「真・恋姫無双 君の隣に」 第38話 |
洛陽を占領して、早十日が過ぎた。
即座に復興へ取り掛かったのに、未だに遣る事が膨れ上がるばかりだ。
よくもこれ程までにやってくれたな、腐れ官僚共!
一朝一夕で立て直せるレベルじゃないぞ、一体どうしたら此処まで滅茶苦茶に出来るのか逆に聞きたいくらいだ。
唯一の救いは心ある旧朝臣達がきちんと保管してくれてた政の資料。
これが無かったら、本当にやばかった。
治安や炊き出しに様々な建物の修復と、随行の皆にはフル活動してもらってるし、持って来た物資も全然足りなくて寿春と長安に追加を頼んでる。
まだまだやる事は山積みだけど、民の表情も明るくなってきているし、とにかく頑張ろう。
「ちいずけいき、中々の物ね。一刀、作り方を教えなさい」
「北郷、華琳様のご希望だ。速やかに教えるがよい」
「そうよ、さっさと教えなさいよ。そ、それにちいずを使ってるなら・・も大きくなる効果があるんでしょっ!」
あ、なんかデジャブ、人が必死に働いてる横で暢気におやつを食べてて勝手な事を言ってる人達。
それと桂花、本当に胸の小さいの気にしてるんだなあ。
「見ての通りお仕事中です、手伝って頂いてもいいんですが」
「手伝える事と手伝えない事があるでしょう。今の貴方の仕事は貴方にしか出来ない事なんだから。私に付いてくる者達の準備に後五日、それまでは時間が余ってるのよ」
「全く、そんな簡単な事も分からないのか、やはり華琳様には及びもつかんな」
「比べるのも恐れ多いわ。それにアンタの護衛の呂布こそ、脇目も振らずに肉まんを食べてるじゃない」
恋はいいの、いざという時はちゃんと護ってくれるし、食べてる姿は俺の心を癒してくれるから。
「今、食べてるの、ちいずまん。これも好き」
うんうん、ピザまんやカレーまんもいつか食べさせてあげたい。
でも香辛料はともかくトマトはなあ、代用できるものってないかな?
「大体貴方は仕事が遅いのよ。もっと手早く済ませなさい」
華琳さん、貴女と一緒にしないでください。
「細かい事ばかり気にしているからだ、禿げるぞ」
「疲労で不能になってしまえばいいのよ、このケダモノ」
春蘭と桂花の発言は外交問題に出来ると思う。
合流した時は借りてきた猫みたいに大人しかったけど、日が進むにつれていつも通りになった。
まあいいけど、むしろその方が落ち着く俺がいるし。
「失礼しますぞ、主」
「星!?賊討伐はもう済んだのか?後二日はかかるだろうと報告を受けていたけど」
「フッ、この趙子龍にかかれば、と言いたい所ですが。思わぬ助っ人達が現れましてな、助力を貸していただき速やかに任務終了となりました」
「へえ、星の助っ人が出来るなんて、かなりの人達だな。お礼もしたいし会わせてくれるかい?」
「そう言われるでしょうと室外で控えております。入られよ」
「お久しぶりです、御遣い様♪」
劉備!!
それに、関羽達も?
