紫閃の軌跡 |
クロスベル国際空港……飛行船から降りて搭乗口ゲートをくぐる一組の男女―――アスベルとアリサのすがたであった。
「さて、ここまで何事もなく来たが……そういえば……」
実は、ルドガーからクロスベルの宿泊先絡みでツテがあり、そこから入手したもの……それは、保養地ミシュラムにある高級ホテル―――『ホテル・デルフィニア』の宿泊券であった。あのホテルは結構な人気ぶりで、予約を取るにも数カ月必要とされるほどであった。
「それ、『ホテル・デルフィニア』の宿泊券じゃない!?一体どうしたのよ!?」
「ルドガーから渡された。本人にしてみれば押し付けたかったんだろうがな。」
「どういうこと?」
「ま、アイツも色々あるってことさ。」
そのツテも凡その察しはつくのだが……ともあれ、帰るのが明後日としても二泊三日……宿泊券もそれに対応しているから問題は無いのだが……ミシュラムへの水上バスは夜でも運行しているので、焦る必要はない。荷物自体も着替えと各々の武器位だろう。ともあれ、知り合いに会うために向かった二人であったが……クロスベル駅前で、思わぬ再会をすることとなった。
「ん……あれ?」
「あそこにいるのって、もしかして……」
駅から出てくる複数の人間―――その中に見覚えのある面々が数多くいた。尤も、その実態を知る者にしてみれば“奇怪な集団”と言っても言い過ぎではない人達―――紛れもなくクロスベル警察特務支援課の人達。すると、彼等もアスベルとアリサに気づき、近づく。
「お久しぶりです、セルゲイさん。六年ぶりぐらいでしょうか?」
「久しいな、アスベル。お前さんが彼女を連れて歩いているとは……何だかんだで、青春しているようだな。」
「まぁ、否定はしませんよ。ロイド達がいるってことは、活動を再開するんですか?」
「そんなところだ。とはいえ、新メンバーも結構アクの強い奴らが集まってな。」
特務支援課の課長である“搦め手”セルゲイ・ロウ。警察内部でも数々の実績を上げた人物であり、上層部から煙たがられていたが……此度の事件の実績を買われただけでなく、今までの実績も勘案して警視に昇格したとのことだ。ただ、特務支援課の必要性は今まで以上に重要視されることから、課長職はそのまま続投という形となっている。
「久しぶり、エリィ。一年半ぶりぐらいかしら。」
「久しぶりね、アリサ。アスベルさんと一緒にいたみたいだけれど……進展はしてるのかしら?」
「ボチボチね。そっちは……その、増えたりとかしてない?」
「今のところは、ってところかしら。油断してると気付かないうちに増えそうなのよ。」
「その気持ち、解るよエリィちゃん。でも、そういうところがろっくんたる所以なのだよ。」
「って、ルヴィアゼリッタ・ロックスミス!?」
「おひさ〜、アリサっち。」
サブリーダー兼リーダー補佐のエリィ・マクダエル。前市長にして現議長のヘンリー・マクダエルは彼女の祖父にあたる。リーダーであるロイド・バニングスとは恋人の関係なのだが……ロイドは無自覚というか天然の人たらし(無意識フラグ製造機)なので油断も隙もあったものではない。そして、その毒牙にかかった人物の一人が、新たな特務支援課のメンバーであるルヴィアゼリッタ・ロックスミス。父親は共和国の国家元首であるサミュエル・ロックスミス大統領だが、今回のことについては『ルヴィアの自主的判断』によるものであり、もしこれを政治的に利用するのであれば『父親であろうとも一片の慈悲も容赦もなく人型クレーターにする』と言いのけて……周囲の人間に冷や汗が流れたのは言うまでもない。
「お久しぶりです、アスベルさん。」
「久しぶりだな、ロイド。……向こうでは色々言ってるけれど、いいのか?」
「流石に反論したいんですが……」
「フフ、それは難しそうな相談なんじゃないかな?」
「な、何言ってるんだよ、ワジ!俺なんて普通なんだし、大体恋人は一人で十分だから……」
「そうは言ってられない気もするけれどね。『はじめまして』、僕はワジ・ヘミスフィア。気軽に名前で呼んでくれると助かるよ。」
「ああ、よろしくなワジ。」
リーダーのロイド・バニングス。本人は自覚無いが、息を吐くようにフラグを立てるその在り様は、兄であるガイ・バニングスに似ており、その兄弟の『性質』によって被害を受けた人数は数知れず……恋人であるエリィも無論その一人なのだが。ただ、兄の方は紆余曲折あって一人で済んだのだが、こちらは……何も言うまい。
