恋姫無双 〜決別と誓い〜 第30話
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曹操は自分の艦船が炎上し崩壊していく様が自分が築き上げてきた諸々が崩壊していくかのような錯覚に思わず目眩を催していた。

 

負けたのだ。

 

今回は油断も慢心もない、兵士を徹底的に教育させ鍛え上げた。

 

北方の異民族を屈服させ領土拡張、軍備を充実させた。

 

孫策とのあの一戦。彼女が初めて敗戦したあの戦いを何とか払拭させたいという一心で。

 

それが汚い仕打ちをし死なせた英傑孫策の死の弔いにも成りうると自分は考えていたからだ。だが負けたのだ。形はどうであれ呉に負けた、それは揺ぎのない事実であった。

 

『呉は決して諦めることはないでしょう。生きること、そして自由ある責任を雪蓮から受け継いだ我々は最後の一人が死ぬまで呉のため、法による自由のため剣を取り続けると思います』

 

北郷の台詞が頭によぎる。自由、法による支配のための聖戦だと彼は言っていたがその総決算がこの形だとは・・・・。

 

「華琳様!連合国軍は川岸を上陸。前線が突破されました!!ここは撤退を!!!!」

 

桂花が切羽詰った表情で退却を訴える。その顔は目に涙を溜めた顔はむしろ悔しさに溢れた表情と言っても良かった。

 

後悔、懺悔、悔しさ、そして羨望といった負の感情が綯い交ぜになった何時もは童顔な彼女の歪んだ顔を恐らく曹操は忘れることはないだろう。

 

「殿は私と秋蘭が務めます!急いで退却を・・・・・・!!!!」

 

と春蘭が天幕に険しい表情で近づいてくる。

 

こうして曹操は燃える艦船を背に全軍撤退の命令を出し撤退を開始したのであった。

 

「敵襲〜!!!!」

 

魁を勤めていた部隊から警告が聞こえる。

 

おそらく北郷たちの部隊だ。狙いは曹操たちの足止めによる本隊との挟撃。

 

親衛隊、そして魁に志願した張遼が迎撃に出るが不安が曹操の脳裏によぎる。

 

北郷の強い眼差しとそれを裏付ける強い『気』が彼を包んでいた。

 

実力は親衛隊たち遥かに凌ぐものだと推測ができる。彼らであの呉の精鋭を抑えられるのか・・・・・?

 

敗北により何時もは強気な彼女もネガティブな方へとどうしても考えてしまう。

 

「四方から攻撃されては不利よ!兵士を集結させ一点突破、人数で押し切るわ」

 

と曹操が指示を出すが混乱を極めるなか彼女の指示がどれほど届くか疑問だ。

 

さらに嫌な知らせが耳に届く。前線は壊滅、敵本隊は我々を目指し進軍を続けていると。

 

本隊の将軍周瑜が直々に出張っていることで士気も高く上陸に成功した連合国軍は兵士を集めたあと直ぐ様、追撃隊を組織して我々を叩く魂胆なのだろう。

 

こちらの戦闘行動での騒ぎは向こうも聞きつけているはず。

 

(北郷・・・・・、これが貴方の狙いなのね)

 

自分たちが戦闘をすることで自分たちの位置を特定しやすくすると同時に足止めとうまくいけば挟撃が行える。

 

合理的で無駄のない策だ。

 

秋蘭、春蘭たちの大隊でも全戦力を集結させた七十万もの連合国軍を相手では戦うのは不可能に近い。敵は逃さないよう左翼からの撤退をしている我々を包み込むように攻撃をするはず。それなら尚更、数が少ない前方の一点集中突破しかない。

 

曹操達は只々前へ前へと馬を走らせるしかなかった。それが彼女たち残された一番生存の確率が高い策であったからだ。

 

 

 

「敵を視認したら一斉に矢を発射。矢が尽きるまで斉射した後は格闘戦に移る。常に二人組を崩すなよ」

 

と指示をしたあと、暫く朱然の言ったとおり敵が来た。

 

「隊長、斉射の許可を!」

 

「まだだ・・・・・。まだ我慢しろ・・・・・・・・」

 

と部下たちが言うがまだ出さない。全ての矢が命中するまで引き付ける。

 

