ガールズ&パンツァー 隻眼の戦車長
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 story54 正しいと証明する為にも

 

 

 

 ウサギチームのM3がエンストで停止し、全車輌は停止した。

 

「ウサギチームがエンスト!?」

 

 早瀬は驚きの声を放ちつつ上のハッチを開けてM3を見る。

 

「こんなタイミングでって・・・・」

 

「ここぞと言う時に、私達って運が無いような気が」

 

「縁起でもないような事を言わないでよ」

 

「・・・・・・」

 

 

『このままだと黒森峰が追いついちゃう!』

 

『私たちの事は大丈夫ですから!先輩達は先に行って下さい!』

 

『後から追いかけます!』

 

 と、無線でウサギチームより通信が入る。

 

 黒森峰はすぐにとは言わないが、体制を立て直せば追いつくのも時間の問題だ。

 

 するとM3が増水して流れが速い川に押され、車体が揺れる。

 

「まずいですよ、如月さん!このままだとM3が横転してしまいます!」

 

「っ!」

 

『早く動かないと、このままじゃ黒森峰が追いつくぞ!』

 

『それに、M3もそうですが、八九式と九七式もこのままじゃ流されてしまいます!』

 

 M3がこの状態では、重量が軽い八九式と九七式、三式は増水した川で車体がかなり揺れており、特に八九式と九七式はこのまま留まっていると流される恐れがあった。

 

(・・・・・・みほ)

 

 如月の脳裏に恐らく思い悩んでいる西住の姿が浮かぶ。

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

 如月の予想通り、西住は悩み込んでいた。

 

 

 仲間を救うべきか・・・・それとも、このまま進むべきか・・・・

 彼女は決断に迫られて居た。

 

 

 ウサギチームのメンバーは先に行ってくださいと言った。常識で考えるならここで足止めをしているわけにはいかない。

 

 

 だが、仲間を救おうとすれば黒森峰に追いつかれる可能性があり、敗北に繋がりかねない。かと言ってウサギチームを見捨ててしまえば、川に呑まれて流される恐れがあった。

 戦車に乗ったまま川に呑まれてしまえば、水圧でハッチは開かなくなり、最悪乗員は溺死してしまう。

 

(・・・・私は・・・・でも――――)

 

 

『犠牲なくして、大きな勝利を得る事は出来ないのです』

 

 

 ふと、去年の全国大会の後に言われた母親の言葉が脳裏を過ぎり、彼女を更に悩ませる。

 

 勝利には犠牲がつき物。無論、戦車道も例外ではない。

 

「・・・・・・」

 

 

 

 ――――ッ!!!

 

 

 

 すると突然水柱が戦車の近くに高く上がる。

 

 

「な、何っすか!?」

 

 高く上がった水が四式に落ちて装甲を濡らす。

 

「黒森峰からの砲撃か!?」

 

「そんな馬鹿な!?連中とはかなり離れているんだぞ!」

 

「だったら、目くら撃ちか!?」

 

「それは無いっすよ!黒森峰にそんな無駄撃ちができる余裕なんか無いっすよ!」

 

「じゃぁ、一体!?」

 

「・・・・・・」

 

 ふと、高峯は顔を上げると、明後日の方を見つめる。

 

 

 

「如月さん!これはもしかして!」

 

「・・・・あぁ。恐らく、考えている事は同じだろう」

 

 如月はその水柱の正体に気付いた。

 

(遠距離砲撃・・・・・・。黒森峰の別働隊か・・・・)

 

 最初に見た車輌の数は全部で十七両。三輌のみは確認されていないとなれば、その三輌の内一輌による遠距離砲撃になる。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

(別に行動させていたのが、功を奏したようだな)

 

 損傷していたパンターUとティーガーU、ヤークトパンター二輌が本隊と合流し、追撃を再開していた時に、斑鳩は内心で心が躍っていた。

 

「20号車。敵戦車には当てず、あえて周囲に砲撃しろ。精神的に痛めつけてやれ」

 

『了解!』

 

 斑鳩は別に行動させていた戦車に指令を出すと、腕を組む。

 

(さて、あいつはどうするつもりだろうな?まぁもう取る選択は普通なら限られるがな)

 

 邪悪にも口角が釣り上がり、静かに笑う。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「くぅっ!?」

 

 三度目の砲撃が近くに着弾して水柱が上がり、戦車の装甲を濡らす。

 

「このままじゃタコ殴りですよ!?」

 

「如月さん!早く移動しないと、やられてしまいます!」

 

「だが、ウサギチームを見捨てる訳には・・・・!」

 

「しかし!」

 

 

 すると四度目の砲撃が近くに着弾して水柱を上げる。

 

 

(くそっ!連中わざと外しているのか。精神的にジワジワと痛めつける気か)

 

 そんな事を考えるのは、一人しかいない。

 

(どこまでやつは・・・・!)

