紫閃の軌跡 |
〜ノルド高原 北東部〜
「ここが、ノルド高原ですか。」
「見るからに『ル=ロックル』を思い起こさせる場所だな。」
6月28日の深夜………広大な高原に姿を見せる二人の人物。一人は特殊な法衣服に身を包み、腰に括り付けられているのは星杯のメダル。そして、漆黒の長い髪を靡かせる琥珀の瞳の女性。もう一人はアッシュブロンドの髪を持つ紫電の瞳を持つ青年の姿。彼らはこの近辺に住んでいる人ではない。すると、彼等の後ろに現れた一人の少年。黒を基調とする服の上に白いコートを纏っている彼は真剣な表情で彼らの方を見た。
「第六位“山吹の神淵”殿に“天剣”……ひょっとして、第三位―――“京紫の瞬光”殿絡みですか?」
「ええ。お待ちしていましたよ、位階第十二位―――“氷玄武”殿。」
「周辺を探って気配はなかったが……どうもきな臭いのは確かなようだ。」
そう言って青年は監視塔の方を見やる。星空の光があるとはいえ暗いことには変わりないが……その青年の勘は戦火の予感を感じ取っていた。その直感ぶりに“山吹の神淵”と呼ばれた女性は笑みを零し、“氷玄武”と呼ばれた少年は首を傾げた。
「どうやら、時間がないようです。―――“氷玄武”殿、頼みがあります。」
そのタイムリミットが近い……それを感じ取った女性は少年に対して“頼み”をお願いすることとした。
〜監視塔〜
「02:55……あとちょっとで交替か。共和国(あちらさん)の動きは今夜も無しと……まったく、本当にこんなことやる必要があるのかねぇ。」
「やれやれ、見張りの任務を何だと思っている。」
その頃、監視塔で気怠そうに共和国方面の監視を行う兵士―――ザッツはそうぼやいた。すると、そこに釘を刺すかのように交代として姿を見せた兵士―――ロアンの姿であった。
「おっと、早いじゃねえか。いやあ、ボヤきたくなる気持ちもわかるだろ?クロスベル方面ならともかくこんな僻地で戦争なんて起きるはずがねぇんだし。」
……確かに、このような監視状態ならば簡単に戦争など起きるはずがない。上の人間が『それは違う』とそう思ってはいても、末端の兵にまでそれが全て浸透しているわけではない。ザッツの言い分も解らない訳ではない。
「決めつけるんじゃない。中将閣下も警戒は緩めるなと仰っていたし気を抜くべきじゃないだろう。」
「ゼクス中将ねぇ……凄い人なのはわかるけどよ。有名な第三機甲師団もこんな辺境じゃ形ナシだよな。やっぱり鉄血宰相への協力を拒んだから飛ばされたのかねぇ。」
「こ、こら、滅多なことを言うな。あらぬ噂が立ったらどうする?」
ザッツの物言いに対して、少し言い過ぎではないかとロアンは窘めた。
「へいへい、真面目だねぇ。ま、とっとと交替して俺は寝させてもらうぜ。数分くらいオマケでもいいだろ?」
「まったく…………ん?」
平和ボケと言うか気の抜けたザッツの言葉に対して、ロアンはため息を吐きたくなったのだが……そんな長閑な会話を破る様に聞こえてきた爆発音―――正確には、何かの砲弾が撃ち込まれて炸裂する音が聞こえたため、二人はその聞こえてきた方角……正確には『共和国軍基地のある方面』を見た二人は愕然とした。
「なんだ今のは……!!!」
「あ、あれは……!?」
明らかにそれは“攻撃”されて炎上している基地の様相。これには二人も当惑しているほどだ。このような場所でそういった攻撃をすることなど聞いてもいないし、このような辺境では第三機甲師団以外の師団がいるということなど聞いてもいない。
「な、なんだありゃ!?砲撃でも受けてんのか!?どこかの師団が動いてるってことかよ!?」
「馬鹿な!そんな話は聞いてない!クッ……とにかくゼンダー門に連絡を―――」
「な、なんだ……」
「まさか――――」
すると、カルバード軍の基地がある方向とは別の方向から飛んできた砲弾が監視塔に命中した。最初は敵軍―――共和国軍からの襲撃かと思うのも無理はない状況なのだが、それすらも考えさせない様に飛んでくる攻撃。
「う、うわあああああっ!?」
「て、敵襲!?一体どこから――――」
突然の奇襲に兵士達は驚いて砲弾が来た方向を探して周囲を見回すと、再び何かが飛んで来る音が聞こえ、音が聞こえた方向を見つめた。