よし近づいてきた・・・・、敵は顔を視認できる位置まで接近して・・・・来た。

 

「よし、よく我慢した。許可する」

 

と言うと同時に部下たちが一斉に弓を斉射すると辺りは混乱の渦へと包まれる。

 

「敵襲〜!!!!」

 

「陣形を組み直せ!!敵の位置を特定しろ!!!」

 

「無理です。辺りは暗闇で特定が・・・・・・」

 

と敵が混乱しているのが嫌でもわかる。地の利は俺たちにある。森林と完全に同化した俺たちを見つけるのは混乱であろう。

 

「弓が尽きた者から突撃。全員ここを生き残れないものと覚悟しろ!呉の精神を、底力を奴らに思い知らせてやれ」

 

と兵士を鼓舞し弓矢が次々と斉射され、順次矢が尽きた者から突撃がなされる。俺もその中に入り格闘戦へと移る。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!」

 

獣のような咆哮を俺はあげて敵へと突撃をかける姿に敵は思わず怯んでしまう。敵を視認し素早い動きで敵の懐に潜り込むと腹部に剣を突き刺し、抜くと直ぐ様次の標的へと移る。

 

敵が装備していた弓矢を拾い敵に射る。

 

1発、2発と連発して射られた弓矢は敵の胸に吸い込まれるかのように当たり絶命。

 

「!!!!!」

 

だが休ませてはくれない。後ろから殺気を感じ直ぐ様横に飛び込むと自分がさっきいた所に斬撃がはいるがそこには姿がない。

 

敵は素早い。馬による機動戦か?

 

「ちっ!すばしっこいからに・・・。北郷、探したでぇ。仲間の仇討たせてもらうわ」

 

やはり張遼だった。

 

流石神速と謳われるだけあり馬を自分の手足のように扱い、動きにくいはずの地形を問題ないかのような機動力である。

 

敵は馬による高機動を活かした一撃離脱。その鋭い斬撃が俺を襲うと同時に敵が攻撃を加えてくる。

 

(張遼やはり引っかかってくれたか・・・・。感謝するぞ)

 

内心ほくそ笑みながら敵が来るであろう斬撃に備え、

 

「くっ!!」

 

追撃を辛うじて躱すと茂みが深い暗闇へと姿を消す。

 

「見失ってもうたか・・・・。何処や?」

 

と姿を消した敵を探す張遼を俺は敵から奪った弓で狙う。目標は張遼ではなく彼女を素早くさせる要因であるあの馬。そして邪魔な敵兵三名。

 

放たれた弓は見事敵兵の胸部へ突き刺さり絶命する。一人、また一人と見えないという利点を活かして倒していく。

 

張遼は焦っていた。北郷の見えない攻撃に味方が次々とやられていく。自分でなく周りの人間を次々と仕留めていくのがまた彼女の癪に触る。

 

「出てこんかい北郷!!顔を見せんとでそれでも武官か!」

 

と大きな声で挑発をするが張遼の怒声は暗闇が支配する森の静けさに飲み込まれていく。

 

(しもうた!味方と離れすぎた・・・・)

 

と彼の術中にハマったと自覚したその時自分の愛馬が甲高い声を上げ暴れだす。

 

(?!)

 

その暴れように流石の張遼も投げ出され地面に肢体が叩きつけられた衝撃で持っていた斬月刀を手放してしまった。

 

打ち付けた衝撃で肺にある酸素が全て排出され頭を打ったのか思考が働かない。

 

あれほどヒステリックに叫んでいた馬はもう鳴かない。

 

馬は既に絶命していた。

 

馬の方を見るのを止め、敵が、北郷が何処から来るかを警戒しようと起き上がろうしていた矢先彼女の真上に人影がヌッと覆い隠す。

 

「!!!!」

 

その人影は常人では躱せない程のスピードで彼女の頭があった位置を突き刺すが張遼はそれを紙一重で躱す。

 

が人影は彼女を逃がさない。躱した張遼は護身用の小刀で反撃しようとするがその手を掴むと腕を捻り上げて肘の関節部分に強烈な殴打を加える。

 

『バキィ』

 

何かが壊れる音と共に彼女の関節がいとも簡単に反対に曲がり激痛が走る。しかし自分の利き腕が壊されたと自覚する瞬間すら彼女に与えてはくれなかった。

 

