紫閃の軌跡 |
〜ノルド高原 石切り場〜
ミリアムの情報提供により、一行が到着したのは北部の奥にある石切り場。ここはノルドの民でも訪れる人間が少ないほどの“曰くつき”の代物。リィン等が到着すると、リィンとアスベルは奥から感じる気配に気づく。
「リィン。」
「ああ。どうやら奥の方に気配を感じる。」
「この扉の先に、ですか?」
「とはいえ、この扉みたいなものは開きそうにありませんが……」
気配から察するに、それなりの戦闘経験を積んでいる人物だと推定されるが……問題は入り口と見られる部分の扉だ。見るからに頑丈そうで、簡単に開く気配はない……そこに手を上げて提案したのは、ミリアムであった。
「はいは〜い、それじゃボクにまっかせて〜!!ガーちゃん!!」
「―――――!!」
「って、ミリアムちゃん!?まさか……」
「いっけ〜!!」
真っ先に嫌な予感がしたリーゼロッテが止める間もなく、アガートラムを呼び出したミリアムは指示を出すと……アガートラムはその命令に従って、石の扉を粉砕したのだ。これには一同冷や汗ものであった。
「………リーゼ、あれで情報局の人間なのか?」
「………ノーコメントでお願いします。」
元同僚のリーゼロッテですら答えることすら止めてしまったことに、どうやら彼女の知っている時よりも“酷くなっていた”ようであったのは容易に想像がつく。ともかく、今ので大きな音を立ててしまったので、この先にいるであろう犯人達が逃げ出さない様に、迅速に行動することとなった。無論、石切り場内部はあまり人が立ち入らないので魔獣が徘徊していたのだが、
「……行くぞ。」
「はい。」
「い、一瞬ですか……」
「アレで本気でないというから恐れ入るな……ハーティリーの方も、正直言ってかなりの実力だな。」
アスベルとリーゼロッテが率先して敵を奇襲攻撃で全滅させていった。それには半ば八つ当たりの様な感情がにじみ出ていることに、リィン等は冷や汗を流すほどであった。頼もしく思いつつもその反面恐怖を感じるのは、気のせいだと思いたかった。この時ばかりは敵に同情したくなったのは言うまでもない。そうして奥の方に到着すると、何やら言い合いに近いような話の声が聞こえてきた。そこには武装した兵士が数人と、知的そうな幹部の様相の人物がいた。
「おい、ここまでやればもう十分だろうが……!」
「とっとと残りの契約金も渡してくれよ!」
兵士の男たちはどうやら報酬を要求していたようだ……だが、眼鏡をかけた人物は冷静沈着な様相を崩さずに淡々と言い放った。
「フ……そうは行かない。契約内容は、『帝国軍と共和国軍が戦闘を開始するまで』だった筈だ。もし膠着状態が続くようなら、もう一押ししてもらう必要がある。その辺りは君等とて弁えているはずだろう?」
「チッ……確かに契約はその通りだが、面倒だな。」
「だが、もう少し我慢すりゃ莫大なミラが手に入るんだ……」
どうやら、男らはその人物に雇われ、今回の騒ぎを引き起こした実行犯。そして、その雇い主でもある知的な人物は首謀とも言うべき立場の人間。ふと、男の一人は気になる疑問を口にした。
「しかし“G”と言ったか。どうしてアンタらはそんなに羽振りがいいんだ?」
「前金だけで500万ミラ……どんな大金持ちのスポンサーを味方につけやがったんだ?」
「―――『我々の詮索をしないこと』も契約条件に入っていた筈だ。何だったらこの場で契約を打ち切っても構わないが……?」
「ちょ、ちょっと待てって!」
「ミラさえ出してくれりゃあ、こっちは大人しく働くっての!」
「それに、アンタらのアシ無しでどうやって帰りゃあいいんだよ!?」
余計な事を聞けば『契約破棄』……男の返事を聞いた男達は慌て出した。
「フフ、わかったのなら大人しく待機しておきたまえ。なに……じきに戦端は開かれ、この地の平穏も破られるだろう。そこまで行けば―――」
「―――させるかっ!」
その男の台詞の続きを言わせないかのようにガイウスの叫びが彼等に聞こえ、彼等が振り向くとリィン達が得物を構えていた。その光景には男たちも驚愕の表情を隠せない様子であった。
「な……!?」
「なんだ、このガキどもは!?」
このような場所に少年少女が姿を見せること自体『ありえない』ことなのに、それが起きてしまったことに対する驚愕の声。だが、この世界ではそれが『ありえてしまう』のが怖いところである。その最たる人物の一人に自分も入っていることには目をつぶりたいが……
