方や斬り方を教えることはできない。俺が教えられるのは、あくまで精神、体力だけだ」

今、一刀と遮侖は木刀を持って対峙している。一刀の声を聞いても、遮侖は頷くこともしない。少し目を切れば、一刀が攻撃をする。当然ながら、遮侖は今まで一度も、一刀の攻撃を防げていない。

それにしても一刀はいつ、瞬きをするのだろうか。遮侖はじっと一刀の目を見ていたが、今まで一度も瞬きをしていない。

すると遮侖は、一刀の後ろに蝶が飛んでいるのが見えた。

ついそれを目で追ってしまったとき、一刀が動いた。

動いた、と遮侖は思うと同時に、体を斜めにして、一刀の左肩めがけて木刀を突き出した。

しかし一刀は予想済みとばかりにこちらも体を斜めにして突いた。

あとはリーチの差。

遮侖よりも背が高い一刀の刀が先に遮侖の肩を突いた。

 

「ほとんど相打ちだったけどね。俺から目をそらしたのも誘いだったんだろ?」

遮侖はため息を一つついた。

「今度はわざと隙を作ってみたんだけどなぁ……」

「わざと作ったのなら隙とは言わないよ」

遮侖はその場に倒れるように腰を下ろした。遮侖は、約半刻、森を走り回った後、すぐに素振りを5、6百回、そして先の決闘をする。一刀との訓練は、いつもこんな感じであり、最初の10日ほどは、一刀と対峙した瞬間に倒れてしまっていた。特に、最初の3日は、素振りに入ることもできなかった。自分の剣すら持ちあがらなかったのだから。

「だいたい、一刀が瞬きする時を狙ってたのに、一刀全然瞬きしないんだもの」

「いや、俺は何回も瞬きをしてる。ただ、遮侖が瞬きをするのに合わせてたんだけどね」

「そこまでできるんだ……」

遮侖は、感心するより、一刀が何進にも、ほかの諸侯にも属していなかったことに喜びと安堵を隠せなかった。

一刀も、遮侖の体力と、成長には驚いていた。

もともと、まじめな性格で、引き締まった身体をしていたものだから、試しに早速ランニングをやらせてみると、途中で立ち止まることなく1刻走り切ってしまった。

その次からは念のため半刻にして、ついに走った後、休憩なしで素振りをして、一刀と剣を交わすことができるようになった。

同じような訓練を、一刀は祖父につけられており、最初は30分走り続けることすらできなかったのだが。

そして、帰れば遮侖はすぐ厨房に立つ。

一刀が来て、月が替わったとたんに、何を思ったか、3人いた使用人の2人を解雇してしまい、残る一人に洗濯だけ任せて、食事は遮侖自ら作っている。

たまに一刀が未来の料理をできるものだけ作ってみるのだが、一緒に料理をしている時の遮侖の顔は、いつも以上に可愛く見えるのだ。

 

 

さて。翌朝宮中に入った遮侖たちを、何進が迎えた。というか、睨み付けていた。

「張譲、何を勝手なことをしておるのだ。わらわの許しも得ずに」

「おや、何進大将軍。いったい何のことを言っているのだ」

「お主らが諸侯に討伐令を出したことは知っておるぞ。なぜそのような勝手な真似をしたのだ」

遮侖は、フン、と鼻を鳴らした。

「大将軍にはあの2人だけで黄巾党を抑えられるとでも思っているのか」

「抑えられるであろう。たかが賊如き、むしろ役不足というものだ」

そして何進は、今度は一刀に目をやった。

「こやつか。先日より張譲が男を引き連れて宮中に入っていると話があったが」

「何か問題でもあるのか?一刀は僕の護衛だ。ああ、先日、僕を追いかけてくれたことには感謝する。おかげで彼と出会うことができた」

何進は舌打ちをした。遮侖を殺すべくして派遣した6人の兵は一人も戻ってこず、逆に遮侖が何もなかったかのように宮中に顔を出したことに屈辱を感じていた。

「もう一度言っておくが、黄巾党を弾圧するのはそう優しいことじゃない。ま、肉屋に戦話をするなど、時間の無駄でしかないな」

遮侖はにっこり笑って、十常侍の部屋にむかった。

「張譲!わらわを誰だと思っておる!陛下より大将軍の位を賜った、何遂高であるぞ!」

何進の声が一刀と遮侖を追ってきたが、遮侖は振り向きもしなかった。

 

 