人影は彼女の端正な顔に殴打をくらわせる。それも何度も。

 

地面に倒れる彼女の長い髪を無遠慮に鷲掴みにして無理やり立たせる。

 

人影の正体は北郷だ。表情には何も読み取れない、以前の同僚でもあった恋を彷彿とさせる。

 

「まだ息がある・・・・。当然か、生かしておける程度には遠慮はしたつもりだからな・・・。張遼、お前は捕虜として孫呉に来てもらう。お前のその武を殺すのは惜しい」

 

掴んだ手をぱっと離すと支えを失った彼女の体は再び地面に叩きつけられる。

 

「だ・・・だ、れが」

 

何度も殴られ風船のように膨らんでしまった顔で拒否しようと口を開くが北郷がそれをさせない。

 

「あっぐ・・・・・・・・!」

 

また激痛で息ができない。

 

口から血が溢れ出し止まらず吐血する。みぞおちに強烈な蹴りを与えたのだ。つま先で突き刺さるように蹴られた腹部は簡単にめり込んでいくのをどうでもよさそうに見て

 

「全く・・・殺さない俺の身にもなって欲しい。そうだ、お前が降伏したら魏にいるお前の将兵たちの安全の保証しよう。当然温かい食事に寝具といった人間の暮らしを約束する」

 

突き刺さった蹴り上げた箇所をいたぶるかのように今度は靴の底でグリグリと踏みにじる。

 

「あぁぁぁ、ぐぅぅうぅ」

 

痛みで視界が揺れる。

 

張遼は彼の言っていることが理解できずにいた。将兵とは?李典、于禁、楽進、また親衛隊の連中もやられたという事か?

 

(んなアホな・・・・。そう簡単に捕縛できるわけが・・・・・・)

 

親衛隊の実力は張遼は誰よりもよく知っていた。典韋、許?たちも正規兵を遙かに凌ぐ程の実力なのだ。それを簡単に屈服させることが・・・・。

 

「ん?まだ信じてないか・・・・。まぁ無理もないか。では見せてやろうかな」

 

と北郷は言うと小さな針で彼女の首を刺す。殺すのではない、麻酔のようなものだ。

 

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張遼と親衛隊を壊滅させれば十分だ。ここは撤退させ後は冥琳たちと劉備軍に任せればいい。昏睡状態にさせた張遼を見下ろしていた北郷であったが彼女を担ぎ上げると伝令兵に撤退を申し出るために戦火へと戻っていた。

 

 

「・・・・んだか?」

 

「い・・・・・・。まだ・・・・・・して・・・・る」

 

「し・・・・、だぜ。おん・・・・・関係・・・・か」

 

(誰や・・・・・。それにここは・・・・・・・・。そうや北郷にやられて捕まったんやな・・・・・)

 

何処からか声が聞こえる。男たちが何かを会話しているようだったが彼女の意識が戻ったのに気づいたか辺りの気配が代わる。

 

「お?お目覚めだぜ北郷」

 

と重装備した軽薄そうな雰囲気を持った男が北郷に呼びかけると周泰と男と三人で話していた北郷は振り返り此方を見る。

 

 

「ようやく起きたか。気分はどうだ張遼将軍?」

 

「悪くはあらへんわ。むしろ快適すぎて涙が止まらんへんってところやな」

 

と強がるも自体は深刻だ。利き腕は相変わらず動かせずまたここが何処なのかすら分からない。それにこれだけ兵に囲まれては脱走は不可能だと考えてもいいかもしれない。

 

「ははっ!それは何より。ここは赤壁の司令部だ。君たちが仕えていた曹操また右腕であった夏侯惇、夏侯淵、荀ケは行方を完全にくらました。現在調査中だが現在発見の目処はたっていない。これが意味するのは分かるな『元』将軍」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「黙秘するかは我々に恭順かは君の勝手だ。といっても選択の余地は残されていない。連れてこい・・・・・・」

 

彼が仲間にそう言うと部屋から出ていき暫くして戸を叩く音と共に見覚えのある者たちが縄に縛られて入ってくる。楽進、于禁、李典といった親衛隊の連中であり相当痛めつけられたのか傷だらけで見る影もない。

 

