呉改変シナリオ 蓮華外伝 『〜それでも私はあなたを想う〜』 前篇
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 呉改変シナリオ 蓮華外伝 『〜それでも私はあなたを想う〜』

 

 

 

 

 

 

 私はずっとあの人の背中をみて生きてきた。

 

 

 憧れて、目標で…自分では絶対に敵わない高みにいる人だった。

 

 

 私なんかとは器が違う。

 

 

 あの人みたいになりたくて、ならなくちゃいけなくて必死に追いかけてきた。

 

 

 だけど、ある日から姉様、呉王・孫策は変わってしまった。

 

 

 そう、天の御遣い・北郷一刀が私たちの元に降り立ったあの日から。

 

 

 

 

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 初めてあった時の印象は決して良くなかった。むしろ嫌悪感を覚えたほどだった。

 

 ふふっ、今ではそんなこと考えてた自分が恥ずかしくなるけれど。

 

 あぁ、話を戻しましょう。

 

 出会っていきなり見ず知らずの男を夫にするなんていわれたのよ。びっくりしない方がおかしいと思わない?

 

 しかもそれだけじゃないの…呉の主だった将全員の夫になる予定なんて信じられなかったわ。

 

 そもそも私は孫呉の次期王だったから立場上の問題で結婚相手は最初から選べなかったけど、多少の選択肢があると思ってたのにいきなりこれよ。

 

 これって言いかたは一刀に失礼だったわね。

 

 そして王城内で一緒に仕事をするようになったのだけれど、一刀ってば文字の読み書きもできないの。

 

 信じられなかったわ。

 

 それでも穏から勉強を教えてもらってなんとか簡単にだけれどできるようになっていった。

 

 この頃だったかしら、私が初陣を迎えたの?

 

 私はすごく緊張していたわ。私がもし誤った指揮をすればたくさんの兵士が死ぬ。そのことを考えると手が震えて、周りの景色もよく見えなくなってた。

 

 そんな時に一刀は話したけかけてきたの。緊張で何を話してくれたのかはよく覚えていないわ。

 

 でもどうにか私の緊張を解してくれようとしてくれているのがわかって少し嬉しかった。一刀自身も戦には慣れていないというか、そもそも一刀のいたところでは戦争がなかったらしいから人が死ぬのは相当辛かったみたい。

 

 そんな一刀に少しだけ親近感を感じたわ。もしかしたらもうこの時には一刀に惹かれていたのかも…。

 

 それで私の真名を呼ぶこと許したの。

 

 それからというもの城内で会った時に仕事の話や何気ない雑談をするようになっていったわ。

 

 少しずつだけど仲良なっていった。そして天の御遣いじゃない一人の人間『北郷一刀』を理解していった。一刀はただの馬の骨なんかじゃなくて、まぁ気が多いって言うのはあるけど…。それ以上に優しくてふとした時に垣間見せる責任感の強さが、とてもかっこよく思えた。

 

 たぶんそれは呉のみんなも同じだと思う。

 

 そう、雪蓮姉様も。

 

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 揚州を取り戻して平和な時間を過ごしていたある日、事件は起こった。

 

 その日、突然私の元に報告が入った。ひとつは姉様が一刀と一緒にどこかへ出かけたこと。なぜだかわからないけど胸がもやもやするような不快な感じがあったけどそれ以上に重要なものがあった。

 

 曹魏軍が大軍を率いて呉の領内に迫りつつあるという報告だった。

 

 それを聞いた時、私は頭の中が真っ白になる錯覚を起こした。やっとのことで袁術から取り戻した故郷がまた脅威に晒されようとしている。

 

 城内はすでに慌ただしく動き始めている。こんな時に姉様ときたら…。

 

 そして迎撃の準備を進めるよう指示している冥琳の所に行き、姉様を探す旨を伝えて城を飛び出した。

 

 なんとなく姉様の行きそうな所は見当がついている。私たちの母・孫堅の墓。その武を以って江東の虎と民衆の畏敬を集めた偉大なる呉の王。

 

