ガールズ&パンツァー 隻眼の戦車長
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 story51 それぞれの思い

 

 

 そうして一日経ち、まだ思い悩む所はあるが、復活した西住は如月と共に学校に向かった。

 

 

 学校に着くなりあんこうチームの面々から色々と心配されたが、西住は大丈夫、だと言って笑みを浮かべる。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 そうして時は過ぎていって、遂に明日に決勝戦が控え、戦車道メンバーは倉庫前に集まって整列していた。

 

「さ〜、次はいよいよ決勝戦だよー!」

 

 干しいもを齧りつつ、列の前に立つ角谷会長が口を開く。

 

「目標は優勝!だからね〜」

 

「・・・・大それた目標なのは、分かっている。だが、我々にはもう後が無い。負ければ、我々は――――」

 

 河島はその後は続けなかったが、整備部と自動車部、キツネチームを含め、この場にいるメンバー全員はもう知っている。

 その為か、自然とメンバーの空気が締まる。

 

「じゃぁ、西住ちゃ〜ん。隊長として一言!お願いね〜」

 

「えっ?」

 

 相変わらずの投げやりに西住に言うと、少し驚く。

 

「・・・・・・」

 

 西住は如月を見ると、如月は縦にゆっくりと頷くと、列の前に出て、みんなを見る。

 

 

「・・・・・・明日の決勝戦の相手である黒森峰女学園は・・・・・・私がかつて居た学校です。色んな事や、辛い事があって、こちらに転校して来ました。かつての仲間達と戦う事に抵抗を感じない、とは言えません。

 でも、今はこの大洗女子が私の大切な母校です。だから――――」

 

 少しだけ間が空くが、西住は言葉を続ける。

 

「あの!私も、頑張りますので、みなさんも頑張りましょう!!」

 

『オォォォォォォォォ!!!』

 

 西住の後に続けてメンバー全員は声を上げながら右腕を空へと突き上げる。

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 そうして、日が沈み、最後の練習が終わり、メンバーはそれぞれの帰路に付く。

 

 

「いよいよ、明日ですね」

 

「あぁ」

 

 如月達クマチームのメンバーは薄暗くなった道を歩いていく。

 

「長かったようで、短かったようで、不思議な感じですね」

 

「そうね。あんな状態から、決勝まで上り詰めた。普通じゃ、成しえないことですよ」

 

「世の中って、本当に不思議ですね」

 

「・・・・そうだな」

 

 薄っすらと光る月を見上げ、如月はゆっくりと息を吐く。

 

「ってか、鈴が珍しくまともな事言ってる・・・・」

 

「ヒドッ!?何でそんな事言うのさ!」

 

 ボソッと呟いた鈴野の言葉に坂本は声を上げる。

 

 

「あっ!翔さん!」

 

 と、前の曲がり角からスーパーの袋を持った武部達が出てきて、如月達に手を振る。

 

「武部先輩!」

 

 早瀬も武部に向けて手を振る。

 

「いつものことだが、よく出会い頭に会うな」

 

「あっ、そういえば・・・・」

 

 

 

「それより、これから何をするのだ?」

 

「はい。みぽりんの部屋で夕食会をしようと思っているんです。ゲン担ぎの意味合いで、とんかつを作ろうとスーパーで買ってきたんです」

 

 と、手に提げているビニール袋を見せる。

 

「そうか」

 

 

「よかったら、翔さんもどうですか?」

 

「私たちも、ですか?」

 

「さすがに四人追加は厳しいだろう」

 

「材料でしたら余分なぐらい買っていますから大丈夫ですよ」

 

「いや、量の問題じゃない。部屋の広さだ」

 

「あっ・・・・」

 

 武部はようやく気付いたのか、声を漏らす。

 

「狭い部屋で、九人は窮屈だろ」

 

「そ、それは・・・・」

 

 

 

「如月さん。私たちはいいですから、西住隊長達と楽しんで来て下さい」

 

「早瀬・・・・?」

 

 早瀬の突然の発言に如月は一瞬首を傾げる。

 

「それがいいわね」

 

「と言う事ですから、楽しんで来て下さい!」

 

 と、早瀬達は手を振りながらその場から走り出した。

 

「お、おい・・・・」

 

