ログ・ホライズン コミュ障奮闘記
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二話

 

『おいおい、いきなり出てきてなんなんだよ、アイツは…』

 

仲間の一人を吹き飛ばされ、動揺が走る中で盗剣士の男、スマッシュは戦慄していた。

その卓越した戦闘力もそうだった。だが、そんなもの以上に……

 

「泣いて詫びても許さん。死んだほうがマシなくらいに苦しみながら…」

 

マジで怖いんだけど…

 

なに?確かに悪いことしたって自覚はあるよ?でもさ、これは酷くない?明らかに人の一線を越えたなんかだよね、コイツは!?俺達が悪者なはずなのに、アイツの方がよっぽどだろうが。見てみろ、助けられたはずの二人もビビって震えてるじゃねえか。

 

「なんか、勘違いしてないか?」

 

その時、まるで心を読んだかのように言われた言葉にビクリと身体を震わせる。全身から冷や汗が止まらない。コイツはヤバい、本当にヤバい。

 

「俺は、コイツらを助けに来たわけじゃない」

 

そう宣言した目の前の少年。だとしたらなぜ?コイツになんの利益があるんだ?

スマッシュの頭に、当然の疑問が浮かぶ。

 

だが、コーキの口から出た言葉はあまりにもあんまりなものだった。

 

「ただ、俺の近くに知らない奴がいるのが許せないんだよ!!」

 

 

 

……………………

 

 

えっ?

 

もしかして知らない奴がいる、それだけの理由で俺達はこんな目にあってんの?奴の後ろにいるチビ達も、口をポカンと開けて呆然としているしよぉ…

 

「分かったら、覚悟はいいか?」

 

いやいや、なんも分かんねえよ。理不尽だって、あんまりだって。

 

俺の足は、まるで木の根にでもなってしまったかのように動かない。隣にいるリコピンも同様だ。あまりの恐怖で、身体が硬直してしまっていた。いくら屈強な冒険者の身体とはいえ、怖いものは怖い。

 

って、おい!なんでもう目の前にいんだよ!?マジで怖ーーーー

 

「死ーーー」

 

能面のような無表情で断罪の一撃が放たれようとした瞬間。奴の身体を炎が包み込んだ。

 

「大丈夫か!?何もされてないか!?」

 

それは、味方の妖術師(ソーサラー)によるフレアアローだった。元々戦士職の中でもワーストの防御力しか持たない武闘家には耐え難い一撃だろう。

 

不意打ちというのは気持ちのいいものではないが、マジでグッショブだ。…悪党の俺が言えたことではないが。

 

徐々に口元が緩んでいく。こみ上げてくる笑みが抑えされない。

 

「は、はははは!案外あっけなかったじゃねえか!」

 

恐怖から解放された安心感で彼らは完全に舞い上がっていた。あとは、チビ共を始末すれば…そう思った時、それは起こった。絶望の時は、終わってはいなかった。

 

「ひぎゃぁぁぁぁ!」

 

妖術師の悲鳴が響き渡る。何事か、と目を向けてみればそこには。

 

 

 

「ったく、いきなりそれはないだろ」

 

炎をバックにして、僅かにHPを減少させた悪魔の姿があった。何をしたかは知らないが、妖術師の奴は気を失っている。そして、ボロ雑巾のようなソイツを片手で投げ捨て、腕を一振りした。

 

たったそれだけのことで、あれだけの炎が一瞬で掻き消えた。俺たちに灯った希望の光も掻き消された。なんで生きてる?なんで耐えてる?なんで、なんで?

 

「まぁ、当然だな。なんで俺が耐えられたのか、だろ?」

 

またもや人の心を呼んだかのような言葉。だけど、不思議と異常だとは考えなかった。もうコイツならなんでもありだ、そう思えてしまう。

 

「俺の装備は炎に対する耐性がついていてな…残念。他の属性ならもっと効いたんだが」

 

…どうする?はっきり言えば、こんな怪物(色んな意味で)とは戦いたくない。ならば、逃げられるか?