 それが意味することは姉様が一刀にそこまで心を許しているということ。あそこは…あの場所は孫呉の系譜のものならば無条件に気を緩めてしまうところ。王族としてではなく   そこではただの肉親、親子になれる。

 

 そんな場所なのだ。

 

 馬を駆り、墓に向かう道を進んで行く。王族の墓としてはあるまじき簡素なそれ。一般民衆と…いや、それ以下かもしれない見てくれのそれはひっそりと小さな川のほとりに佇んでいる。

 

 そんなことを考えているうちに墓の近くまでやってきた。ここからは道幅が狭いため徒歩になる。

 

 馬を近くの木に止めようとした時、姉様と一刀が乗ってきたと思われる馬が二頭並んで綱で木に結び付けられていた。

 

 やっぱりここにいる。私は再び駆けだす、この緊急事態を早く姉様に伝えるために。

 

 

 

 

 なんとなく並んだ二頭の馬とそこから少し離れた所に止めた自身の馬が今の私と姉様、一刀の関係を表しているようで。

 粘つく感情は胸の奥ではっきりとした形を持っているようで、掴みどころがない。これが嫉妬というものなのだろうか。

 「……」

 それを紛らわすように駆ける速度を上げた。

 

 

 

 

 

 間もなく母様の墓のある場所にやってきた。次の瞬間、目に飛び込んできた光景は信じられない、いや信じたくない光景だった。

 

 姉様と一刀が抱き合っている。この緊急事態にも関わらず。頭の中が怒りで沸騰した。

 

 このとき私はこの怒りの矛先がどちらに向いているのかわからなかった。

 

「この緊急事態に姉様は何をしておられるのですか!!」

 

 そう声が出かかった。

 

 でも、そうは続かなかった。見えてしまったのだ姉様と一刀に付着している赤い液体が。その正体はわかっている。自分にも、誰にでも流れている生命の証、血液が。

 

 紅潮した顔からすぐに血の気が引き、真っ青に変わった。それが自分でもわかった。

 

「姉様!!」

 

 咄嗟に声がでた。それに気づいた姉様の顔がこちらを向く、姉様の美しい顔は血で真っ赤に汚れていた。

 

「いいところに来てくれたわね。蓮華すぐに医者を呼んできなさい!」

 

 姉様の顔には明らかな狼狽の表情が見て取れた。こんな状態の姉を見たのは母様が亡くなったあの日以来だった。その眼尻には血ではない透明な液体がうっすらと溜まっていた。

 

 私はすぐに反応できなかった。私はこの異常な事態に明らかに混乱していた。医者が必要なのは姉様じゃなくて一刀の方。その事実がさらに混乱を増長させた。

 

「そ、それが…」

 

 普通に考えればおかしな話だ。王である姉より、ひとりの男を心配している。

 

「いいから早く!」

 

その声でなんとか平静を取り戻す。

 

「曹操軍が我らが呉領に攻め込んで」

 

 それを聞いた姉様の顔つきがわずかに歪み、全身が総毛立つような怒気と殺気を周囲に振りまきだした。

 

 妹である私でさえも見たことがないほどの姉の怒りに金縛りにあったように体が動かなくなった。

 

「曹操が…舐めたまねを。わかったわ、私は一度城に戻って医者をこちらに向かわせて出陣の準備をする。それまで一刀をよろしく頼むわ。一刀を絶対に死んだりなんてさせない!」

 

 姉様は叫び、城の方向へ疾駆していった。その後ろ姿はすぐに見えなくなってしまった。

 

 それと同じに私の体を縛っていたなにかが解けた。そのまま私は一刀の方に駆けだした。城のある方向とは逆のそこに。

 

 一刀はすでに意識がなくただ荒い息をはいて地面に寝かされていた。傷口はすぐに確認できた。

 

 一刀の左腕は血を流しながら、赤黒く腫れ上がっていた。それで姉様が何をしていたか気づいた。

 

