ガールズ&パンツァー 隻眼の戦車長 |
story56 日本戦車の底力
「敵発見!」
市街地に入った黒森峰は大洗の戦車を発見する。
すぐに追撃を開始し、後を追う。
と、五式を筆頭に、四式、三式、九七式、八九式がそれぞれ散り散りになって行く。
(戦力をバラバラにするつもりか)
斑鳩は大洗の策に勘付くが、口角が上がる。
(だが、手間が省けるものだ)
元からバラバラに動くつもりだったので、むしろ焔側には都合が良かった。
「各車輌は私に付いて来い。全て殲滅してくれる」
と、レーヴェを筆頭に、ティーガーU二輌、パンターU、ラング、ヤークトパンター一輌が如月達の追跡に回る。
「あいつら・・・・!」
前面真っ黒のティーガーUのキューポラから逸見はレーヴェと数輌が勝手に戦列を離れて行くを見る。
『放って置け』
「ですが・・・・」
『彼女の好きにさせておけばいい。残りは私について来い』
「・・・・・・了解」
西住まほの言葉に、少し引っ掛かりを感じるも、気持ちを切り替えて今はフラッグ車に向ける。
(やはり独断で動き出したか)
まほはキューポラの覗き窓からレーヴェが戦列離脱するのを確認する。
(やつの事だ。何か別の策を用意しているかもしれん。本当に気が抜けん相手だ)
内心で呟きながらも、気持ちを切り替えて妹が乗るW号に目を向ける。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「やはり、こちらに戦力を回してきたな」
如月はキューポラから後ろを覗くと、レーヴェと数輌が追い掛けて来ていた。
「各車、健闘を祈る」
『了解!』
そしてバラバラに散らばり、それぞれの戦車を斑鳩参加のメンバーの乗る戦車が追い掛け、五式をレーヴェが追いかける。
「レーヴェがこっちに来ます!」
砲塔側面のハッチを開けて鈴野が後ろを確認する。
(やはり私を狙ってくるか。だが、こちらとしては好都合だ)
キューポラから後方に五式を追撃するレーヴェを睨む。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
八九式は105ミリ砲搭載型ティーガーUの砲撃をかわすと、主砲を放って砲塔前面に着弾させる。
「くそ!ちょこまかと!」
砲手は引き金を引いて砲弾を放つも、八九式は狭い路地でもギリギリでかわす。
「落ち着け!相手は八九式だ!このティーガーUを撃破するなど――――」
と、苛立った様子の砲手に車長が言い掛けるも、直後に八九式は後退してティーガーUの側面にぶつかると、零距離で砲塔側面に主砲を放つ。
「このぉっ!!八九式の癖に!!」
ティーガーU車内に甲高い音が鳴り響いて、怒り心頭になった乗員は八九式に体当たりをしようとするも、八九式は速度を上げてこれをかわす。
直後に八九式の主砲から砲弾が放たれ、砲塔に着弾する。
「やーいやーい!!」
煽るように八九式は蛇行しながら更に主砲を放って砲塔に着弾する。
「待てぇっ!!」
乗員全員が怒り心頭になり、八九式に主砲を向け砲弾を放つ。
「キャプテン!もうそろそろ例のポイントです!」
「よしっ!やるよみんな!」
『はい!』
と、八九式の車体後部より煙幕が放出される。
「なっ!?煙幕だと!?」
それにより、ティーガーUの車長は視界を奪われる。
直後にティーガーUの車体に砲弾が着弾すると爆発を起こし、更に連続してナニカが当たって弾かれる。
「ぐぅ!調子に乗るな!!」
車内に金属音が鳴り響いて苛立った砲手は引き金を引いて砲弾を放つも、八九式には当たらない。
「あけび!どんどん当てて挑発だぁ!」
砲塔後部に搭載されている九一式車載軽機関銃を取り外してキューポラから上半身を出し、機関銃を構えてティーガーUに向けて銃弾を放つ。
「はい!」
佐々木は砲塔を右へと旋回させて主砲を放ち、ブロック塀に着弾してコンクリの破片がティーガーUに襲い掛かる。
損傷は何も無いだろうが、乗員への苛立ちを更に募らせるのには十分効果はある。
「忍!ティーガーUをギリギリまで引き寄せるよ!」
「はい!」
右へと狭い路地をギリギリまで曲がってティーガーUから放たれる砲弾をかわす。
しかし砲弾が砲塔横を横切っただけで八九式が揺れる。
「くっ!」
磯辺は体勢を保ちつつ機関銃から空になった弾薬箱を外し、新しい弾薬箱を装填してティーガーUに向けて放つ。
「キャプテン!いきます!」
「っ!煙幕停止!」
と、磯辺は機関銃を抱えて車内に戻り、八九式が右へと急旋回してギリギリ何とか曲がり切った。