 

 ギリギリと歯軋りを立て、右手を握り締める。

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「・・・・・・」

 

「・・・・西住殿」

 

 俯いて黙り込んでいる西住に秋山は不安に声を漏らす。

 

 

(このままだと、みんな・・・・やられてしまう。でも、ここでウサギチームを見捨てたら・・・・)

 

 去年の決勝戦の・・・・今の様に増水した川へ落下するV号戦車が脳裏を過ぎり、胸が痛んだ。

 

 

『だけど、所詮それは自分が満足できればいい、偽善なんだよ』

 

 

 ふと、この間の焔の言葉が脳裏に過ぎり、更に彼女を苦しめる。

 仲間を助けようとしてフラッグ車を放棄すれば、それが去年の様な敗北を招くかもしれなかった。

 

 

『その偽善が、黒森峰に敗北と言う不名誉の結果を与えた。同時に西住流に泥を塗った』

 

 

 また焔の言葉が過ぎり、西住の表情が暗くなり、胸を締め付けるような痛みが走る。

 そしてこの大会に敗北してしまえば、大洗女子は廃校になってしまう・・・・

 

 

(でも、私は・・・・私は・・・・)

 

 

 だが、西住には、仲間を見捨てる事など出来ない。そして、大洗女子を無くしたくない。

 

 

 

『証明して見せろ。お前の、仲間と共に行く戦車道をな』

『あなたはあなたらしい、戦車道を信じればいい。西住流とは違う、自分だけの戦車道を』

『戦車道は一つではない。お前の歩んだ道が、新たな戦車道になる』

 

 

 

 ふと、アンチョビと、神楽そして如月の言葉が過ぎる。

 

 

(自分だけの・・・・仲間と共に行く・・・・・・戦車道)

 

 

『お前は一人じゃない。お前には、仲間が居る』

 

 

 そして、あの時の如月の言葉が脳裏に過ぎる。

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

 

「行ってあげなよ」

 

 と、悩み込む西住に、武部が声を掛ける。

 

「こっちは私たちが見るから」

 

「沙織、さん・・・・」

 

 武部は笑みを浮かべる。

 

「・・・・・・」

 

 

『お前が悩み、塞ぎ込んでも、お前を支えてくれる仲間達が居る。そうだろ、みほ?』

 

 

 如月の言葉が彼女の脳裏に響き渡る。

 

「・・・・・・」

 

 そして、彼女は迷いを捨て、決意を固めた。

 

 

「優花里さん!ワイヤーにロープを!」

 

「っ!?はいっ!!」

 

 秋山は頬を赤くして大きく返事を返し、すぐに西住と共に戦車から出て準備に取り掛かった。

 

 

 

 

「っ!?西住隊長!?」

 

「っ!」

 

 早瀬が驚きの声を上げると、如月はキューポラハッチを開けて上半身を外に出すと、西住がロープにワイヤーを繋げていた。

 

「みほ・・・・」

 

 すると五度目の砲撃が五式と四式の間に着弾して水柱が上がるも、西住は水を被るも構わずに作業を続ける。

 

『みんな!少しだけ待っていてください!』

 

『えっ!?何をする気なのよ!?』

 

『おいおいマジかよ!?こんな状況で!?』

 

『無茶ですよ!?』

 

『もし流れ弾が当たったりしたら・・・・!』

 

「・・・・・・」

 

 メンバーが驚く中、西住はワイヤーと繋げたロープを自分の身体に巻きつけると結びつける。

 

「・・・・・・」

 

 一瞬彼女が立ち上がった時に見えた瞳には、もう迷いは無かった。

 

「・・・・・・」

 

 ふと、如月の胸の内から、何かが溢れてきて、温かく感じた。

 