 毒を吸い出していたのだ。それならば私も早くしなければ。

 

 地面に這いつくばる様な姿勢になり、一刀の傷口に口をつけ毒を吸い出し始めた。無意識下どうかはわからないが、姉と同じような体勢で、同じような角度で、同じ個所を。

 

その姿は何かに縋るようで、なにかに祈っているようだった。

 

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 城に戻り、出陣の準備を終えて軍議に臨んだ。姉様が城に戻って少ししてから医者が駆けつけて来たので一刀を医者に任せて私は城に戻った。

 

 不安は確かにあったが私には立場というものがある。呉王・孫策の妹にして次期王位継承者・孫権、それが私だ。許されるものならばずっと一刀のそばについていたかったがそれはできなかった。

 

 軍議は滞りなく進められた。全軍を中央、右翼、左翼、本陣の四軍にわけ、先陣には姉様が立つことになった。これに対しては反論がでなかった。ここにいる全員がわかっているのだ、事態の深刻さを。

 

 大軍と寡兵、数的不利は明確だ。ここで総大将が先陣に立つことは士気高揚に大変有効だ。

 

 そして配置が決められる。諸将は適任と思われる場所に振り分けられていく。私は本陣を任せられた。本陣では冥琳が共に全体の指揮を取る。

 

 そして配置の確認が終わった。そこに一刀の名前はなかった。それに気づいた祭が姉様に尋ねた。

 

「して策どの。先ほどから一刀の姿が見えぬのですがよろしいのですか?」

 

 サッと血の気が引く気がした。姉様は冥琳と小さく声を交わした。

 

 そして姉様は話し始めた。一刀と自分に起こったことの経緯と現在の一刀の容態を。私はそのことを知っていたが再び姉様の口から聞かされたことでこれが真実であると確認させられた。

 

「蓮華様」

 

 思春が耳元で囁いた。いま聞かされたことが真実であるか信じられないのだろう。それに対し私はただ頸を縦に振った。

 

姉様の話は続く。

 

「ちゃんと私が始末したわ。今私は自分が情けなくてしかたない。それ以上に曹操が憎くて憎くてしょうがない。私は惚れた男が傷つけられて平気でいるような女じゃないわ」

 

 誰もがそれを黙って聞いていた。『愛する男』普段ならば姉様が決して口にするはずがないその言葉がなぜか自然なものであるような錯覚を起こした。

 

 それほど姉様の表情真剣だった。

 

「私の一刀を傷つけた罪、曹操にはその死を以って償ってもらう。戦いに私情を挟むことは良いことだとは思わない。でも一刀はすでに呉の一員、仲間が敵に傷つけられたのならそれは呉を傷つけたと同義!敵は曹操、その全てを虎の牙をもって全てを蹂躙し尽くす!これにて軍議は終わりとする。全員持ち場に戻り戦の準備をせよ!!」

 

 『私の一刀』その言葉は私の胸を深く深く突き刺した。

 

 

 

 “我が下す命はただ一つのみ!!曹魏の血でこの江東の地を血で真っ赤に染め上げろ!!!!これより江東の虎の狩りの始める!全軍、突撃でなく殺戮だ!!一方的に狩り尽くせ!!!攻撃を開始せよっ!!!!”

 

 戦場に姉様の大音声が響き渡る。次の瞬間、紅き奔流は一気に溢れ出し前方にある全てを巻き込んだ。

 

 それが通り過ぎた後に残ったのは赤いシミ。紅き暴力の跡はただ赤いそれを撒き散らした。

 

 先陣を駆ける姉様が南海覇王をひと振りするたびに数個の頸が飛び、血柱が上がっては崩れ落ちてゆく。

 

 敵の陣形はすでになく、敗走を始めていた。

 

「蓮華様、そろそろ我々も前進いたしましょう。いちおう城門の警護には1000人の兵を残しておきます」

 

「前進は許可しましょう。でも、城門の警護には1000人もいらないわ。100人で十分よ」

 