「あ…………」
「女神(エイドス)よ――――」
その砲弾の攻撃の意味も、一体誰が放った砲弾なのかも解らずに……ザッツとロアンは砲撃によって炎上していく監視塔を見ながら、意識を手放した。
〜ゼンダー門〜
「ん………ここは……」
それからどれほど時間が経ったのか……ザッツが目を覚ますと、そこはゼンダー門の医務室であった。一体何があったのか解らずに困惑している状況。しかも、一緒にいたはずのロアンはどこに……そう考え込むザッツを訪れたのは、一人の少年だった。
「―――良かった。目を覚ましたみたいですね。」
「お前さんは……そ、そうだ!ロアンは無事なのか!?」
「え、えと、落ち着いてください。貴方と一緒にいた人なら、先に目を覚まして外に出ていったそうです。」
「そ、そうか……」
何はともあれ、目の前で同僚が死ぬということは避けられたようであり、ひとまず安心した。時計を見ると、どうやら1時間ほど寝ていたようだ……あの次々と迫りくる状況から解放され……少ししてから、ザッツはその少年に尋ねた。
「しかし、お前さんのような少年は見たことがないな。一体何者だ?」
「えと、巡回神父をしています……ジュード・ユナイティアといいます。」
「……若いな。見たところ十代後半ぐらいだろうに。」
「はは……よく言われることですよ。」
少年―――ジュードが“巡回神父”だということには、流石のザッツも唖然とするほかなく、それに対してジュードも苦笑を浮かべた。確かに、十代という若さでそのようなことをしているのは、普通の感覚からすれば『不思議』と言う他ないだろう。
「貴方の怪我も軽いですし、少し休めば動けるようになります。あまりここにいては、いろいろ問題もありそうなので……失礼します。せめて、女神の加護あらんことを…」
そう軽く会釈をして、医務室を立ち去るジュード……そして、門を出たところで一息ついた。
「はぁ……まったく、大変だよ。今回ばかりは“京紫の瞬光”殿の気持ちも理解できるかな。さて……“連中”の気配は今のところないにしろ、一波乱ありそうだね。」
ジュード・ユナイティア……その実態は、七耀教会星杯騎士団所属『守護騎士』第十二位“氷玄武(ひょうげんぶ)”。元々は東ゼムリアのほうに赴いていたのだが、特に問題は無いということで今回は総長である第一位より第三位の補佐を命じられたとのことだ。
第三位のアスベル、第十二位のジュード、そして第六位の“山吹の神淵”……この辺境とも言える場所で、三人の守護騎士が静かに動き出していた。
―――6月28日、4:30………
〜クロスベル市 クリムゾン商会〜
クロスベル市の裏通りにある一際大きい建物―――元はルバーチェ商会の本拠地であったが、例の事件後に解体されたルバーチェに変わり、横から掠め通る形でこの場所の買収を行ったクリムゾン商会………その実態は、猟兵団『赤い星座』の資金調達用ダミー会社でもあった。
「んあァ?ったく、呑気に寝てたっつーのに……こちら、ただ今やる気のないレク・ターランドールですがァ?」
そして、その彼等とは異なる意味で一際目立っているバカンスルックの青年はソファーで眠っていたのだが……鳴りだした通信器に怪訝そうな表情を浮かべつつ、受話ボタンを押して早々その怒りをぶつけるように言葉を発する。すると、その言葉をサラッと流しつつ、聞こえてきたのは知り合いの女性の声であった。
『何言っているんですか、レクターさん。』
「お、クレアか。つーか、こんな時間に連絡なんか寄越すなよ…というか、今すぐ寝させてくれよ。」
『緊急事態だからこんな時間にです。―――今日未明、ノルド高原方面の監視塔が何者かの襲撃を受けました。現状では、共和国方面も視野に捜査中ですが……どうやら、向こうも被害を受けたようです。』
クレアのその言葉で、レクターの中にある何かのスイッチが入ったかのように表情を引き締め、そこから予想されることと自分に対しての“仕事”を瞬時にはじき出す。
「―――つまりは、戦闘を回避するために共和国方面と交渉して来い、ってオッサンが言ってるのか?」
『閣下、ですよ。』