その際に車体後部から放出していた煙幕を停止させる。
そしてティーガーUを覆っていた煙幕が晴れる。
「っ!?」
キューポラの覗き窓を覗いて居た車長は目を見開く。
目の前には、ガードレールがあり、その先に用水路があった。
「て、停車!!」
慌てて叫び、操縦手はとっさにブレーキを踏んで急停止する。
しかし、ティーガーUでそんな無茶な事をしたらどうなるかを、慌てていて乗員は忘れていた。
強引に停止した事で、鈍い音と共にティーガーUの履帯の接続ピンが折れ、履帯が両方とも外れてしまう。
『ぎゃぁぁぁぁぁぁ!?』
乗員が悲鳴を上げる中、そのままガードレールを突き破る勢いで飛び出そうとした――――――
――――――が、ティーガーUは何とも奇跡的なバランスで車体は前に傾きつつも、奇跡的に落下を耐えていた。
「・・・・・・」
車長は身動きを止め、他の乗員もまた身動きが取れなかった。
「よ、よか――――」
と、車長は後ろを振り返ってキューポラの覗き窓を覗くと、ピタッと固まる。
なぜなら、一瞬ティーガーUの後ろに八九式が砲口を向けていたのが見えたからだ。
「そーれっ!!」
『そーれっ!!』
磯辺の号令と共に八九式の主砲から砲弾が放たれ、砲弾はティーガーUの車体後部に着弾する。
これでも撃破には至らなかったが、その衝撃でティーガーUはバランスを崩し。用水路へと落下する。
そのまま長砲身の105ミリ砲が地面にぶつかって砲身が大きく曲がり、その勢いのままティーガーUはひっくり返ると同時に砲身がポッキリと折れる。
そして車体下部から白旗が揚がった。
「やった!!やりましたよ、キャプテン!」
「初めての大物撃破です!」
「よしっ!でもまだ喜ぶのには早い!急いで他のみんなの援護に行くよ!」
『はい!』
八九式は旋回して元来た道へと戻っていく。
「・・・・八九式に負けた。しかも、あんな豆鉄砲で落とされた」
逆さまになって落ちたティーガーUの車内では、プライドに相当な傷が入ってショックを受けた乗員がブツブツと呟いていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
四式は砲塔側面にティーガーUが放った砲弾が掠るも、主砲を放って砲塔前面に着弾させる。
「よーしっ!奴さんは引き付けられているな!」
キューポラから上半身を出した二階堂は九七式車載重機関銃を構えて放ち、高峯が次弾を装填した直後に砲弾が放たれてティーガーUの車体正面に着弾するも弾かれる。
「キツネチーム!そろそろ例のポイントだ!用意はいいか!」
『もう狙いは定めている』
車内に戻ってマガジンを取りながらキツネチームに連絡すると、すぐに返信が返って来る。
『だが、当たるかどうかは運次第だ。外れても、私を恨むなよ』
「上等!おっしゃ!三枝!全力で飛ばせ!」
「了解!」
空になったマガジンを外して新しいマガジンを装填してコッキングハンドルを一回引き、ティーガーUに向けて機関銃を放つ。
それと同時に四式の速度が上がる。
ティーガーUが放った砲弾が四式の砲塔右側に抉るように掠れ、衝撃が二階堂を襲う。
「ちぃ!」
破片が飛んで二階堂の左頬を切り血が滲み出るも、彼女は左手の甲で血を拭い取って空になったマガジンを取り払って新しいマガジンを装填する。
「リーダー!」
「っ!」
中島の声ですぐに車内に戻る。
「っ!」
篠原は路地から現れて用水路に掛かる橋を渡ろうとした四式を見るとすぐに撃発ペダルを踏んで榴弾を放つ。
四式が橋を渡り終えると、ティーガーUが路地を出て橋を渡ろうとする。
しかしその瞬間対岸の橋の繋ぎ目辺りにキツネチームの十二糎砲戦車が発射した榴弾が着弾する。
「なっ!?」
それによって橋は破壊され、ティーガーUの重量で橋は折れて用水路へ落下し、その際に長砲身の105ミリ砲が対岸に引っ掛かり、重量によって上に向かって折れ曲がる。
撃破には至らなかったが、砲身が完全に折れ曲がってしまい、状態も完全にスタックしており、実質上戦闘続行不能となっていた。
「よっしゃー!」
「王虎を討ち取ったぁっ!」
四式車内では喜びのあまり声を上げる。
「喜ぶのにはまだ早いぞ!他のチームの援護に回るぞ、野郎共!!」
『おぉ!!』
「・・・・・・」ビシッ
すぐに四式は他のチーム援護の為に走り出す。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
九七式は広い道路を蛇行走行しつつヤークトパンターとラングの砲撃をかわす。