「ですがそれでは」

 

「私が一兵でも後ろに通すとでも思うの?」

 

 底冷えするような声が出た。

 

「わかりました。蓮華様のご指示どおりにいたしましょう。私としましても本当は城門の警護には一人もいらないとは思うのですよ」

 

 冥琳は冗談めかすように言った。彼女の顔は決して冗談を言っているようには見えなかった。

 

 冷静でいるように見えて冥琳も怒っているのだ。

 

「そうね。建前は必要だものね」

 

 私の言葉に冥琳は少し笑みを浮かべた。それを見てから私は兵の方に向き直った。

 

「聞け、孫呉の勇敢なる戦士たちよ!!これより本陣は哀れな獲物にとどめを刺すために進軍を開始する!城の守りには100の兵しか残していない、よって一兵たりとも討ち洩らすことは許されない!我らの背後には愛する者たちが恐怖に震えているのだ!!大事なものを守りたいならばやるべきことは一つ!全員、抜刀っ!!突撃を開始せよ!!!!!」

 

 抜いた剣を敵陣に向ける。同時に大地を揺るがす咆哮が木霊した。

 

「お見事です蓮華様」

 

「それはこの戦に勝ってから言ってちょうだい。私たちもいくわよ」

 

「はっ」

 

 馬の腹を蹴り駆けだす。冥琳も私に続いた。

 

 

 此度の戦は曹操は討ち取れなかったものの大勝利の終わった。

 

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 戦が終わってすぐに私は一刀が治療を受けている医務室に向かった。私が到着た時はまだ誰も来ていなかった。不安で胸が押しつぶされそうだった。

 

 続々と皆が集まってきた。その顔には戦勝の喜びはない。一様に不安そうな表情を浮かべていた。最期に姉様が到着した。

 

 姉様は必死で平静を保とうとしているようだった。肉親だからこそわかる。一番不安なのは他でもない姉様なのだ。

 

 まだ幼い小蓮が姉様の服の裾を引き何かを尋ねた。瞬間、姉様の顔が泣きそうに歪んだ。本人は隠したようだったが、誰もがその様子に気づいたようだった。

 

 誰もが黙り込むなか突然医務室の扉が開いた。すぐに私は一刀の容態を聞こうと一歩を踏み出す。

 

 しかし、それよりも早く姉様が医者の胸倉を掴み上げて一刀のことを問いただしていた。医者は呼吸できずにもがいていたので冥琳が姉様を宥めた。

 

「とりあえず治療は成功しました」

 

 医者が咳き込みながら告げた。一気に緊張の糸が切れてしまったのか私の眼から幾筋の涙が伝った。止めどなく溢れるそれを拭うことも出来ずにただその場に立ち尽くした。

 

 やっとのことで我に帰ったのは姉様が失神してから少し経ってからだった。

 

 

 

 それから数日が経った。一刀も以前のように仕事もこなせるようになっていた。それでも全てが以前の通りというわけにはいかなかった。

 

 戦が終わった翌日、一刀と姉様が一緒の寝台で寝ていたところを冥琳が発見したのだった。私も子供ではない、二人の間に何があったのはわかる。男女の仲になったのだろう。

 

 そして決め手は本日の朝議のことだった。朝議も終盤に差し掛かり冥琳が解散の合図を出そうとした時、祭が口を挟んだ。その内容はこの場にいる殆どの者が気になっていることだった。

 

 一刀と姉様の関係。誰もが姉様の返答に耳を傾けた。

 

 姉様の顔が輝いた。良くない兆候だ、それ以外の言葉では言い表せないそんな笑顔だった。冥琳と祭はあきらめ顔、一刀は完全に狼狽している。

 

 そしてそれが私の方を向いた。明らかに私の身体は強張った。

 

「あの時、私が言ったことは真実よ。だから一刀は私のモノ。本当は蓮華の夫にでもしようと思ってたけど、気が変わっちゃった。ゴメンネ」

 