「一体どうして?」
突然の来訪に驚きを隠せない俺に、更なる衝撃が襲う。
「はい、降伏の使者として参りました」
「真・恋姫無双 君の隣に」 第38話
寒い、寒い、寒い、雪が降ってんだぞ、積もってんだぞ、何でこんな状況で鍛練しなきゃなんないんだよ。
「何を縮こまっていやがる!剣を振るうしか取り得のない奴は死ぬほど剣を振れ!」
やる事がなくて退屈だったから政務をしていた斗詩と白蓮に話しかけてたのに、左慈にいきなり首根っこを掴まれて室外に放り出された。
「そりゃアタイは剣を振るうしか出来ないけど、こんなの寒くて死んじまうって」
「ならば死ね!頭を頭突きにしか使えない奴は犬死するだけだ。せめて多くを道連れにしろ、嫌なら全てを殺せる力をつけろ!」
無茶苦茶だ、そんなの化け物のお前にしか出来ねえよ。
とはいえ逃げられそうにないし、身体を動かした方がましだと思ってヤケクソで剣を振る。
「ふざけるな、一回一回斬り伏せるつもりでやれ!」
うう、斗詩〜、助けてくれよお。
室内の斗詩に目を向けたら、笑顔で多分「頑張って」と言ってる。
話しかけてた時は笑顔じゃなかったのに。
泣きたいのをこらえて剣を振ってたら、少し身体が温まってきた。
その所為で今まで気付かなかったけど、新入りの焔耶が隣で鍛練してた。
左慈の強さに弟子入りを希望して、左慈は認めてないけど直属部隊の副官にはなってんだよな。
「焔耶、お前も引っ張り出されたのか?」
「違う!私は強くなりたいんだ。その為には少しの時間でも惜しいんだ」
身体から湯気が出てるぜ、どんだけ鍛練してたんだ?
・・ちぇっ、アタイだって将軍だ、やってやるよ。
「貴様等は馬鹿だ。余計な事を考えず指示通りに動き従え!目の前の敵を滅する事だけに集中しろっ!」
フフ、楽しそうですね、左慈。
鍛練に励む三人を他所に室内に入って報告をします。
「顔良殿、公孫賛殿、商人との交渉が済みました。并州への侵攻に必要な物資はこれで揃います」
「ありがとうございます、于吉さん。あっ、白蓮さん、その」
「気にしなくていいよ。こんな時世だ、昨日の友は明日の敵さ。只さ、降伏勧告の使者は私が行ってもいいかな?」
人の善い方ですね、それ位は一向に構いませんが。
ですが降伏はしないでしょう、あの陣営は。
おそらくは北郷一刀に甘えて益州に逃げこみ、蜀の建国でしょうね。
魏延が此処に来たのは予想外でしたが、手駒が多いに越した事はありません。
「分かりました。姫様には私からもお願いします」
「私からも進言しましょう。ところで先程、并州方面の細作から奇妙な情報が入ってきました。関羽や劉備といった首脳陣の姿が見えないと」
春蘭と桂花が、突然の来訪者達に各々疑問を持って私に問いかける。
「華琳様、何故に関羽が後ろで控えているのでしょうか?あの者が平原の相ではありませんでしたか?」
「そうね。でも私には今の姿の方が自然に見えるわ。あの姿が本来の主従関係なのかもしれないわね」
「しかも劉備といえば、確か平原で袁紹相手に詐術を用いて袁紹軍の追撃を回避させた者です」
「ええ、細作からの報告に上がってたわね。それまでは全く聞いた事もなかったけど」
どうやら一刀とは見知った仲のようね。
それにしても兵を連れずに僅か五人で敵地に来るなんて、良い度胸をしてる。
私とも話がしたいから同席して欲しいなんて、劉備、面白そうな子ね。
一体何を囀るのか、楽しみだわ。
一刀の臣である董卓、凪、陳宮に加え、風と流琉も揃ったところで、劉備が話し始める。
「御遣い様、曹操さん。話の場を設けていただけた事、先ずはお礼を申し上げます」
「此方こそ星の賊討伐で力を貸してくれた事に礼を言うよ。ありがとう」
「私が此処にいる事を狙って会談の場を設けた機転、その事を評価しての事よ、礼はいらないわ」
「あはは」
困った顔をしているけど図星でしょう、後ろの関羽の顔が物語ってるわよ。
「それでは御遣い様。愛紗ちゃん、じゃなくて関羽さんは頭首の座を私に移譲しました。今は私が頭首です。そして私は、関羽さんの先の漢帝国への援軍として御遣い様に敵対した事に対して、謝罪と責任をとるために参りました」
「その証として降伏する、という事ですか?」
一刀の筆頭文官、董卓が訊ねる。
「はい。ですが今直ぐにという訳ではありません」
ん、どういう事?
