IS〜歪みの世界の物語〜 |
9.頼みごと
「一夏、お前には専用機が配給される。残りの二人は、訓練機で我慢しろ」
織斑教師が休憩中にそんな事を言った。
……専用機?なんだっけ……確か昨日勉強したような
「教科書6ページ。音読しろ」
「え、えーと……」
俺と同じように?マークを浮かべていた一夏が織斑教師に指示される。
一夏の音読部分を簡単に言うならば、467個しかない貴重なISのコア(人間で言う心臓みたいな部分)を個人が持っている機体でその人だけが使い、自分好みに改造できる自分だけの機体。
おそらく、俺たち三人を実験体としてISの専用機を渡したかったのだが、467個しかないからこそ、男三人の中で一夏が選ばれたのだろう。
………って頭の中で整理してみるとふと疑問に思う。
「……なぁ、隼人。専用機と訓練機ってそれほど実力が違うのか?」
「うん、かなり違うね。マ○オで言ったら、○リボーとク○パくらい違うよ」
「すまん。そもそもの基準がわからん」
異世界から来た俺にとっては不思議な単語でしかない。
ク○ボーって何だ?栗の化け物か?(※キノコの化け物です)
「そもそも、訓練機には無い機能もあるし、その人が扱いやすいように改造を重ねているから、凡庸性しかない訓練機で戦っても勝てないってこと」
「でも、0%ってことは無いんだろ?」
「乗ってる人が異常に強いか、専用機の人が瀕死かかなり腕が弱いならね」
つまり、それくらいの事がないと勝てないってことか。
でも…………俺はいいとしてだ。そもそもISに乗れるかどうかも試していないし。
こいつは……隼人はどうする気なんだ?
そんな疑問の目で見た時、ちょうど隼人と目が合う。
俺の目から何かを察した隼人は、苦笑しながら口を開く。
「僕は元々、専用機に乗れる期待はしていないから別にいいよ。
あくまでも、兄さんをサポートすることが目的なんだし」
「…………そうか」
隼人の答えを聞いてすぐにチャイムがなり、俺たち三人もすぐに自分の席へと戻った。
「……………う〜ん」
シグは考える。
隼人が言った言葉……それは彼が昨日言ったことと変わっていない。
その言葉だけ聞けば、隼人は今まで通りの行動―――小説に書かれていたことと同じ行動を続けるつもりなのだろう。
――――けれど、シグは見た。
隼人が一瞬。ほんのわずかな時間だけ、悔しそうに顔を歪めていたのを。
思わず呆れの含んだため息が漏れる。
隼人が俺の言葉を聞いてどう思ったのかはわからない。さっきの表情の変化が、俺の言葉の影響なのかもわからない。
けれど、どちらにしろ、隼人は望んでいる。
この世界の兄と………一夏と同等の存在でいたいのであろう。
サポートをするならば、その対象の人を支えれるほどの力が、欲しいのだろう。
だからこそ、専用機がもらえないときに一瞬悔しそうな顔をした。
もしかしたら、兄にサポートをするどころか、自分が助けられるかもしれない。そのせいで、物語が変わるかもしれないと。
(…………ま、考えすぎかな)
隼人はこの世界での人生を歩んでいる。
決められた通りにしなくていいとは言ったが、最終的にはそれは隼人が決めることだ。
………どちらにしろ、俺が――「シグ・シリオン」という存在がいるせいで、未来を変えるかもしれないが、俺としてはそっちの方が良い。
ここでも、隼人が専用機を手にしなければ、何らかの形で未来が変わる可能性が高い。
……………でも。
(だからって、放っておく気は、サラサラないけどな)
別の道の方が良いと思っても。
正しい道だと、俺が思っていなくても。
あいつが―――隼人が困っているなら、それを助けたい。
少し違うけど、似た境遇にいる人として。
――――――友として。だ。
「本音さん。ちょっといいか?」
「ん〜、どうしたの〜しーくん?」
「これを、楯無に届けてくれ。なるべく早くだ」
「りょ〜か〜い〜。できたらギュウ〜ってさせてね〜」
「え?お、おい?本―――」
スパァァァンッッ!
「静かにしろ、シグ・シリオン」
「………すいませんでした」
………一夏の時よりも音が大きかったのは気のせいだろうか?
