真・恋姫無双 雌雄の御遣い 二十一話 |
〜一刀視点〜
俺と陛下は曹操軍の後方に位置している
鞘姉達は無事なら曹操軍の前方に居る筈なので合流するには曹操軍を突き抜ける必要がある
かなり迂回するという方法は合流を諦めることになるし、曹操軍の探索を逃れなければならない
合流を諦めたくないし、探索を逃れる事も難しい俺達に他の選択肢は無かった
俺は敵に突撃を掛ける前に陛下に
「陛下、俺にしっかりとしがみ付いていて下さい
万が一にも陛下を落馬させる訳にはいきませんから」
そう言うと陛下は
「分かりました
では、こうしましょう」
と言って、横座りの体勢から上半身を俺の方に向け、腕を俺の胴に回して抱き付いてきた
陛下程の美女に抱き付かれて、しかも陛下の大きな胸が押し付けられる
ついでに女性特有の香りが鼻腔をくすぐる
男としてはこんな状況でなければとんでもない幸福であり、煩悩を抑えるのに苦労しそうだ
だが今は残念ながら、その”こんな状況”だ
しがみ付いてと言ったら抱き付かれたのは計算外だが余計な事は考えていられない
俺は『朱雀』を鞘に納め、槍の『白虎』を構える
騎馬で更に前に陛下を乗せている状態では攻撃範囲の広い槍の方が良いと判断したからだ
「参りますよ 陛下」
「はい 私の身命を預けます」
俺は曹操軍に向けて馬を全力で走らせる
曹操軍の後方からの突撃、それも一騎の為彼方が俺達に気づくのが遅れる
僅かながらの幸運に乗じて敵軍に斬り込む
『白虎』で敵を突き、薙ぎ払いながら進んで行く
「どけ、邪魔する者は全て斬る!」
声を張り上げ、自らを鼓舞し、敵を威圧する
「たかが一騎で何ができる!」
そう言って敵が次々と向かって来るが全て倒していく
時折、背中に攻撃が掠めた痛みが走るが気にしていられない
敵が怯み僅かに俺達の周りに空間が出来た
そこへ矢が数本飛来した
全て叩き落とすが続けられると苦しい
「どんどん矢を射掛けろ!」
部隊長らしきものが指示して第二波が来る そう思ったら
「待ちなさい 矢を射かけてはならぬ
北郷と一緒に馬に乗っているのは劉協陛下よ!」
華琳の声が響いた
その言葉で俺も考えが至った
権威が失墜したとはいえ、劉協陛下が皇帝なのは事実
その現皇帝を殺したとあっては華琳の名声は地に落ち、本拠地の統治も苦しくなる
更に華琳が覇道、つまり新たに国を統一するのが目的ならば尚更陛下は殺せない
自分の手中に置き、然るべき時に禅譲させるのが最善だからだ
劉協陛下は結果として俺の盾になっていてくれたのだ
戸惑う曹操軍の兵士に対して
「死に急ぐ奴からかかってこい!」
この言葉に怯まずに向かって来た数人を倒すと、他の兵は向かって来るのを躊躇し始めた
その隙を逃さずに敵を倒しながら突き進んでいく
「このまま逃がすか!」
曹操軍を突破し、完全に曹操軍に後ろを向けた俺に秋蘭の矢が射られた
真後ろからなら陛下に当たる心配はない
完全に突破した時、それが陛下と言う盾が俺から無くなった瞬間だった
真後ろからの矢を避けられる筈も無く背中に矢が突き刺さる
だが、不幸中の幸いは急所には当たらなかった
俺は馬足を緩めずに進んで行く
〜華琳視点〜
「まさか此方が矢を使えないからと言って一人で我が軍を突破するとは思わなかったわ
甘く見ていたつもりは無かったけど、それ自体が甘く見ていたようね
凪を倒しているのだからもっと評価するべきだったわ
北郷をこのまま追撃する
そこに、他の者達もいる筈
そこで北郷達を一網打尽にする!」
私達は北郷の後を追う
もう矢を射掛けられるような距離ではないが、見失う事はしない
北郷、まだ私から逃げ切った事にはならないわよ
〜桃香視点〜
「早く、北郷さん達に追いつかないと!