「ね、姉様!!」

 

 足もとから全てが崩れていくようだった。なにも考えられず、視線が中空を彷徨った。

 

 そのあとも冥琳と姉様がなにか話していたようだったが「繁栄」「種を蒔く」など断片的にしか聞き取れなかった。

 

 そして姉様はとどめを刺す言葉を満面の笑みで朗らかに宣った。

 

「ちゃんと一刀のことは皆にも“貸してあげる”。でも優先権は私にあるから私の邪魔にならない程度だったらの話よ。あ、これは王としての命令だからよろしく〜」

 

 この姉様の一刀の恋人宣言は私を含む全員に多大な衝撃を与えた。

 

 

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 本日の政務を終わらせ私は寝台に座って溜息を吐いていた。もちろん今日の朝議のことだ。一刀は姉様の恋人…。その現実をまざまざと思い知らされた。

 

(私は一刀が好きだったんだ)

 

 一刀のことを思うと胸が甘く、締め付けるように疼く。でも嫌じゃない。今頃なにをし

てるんだろうか?もしかしてまた姉様と…。

 

 苦しくって悔しくって胸をギュッと両手で押さえた。少しでも気を抜いたらすぐに涙が零れることは明白だった。

 

 事実、私の正面に映る天井は潤んだ瞳で霞んで見えた。

 

 どうしようもないくらい一刀の存在が大きくなって…ホントどうしようもない。

 

 でもこのままじゃ姉様に一刀を完全に取られてしまう。そんなのは嫌だ。私の女の部分が激しく反応する。

 

 涙を拭い、思索に耽った。少しでもいいから一刀に私のことを見て欲しい。女の子として見て欲しい。

 

 突然、部屋の扉が叩かれる音が聞こえた。こんな時間になにかしら?怪訝に思い扉の方に顔を向ける。

 

「思春なの?」

 

「いや俺だけど。いま大丈夫かな?」

 

「えっ!?一刀!!??ちょ、ちょっと待ってて」

 

「う、うん」

 

 思わず声が裏返ってしまった。恥ずかしくて顔が真っ赤になる。慌てて部屋に据え置かれている鏡に自分の姿を写す。

 

「あぁ、もう!」

 

 目が少し充血しているし、服も皺が寄ってしまっている。急いでそれを直しもう一度鏡で自分の姿を映し確認する。

 

「…うん、大丈夫。一刀もう入っていいわ」

 

 扉が開き、一刀が入ってきた。姿を見ただけで顔が赤くなってしまいそうになる。

 

「こんばんは蓮華」

 

「え、えぇ。それで一刀どうしたの突然?」

 

 上手く舌が回らない。こんな時間に男の人と会うなんて初めてだった。それも好きな男だったらなおさらだ。

 

「うん、本当はもっと早く来るつもりだったんだけど雪蓮に酒に付き合わされてさ」

 

「ふ、ふぅん。それで用はなんなの?」

 

 少し言い方がきつかったかも。自己嫌悪してももう遅い。一刀を直視できず机の上に置いてある書簡を見るふりをする。

 

「蓮華、もしかして機嫌悪いか?」

 

 一刀の方へ振りかえる。

 

「そんなことないわよ」

 

 全部一刀のせいなんだから!私と二人きりなのに姉様の話をするなんて。もう少し私の気持ちを…。そう、私は悪くないわ。あぁもう私は何をしているのかしら!