「簡単なことだ。前に言っただろ?君が快諾するだけでこの子達の命、人間らしい生活を保証すると」

 

張遼はギリっと噛み締める。彼は董卓の時と同じようにまた裏切れと言っている。国を捨て仲間を売れと言う、それは張遼の死を意味する。

 

だがそれでは部下たちの命が危ない。揺れる心境を悟っているかのように北郷はゆっくりと縛られた彼女たちに近づいていく。

 

「・・・・・・ダメです霞様。私たちのことは構いませんのでどうか・・・・・・」

 

「大した忠誠心だ。だが心と体は全くの別物だ。違うか楽進くん?」

 

と楽進が強い眼差しで張遼に訴えるのを北郷は冷たい眼差しで見下し鞘から剣を抜くと楽進の首にちらつかせる。

 

楽進は死は覚悟しているとでも言うように彼の脅しに屈しないというのが彼を睨みつける表情でわかる。

 

だが北郷は楽進にちらつかせていた剣を引っ込めた。

 

「ふむ、いい表情だな楽進くん。中々優秀な兵士だ。だが・・・・・」

 

と引っ込めていた剣を楽進の隣で縛られていた于禁の胸にゆっくりと無造作に剣を突き刺していく。

 

「あぁぁぁぁぁあぁぁぁ!!!」

 

突き刺した剣は心臓までは届いてはいない。北郷はゆったりと剣を胸から引き抜くと張遼に血のついた剣をチラリと見せる。

 

致命傷ではないが血が彼女の服を真っ赤に染めていく。

 

「沙和!!」

 

「良くも沙和を・・・・・貴様っ!」

 

と李典と楽進が睨みつけるが北郷はそれを無視して張遼に話しかける。

 

「大丈夫、まだ殺してはいない。まだね・・・・・・。これから君の回答により傷ついた彼女がどうなっていくか・・・・?安心してくれ。心臓は避けてはいる。だが止血しないと彼女はすぐ死ぬだろう・・・・」

 

「ぐ・・・・・・・」

 

 

噛み締めた唇から血が溢れる。

 

彼は知っているのだ。

 

自分を痛めつけるより彼女らを痛みつけるのを見せる方が遥かに効果的な尋問になるということ。

 

「早くしないと彼女が死ぬぞ・・・・・?可哀想になぁ」

 

どうでもよさそうに再び于禁の前に立つと剣を彼女に向けてまたゆっくりと狙いを付けるかの如く剣が彼女の肢体を這いずり回る。

 

「次はどこを刺そうか?ん?胸は刺したからなぁ・・・・、次は腹かな?張遼、君は臓物を見たことがあるか?

 

臓物ってのは温かいんだ。まるで人肌のように温かい。君にも見せてあげようか・・・。部下の臓物がどんなものかを・・・・・」

 

「ひっ?!」

 

と于禁の顔が恐怖で引き攣る。

 

生きながら腸を引きずり出されるのを想像したらしい顔は出血した以上に真っ青になり震えが止まらなくなる。

 

そして北郷に涙を浮かべて無言で助けを訴えるがそれを北郷は聞いてはくれない。彼のチャンネルは張遼にしか向いていないのだから。

 

「や、やめてや!堪忍」

 

と張遼が言うが北郷は聞き入れてはくれない。返事が違うと顔で語っている。

 

「きょ、協力する!呉に協力するさかいに頼むからウチの仲間だけは堪忍や・・・・」

 

「本当だな?・・・・・・・では言ったとおり安全を約束しよう。朱然!徐盛!于禁を手当して、他の捕虜も独房へ。その後は捕虜として扱うように司令部に通達しておいて欲しい」

 

「「・・・・・・了解」」

 

と男は出血がひどい彼女を素早く持ち上げもう一人はほかの二人を連れて部屋から出ていってしまった。恐らく彼女の治療をしに行ったのだろう。

 

「で何から話せばいいんや・・・・。軍師の話か?拠点か」

 

「諸々全部だ。知っていること全てを話してもらう。嘘をつけば仲間の命はない」

 

「会わせてくれへんか・・・?沙和のことが心配や」

 

「その必要はない。君が今しなければならないのは情報を我々に教えることだ。それが彼女たちを自由に、安全に過ごすための必須条件だ」

 