「まったく、大した女だ」

執務室に入ると、遮侖は初めて一刀のほうを向いた。

「あんなことを言っていいのか?また命を狙われるぞ?」

「大丈夫さ。今日の議論は僕の勝ちだ。それで僕を殺した日には、やつもお仕舞いだ。それくらいなら奴もわかってるよ。さ、出かけようか」

遮侖は髪留めを直して、部屋の奥から鎧を持ち出した。

「一刀は防具は要るか?」

一刀は首を横に振った。遮侖がつけている鎧は、かなり一般的なもので、飾り気なし、動きやすさ重視というものである。

「ところで、どこに行くんだ?」

一刀が聞いた。

「僕らがであった、あの辺りだ。黄巾党の大群がこっちに向かっている。諸侯の様子を見てみたくてね」

遮侖は微笑みながらそう言ったが、彼の眼の奥には何かがあった。

 

 

「お、あれか。中々のものだなあ。だいたい、あれだけの人数を纏められるのはどういった能力の持ち主なんだ?」

「張角たちが使っているのは太平要術という。その本に書かれている妖術は、人の心を惑わし、使用者の言葉を必ず実行しようとするんだ」

一刀は三国志の知識からそれを話して聞かせた。

「なるほど、太平要術の書か。一刀、今日は一刀は目立っちゃいけないよ。あくまで諸侯の様子を見に来ただけだ」

遮侖が釘を刺した。遮侖としては、一刀を誰かに盗られることを危惧していたのだ。

結局、黄巾党崩壊までの流れは変わらなかった。黄巾党が立てこもる砦に火をかけ、片っ端から壊滅させて、最終的に、曹操が張角の首をとったという報告がなされた。

もともと目立たないようにと言われていたので、一刀の服は官軍の将が着るようなものであり、ときどき、官軍とはお気楽なものだ、という言葉が聞こえてきたりする中、一刀は諸侯の様子、特に曹操、孫堅、劉備、袁紹の軍を見回ってきた。公孫?だけは、なぜか見つけることができなかった。

 

一刀が元の場所に戻ると、遮侖が居なかった。

「あれ、遮侖?どこに行ったんだ?」

辺りを見渡してもどこにもいない。

しばらくして、やっと遮侖が返ってきた。血こそ付いていないものの、顔や髪には煤や灰がかかっていた。

「遮侖、どこに行っていたんだ?煤だらけじゃないか」

一刀は手巾で顔を拭ってやった。

「ありがと。なんか落ちてないかなと思ってね」

そう言って遮侖は持ってきた茶壺のようなものを見せた。

「残念ながらこれしかなかった。でもこれは中々いい品だよ。ところどころで金が光ってる。ちょっと灰を払えば上等な品だってわかるはずなのにね」

「そうか。じゃ、初陣とまではいかなかったのか」

「なるべく死にたくないからね。あとからこっそり、とね」

遮侖は愉快そうに笑った。

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「あ、あの〜陛下?あの、黄巾党とは賊のことでして……それを皆さんが倒してきたんです。ですので、その〜皆さんにご褒美をあげないといけないんです」

劉宏に、趙忠が説明している。正直、賊、という言葉の意味も理解しているのか不安ではある。

「いいの!全部何進に任せておけばいいの!朕はおなかが空いたの!」

とまあ、正直こういう交渉事においては、というより料理以外では何においても使えない趙忠が劉宏に進言するたびに大声で喚くので、早速それを耳にした何太后が何進に伝えるのである。

というわけで、何進が張り切って褒賞を与えているところである。

 

「まったく、こうなりゃ僕らの出番はないねえ。ま、尻拭いぐらいはしてやろうよ」

一刀と遮侖は、陰からこっそりこれを見ていた。

「ところで、廬植将軍の姿がないのはどうしたんだ?」

「あれ、ホントだ。皇甫嵩将軍の隣にいる筈なんだけどな……」

そういうと、遮侖は身だしなみを整えて、褒賞を読み上げている何進の前に立った。

 

「張譲、これは何の真似だ。わらわは陛下に命ぜられ、褒賞を与えておるのだ」

何進が睨み付けた。

「ああ、そのことは先ほど聞いた。もちろん、何進大将軍が恩賞を授けることに異論はない。好きにやればいい。しかし、ここに廬植の姿がないというのはどういうわけだ?」

「もともと戦おうとしなかった者に、なぜ恩賞を与える必要がある」

「戦おうとしなかった?廬植を将軍に取り立て、討伐を命じたのは大将軍ではないか」

「左豊が報告してきたのだ。奴は陣を張るばかりで戦おうとしないとな」

「なるほど、左豊が……。納得した。では、続けるがよい」

遮侖はそういって、何進の前から姿を消した。

 

「一刀、行こうか」

「左豊、だったな。そいつは何処にいるんだ?」

遮侖は歩きながら言った。

「おそらく奴の屋敷だろう。廬植将軍は若干歳いってるが、なかなかの女性だ。僕らが助け出せるか、彼女が喰われるのが先か、ゆっくりはしていられないな。それに左豊の後ろ盾は何進だ。奴が廬植将軍をほしがらない限り、彼女は左豊のものだ」

そういって、遮侖は宮中から出ると、まっすぐ、左豊の屋敷に向かって走り出した。

 