「細かいこたァいいんだよ。……どれだけ急いでも、現地に着くのは15:00以降―――そこまで戦端が開かないよう努力させてくれや。戦闘状態になったら、いくら俺でも難しいからな。」
『―――解りました。閣下にはそう伝えておきます。』
通信を切ると、レクターは一息つき……そして、不敵な笑みを零す。
「(やれやれ……目覚めて早々こんな仕事とはなァ……けど、こういう交渉事は楽しいからやめられないけれどな。)」
「フフ……どうやら、行かねばならんようだな?」
その言葉にその声……レクターがその方向を向くと、燃えるような紅き髪を持つ隻眼の偉丈夫の人物―――『赤い星座』の副団長であるシグムント・オルランドの姿であった。
「……聞いてたのか?」
「心配するな。こちらとしてもこの場所を把握しなければいけないうえ、他に気を回すつもりはない。依頼主の意向とあらば、協力してやっても構わないが?」
「そこまでは言われてねぇから、アンタ達はここでの仕事に集中してくれ。あのオッサンならそう言って納得させそうだが。」
「―――了解した。娘は不満そうな表情を浮かべるやもしれんが。」
一癖も二癖もあり過ぎる面々……正直、何度も顔を合わせたくないというのがレクターの本音なのだが、“ビジネス”である以上、割り切って行動しなければならない。そして、レクターは帝国での仕事服―――書記官の制服に袖を通し、その場を後にした。
さて、俺の自己紹介……って、誰に言ってるのかって?クク、気にすんな。レクター・アランドール。帝国政府二等書記官にして帝国軍情報局特務大尉、そして“鉄血の子供達(アイアンブリード)”の一人。……とまぁ、これが俺の“転生後”の身分と言うところだ。
転生前は“鵜久森一成(うぐもりかずなり)”。よく、『お前とレクターってそっくりだよな』とか言われてたが、そこまでフリーダムじゃねえよ……とは言っても、実際にこうやって転生して人生を過ごすと……本当にそっくりになっていることには肩を落とした。
俺も少しばかり軌跡シリーズはやっているのだが……どうにも、歴史がいろいろ変っていることには驚きだ。その裏で関わっているのは、恐らく俺と同じ“転生”した奴等なのだろう……俺の立場からすれば“不本意”なのだろうが、俺自身の本心は“昂揚”していた。あの“化物”を相手にどう立ち回るつもりなのか、お手並み拝見といった所であろう。
「―――“かかし男(スケアクロウ)”。その名に恥じぬ化けっぷりを披露させてもらおうかなァ。」
「―――あら、珍しいわね。こんなところで再会できるなんて。」
「!?!?」
そこに姿を見せる一人の人物。同じ学園にいたルーシー・セイランド……なのだが、レクターにしてみれば二倍の意味で冷や汗が止まらなかった。奇行ばかりするレクターをいつも連れ戻していたというだけでなく、そのにじみ出るオーラが“転生前”に感じた彼女の怒りのオーラに何故か似ていたのだ。
「に、逃げるが勝ち!!」
「あ、こらっ!!」
………結局、捕まってお話(意味深)されました。俺はなァ、アイツのように強敵二人を相手できるほど強くねぇんだよぉ………シクシク。後は、ノルド高原というかゼンダー門行き……労災おりねぇかなァ……助けて、俺以外の“転生者”。
説明 | ||
第58話 影で支える者 | ||
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コメント | ||
サイバスター様 職業によってはしっかりしていそうです。特に遊撃士辺りは。……転生の理由というか原因は、前作でルーシーが語っていたりします。(kelvin) 感想ありがとうございます。 八神はやて様 フラグはボチボチありました。レクターはルーシーの事をよく知らないのです。碧の台詞からしても、労災降りなさそうですが……だって、上司がアレですから。(kelvin) 労災てこの世界ではどれくらいおりるのかな・・・そして新たな転生者彼もアスベルたちと同様の理由でかな?(サイバスター) |
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