と北郷は言うと兵士を呼びつけ張遼が言う情報を記憶するために筆をとりながら仲間と議論しあっている。

 

仲間をどう配置させるか?生存確率をどうやれば高められるのかといった議論が今後なされることだろう。

 

「堪忍な・・・・・・・」

 

と小さく呟く張遼。仲間を裏切る、大を切り捨て小を取るという蛮行を張遼がもうしないと誓った生き方を体現させる形になってしまったことに仲間に懺悔をするしかなかったのだ。

 

「張遼を捕縛できたのは大きいですね」

 

と尋問の帰りに周泰が話しかけてきたことに俺も相槌をうつ。

 

「ええ。今後の敵拠点奪回作戦の際は彼女を同行させます。これで情報戦で大きく有利に立てたことですから我々が魁を強襲した意味があったというものです」

 

「はい。これで楽に戦いを進めることが可能になればいいのですが・・・・」

 

「その心配は杞憂でしょう。彼女には全て話すようにしています。頼れる味方もいない中、最初に恐怖を与えてやれば大体の人間は屈するのが現実でしょう。

 

恐怖を与える為にあれだけの事をしたのですから。そうしてもらわないと困ります」

 

と俺がそう言うと彼女は一層表情が暗くなり小さく呟く。

 

「その後は・・・・・・?」

 

「・・・・・・話すことを話したら彼女は用無しだ。脱走の危険を鑑みても最終的には殺すことになります。もちろんあの三人も・・・・・・」

 

「そうですか・・・・・・・」

 

「気になりますか?」

 

「いえ・・・・・、いやそうでないと言ったらやはり嘘になります」

 

「私もです。あの親衛隊の連中は殺すのが惜しい。

 

ただお互いが敵同士である以上仕方がありません。兵士に敵味方を判別させるのではなく敵味方を判断するのは時の政府の考え方によりますからね・・・・・」

 

そう締めくくり俺は次の戦闘での作戦立案を行うべく軍師たちに招集をかけたのであった。

 

 

結局曹操の行方は分からないままであった張遼たちの証言ではあの時はまだ曹操いたそうだが・・・・。

あと他の兵士たちからも情報を集めたら辺り一面が光で眩しく輝きがあったそうだ。それが曹操と関係することかは調査中ではあるが恐らくその光も尻尾を掴むことはできないだろうと予想する。

 

そして何故か何時か見たあの夢を今度はハッキリ鮮明に思い出す。

 

『この外史はまもなく終わるわ。その時が・・・・・・・』

 

とやたらとガタイのいい屈強な男から言われた。あれは何を意味するのかは分からないが、あれと関連性が高いものであることは分かる。

 

 

では俺はどうなるのだろうか・・・・・・・。

 

この世界の住民ではない俺はこれから先どうなるのか・・・・?この国の未来は、この大陸の歴史が俺が知る三国戦国時代とかなり異なる結果を迎えるであろうという中その影響は・・・・。

 

そんな不安が俺を支配するのはそう難しいことではなかったのだ。

 

(だがそれよりも・・・・・・)

 

「か、一刀・・・・・・・!」

 

聞き慣れた声。懐かしくてでも凛とした声は今は震えている。

 

声のする方を振り向くと冥琳が立っていた。

 

「め、冥琳・・・・・・・」

 

「一刀・・・・・・・」

 

と冥琳は俺の名前を言うと我慢していたのものが決壊したかのように俺のもとへ走って飛び込んでくる。顔をグリグリと擦りつけるのは彼女の泣き顔を見られたくないからだろう。

 

小さな嗚咽と胸に幾分の水分が染み込んでいくのがわかる。俺も静かに抱き返す。彼女がいつかに倒れた時のようにしっかりと自分の存在を示すかのように強く。

 

 

 

 

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連合国軍は魏・王朝軍に赤壁の戦いで勝利したあと完全に主導権を握り返す。

 

敗走の際の打撃が深刻であったことと指導者である曹操と側近たちの行方不明が魏の士気を落とすのに有効打となり次々と拠点を奪われていった。

 

魏は完全に敗北をし、王朝も数ある失政で完全に求心力を失ってしまい解体。

 

長安において連合国と魏・王朝連合とのあいだで終戦協定が結ばれここに蜀、魏、呉の三国が独立。

 

