真・恋姫†無双〜比翼の契り〜 二章第四話 |
「どうやら撒いたようですな」
鬱蒼とした森の中を歩く一団がいた。身なりは正規兵そのもの。手に持つ槍は丁寧に手入れをされているのが見て取れるが、柄の部分には幾度も激戦を潜り抜けたのだろう傷跡がいくつも残されていた。
一団の先頭にいるのは二人の女性。一人は長い髪と切れ長の目が特徴的な美女。先ほどの言葉を発したのもこの女性だ。もう一人は整えられた桃色の髪に理知的な目をした女性。長い髪の女性が発した言葉に頷いた後、一団全体に短時間の休息を言い渡したのはこの女性だ。
どうやら桃色の髪の女性が一団のリーダーであり、長い髪の女性はその補佐をしている立場のようだ。
「ふぅ〜……。助かったよ、星。お前がいなかったらここまでの兵を集めることは出来なかった」
もう一人の女性を星と呼んだ女性は休憩し始めた一団を見て安堵の溜息を吐いた。
一団の総勢は二人を含めても三十に満たない。それが多かったのか少なかったのかは知る由もない。
「安心するのは些か早計な気がしますが、感謝は一応頂いておきましょう。して白蓮殿。これからどうするおつもりですかな?」
やや意味深な表情を浮かべて星と呼ばれた女性は、素直なのかそうじゃないのか分かりにくい返答をした。白蓮と呼ばれた女性も、星とはそれなりに付き合いが長いのか言い返すでもなく苦笑を浮かべるだけだった。もしくはそんな余裕さえも今は無いのかもしれないが。
彼女達がいる森は青州にある。どちらかといえば冀州よりではあるが、国境を越える時までとある者達に追われていたため正確な位置までは彼女達も知らなかったりする。
「……なぁ、星。ここってどこだか分かるか?」
今二人の近く、少なくとも声が聞こえる範囲には誰もいない。それが分かっているからなのか白蓮は弱々しい声で星に尋ねた。
「いや? 少なくとも冀州は越えたとは思うがここが青州のどこなのかまでは」
白蓮もその答えが返ってくるのが分かっていたのだろう、不満はないが溜息はさらに深くなるだけだった。いくらここには二人しかいなく、長い逃亡生活で精神が滅入っているのだとしても一団を率いる者がこのような体たらく、少し面白くないと感じた星は少しでも前向きになるよう行動した。
「いい加減野宿も飽きましたしな。そろそろちゃんとした宿に泊まりたいものだな」
「私だってそうだよ……。よし、なら一刻後、準備をして森から出よう。とにかく近くに街か邑が無いか探すとしよう」
「それが懸命かと」
星の普段と変わりない呟きに白蓮にも多少の元気が戻ったようだ。一度気合を入れる為に顔を叩き、再び見上げたときには先程よりも少しマシな顔になっていた。
「……ホント、星がいてくれて良かったよ」
それは本当に小さな呟きだった。普段なら風に流され誰にも聞き留められない声のはずだった。目の前の女性なら本音の部分は聞こえていても素知らぬ顔をする奴だったはずだ。
だけどもここは森の中で周囲には人がいなくて、そして飄々しているように見えてその実目の前の女性も精神的に疲れていたのだ。
白蓮の呟きは耳聡く星の耳に入り、星もまた反応を返してしまった。
「何の因果か。私もこれほど長く白蓮殿の所に居座るとは思ってもおりませんでした。ふふっ、白蓮殿には不思議と手を貸したくなる素養があるのかもしれませんな」
聞こえてたのかよと白蓮が頭を抱えていた。羞恥もあるだろうが星から真正面の言葉を向けられ慣れていないというのもあった。
それでも立ち直りが早かったのは普段から弄られているからか。白蓮は少し意趣返しをすることにした。
「それでも客将という立場は変えなかったけどな」
星がどれだけ優秀で戦上手であっても、客将という立場であれば重要な事務仕事などは任せられない。人が増え部隊を率いる将を得ても自分の仕事は減りはしない。白蓮は常々思っていた不満をここでぶつけた。
「それもまた白蓮殿を育てる一因になった。私も白蓮殿であればあれぐらいのことは出来ると思っていましたぞ」
「それは結果論だろ……」
「ふむ、しかして結果論であろうと白蓮殿は成し遂げた。自身を過小評価するでもなく過大評価するでもない、確かな基準を得られたのですから良いことではありませぬか」
連々と言葉を並べられ意趣返しのつもりがいつも通りの展開になっていた。おそらく一生の時を経ても彼女が星に口で勝ることはないだろうと思える一部始終だった。
「……そして、その結果があったおかげで白蓮殿、我々は生きている。あの時、あの書簡を受け取っていたからこそ我らは逃げ延びることが出来たのです。きっと以前のままなら――」
「まるで前の私なら死んでいたみたいじゃないか」
白蓮のジト目も尤もだろう。
だが星は、恨みがましい目を向けられてもなお飄々としていた。