 

「「………」」

 

 気まずい沈黙が流れる。

 

「「あの」」

 

「「……」」

 

 二人の声が被った。最悪だ。不意に私の頬を涙が伝った。

 

「れ、蓮華!?」

 

 咄嗟に机に突っ伏して顔を隠した。もう遅いのはわかったいたが一刀の涙を見られたくなかった。

 

 一度溢れ出した涙はなかなか止まってくれなかった。背中に暖かい感触がした温かいそれは私を宥めるように上下に動いた。

 

「…ずるい」

 

 小さく呟いた。本当に一刀はずるい。こんな時にも一刀は優しい。それが一刀の所為だとしても、いつでも優しく接してくれる。

 

「蓮華、大丈夫」

 もう限界だった。振り向いて一刀の胸に顔を埋めて、服をギュッと握った。一刀が離れていってしまわないように。今は自分のことを感じて欲しくて強く強く。

 

 一刀は私の頭を撫でながらもう一方の手で背中をポンポンと叩いてくれた。

 

 しばらくそうして二人とも黙っていた。さっきの沈黙とは違い私はとても心地よかった。

 

「ねぇ一刀」

 

「ん?」

 

「私、あなたが好き。一刀と姉様がどういう関係なのかはわかってる。それでもあなたが好き。このままなにもしないで一刀を姉様に取られるのは嫌…」

 

 『好き』その言葉がするりと私の口から出た。

 

 埋めていた顔を上げて一刀の顔を見つめた。一刀の顔には明らかに困惑の表情が浮かんでいた。

 

「すごく嬉しいけど…俺は雪蓮が」

 

 その先が聞きたくなくて一刀に覆いかぶさるように寝台に押し倒した。

 

 私も姉様のことは嫌いじゃない。むしろ逆だ。でも、今はその名前を聞きたくなかった。

 

「ちょ、蓮華!?」

 

「一刀は呉に繁栄をもたらすために種を蒔いてくれるんでしょう?」

 

 意地悪な質問をした。途端に一刀は私の肩を押し戻した。

 

「俺はそんな理由で女の子を抱くつもりはない。閨を共にするってことはお互いが好きあって、その同意のもとで初めてすることで…」

 

「そんなことわかってる!でも建前がないと私は一刀に愛してもらえないじゃない!だって一刀の心の中にはいつでも姉様が…」

 

「……」

 

「それでも私は一刀が好き…。こうでもしないと姉様と同じ舞台に立てないから。今は姉様のことが好きでも構わない。でもきっと私は一刀、あなたを振り向かせてみせるわ」

 

「蓮華…本当にそれでいいのか?」

 

「えぇ、もちろん!本気になった孫呉の女はすごく強いんだから!」

 

 

 こうして私は紆余曲折ありながら記念すべき一刀と初めての夜を迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 当然、一刀は次の日雪蓮に怒られた。

 

 

 

 

説明
前回の投稿からずいぶんと間が空いてしまいました。申し訳ありません。

この蓮華外伝は呉改変シナリオを蓮華の視点で追っていく作品になっています。後篇では多少、一刀帰還後の話を書きたいと思っています。

ただ自分はアフターや外伝などを書くのが初めてのためおかしいと思われる点が多々あると思います。そこは暖かい目で見て下されば幸いです。

また誤字やキャラの口調でおかしいところがありましたらご報告ください。
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コメント
霊皇さん ご期待に答えられるように頑張りたいと思います。(IKEKOU)
いい!!こう・・・自分気持ちに素直な蓮華はやはり最高だ・・・・・・・このままどこまで出れるか・・・・・そして姉妹の一刀争奪戦はどんなふうに広がるか楽しみです(霊皇)
フィルさん 作者もヤンファは好きです。 でも自分が書くとなぜかシリアスな感じになってしまうんですよね(汗(IKEKOU)
Poussiereさん 早く続きを投稿できるよう頑張ります!(IKEKOU)
混沌さん 誤字報告ありがとうございます。 すぐに直しておきます。(IKEKOU)
ヤンファ以外を見るのは久し振(っと関係ないですねw 純情な蓮華が可愛いのカッコいいwww 後編も愉しみに待ってますw(フィル)
fmfm・・・蓮華sideか〜 後篇がどうなるか愉しみですね!(Poussiere)
呉改変シナリオの蓮華sideですかw後編も楽しみに待ってます!     誤字?4P下から4行目「それはこの戦に勝ってから“行って”ちょうだい。〜」→言って?(混沌)
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真・恋姫?無双  改変シナリオ 蓮華 

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