「トールズ士官学院<Z組>の者だ!監視塔、共和国軍基地攻撃の疑いでアンタたちを拘束する!」
「ゼクス・ヴァンダール中将の依頼でな。大人しくしてもらおうか。」
「どうやら、下郎どもを使って大それた事を狙っているらしいが……その薄汚い思惑、叩き潰してやろう。」
「な、なんだと!?」
「下郎って……ブッ殺すぞ、ガキどもが!」
「お前達は……フン、そうか。ケルディックでの仕込みを邪魔してくれた学生どもだな?それに……貴様は、“紫炎の剣聖”……!!」
リィンとアスベルの宣言、そしてユーシスの挑発に男たちが怒っている中、リィン達を見回した眼鏡の男は鼻を鳴らした後に睨み、その中に居るアスベルに対して憎悪とでも言わんばかりの感情をぶつけるように強く睨んでいた。
「……まさか…………」
「あ、あの野盗たちを影で雇っていたのは……!?」
「貴方、ということですか。」
男が呟いた言葉を聞いたリィンとアリサ、ステラは驚いていた。あの事件を表面上から見れば、確かに領邦軍―――アルバレア公爵がやったように見える。その男の言う通りならば、直接的ではないにしろ、間接的な協力関係はあったとみるべきだ。とはいえ、皇族に連なる人間を拘束しようとした罪がある以上、完全に白になったとは言えないが。
「フフ、領邦軍ではなくこの私だったというわけさ。まさかあそこで遊撃士が介入した挙句領邦軍を捕えた上、ケルディックが領地替えになるとは完全に計算外だったがな。ユーゲント皇帝も“紫炎の剣聖”に余計な権限を与えてくれたものだ。」
「………………」
その言葉にユーシスは眼鏡の人物を睨んだ。ある意味嵌められたと思っても仕方のないことだ。そして、その容姿が記憶の片隅に残っていたアスベルはその眼鏡の人物の名を言いつつ、呟いた。
「ミヒャエル・ギデオン……まさか、こんな形で出くわすとはな。」
「フフ、流石に覚えていてくれたようだね。もっとも、同志たちからは“G”とだけ呼ばれているがね。」
「知り合い?」
「そんなもんじゃないよ。ま、俺のせいで仕事を辞める羽目になったのは事実。……どの道、かの人物に目を付けられて追放されそうになっていたところにダメ押ししたようなものだけれど。」
偶々公共の場での喧噪を止めるよう頼まれた緊急の依頼で、その当事者である眼鏡の人物―――ミヒャエル・ギデオンを公務執行妨害のような感じで拘束しただけだ。それがきっかけでギデオンは教授の職を辞することとなり、その後は行方知らずであったが……“原作”通りとはいえ、まさかこの場に姿を見せたのは驚きと言う他なかった。
「同志……?」
「フン、何がしかの組織に所属しているようだが……」
「―――問答は無用だ。この地に仇なすならば全力をもって阻止させてもらう。」
「イチモウダジンってやつだね♪」
確かに気になることではあるのだが、十字槍を構えるガイウスの怒りは並外れたものであった。それに続くようにミリアムも余裕と言わんばかりに笑みを零した。これには相対する男たちが生意気とでも言わんばかりにリィン達を睨んでいた。
「面白ぇ……」
「なんか変なガキや訳のわからない連中まで混じってるみてぇだが……」
「……オイ。やっちまってもいいんだな?」
「ああ、学生相手に可哀想だが仕方あるまい。―――知られた以上、生かして帰るわけにはいかん。遠き異郷の地で若き命を散らせてもらおうか。」
「こいつら……」
「……手加減は無用みたいですね。」
どうやら、話し合いで解決できる見込みはなし。こうなると、実力行使で相手をねじ伏せる他ない。ここでアスベルはリーゼロッテの方に視線を向け、小声で話す。
「………リーゼロッテ。」
「ええ……そちらの方は、準備しておきます。」
「ああ、頼む。」
「―――Z組A班、武力集団の制圧を開始する!!」
相手が何の準備もなしにこの場にいるとは思えない。聡明な頭脳を持つリーゼロッテもそれに同意し、その為の準備をはじめる。そして、ギデオンと猟兵崩れの男たちとの戦闘に突入したが、遠距離主体の相手に対してステラとエマ、アリサが敵の足元を崩し、そこに前衛組が一気に畳みかけて簡単に制圧した。今回ばかりはサラ教官に感謝したいと思った。一方、制圧された側の猟兵崩れは信じられないような口調でリィン達の方を見ていた。