 

…断じて否。相手は十二職の中でもトップクラスの機動力を持つ武闘家。逃げられる道理はなかった。

 

『クソッ、本当についてない…って、なにしてんだ、アイツは?』

 

奴は両手を前に突き出していた。丁度手甲が組み合わさり、龍の顎を形作っている。

 

『なんだ?何をしようとしている!?』

 

そんな特技を俺は、俺達は知らない。ただ、なにかヤバいのが来る、それだけは分かった。

 

「ここまで俺の神経を逆なでしてくれたんだ…相応のお返しをしないと、な?」

 

いりません、断じて返品させてもらいます。

 

そんな必死の懇願も虚しく、だんだんと龍の口に収束されていく炎の塊。真っ赤に燃えるその炎は、俺達を焼き尽くすためのもの。

 

「安心しな、手加減はしとくよ。…死なない程度に」

 

次の瞬間、俺達の身体を真紅の炎が包んでいた。もはや熱いとかそんなレベルを超えている。クソ、今日はやっぱり…

 

『不幸だーーーー!!!』

 

彼らの魂の叫びが響き渡る。ただの八つ当たりでこんな目にあったのは御愁傷様としか言いようがない。

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

プスプスと煙を上げ地面に転がる冒険者達を、ミノリとトウヤは唖然とした表情で眺めていた。

 

「一応、助かったんだよね?」

 

ポツリともらされたミノリの言葉に、トウヤはどう答えたものかと頭を悩ませる。確かに窮地は脱したのだが、明らかにヤバそうな人だという先入観があった。

 

「おい、お前らもいつまでそこにいる?」

 

そんな折に、底冷えのするような声で話しかけられれば驚いてしまうのは無理はない。

 

やっぱりヤバい人に絡まれた、そんな後悔が募っていく。

 

「あ、あの…街の方向がどこか分からなくて……」

 

オドオドした感じで、ミノリは言う。その弱々しく、消え入りそうな声に少年の心は揺れていた。

 

『街の方向が分からない、か…』

 

それは、過去の自分を彷彿とさせた。右も左も分からず、途方にくれるしかなかった。愛想も悪く、可愛げのない俺を助けてくれる人なんていなかった。

 

あの人を除いてーーー

 

どう戦えばいいのか分からず、ただ闇雲に突っ込んで、打ち伏せられて。なんども逃げ出して訳が分からなくて、泣きたくなってーーー

 

「もしかして、困ってたりする?」

 

そんな時だ。あの人と出会ったのは。

 

白衣に身を包み、メガネをかけた線の細い男性。彼との出会いがなければ今の自分はなかっただろう。

 

「スキルはただ使えばいいわけじゃない」

 

「もっと周りをよく見て!」

 

「うん、よくできたね」

 

……………

 

基本的なことから、応用的なことまで、本当にたくさんのことを教わった。その一つ一つが今の自分を作り上げている。

 

そんなあの人の背中は、俺の目標でもあった。あの背中に追いつきたい、だけど…

 

『こんな俺が、追いつけるわけない、か……』

 

犯罪を犯したとはいえ、自分勝手な八つ当たりで相手を痛めつけ、自分勝手に暴れまわり。目の前の二人に心配される始末。

 

『本当、情けないな…』

 

この時ほどに、自分のことを嫌いになったことはない。今まで何度も嫌いになってきたけど、今日のは一段と堪える。

 

改めて自分は『クズ』なのだと思い知らされる。マトモに人と会話ができず、数えるほどしか友人のいない自分は、確実に社会不適合者だ。

 

だというのに、目の前の少女はーーー

 

 

 

 

 

 

突然黙り込んだ少年に、ミノリは怪訝な顔をする。先ほどまでのハイテンションは鳴りを潜め、いきなりのローテンションについていけなかった。

 

『だけど、なんだろう?あの人の顔、すっごく悲しそう……』

 

黙り込んでからというもの、彼の表情は明らかに曇っていた。どうしてなのかは分からない。分からないけど…

 

『そうだよ。私は、なにも知らない。この世界のことも、彼のことも』

 

私は目に見えている部分だけを見て物事を判断していた。この人のことだってそう。

 

ただ暴れまわった彼しか見ていないのに、全てを理解したと思うのは間違っている。それは、勝手な自分の空想でしかないのだ。

 

『もっと知りたい』

 

もっとよく見なければ、物事の本質は見えてこない。それはゲームも人も同じこと。

 

だから、彼の側にいたい。そうしたら彼の苦しみがなんなのか、見えてくるかもしれない。

 

余計なお節介かもしれないけど、助けられてばかりは嫌だったから…

 

「あの……よかったらですけど」

 

気づけば自然と言葉を発していた。自分でも驚くほど滑らかに、スラスラと。滑舌のいい方ではない私からすれば驚くべきことだ。

 

「いろいろ教えてくれませんか?」

 

そう、口に出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺に、教わりたい…

そんなこと今までに一度もなかったし、そもそも頼まれたこともなかった。

 

「…なんで俺なんだ?別に、他の冒険者でもいいだろ?」

 

いつものような小さい声で、小さな少女に問う。隣にいる少年が驚いていることから、今決めたのだろう。

 

「理由は…特にはありません」

 

だというのに、理由はないだと?