遮侖が立ち止った屋敷には、煌々と明かりが灯っており、中から笑い声が聞こえていた。

「よかった、間に合ったみたいだな。ま、相手は丸々と太って、武の心得などない。一刀、あっちの明かりがついていない部屋に乗り込んでくれ。奴の寝室だ。ここには地下牢があるけど、そっちは僕が行く。一刀のほうは暗いから、よく探してくれ。寝台の下とかね」

一刀がうなずいたのを確認して、遮侖は屋敷の門をくぐった。

「十常侍の張譲だ。左豊を出せ」

取次の下男は急いで屋敷の中に戻っていった。

その隙に、一刀は中庭を通って、暗い部屋に忍び込んだ。

 

「これは、張譲様。いったい如何したのですかな?」

遮侖は、答えずに左豊の首を斬った。

「左豊は今、私欲に溺れ、嘘偽りの報告をした罪で処刑した!直ちに屋敷の捜索に入る!控えろっ!」

遮侖は屋敷の中に向かってそう叫び、中に入っていった。

先ほどまで宴会でも開いていたのだろう、広間では肉や酒が山のように積まれている。しかし、ここに廬植はいなかった。

遮侖は、一人の下男に剣を向けていった。

「確か地下牢があったな。案内しろ」

下男は何度もうなづいて、地下牢の鍵を持ち、先に歩いていく。

地下牢の前で鍵を受け取り、遮侖が開けるとひどい悪臭とともに、白骨や、腐りかけた死体が転がっていたが、ここにもいなかった。

 

一方、一刀は、忍び込んだ瞬間に遮侖の声が聞こえたため、結構大っぴらに捜索を続けていた。

部屋はいくつもあり、その中から寝室を探し出すのは苦労したが、しらみつぶしに明けていくと、ようやく寝台がある部屋にたどり着いた。

中にはいるとひどい汗のにおいがしたが、遮侖に言われた通り、寝台の下をのぞくと、猿轡をされ、両手、両足を縛られた廬植がいた。

一刀は彼女を引っ張り出すと、猿轡と縄を解いた。

「あ……えっと……た、助かったんですか……?」

「散々な目に遭ったようですね。張譲様の命で、将軍を助けに参りました」

 

一刀は廬植を伴って外に出た。ちょうど遮侖が出てきたところだった。

「ああ、間に合ったんだね。ここは下男、下女を除いて全員始末したよ」

遮侖はそういうと、先立って屋敷に帰っていった。

櫨植を連れた一刀も、急いで彼の後を追った。

 

左豊の屋敷から、火災が発生したと大騒ぎになったのは、それからしばらくしてからである。厨房で、つけっぱなしだった火に、遮侖が何やら細工をしてきたらしい。

これで、左豊が殺されたことが何進に伝わることはなかった。

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なんか、遮侖が武力強化されてますけど……w

実際、彼が剣を振るのはあまりないです。処刑の時か、護身程度。

 

英雄譚キャラは存分に使わせてもらいます。

とりあえず黄巾党終了。次は何進との対立かな?

っていうか、月どうしよう……。

なるべく史実に沿って書いていきますので、空丹結局何もせずに崩御することになるんでしょうね。

 

でも、遮侖を頭の中で動かしながら書き進めていくとメッチャカワイイの!

宮中では立場を考えてうまく立ち回って、屋敷では一刀にベッタリ。

 

そのまま相遇しちゃえ!

 

って勢いで書いてます。風鈴先生、ごめんなさい。展開次第では一刀とくっつけないかもw

 

とりあえず、次は週明け、もしかしたら明日中にでも中心軸三十席を投稿します。

休載期間長かったけど、5年かかってやっと30話って。

 

では、再見!

説明
黄巾党討伐回です……が、二人とも非戦闘員です。
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コメント
ユウヤさん< え・・・月がそう言う立ち位置・・・?うーん・・・ちょっと待ってね・・・夫と言っても男性の証が無いわけですし・・・いやいや、そこじゃ無くて。何か一刀と月の情事を覗きながら涙を流す遮侖の姿しか思い浮かばないな・・・。タイトルからしても、一刀と遮侖は・・・って流れですし・・・。(ルル)
h995さん< 誤字報告ありがとうございます!全て訂正できた・・・・・・はず・・・・・・です・・・・・・。(ルル)
nakuさん< そうですか。じゃ、ちょっと文面をいじって、一回入れてみましょうか。(ルル)
もはや夫夫(夫婦)ですね。月を正妻に!遮侖を正夫に!それで万事解決だ!(ユウヤ)
……誰もつっこまない様なので、誤字報告を。「櫨」植ではなく「盧」植です。前の話でも同じ誤字をなされていたと思いますのでご確認を。(h995)
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真・恋姫†無双 北郷一刀 張譲   空丹 風鈴 

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