「・・・・そうだ。それでいいんだ、みほ」

 

 キューポラの縁を握り締め、静かに身体が震え出すも、咽喉マイクに手を当てて如月は西住へ通信を繋げる。

 

『如月さん?』

 

 首に掛けていたヘッドフォンから如月の声が聞こえ、西住は後ろに振り返る。

 

「お前は、お前が信じる道を進んで行け。例え何と言われても・・・・証明するんだ。

 お前の戦車道が、正しいと言う事を・・・・」

 

『・・・・・・』

 

 直後に六度目の砲撃が着弾して水柱が上がり、舞い上がった水が五式と四式に落ちて濡らし、如月と西住も上から水を被ってずぶ濡れになる。

 

「っ!・・・・・・行け!みほ!!」

 

『・・・・っ!はいっ!!』

 

 西住はM3へと再度振り返って深呼吸をし、数歩後ろに下がってW号の端まで下がり、一歩前へ力強く踏み出す。

 

「みほの戦車道を、正しいと証明する為にも!!」

 

 如月は西住に向かって叫び、西住もまた助走を付けてW号から飛び出し、隣のルノーへ飛び移った。

 

 

「前進するより、仲間を救う事を選んだか」

 

 と、二階堂はキューポラの覗き窓から西住を見る。

 

「見方によっては、無謀な行為になるな。だが、私達は違う」

 

 と、ニッと笑みを浮かべる。

 

「俺達は決して仲間を見捨てたりはしねぇ!どんな状況でもな!そうだろ!野郎共!!」

 

『オォ!!』

「・・・・・・」ビシッ

 

「だったら!俺達がやる事は一つだよな!!」

 

『オォ!!』

「Jawohl!!」

 

 と、四式の砲塔が旋回し、砲が真後ろを向く。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「みほ・・・・」

 

「・・・・・・」

 

 その光景に中須賀は唖然とし、神楽はフッと軽く笑みを浮かべる。

 

「どんな状況でも、決して仲間を見捨てない。彼女の行動は早乙女流としても、通ずるものね」

 

「・・・・・・」

 

「でも、彼女の場合は、早乙女流とは少し違うかもしれない」

 

「違う?みほが?」

 

 怪訝な表情を浮かべ、神楽に聞く。

 

「彼女は、本当に良い仲間を持ったものね」

 

「仲間・・・・」

 

「その仲間との絆と信頼。その二つを両立させてこそ、真価が問われる」

 

「・・・・・・」

 

 すると各戦車の砲塔が真後ろへ向き、接近中の黒森峰に向けられる。

 

「早乙女流は確かに仲間と共に勝利を勝ち取る流派。でも、彼女達ほど深い絆と信頼に結ばれるチームは、中々無い」

 

「・・・・深い絆と信頼、か」

 

 ボソッと、中須賀は呟く。

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

 両手を組み、オレンジペコは顔を赤くしつつ戦車と戦車を飛び移る西住を凝視しつつ願う。

 

「本当に、あの子はお姉さんとは違うわね」

 

「えぇ」

 

 内心で感動しつつ、ダージリンとセシアは呟く。

 

「そういえば、こんな言葉がありましたわね」

 

 と、セシアがその光景を見ながら、口を開く。

 

「『人から信頼される人は、人を信頼する心の強い人である』と」

 

 自分を信じてくれる人が居るからこそ、信じる事が出来る。信頼する事を大切にしている人の周りには、信頼の関係が沢山出来ている、と言う意味だ。

 

「まさに、彼女はそのものね」

 

「えぇ。彼女は仲間を信じ、仲間は彼女を信頼する・・・・。今の戦車道に、もしかしたら足りないものがあったとしたら、これのことかもしれないわね」

 

 セシアは黒森峰の砲撃によって舞い上がる水柱の中で、戦車から戦車へ飛び移る彼女の姿を見つめつつ、手にしているカップを上げて紅茶を飲む。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 西住は別働隊からの砲撃が近くに着弾して水柱が上がる中、無事にウサギチームのM3に辿り着いた。

 

 

『六時の方角に敵集団接近中!距離2500!もうすぐ砲撃戦が始まります!』

 

 秋山は自前の測距儀を覗き、黒森峰との距離を測定する。

 

「総員!西住達の作業が終わるまで!少しでも黒森峰の進攻を遅らせる!全力を持って援護しろ!!」

 