「ば、馬鹿な……」
「百戦錬磨の俺達がこんなガキ共に……」
「クソ……」
「傭兵部隊“バグベアー”……あちこちの猟兵団からのドロップアウト組だったっけ?今回の仕事で、晴れて猟兵団として名乗りを上げるつもりだったのかな?」
どうやら、傭兵の中でもかなり下のレベル。要するにいつでも切り捨てられる“駒”程度の存在。“G”―――ギデオンからすれば、その位の感覚で雇った可能性が高い。
「な、なんでそれを……!?」
「学生共はともかく何なんだ、このガキは!?」
「え、得体の知れない化物まで使いやがって……」
「む、化物なんてヒドいなぁ。ね、ガーちゃんにリーゼ?」
「―――――」
「そこで同意を求められても困るんだけれどなぁ。」
猟兵崩れ達の言葉に頬を膨らませたミリアムはアガートラムとリーゼロッテに微笑み、リーゼロッテの方は苦笑を浮かべてその問いをはぐらかした。
「クク―――なるほどな。どうやら“子供たち”の人間だったというわけか。銀色の傀儡使い……通称“白兎(ホワイトラビット)”、そして“漆黒の輝星(ダークネス・スター)”だな?」
ギデオンは不敵な笑みを浮かべてミリアムとリーゼロッテを見つめた。
「へー。ボクのこと知ってるんだ?」
「元とはいえ、私の事も知っていたのですか……」
「ああ、貴様たちがここにいるのなら絶好の機会というものだ……―――この場にいる全員ごとあの世に行ってもらおうかッ!」
ミリアムとリーゼロッテの問いかけに憎々しげに答えたギデオンは懐から笛を取り出して吹き始めた。笛から感じる力―――そして、それによる大きな気配がこの場に近づいてくることにアスベルとガイウスが真っ先に察知した。
「―――上だ!」
「いったん下がれ!!」
「え……」
「っ……!」
「あ、あれはっ!?」
その警告にアリサは呆け、リィンは気を引き締め、ガイウス達と共に上を見つめて何かを見つけたステラは驚いた。すると巨大な穴がある天井から巨大な蜘蛛の魔獣が4体飛び降りてきたのだ。
「なあっ……!」
「なんだあッ……!?」
巨大魔獣の登場に猟兵崩れが驚いたその時、魔獣達は口から糸を吐いてそれぞれ一人ずつ猟兵崩れを糸で拘束して近づき、糸で拘束した猟兵崩れ達をいとも容易く喰い殺した。
「ひいっ!?」
「く、喰われた……!?」
「クッ、まさか言い伝えの“悪しき精霊(ジン)”……!?」
「この石切り場のヌシということか……!」
「クク、どうやら太古から生き残っていた魔獣らしいな。目覚めたばかりで空腹らしいから全員エサになってやりたまえ。それでは―――よき死出の旅を。」
そしてギデオンはリィン達に背を向けて穴へ飛び込んでワイヤーで降り始めた。だが、それを見逃すほど……甘くはなかった。
「―――落ちろ。」
「な…………うわあああああぁぁぁ………ぐぅっ!?」
そのワイヤーロープに対してアスベルが衝撃波を放って断ち、ギデオンは落下するのだがどうやら命はあるようなうめき声を上げた。そちらを追いかけたいのだが、今はここにいる四体の蜘蛛型魔獣をどうにかするのが先決だ。……アスベルは覚悟を決め、“本気の二十歩手前”の力を解放する。そして、それを見たリーゼロッテが手を掲げ、魔獣に対して
「―――いきます!!」
「炎の……剣……!?」
「この力……(どうして、リーゼロッテさんが“魔術”を……!?)」
炎の剣による檻で敵を釘付けにし、猟兵崩れたちに被害が行かないよう放たれたリーゼロッテの力。それを見たリィン達は驚き、とりわけエマがその力を知っているだけに驚きを隠せなかった。だが、今はそれを問答する暇などない。話の通じない相手に正々堂々とか言っている場合ではないのだから。それを察したのか、リィンとガイウスが先陣を切る。
「みんな、いくぞ!!」
「ああ!………はあっ!!」
リィンの激励で味方全体の闘志を高め、続けてガイウスのゲイルスティングで敵を削っていく。とはいえ、相手の特性からしてこちらの動きを止めたり、増援を呼ぶことは容易に想像がつく。ならば、増援を呼ばれて状況が混乱する前に、確実に数を減らすのがいいと判断したアスベルは一体の懐に飛び込み、
「その身に受けよ、灼熱の焔……一の型が極式、“素戔嗚(スサノオ)”」
超高速で振るわれる太刀。その切り口から炎が発生して瞬く間に一体の全てを包み込むように……そして、その敵が最後のあがきとでも言わんばかりに攻撃を繰り出そうとするが、その攻撃が届く前に敵は消滅した。―――残るは三体。続けて、