曹操さんに討ち取られてしまったら話を聞くことも出来ない
曹操さんよりも先に北郷さん達に追いつくわよ!」
私は焦っている
自分でも指揮者が焦ってはいけない事位分かっている
でも、今回は間に合わなかったら取り返しがつかなくなるかもしれない
そんな考えが焦りを生んでいた
だから、私は急いで軍を進める
〜鞘華視点〜
私達は橋の前にいた
この川を渡れる橋はこの辺りではここだけ
川幅が大きい為、馬で泳いで対岸に渡るのは困難
だから此処で敵を食い止め、皆が逃げる時間を稼ぐ
此処に私と愛紗、静里が残っている
星と葵は逃げた切った民と兵を率いて先に行っている
「一君、陛下、まだ来ないの?
もうすぐ曹操軍が来る そうなったら合流も難しくなるわ」
私は苛立ちを隠せなかった
すると、此方に向かって来る騎兵が見えた
一君と陛下だ
二人が一緒に乗っているのは面白くないが状況を察するに仕方が無いかな
それよりも合流出来たことを喜ばないと
だが、一君の様子がおかしい
目が虚ろで私達の所に着いた途端、落馬しそうになる
慌てて支え、ゆっくりと降ろす
その時に全て察した
一君の背中は真っ赤に染まっていた
服を裂くと大小幾つかの傷がある
おまけに矢が一本刺突き刺さっている
そこに曹操軍がやって来る
「愛紗、静里、一君と陛下を連れて先に行って」
「鞘・華・様?」
「早く!」
この時の私はどんな顔をしていたのだろうか
虎の尾を踏む、逆鱗に触れる、怒髪天を衝く、そんな言葉では形容できない
私は生まれて初めて怒りが頂点に達していた
〜あとがき〜
一刀の一騎掛けは一応成功しました
矢を射掛けない理由は書きましたが納得いただけたでしょうか
この後は次回で
更新はゆっくりになるかもしれませんが続けるつもりです
説明 | ||
一刀の中央突破 | ||
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コメント | ||
……ここで一刀に単騎駆けを成功させたいなら、劉協に馬の上で腹這いになって馬にしっかりと抱き付かせ、頭をけして上げないように言えば、一刀の動きがほぼ束縛されないので、今話の辻褄は合うと思います。自分の胸の前に枕か何かを置いて槍を使うような動きをすれば、片腕で槍の端の方を持って肘から先の動きだけで人間を薙ぎ払うような非常識な腕力と頑丈さがなければ、「槍を振るう」が物理的に不可能であることがご理解頂けると思います。 (h995) 赤子ならともかく同年代程度の劉協を前に乗せて抱きつかれた状態という死角だらけの状態でよくもまあここまで……それはいいけど、曹操軍が無能過ぎ。華琳が相手を侮ってたからというのもあると思うけど……まあ兵に的確な攻撃が出来るほどの技量が無かったのかもね。皇帝を乗せているから下手に攻撃出来ないし。誰だって皇帝殺しの汚名は背負いたくないだろう。(Jack Tlam) それに、劉協に前から抱き付かれたことで後ろを余り振り向けない上に前方へも上手く攻撃できない一刀の死角から攻撃を仕掛けられない曹操軍の騎馬隊は、一体どれだけ無能なんでしょうね?(h995) 一刀は趙雲超えをやってしまいましたね。趙雲が単騎駆けで曹操軍の包囲網を突破できたのは、抱えていたのが体が小さく動きが殆ど阻害されない赤子の阿斗だけだったからで、自分が足手纏いにならないように井戸に身を投げて自害した糜夫人のおかげです。(h995) |
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