 如月は指示を出し、一部を除いて全戦車が一斉に砲撃を開始する。

 

『隊長!!』

 

『撃って撃って撃ちまくるデース!隊長達が作業を終えるまで!!』

 

『隊長!カッコいいじゃないの!』

 

『隊長を守るんだ!』

 

『今ほど思った事は無い!回転砲塔が羨ましいと!!』

 

『それ分かるわぁー』

 

 と、カバチームとゾウチームが固定砲戦車故の文句を呟く。

 

『でも!何もしないわけにはいかないわよ!』

 

 と、フェルディナントのハッチが開くと、佐藤(姉)が発煙筒の先端を捻って後ろに放り投げ、地面に落ちる前に白い煙が出てきて辺りを覆う。

 続けてV突の天板ハッチが開くと、エルヴィンとカエサルも発煙筒を放り投げ、白い煙が噴き出す。

 

 五式と四式、三式は砲身を最大仰角まで上げると、煙幕弾を放って地面に落ちると同時に白い煙があたりに撒き散らされる。

 

 

「我々も、黙って見ている訳にはいかんな!」

 

「そうね。みんなが必死になっているのに」

 

「私たちがやらないわけには、いきません」

 

「そうですね!」

 

 直後に遠くに待機していたキツネチームの十二糎砲戦車より榴弾が三発発射され、進攻する黒森峰の戦車の目の前の地面に着弾させ、クレーターを作って少なくとも動きを鈍らせた。

 

 

 

「よし。ワイヤーを戦車に」

 

 そしてロープを引っ張り、ワイヤーをM3に持ってくることが出来た。

 

「隊長!」

 

「ありがとうございました!!」

 

「ありがとうございます!!」

 

「ご迷惑をお掛けしました!」

 

 

 と、涙を流しながらも、一年の面々は西住に感謝し、彼女もまた笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

 遠くで前面真っ黒なティーガーUのキューポラハッチを開けて上半身を外に出し、双眼鏡を覗いて居た逸見は、煙幕の間から見える西住の姿を見ると、複雑な気持ちになる。

 

(どうして、こんな危険な事を・・・・。去年のように・・・・負けるかもしれないのに・・・・)

 

 しかし、それがあったからこそ彼女はこの場に居て、戦車道が出来ている。だが、それが原因で黒森峰は去年決勝戦で敗退した。

 複雑な思いが彼女の胸中を巡る。

 

(それが・・・・・・あなたの答えと言うのですか)

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

 同じ様に斑鳩も双眼鏡で覗いていると、不機嫌な表情を浮かべる。

 

(くだらない・・・・くだらない。何が絆だ。何が信頼だ)

 

 ギリギリと、歯軋りを立てると、双眼鏡を持つ手に力を入れる。

 

(そんな実体を持たない不確定要素が何の役に立つ。人間はいつだって、平気で信頼を、友を裏切るんだ)

 

 とある光景が彼女の脳裏に過ぎり、舌打ちをしつつ双眼鏡を下ろすと、煙幕を睨む。 

 

(戦車道にそんなものは不必要だ。力こそが全てだ!)

 

 怒りの形相を浮かべると、砲塔内に戻り、ハッチを閉める。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 そうして全ての戦車にワイヤーを繋げ、十輌でM3を引っ張る。

 

「・・・・・・」

 

 息を呑み、如月はキューポラの覗き窓からM3を見守る。

 

 

 

 するとM3よりエンジン音がし、ゆっくりと動き出した。

 

『みんな!ウサギチーム動き出したよ!』

 

「良かった!」

 

「肝を冷や冷やさせるわね」

 

「でも、動いてよかった」

 

 早瀬、鈴野、坂本はそれぞれ安堵して呟く。

 

『全車輌!ウサギチームと歩調を合わして前進してください!』

 

 西住から通信が入り、全戦車はM3と速度を合わせて行進し、ようやく対岸へ到着する。

 

 直後に黒森峰からの砲撃が襲い掛かるが、戦車が走り去った後に着弾する。

 

 

 

「隊長達は橋に向かったみたいね」

 

「そのようだ。なら、我々の出番だ」

 

 と、赤城と瑞鶴は榴弾をリヤカーから取り出して運び、砲に装填する。

 