「そんな弾が当たると思っているのデースカー!」
直後に「Fire!!」と叫び、霧島が榴弾を放ってヤークトパンターの正面装甲に着弾させて爆発させる。
ラングが砲弾を放つも、比叡は右へと旋回して砲弾をかわす。
「何やってんだ!!相手はブリキの棺桶だぞ!!」
ラングの車長は苛立った様子で叫び、ヤークトパンターが放った砲弾が九七式の砲塔のすぐ傍を通り過ぎる。
「っ!アリクイチームの皆サン!準備はいいデスカー!」
『はい!』
『いつでもオッケーなり!』
「比叡!全速で飛ばすネー!」
「はい!お姉さま!」
比叡はギアを最大まで上げてアクセル全開で九七式を飛ばす。
同時に霧島が砲塔を右に少し旋回させ、榴弾を放ってコンクリートの建物に着弾させると爆発し、コンクリの破片がラングに襲い掛かる。
九七式が両方に路地の入り口がある場所を通り過ぎ、ラングとヤークトパンターが通り過ぎようとした瞬間、左から発砲炎が飛び出たかと思うと、ヤークトパンターの左後部転輪に着弾し、更に榴弾とあって履帯も破壊されて動きを止める。
路地には三式が砲口から硝煙を漏らしながら待ち構えており、ラングが通り過ぎた所で路地から飛び出す。
「なっ!?待ち伏せていたのか!?」
ラングの車長は驚きつつも、ラングを停車させて超信地旋回を行って三式に主砲を向ける。
履帯を破壊されたヤークトパンターは残った履帯で無理矢理方向を変えて九七式に向けて砲弾を放つも、九七式は右へと旋回してかわす。
ラングが三式に向けて砲弾を放つも、砲塔側面を抉るように掠る。
「くそっ!日本戦車如きが!」
ラングの装填手が砲弾を装填し、三式に狙いを定める。
「ドイツの戦車に勝てると思って―――――」
しかしその瞬間ラングの天板に砲弾が着弾し、白旗が揚がった。
「・・・・ゑ?」
一瞬状況が理解できず、ラングの車長は呆然となる。
近くでヤークトパンターは接近してきた九七式が放った榴弾で残った履帯も破壊されてしまい、三式が車体後部へと砲弾を放って着弾し、白旗が揚がる。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「よし」
遠くでラング撃破を確認した篠原はゆっくりと息を吐く。
「如月副隊長率いる特別小隊を追撃した戦車は如月副隊長のレーヴェのみになったわね」
「作戦も大詰めよ。祥子。残弾は?」
徹甲弾を装填し、閉鎖機が閉じるのを確認して瑞鶴はリヤカーに乗っている赤城に聞く。
「あと四発。徹甲弾と榴弾が半分ずつ」
「何とかいけそうね」
「あぁ。原田、次のポイントに――――」
篠原が言い終える前に、十二糎砲戦車の近くの地面が爆発する。
「っ!?」
「っ!黒森峰のパンターUが!?」
赤城は起き上がると、遠くにパンターUが砲をこちらに向けているのを確認する。
「くそっ!すぐに離脱だ!」
戦車はすぐにそこから走り出すが、パンターUが放った砲弾が牽引しているリヤカーに着弾して吹き飛ばされる。
「しまった!リヤカーが!」
「っ!」
篠原はすぐに砲塔を旋回させ、砲をパンターUへ向け、撃発ペダルを踏んで砲弾を放つが、砲弾はパンターUの防楯に着弾して弾かれる。
「しまった!?」
「よりによってあんな場所に・・・・!」
「くっ!」
原田はアクセル全開で走らせるも、パンターUはその後を追う。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
その瞬間、轟音が響き渡った。
放たれた巨大な砲弾は家屋を破壊し、そのまま合流を急いでいた八九式に着弾すると、八九式は数回も横転し、家屋に突っ込んで止まる。
車体側面に直撃を受け、八九式は大破し、もはや判定装置が作動しないレベルまでに破壊され、エンジンからは黒煙が上がっていた。
その巨大な砲弾が飛んで来た方を見ると、マウスと同じ迷彩が施された巨大な戦車が焼ける音と共に硝煙を漏らす大口径の砲を八九式に向けていた。
説明 | ||
『戦車道』・・・・・・伝統的な文化であり世界中で女子の嗜みとして受け継がれてきたもので、礼節のある、淑やかで慎ましく、凛々しい婦女子を育成することを目指した武芸。そんな戦車道の世界大会が日本で行われるようになり、大洗女子学園で廃止となった戦車道が復活する。 戦車道で深い傷を負い、遠ざけられていた『如月翔』もまた、仲間達と共に駆ける。 |
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