そして、何だかんだで昼に。
一夏と隼人は箒さんを連れて食堂に。
二人の誘いと、同居人こと結羽さんの誘いを受けて一緒に食堂に行っていた………はずだった。
「それで、シグ君?頼みって何なのかな?」
目の前には腕を組んでいる楯無さん。
俺の体には動けないようにするためか、縄でグルグル巻きにされている。
そして、そんな動けない俺を、抱き枕扱いにしているかのように本音が抱きしめている。
「………楯無、説明するから縄を」
「――――シ〜グ〜君、私の質問に答えてね?」
お、怒ってる……?楯無さんが原因不明の怒りを抱いている……!?
「しーくんの体良い匂いするね〜。何の石鹸使ってるの〜?」
「本音、頼むから空気を読め」
目の前で主が起こっているのにこのリラックスぶりは凄い。
ほら、楯無様が怒りを超えて殺気を出していらっしゃる。
「それで、何のお願い?本音と付き合うことは駄目よ?私たちの世話人なんだから」
「え〜、お嬢様〜それは酷いよ〜」
「………それにしても、よく本音をここまで手懐けたわね?お姉さんビックリしちゃった」
パッと鮮やかな動作で楯無が扇子を開く。そこには“破廉恥男”と文字。
無駄に字が綺麗だと思いつつ、頭を使って本音をヘッドバットをした。
「はわぅ〜!?」
「そろそろ離れろ。俺は楯無と二人で真面目な話をしたいんだ」
「え〜?もしかして私たちの婚姻〜?」
「…………一度、三途の川を見せた方がいいか?」
本気で殺気を放ちだすと、本音はササーッと部屋を出ていった。
あいつは何がしたいんだ。
……いや、どちらかと言えば動物と考えよう、あれは。人に構ってほしい小動物だ。
「それで、本音の体はどうだった?」
「意外とスタイル良くて気持ち良かった」
「シグ君、遺言は短くお願いね?」
「落ち着け、冗談だからISを展開させるな」
楯無が笑顔のままISを完全に展開させるのは正直シャレにならない。
頭と床をくっつかせて謝罪してようやくISを解除したような音が聞こえた。
ホッとしながら、足を器用に動かして起き上がる。
――――ムニッ。
何の音か?楯無が俺に抱きついた音です。
「た、楯無……?」
「ほら、お姉さんにお願いがあるんでしょ?シグ君のお願いって何?」
プクーと頬を膨らませながら、本音と同じように自分の体を俺に密着させる。
本音ほどでは無いが、発育のいい胸どころか、俺の顔に頬を付けたり、俺の膝の上に座ったり………。
「フー……」
「うひゃぁ??」
楯無がシグの耳に吹きかけ、女としか思えないような高い声を出す。
「シグ君……可愛い〜」
「………っ!お前は〜!」
ただでさえ楯無の体の柔らかさでドキドキしてんのに、小さな悪戯のせいで、顔が熱い!麻痺が思考回路してる!頭真っ白!
「あ、あのなぁ!ただ単に、この世界の機械の部品が欲しいだけだよ!できるだけ沢山!」
「二回ほどいう事聞いてくれる?」
「…………………………名前以外なら」
それが不満だったのか、追い打ちのように体を押し付けてくる。
ムニュ〜っと楯無の柔らかい個所が、押し付けられたせいで形を変えているのを感じる。
…………男として嬉しいけど辛い!苦しい!けど名前だけは……うぅ。
理性の崩壊を必死で押さえながら目を回しながらただただ時間が過ぎるのを待つしかない。
「………………しょうがないなぁ」
「ヘ…………?」
貧血のように頭がクラクラする感覚を覚えていると、楯無が俺から離れた。
思考が正常に戻る前に、腕が軽くなった。
縛っていた縄を、楯無が外してくれたようだ。
「そのかわり、これから先三回まで私のいう事を聞いてね?」
「…………わかった」
「それじゃあ、私にキスして?」
「お世話になりました。また会いましょう」
即座に後ろのドアに向かってダッシュ!
………が、その前にISを展開させた楯無が俺の肩を掴んだ。
「最初っから逃げるなんて、男らしくないぞ☆」
「ないぞ☆じゃないだろ!?もう少しマシな……しいて言うなら、自分を大切に扱った願いを言え!」
「それじゃあ、シグ君の女装で」
どうしよう。人生最大かつ最悪の二択をせまられている。
「〜〜〜っ!な、なら―――」
「あ、それと、他の先生にシグ君が危ないことを企んでるので、お願いを聞くのは止めてくださいって言うつもりだから」
こ、この女……どこまで俺をもて遊べば気が済むんだ……!