そして、二人目の新メンバーであるワジ・ヘミスフィア。クロスベルの旧市街で『テスタメンツ』というグループを結成し、同じ旧市街にある『サーベルバイパー』と対立している。本来の筋で言うならばアスベルとワジは初対面ではないのだが、彼の事情を察しつつ彼の言動に合わせる。そして、残る面々にも挨拶をする。
「ん?君は確かクラリスさんのところの……」
「あ、はい。ノエル・シーカーといいます!」
「俺はアスベル・フォストレイト……恐らくは、アリオスさんあたりから話は聞いてると思うけれど。」
「アリサ・ラインフォルトよ。よろしくね。」
「って、“紫炎の剣聖”にラインフォルトの……!!」
「あはは……気持ちは解るよ。」
「私も最初は驚いたからね。」
「やれやれ……つくづくお前さん達の繋がりから、世界は狭いって思っちまうな。」
クロスベル警備隊から特務支援課に出向してきた三人目の新メンバー、ノエル・シーカー。ミレイユ曹長と並んで警備隊のホープとして期待されている。
「私はフラン・シーカーです。よろしくお願いしますね、アスベルさんにアリサちゃん。」
「キーアっていうの!これからよろしくね!!」
「あ、これはご丁寧に……」
ノエルの妹でオペレーターを勤めるフラン・シーカー。そして、支援課で預かっている子―――キーアも続いて紹介をし、キーアとアリサが握手をし……アスベルの前にも差し出されたので、それを優しく握ると……
「『―――……っ……!?』よろしく、キーア。」
脳裏に何かの電流が駆け巡る様に流れ込んでくるもの……膨大な量の何か……だが、ここは公衆の面前なので、迂闊な表情は見せられない。アスベルは気を確かにして何とかこらえ、キーアに対して笑みを返す。握手した手を放すと、踵を整えてセルゲイに話しかける。
「こっちは明後日の午前中位まで滞在しますので、何かあったら連絡ください。それじゃ、行こうかアリサ。」
「ええ。またね、エリィ。」
そう言って手を振り、その場を後にするアスベルとアリサ。ふと、先程キーアと握手した掌を見つめるが、特に変化はない。あの時は堪えることに集中していたせいか、特に後遺症などの影響はない。ふと視線を横に向けると、そこには不思議そうな表情を浮かべていたアリサの姿があった。
「どうかしたの?」
「ん〜……何と言うか、さっき握手した時に『妙な感覚』というか、何かが流れ込んできてな。あ、別にキーアを恋愛的な意味で好きになったとかそういうことじゃないから。」
「妙な感覚……私にはよくわからない話ね。」
「そりゃそうだ。」
理解できなくとも、隠し事をするわけにもいかないし……今の行動自体不自然なものだから、答えないという選択肢はない。何はともあれ、当初の目的地の一つ―――遊撃士協会のクロスベル支部に足を運ぶことにした。扉を開けると、受付にいるのは下手すると遊撃士協会一“変わり者”の人間。
「いらっしゃい……って、あら……アスベルじゃない。私服ってことは顔見せってところかしら?」
「お久しぶりです、ミシェルさん。そこまで言われると否定しませんし、事実なんですが。レイアはいますか?」
「彼女ね。今2階で報告書を仕上げているわ。どうする?お邪魔しても問題ないけれど。」
「流石に仕事の邪魔はしませんし、できませんよ。ただでさえ、ここの支部は忙しいんですし。」
ガタイがいい男性なのに女性の言葉遣いのミシェル・カイトロンド……多忙なクロスベル支部を取り仕切っている受付。ここの支部にいるのはA級が一人にB級が四人……そして、現在リベールからS級であるレイア、そして最近B級に上がったリベール出身の遊撃士がヘルプに入っている。
「で、そちらはラインフォルト家のお嬢さん……帝国の士官学院繋がりってところね。」
「え……あ、アリサ・ラインフォルトといいます。」
「さっきアスベルが言ったけれど、ここの受付をやってるミシェルよ。ここでやってることを少しでも吸収して『貴方達の実習』に生かすことをお勧めするわ。」
「って、特別実習のことも知ってるんですか!?」
