名も無き伝説
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 「おい、あの婆さん噂の奴じゃねえか?」

 

 一人の男が偶然隣にいた男に耳打ちする。

 

 「…みたいだな。あのクエスト受注切符の色は…チェックの白だって…!?」

 

 耳打ちされた男の声を聞き、声をかけた男はクエストボードを振り向く。

 

 「おい、しかもレウスだぞ…!?」

 

 リオス種の雄、蒼天の王と呼ばれあらゆる狩人が一度は対峙し、挫折と達成を味わう試練の象徴リオレウス。彼らの視線の先の老婆はその王の討伐依頼。それも腕が立ち、数多のモンスターを討ち倒してきた狩人のみに依頼される超がつくほどの危険な依頼、G級クエスト。老婆の手にしているクエストの切符はGの証のチェック柄が刻まれていた。

 

 「ついてった方がいいんじゃねえか…?」

 

 「…放っておこうぜ。面倒はごめんだ。」

 

 「だけどよぉ、俺は嫌だぜ。婆さんを見殺しにするなんてのは…寝つきが悪くなる」

 

 「わーった付き合ってやるよ。ただし弁当はお前が出せよ」

 

 二人の男はそう囁き合うと老婆へと歩み寄り声をかける。

 

 「お婆さん!」

 

 呼び止められた老婆は出発口へ向かっていた足を声の方へ向ける。

 

 「なんだい?」

 

 歩み寄る二人の若者の方を向き微笑む。

 

 「レウスのクエスト、俺たちも素材に用があるんだけど一緒にいってもいいかい?」

 

 男が訪ねると老婆は快諾した。

 

 「あら、本当かね。助かるよ。オイボレ一人じゃ手こずりそうだったからねぇ」

 

 間延びしておっとりとした声が嬉しそうに弾む。もう一人の男がクエストボードから依頼の半券を人数分取ってきて手渡す。

 

 「さ、じゃあいきましょうかねぇ」

 

 準備が整ったのを見ると老婆は再び歩き出す。だがまたも呼び止める声がする。

 

 「おーい!僕も一緒に行ってもいいかいっ!?」

 

 軽快なフットワークに燃えるような頭髪、そして背中に背負うはガンランス。彼の姿を見た二人の若者は思わず一歩後ずさった。

 

 「お婆さん、是非、是非僕も連れて行ってくれないか!」

 

 熱く老婆に語り掛ける男を後目に二人は再び静かに喋り出す。

 

 「おい、あれレジェンドラスタのタイゾウじゃないか!?」

 

 「みたいだな。レジェンドラスタですら気に掛ける程の人物なのか、彼女は…」

 

 「俺たちの出る幕はないんじゃないか?なんたってレジェンドラスタがきたんだぜ、お節介は必要なくなっただろう?」

 

 「いや、逆だな。レジェンドラスタが気に掛ける程の人物なら一見の価値アリだぜ」

 

 「おーい!二人とも!置いていくぞ!」

 

 二人はタイゾウに呼ばれ我に返る。そして落ち着きのない赤髪を追いかけるように出発口へ走るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―古塔―

 

 

 

「いやいや、ここは相変わらず寒いねえ。」

 

 クエストの開始位置、それは獲物のいる閉ざされたエリアの直上だった。偶然にも全員がその場に居合わせることができたようだ。

 

「大丈夫!こんなもの動いていれば寒いうちに入らないさ!そうだろう君たち!」

 

 かのレジェンドラスタに話しかけられ恐縮し、その気迫に圧倒される二人。彼らもG級をこなす狩人ではあるがまだ日は浅い模様。普段とは違う狩場の雰囲気、そして何より伝説の名をとる同行者がそれを後押ししているようだ。

 

「さ、では」

 

「いこうか!」

 

 そう言葉を交わすと老婆とタイゾウの二人は目の前の崖から雲海へと飛び降りた。

 