大陸を震撼させ混乱を極めた群雄割拠の時代ははこれで終わりを告げた。

 

終戦後は魏は解体こそされなかったが連合国軍が設立した統治会議というセクションの下実質管轄下に置かれることとなり連合国軍の厳しい監視下のもと存続が認められた。

 

一、人間の生きる権利を阻害、侵害する法や習慣を廃止させること

 

二、通貨の統一はしない。現在ある為替制度を魏にも導入させ貿易を奨励させること

 

三、魏は今後戦争が発生させないような平和な国家再建を最終目標とする。軍隊の解散、官僚たちの追放、責任者の裁判等を法における平等を確保しつつも厳罰に処すこと。

 

四、魏が崩壊するということは北方民族における侵略が懸念される事項であるので当面安全が確保されるまでは各国の軍が駐留されることとする。

 

五、難民の救助と保護が解決されうる現在の最優先事項である。従って魏兵士の引き揚げ、撤退には支援を行い魏へと帰国させること

 

という五箇条を基本方針とした暫定的な統治機構であり、当初持ち上がっていた山越と同様呉が魏を統治していくというわけには面積的にも政治的にも流石にそうはいかず、統治行為においては各国の賛同による投票を設け、呉が一票、蜀が一票、山越が二票、南蛮が三票という相対的平等による過半数による議決を下に統治がなされることになった。

 

全てを白紙に戻して混乱を生むよりは元ある制度を活かしながら共同統治をしていくほうが賢明であるという判断があったからだ。

 

魏は主権こそ認められてはいるが軍隊の解散と責任者を全て追放され名士たちは華夷連合の本部がある呉の建業に監視、軟禁され戦後賠償を今後は分割払いで支払っていくという取り決めがなされた。

 

これにより国際組織である華夷連合の下で独立した国家として活動していくことになり、国際的な取り決め、紛争処理、難民の保護、などといった一国では解決できない事柄は国があつまり取り決めがなされることになった。

 

終戦してから三年が経った。

 

現在北方民族との紛争は起きてはいない。

 

異民族国家である山越、南蛮の加入によって公平且つ機会均等の扱いを受けている異民族国家二国を見て新たに此方に加入を求める異民族国家もあり異民族たちとの関係は比較的良好といえる。

 

国境も確立しさらに各国通貨も統一され、貿易に使う際の為替制度も新たに設立。

 

各国の貿易も活発化してきていた。

 

呉の都市、建業は工業化が進み貨幣で人を雇い分業制が確立した工業製手工業へと発展が進み、生糸、機械工作品等高い技術を活かした生産工場が数多く建てられた。

 

さらに嬉しいことに呉はついに臨時総統となっていた周公瑾たちが作った『呉における基本法』がついに作成終了。

 

建業、ほか地方都市で大々的に発表がなされた。

 

国民の権利保障、行政、立法、司法の分権保障、また王の政治的な立ち位置といった所まで厳格に定められたものでありアジア初の立憲君主国家として産声をあげることになったのである。

 

国民を驚かせたのは王における立ち位置だ。

 

王は政治に発言力が立法を定める評議会の招集、裁判官の任命といった形式的な事に限られており実質的支配権は喪失させたものとなっていたからだ。

 

孫権は前王孫策に決して劣らない名君であるという評判であったが国民全員に全てを委ねた英断を国民は誇りに思うと同時に自分たちも強くあらねばなるまいという自覚が芽生えていった。

 

基本法が出来てここ一週間は毎日大騒ぎのお祭り状態である。

 

この戦争を終えて俺は軍を除隊し、お世話になっていたあの酒場で見習いとして働いていた。

 

赤壁の戦いにおける裏切りの引責辞任が表向きの除隊理由であったが、実際は俺自身もう守るべき人間を守ることができたことによる自分の贖罪が完全に終わったことによる区切りであった。

 

それに大規模な戦争は俺自身の心を大きく蝕んでおり精神的な限界からこれ以上軍に在籍することが難しくなったのもある

 

ただ戦争から帰ってきた時オヤジさんたちが泣きながら抱きついてきたのは未だに忘れられない。

 

戦乱も終わり俺がいる意味もなくなった以上、残った時間は家族同然であるこの人たちに付き添っていこうと決めたのだ。

 