 既にある場所へ狙いを付け、篠原は微調整をし、撃発ペダルを踏んで砲弾を放つ。

 

 

 砲弾は弧を描いて飛んでいくと、その先には石橋があり、その中央に榴弾が着弾して爆発し、石橋は音を立てて崩れ去って道を遮断する。

 

 

 同じ時に別の石橋を通ると、最後尾のフェルディナントとポルシェティーガーが一斉に走り出し、二輌の重量で石橋を叩き壊した。

 

 

 

 

「橋が二つとも!?」

 

 偵察に出していた戦車よりの報告に、逸見は声を上げる。

 

「分かった!橋は迂回して通る!お前は先回りしろ!」

 

 

(市街地への近道である橋を壊して、我々の進撃の時間を稼ぐ気か)

 

 斑鳩は無線傍受して副隊長への報告を盗み聞くと、西住の策を察する。

 

(本隊到着はかなり掛かるが、まぁ飛んで火に入る夏の虫とは、正にこの事だな)

 

 斑鳩の策ではないが、西住まほはとある戦車を市街地に潜伏させていた。

 

(まぁあれだけでも十分か。大洗の戦車であいつを倒すことなど不可能だ。だったら、あれの出番は無いかもな)

 

「ククク・・・・」と静かに笑い、腕を組んで邪悪に笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 そうして西住達は黒森峰と距離を大幅に離し、市街地の脇を走る。

 

「何とか時間を稼げたな」

 

『はい。これで、市街地戦に持ち込めそうです』

 

 周囲を警戒しつつ、二人は無線で話す。

 

 西住の戦術を最大限に生かせる市街地が最後の作戦の場であり、決着の場となる。

 ここでの如月達クマチームと他数チームで構成された特別小隊の活躍が、作戦の合否を分ける。

 

「キツネチーム。そちらも着いたか?」

 

『あぁ。先ほど到着した』

 

「確認するが、残り弾数は?」

 

『七発使用したから、残りは六発だ』

 

「予想通りだな。命令あるまで待機。非常時には独自の判断で行動しろ」

 

『了解した』

 

 通信を終えると、如月はすぐに前方に視線を向ける。

 

 建物の陰から、黒森峰のV号戦車が出てきた。

 

『V号だよ!『H』かな、『J』かな?っつか、一目で戦車の種類が分かる私ってどうなの?』

 

 と、そんな武部の呟きが聞こえたが、最初の時と比べると本当に大きく成長したものだと感心する。

 

 

『V号なら突破出来ます!後続が来る前に、撃破しましょう!』

 

『はい!』

『Yes!!』

「了解!」

 

 すぐに西住達は逃走するV号を追い掛け、市街地へ入る。

 

 V号は偵察枠として部隊に編入されているとすれば、今後の作戦に支障をきたす障害になりかねない。

 

 V号に向け五式と四式より砲弾が放たれるも、V号は結構の手馴れが乗っているのか、不規則なジグザグ走行で砲弾をかわす。

 

 二つ目の建物の角を曲がり、八九式とヘッツァー、九七式が砲撃するも、V号の至近に着弾して車体を揺らすも損傷なし。

 

 ルノーが乗せ変えたエンジンの馬力を生かして速度を上げて先行し、V号が右へと曲がるとルノーとW号、五式が角を曲がって道に入ると、V号は少し離れた場所に停車していた。

 

「よーし!」

 

 園がV号へ狙いを定め、砲撃をしようとした時だった―――――

 

 

 

 

「・・・・・・?」

 

 突然揺れが起き、車体を揺らす。

 

「なん――――」

 

 如月は最後まで言葉が続ける事が出来なかった。

 

 なぜなら、建物の左の角の陰から、巨大なナニカが出てきた。

 

「壁?門?」

 

 園は疑問詞で呟くと、次第にその正体が姿を現す。

 

 

 どの戦車より巨大な姿をし、角ばって傾斜した車体後部にある砲塔にその巨体な車体。

 

 戦車好きであれば誰もが知っているであろう、旧ドイツ陸軍が開発した、今も尚記録を破られた事の無い世界最大にして最重量を誇る超重戦車を・・・・

 

 

「戦車!?」

 

 ようやくその正体に気付いた園は驚きの声を上げる。

 

 

「ま、マウス!?」

 

「あの超重戦車が・・・・!?」

 

「うそーん」

 