 まさかの事に如月も戸惑いを隠せれなかった。

 

 

「おぉ。如月殿を気遣っての行動ですね!」

 

 すぐに早瀬達の意図に気付いた秋山が声を漏らす。

 

「・・・・あいつら。余計な事を」

 

 苦笑いを浮かべ、呟く。

 

「なら、あいつらの気遣いに甘えさせてもらうとするか」

 

 そうして如月は西住達と共にマンションへと向かう。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「本当に、良かったの、昴?」

 

「いいのいいの」

 

 如月の元から立ち去った早瀬達は話しながら歩いていた。

 

「まぁ、チームとして一緒に居るのもいいんだけと、如月さん的には、西住隊長と一緒に居る方が良いと思うしね」

 

「付き合いの長さは私達なんかより断然長いから、その方が良いかもね」

 

「・・・・そっか」

 

 

「じゃぁ、ゲン担ぎってわけで、何か食べて行こっか」

 

「えぇ」

 

「うん!」

 

 三人は近くのコンビニに寄って、早瀬はカツ丼、鈴野は串カツ、坂本はカツサンドを買って食べたのだった。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

『いただきます!』

 

 所変わって西住の部屋にて、カツ定食が完成して如月達は手を合わせて言い、食べ始める。

 

「おいしい!」

 

「はい!カツの衣がサクサクでおいしいです!」

 

 カツの衣の音が鳴る中、西住と秋山は笑顔を浮かべる。

 

「衣をサクサクに揚げる方法を昔母さんから学んだのが、役に立ったな」

 

 如月は千切りにしたキャベツにドレッシングを掛けて一口分箸に摘まんで口に運んで食べる。

 

 

 

「・・・・みんな、聞いて欲しい事があるの」

 

 と、突然武部が真面目な顔で口にすると、みんなの視線が彼女に集まる。

 

「とっても、重大な発表があります。実は私――――」

 

 

「婚約したんですか?」

 

「彼氏もいないのに?」

 

「遂に一線を超えてしまったか」

 

 

「ち、違うわよ!!ってかさりげなく翔さんのどういう意味!?」

 

 全力で否定しつつ、武部はポケットより一枚のカードを取り出してみんなに見せる。

 

「じゃーん!アマチュア無線二級に合格しました!いぇいっ!」

 

 と、ウインクを見せる。

 

「ほぅ」

 

「四級どころか二級なんて!」

 

「え、二級って結構難しいはずじゃ」

 

 単純な考えだが、数字が上に行くほど難しいのは確か・・・・なはず

 

「いやぁー大変だったよ。麻子に勉強を付き合ってもらって、どーにかって感じかな。でも、受かっててよかった!」

 

「教える方が大変だったぞ」

 

 と、西住の机で食べていた冷泉が愚痴るように言う。

 

(何となく予想は出来るな)

 

 武部の学力を考えれば、尚更の事だろう。

 

「凄いです、沙織さん!」

 

「通信手の鏡ですね!」

 

 西住と秋山が褒めるように言い、武部は照れくさそうに顔を赤くして後頭部を掻く。

 

 

 一見すればなぜ免許を取ったのかと思うが、戦車道とは言えど戦車には専門的な機器が多い。

 無線の周波数は素人でも扱えるぐらいまでに連盟側によって定められており、それ以上の周波数を使うとなると、専門の資格が必要になる。

 

 アマチュア無線二級ともあれば、無線の範囲が飛躍的に広がる。

 

 

「明日の連絡、指示は任せて!W号からの発信限定になっちゃうけど、どんなとこでも電波飛ばしちゃうんだから!」

 

 まぁ指示と出すとなれば、資格を取るのは一人でも十分だ。それが隊長車輌であれば、メンバーには命令が確実に届く。

 

「いやぁー、本当に決勝戦までに間に合ってよかったよぅ」

 

 今から急いで連盟に申請すれば、何とか通るはず。ならば、タイミングがかなり良かったとも言える。

 

「まさか沙織さんが、そんな免許を取っていたなんて。重大発表がこんな事だとは思いませんでした」

 

 心底以外だったのか、五十鈴はまだ驚いていた。

 

「婚約発表は、無いとは思っていたけど・・・・」

 

「って、みぽりんさりげなく酷い!!」

 