「理由を聞かせてもらえるかな」
ここからは諸葛亮が説明するようね、確か伏龍の異名を持つ者。
「劉備に代わり御説明します。劉備軍が華国に降伏する事は間違いありません。ですが今の時期に降伏しますのは、御遣い様にとって不利益な面が大きいのです」
説明が続く。
一刀の領土は大きいけど、大陸の中央に位置する為、四方に目を配らなければいけない。
并州は洛陽からだと黄河を挟んでいて素早い移動が出来ず、何より麗羽の仲国と国境が接してしまう。
私、一刀、麗羽で三つ巴の戦いとなれば長期化は必至、大陸はそれこそ大きな傷を負ってしまうと。
その通りね、私と麗羽が組むことはないし、一刀も全ての勢力を敵としている。
私としても麗羽を倒さなければ一刀と戦うのは厳しい。
一刀にとっても現状で私と戦うのは得策じゃない、麗羽に漁夫の利を与えてしまう。
「成程、確かにその通りだ。だがそれなら俺が君達を攻める事が無いのは分かっていただろう?降伏ではなくて同盟でも俺は断れなかった、君達は優位に交渉出来た筈だ」
「御遣い様。私は王になりたいんじゃありません。皆が笑っていられる世が来るのなら、どんな立場でもいいんです。御遣い様の夢がどんなものなのかは分かりませんけど、御遣い様の政や戦を見て感じた事は、私の夢はその中の一部分だと思いました」
劉備の言葉に一刀が照れくさそうに応える。
「俺は好きにやってるだけだよ。そんな自分勝手な俺を手伝ってくれる皆がいるから、少しでも御礼がしたいだけなんだ」
「はい、だから私も勝手に御遣い様のお手伝いがしたいんです。まだ先の事ですが、降伏を受諾して下さい」
一刀達と劉備達の話し合いが進む。
国境は互いに兵を置かず、人の越境が自由に出来る事。
対麗羽に関しては一刀は不干渉、劉備軍のみで対応。
正式な降伏は一刀が并州を護る事を無理なく出来るようになった時。
そして劉備から、私との不可侵協定の申し出。
私も聞かせてもらおうかしら。
「劉備、袁紹に降らないのはどんな理由なの。一番楽な選択じゃないかしら」
「袁紹さんの統治は一見平和ですが、民の暮らしに貧富の差がとても大きいんです。私は認められません」
「では、私は?」
「曹操さんの政は法が徹底してて、よく統治されています。見習う所は沢山ありますけど、私には違和感がありました」
春蘭と桂花が声を挙げようとするのを制して、
「続けなさい」
「人の為に法がある筈なのに、法の為に人がいる印象を受けたんです。難しい事は私には分からないけど、私の夢とは違うと思いました」
「一刀に降るまで貴女のする事は何?」
「その時まで私は必ず并州を守ります。そして御遣い様の政を真似るだけじゃなくて、少しでも民の暮らしが良くなる方法を考えて行います」
・・面白いわ、この娘。
主としての視点が私や麗羽とは違う、一刀と似てるかもしれない。
一刀よりも甘いけど、早く世に出ていれば私の好敵手となっていたかも。
「不可侵協定、袁紹を倒すまでよ」
「はい、ありがとうございます」
厨房は大混雑で嵐のようです。
会談が終わって兄様がちいずけいきやくっきいを皆で作ろうって提案したら、皆さん一斉に賛成されたんです。
しかも華琳様たちだけじゃなくて、劉備軍という他国の人達まで。
兄様といると、本当に驚く事の連続です。
皆さん可愛い衣装に着替えられて、私もお気に入りの服です。
兄様が意匠された服でめいど服といいます。
初めて着た時だけじゃなくて、今でも兄様がよく似合ってると見る度に褒めてくれます。
照れるから止めて下さいと言っても聞いてくれません、困った兄様です、嬉しいけど。
さあ、頑張って作りましょう。
「春蘭様、これを掻き混ぜてて下さい」
「よし、任せるがよい」
「はわわ、こんなお菓子があるなんて。是非とも并州で広めましょう」
「あわわ、山羊や牛を増やすとするなら、あの辺りの土地を活用すればいいかな」