驚くアリサだが、こちらから特に情報は流していないのに把握している情報網の密度。まぁ、帝国内部には細々と活動しているのもいるし、大方“七彩”あたりが元同僚伝手で流した可能性もあるので特に驚きはしないが。
「何というか、特務支援課の時の話はレイアから聞きましたが、それよりも優しくないですか?」
「私達のやっているようなことをやってくれるのならば歓迎よ。ただでさえ、帝国内のギルドは軒並み活動停止に追いやられちゃったもの。向こうに残ったり、リベールなどに移籍したのもいるし……そうそう、アネラスちゃんが今こっちのヘルプに来てくれてるわ。」
「……まぁ、腕っぷしの方の実力は申し分ないですからね。」
アネラスの名前を聞いてアスベルがそう呟いた理由……『影の国』事件後、彼女からの頼みで『八葉一刀流』の修行を見ていたのだ。本来の筋で言えばカシウスが適任なのだが、太刀を使った現役の“剣聖”……“筆頭継承者”の観点から面倒を見ることとなったのだ。三ヶ月の短期集中特訓で、二の型『疾風』と六の型『蛟竜』……それぞれ四つある奥義の内、終式を除く三つを習得している。それ以上に伸びたのは四の型『空蝉』。彼女の本来の戦闘スタイル―――抜刀の状態で戦うタイプからいけば真逆なのだが、そこは『剣仙』の孫娘というべきか……終式はおろか、極式まで習得している。これにより、彼女も『空蝉』の奥義皆伝にいたり、“剣聖”の名を得るだけの資格を有したことになる。強いて言うなら“空風の剣姫”というところだろう。すると、階段から降りてくる気配を感じてそちらに視線を向けると……疲労だと言わんばかりの一人の女性がこちらにやってくる。疲れた表情のあまり、アスベルとアリサは視線に入っていなかったようで、そのままミシェルの前に立った。
「ミシェルさ〜ん、終わりましたー……」
「確認するわね。……ええ、これで全部ね。今日はこれで十分よ。」
「もう寝たいですよぉ……」
「「(疲れ切ってる……)」」
どれぐらい酷使したのかと言わんばかりの様相であった。何せこの女性、“遊撃士”という肩書の前に、“元猟兵”であり……そして、“星杯騎士”でありアスベルにとっては部下でもあり…パートナーの一人でもある女性。ミシェルは笑みを浮かべ、アスベルは労う様に声をかけた。
「あら、貴女に来客なんだけれど……」
「依頼ですかぁ……明日にでもまわして……」
「んなわけあるか。……久しぶりだな、レイア。」
「へっ………」
素っ頓狂な声を出してレイアの瞳が開かれると……其処に映ったのは自分の上司もといパートナーの一人。そして、隣にいるのは自分と同じようにアスベルの事を想う人物。
「ア……アスベルー!!」
「うおっと……ったく、大げさだろ。」
「まぁまぁ…」
「それに、アリサまで一緒だなんて……士官学院は普通に授業なんじゃ……?」
「ま、その辺は説明するよ。」
その士官学院で、珍しく休みが取れたので……顔見せも兼ねて、クロスベルに来たことを説明し、ミシュラムの方に泊まることも合わせて説明した。偶に手紙を出しているので、その辺は理解してくれたようだ。
「ということは……二夜続けて(意味深)かな?」
「唐突に何を言ってやがりますか、お前は。シルフィにバックブリーカースペシャル決められても知らないぞ。とりあえず、シルフィのところにも顔を出すんだが……どうする?」
「私も行くよ。今日は二人で食事に行こうってことになってたから……そうだ、“知り合い”を呼んでもいいかな?」
「別にいいが、何かあるのか?」
「……あー、会ってみればわかると思うよ?」
「「???」」
躊躇いがちのレイアの言葉に首を傾げるアスベルとアリサであった。とりあえず、ミシェルに一言いったうえで遊撃士協会支部の建物を後にした。
次回、本来ならば……の人が登場します。
ヒントは『熱狂的な人』……これ以上言うとネタバレにしかなりませんw
説明 | ||
第40話 築いてきた縁の深さ | ||
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コメント | ||
感想ありがとうございます。 サイバスター様 誰でしょうね?(すっとぼけ)(kelvin) 予想できるけど一体だれなのかなww(サイバスター) |
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