 西住が言うのだから、無いものは無いのだろう。

 

「じゃぁ私!試合に勝ったら、婚約してみせる!!」

 

「どういう理屈だ」

 

 冷泉のツッコミ通り、何を考えればそんな結果が出てくる。

 それ以前に相手がいないのであれば、婚約以前の問題だ。

 

「みぽりんこそ、彼氏の一人でも作ってみなさいよ〜」

 

「えっ?私?」

 

 いきなり振られて戸惑う西住だったが、なぜか頬を赤く染め、みんなを見渡す。

 

 

「・・・・私は・・・・みんなと一緒に居るのが、今凄く楽しいから」

 

「・・・・・・」

 

「沙織さん。華さん。麻子さんに、優花里さん・・・・そして、如月さん。みんなの事が・・・・・・大好きだから」

 

 笑顔を浮かべて、西住は言い切った。

 

「みほさん」

 

 五十鈴はほんわりと、嬉しそうに微笑む。

 

「に、西住殿に告られましたー!!」

 

「っ・・・・・・」

 

 秋山は嬉しそうに顔を赤くして髪をわしゃわしゃと掻き、冷泉はなぜか秋山より顔を赤くしていた。

 

「・・・・・・」

 

 如月は複雑そうに、左の眉毛を上に上げる。

 

「みぽり〜ん。嬉しいけどさぁ・・・・・・なんか女子としては間違ってるよ、それ」

 

「えぇ〜!?」

 

 何で?ってな表情を浮かべ、声を漏らす。

 

「まぁそう言うな、武部。どう思うかも、人の自由だ」

 

 

「・・・・・・翔さん」

 

「ん?」

 

「やっぱり、そっち系だったんですね」

 

 真面目な顔で武部は言う。

 

 

 ゴンッ!!

 

 

 次の瞬間武部は「オォ・・・」と涙目になって唸りながら頭を押さえる。

 

「何でそうなる。前も言ったが、違うと言っているだろうが、たわけ」

 

 右手を握り締めて拳を作っている如月は「ふんっ!」と鼻を鳴らす。

 

 

 

 まぁ何やかんやで、夕食会は楽しくしばらく続いた。

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 所変わって別のメンバーはと言うと―――――

 

 

 

 

「いよいよ、明日か」

 

「そうっすね」

 

 二階堂達は帰りの途中で、とある店で『チキンカツ定食』を食べていた。

 ゲン担ぎということで、『きちんと勝つ』とかけてチキンカツを食べていた。

 

「それにしても、時間って言うもんは、あっという間だな」

 

「えぇ。サンダースとの戦いが、つい昨日の事に思えます」

 

 ドレッシングを掛けた千切りのキャベツを食べ、三枝が呟く。

 

「あの時は、決勝まで来れるとは思ってなかったのに、まさか本当に来れるなんて」

 

「世の中、何起こるか分からねぇな」

 

「クックックッ」と静かに笑い、チキンカツの一切れを箸で摘まんで口に運び、サクサクと音を立てて食べる。

 

「でも、仮に優勝した所で、私達の卒業は・・・・約束されるんでしょうかね?」

 

 ふと、青嶋が呟いた言葉に、みんなは「うーん」と静かに唸る。

 

「一応、杏は俺達が卒業出来るようには、なっているらしい」

 

「まぁせんこう達からすれば、問題児がようやく卒業するんだ。別にこれと言って文句も問題も無かったんだろう」

 

「うわぁ・・・・そりゃすっげい投げやりな」

 

「・・・・・・」

 

 中島が苦笑いし、高峯はご飯を漬物と一緒に食べる。

 

 

 

「まぁ、卒業できたとしても、お前達はどうするんだ?」

 

『・・・・・・』

 

 二階堂の言葉に、他のメンバーは黙り込む。

 

「それは・・・・」

 

「考えて、なかったですね」

 

「・・・・・・」コク

 

「私はパパの仕事の手伝いっすね。そういうリーダーは?」

 

「俺も実家の自営業の手伝いでもすっかな。まぁそのまま家業を受け継ぐって形になるかもしれないがな」

 

「・・・・リーダーと中島は卒業後の当てがあるからいいですけど、私達はどうかな」

 

「・・・・・・」

 