 早瀬と鈴野、坂本も驚きを隠せれず、それぞれ言葉を漏らす。

 

 

「Why!?何デスカー!?あのモンスターは!?」

 

「・・・・凄く、デカイ」

 

「・・・・・・」

 

「これは・・・・」

 

 三笠姉妹は驚きを隠せれず、目を見開く。

 

 

「オイオイ。冗談きついぜ?でか過ぎだろ」

 

「そんな事私に言われてもっすねぇー」

 

「・・・・・・」

 

「マジ?」

 

「・・・・・・」ガクガク

 

 二階堂達も冷や汗を掻き、高峯はブルブルと震えている。

 

 

「さりげなくポルシェ博士の作品が揃っているわね」

 

「別に揃っても嬉しくないわよ」

 

「ワァ〜チョ〜デカ〜イ」

 

「orz」

 

 秋月は眼を輝かせてマウスを見ており、佐藤(姉)は息を呑み、佐藤(妹)はホワホワしているように見えるが、足が小刻みに震え、黛はなぜか落胆している。

 

 

 その間にもマウスは砲塔を旋回させるが、長い砲身が建物の角にぶつかり、一部を崩してすぐに砲塔が戻る。

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「とうとう出してきたわね」

 

「・・・・マウス」

 

 マウスの姿を見た二人は息を呑む。

 

「存在自体は知っていたけど、まさか本当に投入してくるなんて」

 

「・・・・・・」

 

(この鋼鉄の怪獣を、どう対処する?)

 

 神威女学園にはマウスに対抗できる戦車は数輌あるが、大洗にはそれだけの火力を持つ戦車が無い。

 遠距離砲撃をしていた大洗の戦車の砲を持ってしても、抜ける箇所は少ないだろう。

 

「・・・・・・」

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「退却してください!!」

 

 西住はとっさに指示を出し、W号と五式はすぐさま後進する。

 

 その直後に、マウスがW号に向けて主砲を放ち、近くの建物の窓ガラスが轟音と共に放たれた衝撃波で割れ、ルノーのすぐ横を通り過ぎてヘッツァー改の至近に着弾して一瞬車体が浮かび上がった。

 

 

 ルノーはもう撃破される事を覚悟してか、逃げずに主砲と副砲を一斉に放つが、マウスの強固な装甲に阻まれ、火花を散らして弾かれる。

 直後にマウスは主砲を放ち、ルノーをそのまま上下逆さまにひっくり返して撃破した。

 

「ルノーが!」

 

「重戦車なのにひっくり返すって・・・・」

 

「何て火力なの・・・・!」

 

 鈴野は引き金を一秒間隔で連続して引き、砲弾を三連射するも悉く弾かれる。

 

 マウスは砲撃をし、八九式と九七式の間の至近に着弾して二輌共車体が一瞬右や左へ浮かび上がるも、全車輌一斉に砲撃を始める。

 

 しかし砲弾は全て火花を散らして弾かれ、左右の建物の壁に着弾する。

 

 ポルシェティーガーとフェルディナントが同時に砲撃するも、砲弾は傾斜した正面装甲に阻まれて弾かれ、お返しと言わんばかりにマウスが砲弾を放ち、ポルシェティーガーの至近に着弾する。

 

「おのれっ!カモさんチームの仇っ!!」

 

 直後にV突がマウスに向けて砲撃するも、砲弾はV突の砲へと跳ね返され、直後にマウスが放った砲弾が右側履帯に着弾し、そのまま転輪を根こそぎ破壊してV突は衝撃で横転し、白旗が揚がる。

 

 

「V突が・・・・」

 

「戦力ダウン。手痛いな」

 

 大洗戦車道始まって貴重なアタッカーとして活躍し、更に火力が大幅に強化されたV突が撃破となると、かなり手痛い。

 

「一気に二輌も。これで残り十二輌・・・・」

 

「・・・・・・」

 

 全車輌は砲撃しつつ後退するも、悉く全てが弾かれる。

 

「西住!こんなガチガチの戦車を真正面から戦っても勝ち目は無い!こうなれば『プランB』だ!」

 

『っ!はい!』

 

(プランBって・・・・)

 

 鈴野は一瞬疑問に思ったが、すぐにそれを理解する。

 

 