 

「それはふざけてると見ていいのか?だったら、誰でもいいだろうが」

 

僅かばかりの怒気を込め、射殺すような視線を送る。それでも、目の前の少女は少しも揺らぎはしなかった。

 

「確かに、誰でもいいと思います」

 

だったら!

 

そう声を荒げようとするのを、少女の声が遮った。

 

「だったら、あなたでもいいんじゃないですか?」

 

 

…………

 

その答えに、完全に言葉を失った。誰でもいいとは、つまりはそういうこと。

 

「…本気で言ってるのか?」

 

だからこそ本気なのかを、やる気なのかと問いただす。その答えは、少しの間も置かずに発せられた。

 

「当然じゃないですか!」

 

力強く、凛とした声が響き渡る。

 

現実での数少ない友人から言われた言葉を思い出す。

 

「女の子は、僕達が思っている以上に強いんですよ?」

 

その時は分からなかったけど、今なら分かる。

 

『確かに、強いな…』

 

目の前の少女は、確かに強い。こんな狂人である俺に、ここまでの啖呵を切ったのだ。それだけでも十分にすごいと言える。

 

「はぁ、最近の中学生は随分と積極的だな」

 

だから、これはせめてもの仕返し。ことごとくやり込められたのだ、これくらいは許されてもいいだろう。

 

「なっ!それはあんまりじゃないですか!」

 

案の定、声を荒げる少女の姿にとりあえず満足する。

 

『この世界に来て、こんなことするのは初めてだな…』

 

この世界に来て、というのは間違いである。現実世界でも、いじられるのは彼の担当だった。つまりは、生まれて初めて人をからかったのだ。コミュ障である、彼が。

 

『ちょっと、楽しいな…』

 

知らずのうちに、?が緩んでいた。自分では分からないが、目の前の少女達には一目瞭然だった。

 

「あ、やっと笑いましたね」

 

ニヤニヤという擬音がつきそうな、憎たらしい笑み。よほどさっきのからかいを根に持っているのだろうか?

 

「あぁ、そうだな」

 

気にした様子のないことが気にくわないのか、頬を膨らませるミノリ。それを無視するように、コーキは言った。

 

「……ほら、行くぞ」

 

恥ずかしいのを隠すように背を向けながら、確かに来いと言ったのだ。

 

「はい!」

 

その後を、ミノリが駆けていくのをトウヤは呆然と見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

「俺のこと、完全に忘れてるな…」

 

一人、取り残される形になったトウヤだったが、それでもその表情は満足げだった。

 

「ミノリが兄ちゃんに初めて笑ったって言ってたけどさ」

 

困ったような笑みを浮かべて、トウヤは言う。

 

「ミノリだって、初めて笑ったんだぜ?この世界に来てから…」

 

この異世界に来て、泣き暮れていたミノリが初めて笑ったのだ。あんなにも楽しげに。

 

「それだけあれば、ついていくには十分じゃん!」

 

トウヤもまた駆けていく。守るべき姉の元に、いろいろ教わる師匠の元へと。

 

「おーい!待ってくれよ!!」

 

少年特有の、元気な声が響いた。

 

 

 

 

こうして、異世界で起きた最初の悲劇は回避された。このことによって、この双子の運命は大きく変わった。

 

これから先、彼らにどんな未来が待っているのか?

 

それはもう、誰にも分からない。話の本筋からは、既に外れてしまったのだから……

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あとがき

 

突然なんですけど、これから登場するオリキャラの職業は何がいいでしょう?

一応暗殺者は決めてるんですけど、後の二人を決めかねてます。

この手のゲーム未経験なのでこうすればいい、などの意見があると助かります。

説明
第二話ですが、かなりぶっ飛んでます。
後に説明はしますのでそれまでお待ちください(汗)
それではどうぞ!
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