 三枝と青嶋は苦笑いを浮かべ、高峯も少し困ったような表情を浮かべる。

 

「そりゃ、すぐには決められねぇか」

 

「そうですね」

 

「まぁでも、何か探します」

 

「・・・・・・」コクコク

 

 

「ちょっと湿って来たな。だが、俺達が卒業出来るか否かは、明日の決勝戦に掛かっているんだからな」

 

 二階堂は不敵な笑みを浮かべ、ジンジャーエールの入ったジョッキ(本当なら酒を飲む気満々だったが、明日の事を考えてジュースにした)を持って上に上げる。

 

「えぇ」

 

「必ず勝ちましょう」

 

「・・・・・・」

 

 三枝、青嶋、高峯もジョッキを持って上に上げる。

 

「そして、私達の活躍を、大洗女子に刻むっす!」

 

 中島がジョッキを上げて、それぞれのジョッキを軽く当て合った。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「・・・・フゥ。夜に飲む紅茶も、格別デース」

 

 紅茶の入ったティーカップを左手に持つ受け皿に置く。

 

「はい。お姉さまの言う通りです」

 

 比叡は『○○の紅茶』のキャップを開けて一口飲む。

 

「・・・・明日は・・・・遂に決勝、ですか」

 

 ポツリと榛名は呟くと、両手で持ったカレーパンを一口齧る。

 

「準々決勝からの参加とは言えど、あっという間でしたね」

 

 そう呟くと、霧島は両手で持つ湯呑の温かい緑茶を一口飲む。

 

 三笠姉妹は艦部の部室にて、ゆっくりと過ごしている。

 

「艦部の存続の為に参加したとは言えど、まさか決勝戦にまで上り詰めるなんて、思って無かったです」

 

「まぁ、最初はそう思ってたよね。最初こそ、少しでも艦部の存続に繋がることが出来ればそれで良かった。でも――――」

 

 比叡の表情は、何所となく複雑な気持ちが現れている。

 

「今となっては、艦部存続の為もあるケド、最も言うと、ここまで来れば優勝したいネー」

 

「はい!ここまで来れば、目標は優勝です!」

 

「同時に、艦部以上にこの学園を守る為にも、私達が勝たなければなりません!」

 

「そして栄光なる勝利で、艦部の知名度を上げて、私たちが学園を去っても、後輩達へその想いを受け継がせたい!」

 

 三笠姉妹は立ち上がると、右手を出し、金剛、比叡、榛名、霧島の順で重ねる。

 

「明日は必ず優勝するネー!例え優勝への礎となってでもネー!!」

 

『オー!!』

 

 四人は重ねた手を下に一旦下げ、一気に上へと上げて広げた。

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 その頃、大洗女子のグラウンドにある戦車倉庫には、まだ明かりが灯されている

 

 

 

「・・・・・・」

 

 中では整備部と自動車部が明日の決勝に向け、戦車の整備を念入りにしている。

 今は自動車部と整備部から数人出し、カツカレーを買って来てもらい、休憩を挟んで食べている。

 

 ちなみにクジラチームの面々はオイ車を置いている赤レンガ倉庫にて徹底したメンテナンスと、試合会場へと運び入れる作業をしている。

 理由は言わずとも、その巨大さと重さだ。そして何より秘匿性を重要視しているので、朝一に学園艦から運び出し、試合会場に向かうという。

 

 

(それにしても、大洗に来て、色んな事があったわねぇ)

 

 カツカレーを食べながら、佐藤(姉)は内心で呟く。

 

(ただ大洗で整備士としての腕を磨くつもりが、戦車の整備技術に磨きが掛かって来ているわね)

 

 内心で皮肉り、苦笑いを浮かべる。

 

 

 元々整備部は船舶科の整備士の予備要員みたいな扱いで、ぶっちゃけ言えば船舶科に近い特殊なものだ。

 ならなぜ船舶科に入らず、あえて普通科を通ったかと言うと、普通科に入らざる得ない状態だった。妹の本音もまた整備士として目指しているが、姉と同理由で普通科に入った。

 

 

 そもそも彼女がこの学園に入ったのは、整備士としての腕を磨くのはもちろんだが、もう一つ理由がある。

 あまりにも単純な理由だが、学園艦にあった。

 

 