「秘技……『裏疾風』!!崩したぞ!!」
「まかせて!!」
「いいだろう、ふっ!!」
「援護します!!」
アスベルの『裏疾風』、アリサの『メルトレイン』、ユーシスの『クイックスラスト』、リーゼロッテの『フォールウィンド』が立て続けに放たれ、確実にダメージを削っていく。その機を逃すまいとリィン、ガイウス、ステラ、エマ、ミリアムがARCUSによる五人一組の連携技を放つ。
「聖なる炎よ、悪しき者を退けよ………アステルフレア!!」
エマが炎属性のクラフトを放つ。そこに三体を囲むように展開される数多の導力魔法陣。それに対して、ステラは両手に銃を構える。そして、ステラはその陣に間髪入れず導力弾を撃ち込んでいくと、その魔法陣を通して直線的な弾道ではなく、通常では不可能な曲線の弾道を画き始める。
「変幻自在の軌道、よけられませんよ―――ハウリングサークル!!!」
ステラ自身が編み出したクラフト―――『ハウリングサークル』による銃弾は的確に敵の関節を狙い撃ち、動きをより鈍らせていく。その攻撃の後に飛び込んでくるのはリィン。その太刀に纏った炎は、まるで龍の姿を形作っていた。
「はあぁぁぁ――――――斬っ!!」
何かが切っ掛けとなったかは解らないが、リィンの『焔の太刀』を更に昇華させたSクラフト『龍焔の太刀(りゅうえんのたち)』によって大幅に削られた敵の体力。そして、とどめとなったのは………
「風よ、俺に力を貸してくれ……!うおおおおおおっ!!」
「ガーちゃん、いっくよー!!」
飛び上がったガイウスが風の闘気を纏い、ミリアムはアガートラムをハンマー状に変形させて突貫する。最早立っているだけの敵に対して、余りにも無慈悲であろうが、情けは無用である。
「カラミティ………ホークッ!!」
「ギガント、ブレーーイク!!」
二人のSクラフトが同時に叩き付けられ、その相乗効果で蜘蛛は高く舞い上がり、そのまま地面に叩き付けられ……もはや戦闘を継続する力もなく、光となって消滅した。これ以上の増援はなく、逃げていった人物の気配も感じられない……どうやら、完全に逃がしたようであった。
「……ともかく、身柄を拘束させてもらう。」
「み、身の安全は保障してほしい。」
「厚かましいな……」
「そう言うな。」
猟兵崩れに関しては拘束し、ゼンダー門まで連行する運びとなった。リィンらがその場を後にしていく中でアスベルはギデオンが逃げた方角を見やる。
「………ま、今回に関しては“様子見”と言う感じか。」
その気になればここで拘束することも吝かではないが、今回は彼の繋がりを把握するためにあえて逃がした。そこまで欲張れば、元も子もないのは解り切った話だ。本題は翌月とその更に翌月……そのための準備を抜かりなくしてくることだろう。……それに、こちらの手の内全てを今の段階で晒すわけにもいかない。不幸中の幸いにも、“緋水”がこちらにまで出張ってこなかったのは有り難いことであるのだが……アスベルは息を整え、その場を後にした。
ボス戦はあっさり目になっちゃいました。まぁ、アスベルが主たるダメージリソースに加わればこんな感じでしょう。私は悪くない(コラ!!
ギデオンとアスベルの絡みは物理的に拘束しているので、彼の聡明さはある程度隠しています。士官学院の中間試験で誰かさんは何かしら目を付けていそうですが。
ここをあっさり目にしたのは、ちょっとネタとして思いついた「やりたいこと」ができたからです。
ヒント:“原作”と本作のここまでにかかった時間の差
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第61話 裏の黒幕 | ||
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コメント | ||
感想ありがとうございます。 サイバスター様 その辺は単純に人数の分担効率という奴です。8人+ミリアムもいれば自ずとそうなるかとw(kelvin) やっぱりあっさり終りましたね戦闘は・・・そしてクロスベル関連等が関わってるのかな?時間の違いは(サイバスター) |
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