「華琳様の為に分量と焼き時間を完璧に記さないと、一時たりとも気が抜けないわ」
「長安で私も暇をみては特訓してたんです。頑張ります」
「この衣装、かわいいなあ。帰ったら私も作ろ〜っと♪」
「一刀、これって給仕用の服なんじゃないかしら。私に着せるなんていい度胸ね」
「いやいや、これは天の国の正式な衣装ですよ。多少個人的な趣味は入ってますが」
「わ、私まで着る事になるなんて。皆さんのように似合わないのに」
「いえいえ、かわいいですよ、凪ちゃん。お兄さんの目が獣になってますよー」
「早く食べたいのだー」
「楽しみ」
「うむ。二人も着替えてはいるが食べる専門な訳だ。清々しい態度だな」
「恋殿。ねねにお任せくだされ」
騒がしくて、とても楽しくて、この風景こそ私が兄様のところに残った理由です。
覇を競う相手であっても、兄様なら仲良く出来る未来を作ってくれる、そう思い風様と相談して、華琳様との橋渡しの役目になろうと決めました。
簡単な事ではないと思います。
お二人の考え方は違いますから、戦うのを避けるのは難しいかもしれません。
それでも何時か、一緒に居られる日を迎える為に。
頑張るからね、季衣。
并州でお聞きした桃香様の決意は固かった。
鈴々と朱里は既に同意していて、雛里も賛同した。
私に口出す資格は無い。
私の思慮の浅はかさが全てを引き起してしまったのだから。
桃香様の王への道は断たれ、夢は御遣いに託される。
だが桃香様の笑顔はいつもよりも輝いていて、私の初めて見る笑顔だ。
御遣いは自治領を認めない、并州を袁紹から守っても我等の国ではないのだ。
・・私は武を、何の為に揮うのだろう。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
あとがき
小次郎です、本年はお世話になりました。
まだ一週間ほど残ってますが、もう今年中に次話は無理だと断言できるのでご挨拶させていただきます。
あっという間の一年でした、書き始めて一年経ったんだなと自分でも驚いてます。
皆さんが読んで頂き、また感想や応援を頂けた事が書き続けられた原動力でした。
本当にありがとうございました。
来年もよろしくお願いします。
では皆さん、良いお年を。
説明 | ||
洛陽の復興に懸命な一刀に予期せぬ者が訪れる。 その者の来訪は何をもたらすのか。 |
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コメント | ||
此処に華雄登場→一刀・月に謝罪→心ブレ捲りな関羽発見→華・関バトル!→関羽敗北→華雄に諭され→一刀に諭され(誑し発動)→華・関が一刀にペロりんちょ・・・(howaito) 愛紗、シリアスな考え事してても姿がメイド服だったらプークス( ̄▽ ̄)=3(kazo) うへあ、愛紗ブレブレ。桃香は目覚ましい成長を見せていますが、その傍らの愛紗は……桃香って一刀と気質が似てるから大抵のことは譲歩出来る人間なんだが、愛紗は生真面目で融通が利かないが故の不穏な気配か。何のために武を振るうか?民のためにじゃないのか?桃香の理想はそのための手段だった筈。手段と目的が逆転した結果、見失ってるんだろうな。(Jack Tlam) 元々その気はありましたが、どうやら愛紗は姜伯約の役を務める事になりそうです。……全てが終わった後に浴びせかけられる最初の言葉は、やはり某親子のあのセリフでしょうか?(h995) 愛紗の目的がブレブレやね…なんかやらかさなきゃいいけど(牛乳魔人) 不穏な空気な方が約1名、、、w(noel) 桃香が降ったか〜愛紗がおかしな行動をとらねばいいが^^;(nao) |
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