 学園艦の形状は軍艦の類にある空母の形状を模しており、大洗女子は旧日本海軍の翔鶴型航空母艦一番艦『翔鶴』をモデルにしている(しかし艦橋に当たる部分は空母『赤城』を模している)

 余談だが、神威女学園の学園艦は空母『信濃』と呼ばれる、かの有名な世界最大の戦艦『大和』の三番艦の船体を元にして作られた空母を模している。

 

 

 しかし学園艦の形状は空母に限った事ではなく、護衛艦『ひゅうが』や潜水艦を模した物もあれば、戦艦の船体を模した学園艦もあると言われている。

 

 

 ちなみに言うと、佐藤姉妹の曽祖父が翔鶴の機関整備士をしていたとあって、曽祖父の家には使わなくなった機関部品の一部があったり、中には翔鶴の艦載機の細かなパーツなど、今となっては貴重な品々が残っていた。

 ちなみに彼女達の祖父は海上自衛隊の護衛艦『はるな』の整備士をしており、父は現在護衛艦『ひゅうが』の機関整備士をしている。

 

 

 かつて曽祖父が乗っていた空母をモデルにした大洗女子の学園艦に興味を持ち、ちょうど普通科でも整備士として腕が磨ける整備部があったという偶然の一致で、大洗に来たのだ。

 

 

 

(でも、今となっては、大洗に来て良かったって思う)

 

 佐藤(姉)は視線を左に向けると、自分達が乗るゾウチームのフェルディナントを見る。

 

(艦船の機関整備士が夢だけど、戦車といった別の機械の整備が出来る、貴重な機会を得られた)

 

 その技術もまた、別の所で役立ち、応用が出来る。

 

(そして、整備した戦車で戦うメンバーの為にも、最善を尽くす。それがメカニックの心得)

 

 そしてカツカレーを食べ終えると、空き容器とスプーンをゴミ箱に捨てて、フェルディナントの整備を再開する。

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 その頃、弓道場には明かりが灯されていた。

 

 

「・・・・・・」

 

 篠原は弓を引き絞って狙いを定め、指を離して矢を放つ。

 

 放たれた矢は一直線に的の真ん中より右に突き刺さる。

 

 しかしよく見れば、中心の円に沿って矢が均等の間隔で突き刺さっている。

 

「相変わらず、器用な事するねぇ」

 

 後ろで瑞鶴がカツオのごま焼きを食べていた。

 ゲン担ぎと言う事で、「勝つぞ」を掛けて「鰹(カツオ)」の料理を食べている。

 

「本当に、そうですよね」

 

 隣で同じくごま焼きを食べている原田も呟く。

 

 その後ろで赤城はむしゃむしゃと握り飯を食べている。

 

「これくらい器用に出来なければ・・・・・・明日の試合では活躍は出来んからな」

 

「・・・・・・」

 

「決勝戦からの参戦とは言えど、全力を持って、メンバーの期待に応えればならない」

 

「期待、か」

 

 最後のごま焼きを食べ、瑞鶴はボソッと呟く。

 

「まぁ、私たちが勝たないと弓道部以前に、この学園自体が消えてしまうからね」

 

「あぁ」

 

「・・・・・・」

 

「でも、学園が残ったとしても、私と雫、祥子は今年で引退だしね」

 

「あぁ。せめて、原田。お前達後輩達に、弓道部を残すことができれば・・・・我々はそれでいい」

 

「先輩・・・・」

 

 

「それに、私たちは次の決勝で大役を任されたのだ。必ずや、隊長の期待に応えるぞ」

 

『はい!』

 

「ふわぁい」

 

 と、握り飯を口に含んだまま赤城が返事をすると、瑞鶴はスパーンッ!!とハリセンで張り倒す。

 

 

 

 

 

 それぞれが決意を改めて固め、明日の決勝に備えた。

 

 

説明
『戦車道』・・・・・・伝統的な文化であり世界中で女子の嗜みとして受け継がれてきたもので、礼節のある、淑やかで慎ましく、凛々しい婦女子を育成することを目指した武芸。そんな戦車道の世界大会が日本で行われるようになり、大洗女子学園で廃止となった戦車道が復活する。
戦車道で深い傷を負い、遠ざけられていた『如月翔』もまた、仲間達と共に駆ける。
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