 対等とまではいかないが、マウスに対抗できる唯一の方法が、この市街地に事前に向かわせていた。

 

 

『全車!これより0148地点に向かいます!マウスを誘き寄せます!』

 

『了解!』

 

 全戦車はすぐに移動を開始し、逃げる際に三式と四式、九七式が放った砲弾がマウスに着弾するも当然の如く弾かれる。

 しかしマウスはそのまま大洗の戦車を追い掛け、その後にV号がマウスを盾にしながら後に付いて行く。

 

 

 

 マウスが追跡し、建物の角を曲がると大洗の戦車は一斉に砲撃をするも、全て火花を散らして弾かれる。直後にマウスが砲弾を放ち、ヘッツァー改とポルシェティーガーの間に着弾すると、すぐに後退する。

 

「お前達の火力でマウスの装甲が抜けるものか!ハッハッハッハッ!!」

 

 後ろで調子付いて蛇行走行し始めたV号の乗員は車内で高笑いするが、その直後にその笑いが消えた。

 

 突然砲塔左側面に砲撃を受け、白旗が揚がって行動不能となる。

 

「調子に乗んな」

 

 と、路地に隠れてV号を砲撃したフェルディナントは後退して別ルートに向かう。

 

 

 

「無駄だ無駄だ。このマウスにお前達の戦車の攻撃が通じるものか」

 

 マウスの乗員は自信満々で呟くと、ペリスコープを覗く。

 

 一斉に砲撃した後、大洗の戦車は下の段へと坂を下り、左の方へと逃走する。

 

「待ち伏せして攻撃をするつもりなんだろうが、何をやっても無駄だ」

 

 と、そのままマウスを大洗が逃げた次の左に向かい、曲がろうとした。

 

 

 ―――――ッ!!

 

 

『っ!?』

 

 その瞬間大きな音と共にマウスが大きく揺れ、乗員はバランスを崩して倒れ、目を見開く。

 

「な、なんだ!?」

 

「このマウスが揺れただと!?」

 

 乗員は立ち上がってペリスコープをとっさに左へ向ける。

 

「っ!?・・・・・・なん、だと!?」

 

 すぐに目に入った物に、乗員は目を見開く。別のペリスコープを覗いた装填手もまた、目を見開いていた。

 

 

 マウスの乗員が面食らったのも無理も無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 なぜなら、そこにマウスと同等の大きさを持つ、超重戦車が待ち構えていたからだ。

 

 

 

「黒森峰。大洗の切り札がポルシェティーガーとフェルディナント、十二糎だけと思ったら大間違いだ」

 

 その超重戦車・・・・・・オイ車の左に停車している五式のキューポラハッチを開け、如月は動揺してか動きが止まっているマウスを睨みつける。

 

「目には目を。超重戦車には超重戦車だ!」

 

 そう言い放つと、オイ車は主砲をマウスへ向け、轟音と閃光と共に砲弾が放たれた。

 

 

 

 

 [号戦車マウスと大型イ号車120t型のスペック比較

 

 

 

  [号戦車マウス     大型イ号車120t型

 全長:10.085m      全長:11m

 全幅:3.670m      全幅:4.2m

 全高:3.630m      全高:4m

 重量:187.998t     重量:120t(140tの説もある)

 速度:20km/h       速度:25m/h

 主砲:12.8cm       主砲:10.5cm(本作ではマウスと同じ主砲である12.8cmに変更)

 副砲:7.5cmx1        副砲:4.7cmx2

 装甲:車体前面:200mm    装甲:車体前面:200mm

  車体側面:180mm     車体側面:110mm(本作では+5mm)

    車体後面:160mm     車体後面:150mm(本作では+5mm)

  砲塔前面:220〜240mm    砲塔前面:200mm

    砲塔側面:200mm       砲塔側面:200mm

    砲塔後面:200mm       砲塔後面:200mm

 乗員:6名 乗員:11名

 

 

 

説明
『戦車道』・・・・・・伝統的な文化であり世界中で女子の嗜みとして受け継がれてきたもので、礼節のある、淑やかで慎ましく、凛々しい婦女子を育成することを目指した武芸。そんな戦車道の世界大会が日本で行われるようになり、大洗女子学園で廃止となった戦車道が復活する。
戦車道で深い傷を負い、遠ざけられていた『如月翔』もまた、仲間達と共に駆ける。
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