「「あ、ま、まって!」」

 

「イヤッホォォォォォォォォォォォォォォウ!!!!」

 

 二人は我に返り慌てて二人の後を追う。タイゾウの叫び声が辺りに木霊していた。

 

 

 

 

 

 数秒の落下の後、4人は地面に足を付く。そしてそこには王者の姿があり、既にこちらを警戒し威嚇している。普通の狩人であれば、ここで一瞬の精神統一と覚悟をするのだが、老婆はその時間すら置かず閃光玉を炸裂させた。

 強烈な光が王者を襲う。不意を突かれた二人も視界を遮るのが遅れ視界を奪われてしまう。

 

「ほっ、はっ!」

 

「タァッ!ウリャァァ!」

 

 二人の視界が暗闇になっている間に戦闘は始まった。彼らが視界を取り戻す頃には頭部の甲殻は砕け散り、翼の棘は折れ翼膜は既に引き裂かれていた。

 リオレウスが大きな怒号を上げ老婆に突進していく。二人が助けに入ろうとしたが、老婆はヒラリとかわし、甲殻のない首の下側から鋭い一撃を打ち込む。甲殻のない脆い場所を切り付けられリオレウスは体を大きく振って怯む、その隙をタイゾウの竜撃砲が捉え尻尾の甲殻を吹き飛ばした。

 一瞬にして致命的な傷を受けたリオレウスは雲海へと退避しようと飛翔する。しかしその瞬間を老婆の放った閃光玉が捉える。上空から獲物を狙うため発達した飛竜の視力が災いし、空の王者は再び地に落ちる。落下の衝撃で悶える竜の尻尾、甲殻の砕け散りむき出しになった弱点を二人は逃さなかった。尻尾の一点をほぼ同時のタイミングで正確に刺し貫き、体から引き離した。その激痛によって地に落ちた王者は一層の大声で吠え、もがき、眩んだまま尻尾の方へと火球を吐き出す。攻撃の残身を狙われた二人は火球を受けて吹き飛ばされる。そのまま2発、3発と次々と火球を辺りにばら撒きながら王者は必死に暴れまわる。

 

「うわあああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」

 

 眩暈の収まった二人はその光景を目の当たりにし得物を振り抜き斬りかかる。一人は両手に持った小刀を目の前を掠めた翼に切り付け、もう一人は巨大な刀身を盾にしつつ体を回転させ叩き付ける。次の瞬間、裂かれた翼の端は勢いよく離散し、刀身の命中した頭部は間欠泉のような血飛沫を上げ、蒼天の王者は力なく崩れ落ちた。

 二人の男は火球を受けて吹き飛ばされた老婆とタイゾウの元に駆けつける。

 

「婆さん大丈夫か!」

 

「しっかりしろ、レジェンドラスタだろ!」

 

 二人はその呼びかけにすぐに応えた。

 

「あ、ああ…すまないねえ。油断しちまったよけほっけほっ」

 

「あ、ああ大丈夫だ…僕もまだまだ未熟だな」

 

 よろよろと起き上がる二人を助け起こし、4人は揃って獲物へ近づき、大型のナイフを取り出しその亡骸へ突き立てる。

 自然が人に牙を剥く時、人はそれを力を以て制する。自然が穏やかな時、人は静観し共に平和な時間を過ごす。それがこの世界で定められた絶対的な掟。この狩りも、獲物の体の剥ぎ取りもその一環なのだ。自然を制した時人はその戦利品を手にする。しかし土に還る分、自然に還元される分を奪ってはならない。

 

 

 静かな儀式の後、4人は帰還の気球に乗り込み談笑するでも励ますでもなく、静かに眠りについた。

説明
リハビリがてらぼちぼち。フロンティアベースで話を作ってます。
オリジナルキャラクター要素ありますのでご注意ください。
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タグ
MHF モンスターハンターフロンティア リオレウス 

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