かといって止めるわけにもいかないし……うぅぅ……!
「ほらほら、どっち選ぶの〜?」
「……………うぅ〜。って、唇を突きだすな!まだキスを選んでないだろ!」
「じゃあ、こっちを着る?」
そう言って取り出したのは、IS学園の制服。待て、どこから出した。
楽しそうに迫ってくる楯無から目をそらしながら必死に考える。
「………………」
「………どう、決まった?」
「………………で」
「ほら、もう少しはっきりと」
「〜〜〜!」
楽しそうに笑っているから、本当に聞こえなかったのか、わざと言わせているのかわからなくなる。
顔が熱いのを自覚しながら、やけくそに言う。
「だ、だから!
――――キスの方向でお願いします!」
「…………え?」
答えの方が意外だったのか、声が大きすぎたのか、楯無が驚きの声をあげた。
意外な展開。
……そして、予期せぬ沈黙。
「…………………………」
「…………………………」
二人して、顔を合わせられずにいる。
………にしても、意外だったな。
楯無の事だから、冗談って言うのか……それとも、軽く、すんなりと、迷っていた自分が恥ずかしくなるくらいあっさり終わらせると思ったのに……。
――――楯無said
(し、シグ君……キスって、言った……よね!?)
何故かドキドキと胸がなる。
さ、最初はシグ君を慌てるためにやったし、キスした後の慌てぶりも可愛い姿が見れそうな期待を抱いて提案したけど……。
何故か、真っ赤な顔で照れたように言われた時、可愛いと思うよりも頬が熱くなった。
(べ、別に………いいよね?シグ君自ら言ったし、軽い感じでやれば恥ずかしくなんて……け、けど!ファーストキスだしじっくりしたい……でも――)
必死に言い訳を探して、その言い訳に対して言い訳をしてと、思考が泥沼状態になっていた。
そもそもの疑問――何で、こんなにドキドキしているのかを気づこうとしないまま、同じことを考えてしまう。
「あ、あの……楯無?」
「――――――――!」
急にシグから声がかかり、考えられていた思考が一気に吹き飛ぶ。
そのまま、思いついたことを口にする!
「し、シグ君からしてくれるなら、今じゃなくてもいいわよ?」
「…………何で今じゃなくてもいいのですか?」
「そ、それはもちろん、不意打ちでやられた方が、お姉さんもドキッとできるから」
「ドキッとさせる意味あるのか……?」
「じゃあ、ドキッとできたら、私が何か一つ、いう事を聞いて進ぜよう」
私の馬鹿―――――!!
一言言うたびに、自分のとっさの判断を恨みたくなる。
いつでもいいなんて言ったら、シグ君にそのまま逃げられる可能性もあるし……それに、もしもドキッとさせられたら、シグ君にあんなことやこんな―――
「本当にそれでいいんですか?」
「お姉さんは寛大だからね。シグ君を信じるよ」
約束してしまった。私の馬鹿……。
「………なんか怪しいけど……気のせいか?」
シグ君が漏らした独り言が聞こえた。
安心して、シグ君。裏があるわけじゃないから。
その証拠に、私も後悔しているから。
なんで後悔するのか、という理由に気づかないまま、楯無はため息を吐く。
「………?まぁ、とにかく、機械の部品をたくさん頼んだぞ?」
「そういえば、シグ君、何作るつもりなの?」
「シールドエネルギーだよ」
「……え?」
ISの中でも大切な物を作ると言ったシグに、思わず目が丸くなる。
「さすがに、生身で戦うのは辛いからな。たしか、戦いの判定にも使うんだろ?死ぬまで戦うなんてごめんだから、作っておこうかなと」
「魔法は?」
「できる限りなら使いたくない」
それもそっか。
異世界の人だってばれたら、魔法とか、シグ君の体も研究されちゃうし。
「でも……作れるの?」
「作れるか作れないかじゃない。必ず、作るんだ」
そう言ったシグ君はまっすぐな瞳だった。
迷いが無くて、一生懸命で―――応援し合くなるような。
なんとなく……あの子に似てるな。
「わかったわ。なるべく早く届けるね」
「本当か!?」
「ふふっ。お姉さんに任せなさい」
予鈴がなり、シグ君が慌てて生徒会室から出る。
出ていくときに、シグ君の嬉しそうな顔を見て、何故か私も嬉しくなった。
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9作品目です! ……もう少し更新を早くしないとなぁ |
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