「事実そうでしょうな。だからこそ白蓮殿はもっと私に感謝するべきと思うのですが如何か?」
まるで白蓮はワシが育てた、そんな風にも聞こえる。実際そう言っているのだろうが。
冗談とも取れる言葉の中で一部白蓮は空気を読んでいた。
それは星が『あの時』と言った時だ。あの瞬間、確かに星はどこか遠くを見つめるような目をしていた。次に見たのは彼女が持つ武器である槍。名を龍牙という。反董卓連合に参加した際、一度は折られ……いや、斬られたモノ。幽州にて再度打ち直され今では元通りになっているモノ。見たのは数瞬にも満たない時間だったため白蓮には何を考えていたのかまでは分からなかったが、気軽に触れていいものではないと感じていた。
「……それにしても司馬か」
星の話はスルーされていた。もはや日常茶飯事となっている事だ、星も特に気にした様子はない。
白蓮が思い浮かべたのもまた星と同じ人物だった。こちらは実際には会っていないからシルエットだけの想像になっているが。
つい先日まで敵だった。反董卓連合以降行方が分からなくなっていた者だ。それがまさか正体が分かるようにした書簡で火急の知らせをし命を助けられるとは、なんという因果だろうか。
『袁紹軍が近くまで来ている注意されたし』という一文、そして司馬と書かれた印で締めくくられた書簡。ここまで持ってきた梟という者達と自身の兵。彼らの証言を裏付けるように、翌日には白蓮がいた城の目と鼻の先にあった城が攻め落とされていた。
到底今から周辺の兵達を集めることなど間に合わないし、そのタイミングでの袁紹からの宣戦布告。もはや死刑宣告に近かっただろう。
さしもの星も撤退を進言し、白蓮も納得する他なかった。
書簡が届いた時点で警戒を高め戦の準備は始めていた。だからこそ迅速に撤退することが出来たと彼女達は思っている。
袁紹軍は大軍を以って進軍し追撃も苛烈。大軍の為か速度は遅かったが、追撃部隊も無尽蔵に交代しているようで休まる暇がなかった。
日々を追う毎に兵は減り、残ったのは二十余名。
奇跡のような数日間だった。書簡を信用出来ないと切り捨てていたら、星がいなかったら、考え始めたらきりがない。
「それで、白蓮殿。宿で休んだ後はどこに向かうのですかな?」
二人共物思いに耽っていたが、最初に復活したのは星だった。話を振られて白蓮もまた現実に戻ってきた。
「……あぁ、えーっと、とりあえず桃香を頼ろうと思う」
「ふむ、愛紗達か。確か白蓮殿が口添えして桃香殿は徐州の州牧となっていましたな」
「そうだ。色々と忙しい時期だろうが、生憎私には他に頼る所もないからな」
若干の自虐が混ざった言葉だったがこれ幸いと、星が食らいついた。
「安心めされよ。私など頼るものは身一つしかありませぬ」
「……それ自慢になってないだろう」
「そうでしたかな?」
星なりの優しさだろうか。二人の暗くなり始めていた思考もいくらか気楽に考えられる程度には回復していた。多分に白蓮のほうが多く助けられている部分が見て取れるが、それも白蓮という人柄なのだろう。
二人は十分に休息を取った後、再び歩き始めた。
彼女達が行く先々で司馬の名を聞くのは、ここからしばらく歩いてからのことだった。
【あとがき】
昨日振りです。
九条でごわす。
昨日のあとがきに書いた通り白蓮のその後を書いてみました。
意外と筆が進み、2時間弱で書き上げてました。前作以来の快挙です(4000字に満たないですが
時間はある。それよりも書く方に意識が向くかが問題なのだ(エター
拠点パートもそのうち書くかも? もしかしたら本編に組み込むかもですが……。
後は期待した眼差しを素知らぬ顔で流しつつ
次回もお楽しみに〜(#゚Д゚)ノ[再見!]
説明 | ||
二章 群雄割拠編 第四話「切れ目とデフォルト」 |
||
総閲覧数 | 閲覧ユーザー | 支援 |
1323 | 1160 | 5 |
コメント | ||
>観珪さん アンケート、詳しく書きなおしたものを上げました。手数ですがそちらをご覧下され。 普通な人は何気にリスペクトしてますからね、今後も活躍……出番はあるんじゃないかなぁ?(九条) Aがいいですかねぇ~ ねねたそかわゆす とりま白蓮さん生きててよかったよ。 死ぬとは思えなかったけど、このままどこへともなく行ってしまう可能性もあったわけですからね……(神余 雛) |
||
タグ | ||
真・恋姫†無双 比翼の契り オリ主 オリキャラ多数 | ||
九条さんの作品一覧 |
MY メニュー |
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。 |
(c)2018 - tinamini.com |