今では俺は職人の見習いとして第三の人生を歩もうとしていた。

 

だが酒を作るというのはかなり難しく、人に売れる酒を作りのにはそれ相応の修行が必要で大変ではあったが毎日が楽しく酒を飲み交わし笑顔になる客たちの笑顔は蝕まれた精神を、傷を少しづつ癒してくれていった。

 

冥琳との関係は今でも良好で隣町に住む彼女はちょくちょく店にやってきては俺と酒を飲み交わしたり、時には建業の街巡りをしたり、雪蓮たちの墓参りに赴いたりと軍を除隊したことで比例するかのように彼女とも過ごせる時間が増えていった。

 

そんな中呉の基本法発表によるお祭り騒ぎにより俺と親父さんは客の対応に追われていた。

 

「お〜い一刀や。これ隣町のお得意さんに届けてやってくれ」

 

「分かったよ。しかし、ホントすごいお祭り騒ぎだなぁ」

 

「おお、これほどお祭り騒ぎになるのは初めてだな。もうすぐ在庫がそこを尽きちまいそうだ」

 

「まぁひっきりなしに注文が殺到すればそうなるよな」

 

「ははっ違いねぇ。俺たちゃ皆この時を待ちわびていたんだからよ!」

 

とオヤジさんは嬉しそうに鼻をこする。確かにそうだ。山賊、海賊の襲撃はあっても国同士の争いは終わりを迎えた。

 

長い長い暗いトンネルを抜けきった喜びは計り知れないものであろうことは呉の国民でもある俺にも十分理解できる。

 

(そう・・・・・・・。だから今日、勝負に打って出る)

 

と決意に固めていた。冥琳を今日酒場に誘うことにしていた。もう俺たちが付き合って四年近い年月が経つ。

 

早いようでいて短い。冥琳は臨時総統を辞職してなんと孫権同様政治から身を引いたのだ。

 

『私が出来ることはもう何もないわ・・・。後は次の世代の者たちがすること』

 

と俺に引退を打ち明け、俺自身も彼女を労った。

 

もう十分だと。

 

彼女自身多くの責任を背負い職務を全うした姿を惜しむものはいても、恨めしがるものや妬むものは現れないはずだから。

 

冥琳は今は無料で教育を受けられる政治塾を開いており教育に力を注いでいる。

 

『私は伝えていかなければならない。この愚かな戦乱と私たちが犯した過ちは決して消去してはならないものよ・・・。

 

失敗があるから人は学び、そこから改善していくもの。我々の体験した戦乱を彼らにとっての参考になる事例としてうまく役立てて欲しい。そんな思いがあってな』

 

と彼女は恥ずかしそうに語ってくれた。 

 

俺は今日の仕事の予定を思い出し何時彼女の下へ行こうか考えあぐねていた。

 

夜、酒場は飲みに来る客がいるのだが休館にしてくれとオヤジさんに頼んであり快諾してくれた。

 

(そうか。まぁ構わないぞ。・・・・・頑張れよ一刀)

 

とポンと肩をたたいてくれたあたり俺がしようとしてることがバレているのことは明白だった。

 

「まいど〜。今後もご贔屓に!!」

 

酒を届けたあとは冥琳がやっている私塾へと足を運ぶ。

 

隣町の閑散とした場所に建てられた塾は今や倍率100倍以上を誇る有名私塾となっていた。

 

冥琳自体も施設を充実させたいらしく勉学に勤しむ書籍室やくつろげる談話室を設けたりと持ち前の資金力を生かして施設を拡充させて言っているらしい。

 

『貴方と同じでお金を使う場所が限られていたから振り返ってみると溜まっていたお金が凄まじい金額になっていて驚いたわ・・・・。少ない給料もこれだけ経つとすごいものね。退職による報奨金もまぁ貰えたことだし生活には困ることはないと思うわ』

 

と以前話してくれた。政府の重要人であり長年そのポストで勤しんできた以上それぐらいは貰ってもバチは当たらないだろう。

 

むしろ国民の払った税金による給料を自分の為に使うのではなくできるだけ還元して人のために使うあたりが彼女らしい。

 

職務室に行くと大量の生徒で溢れかえっていた。どうやら冥琳に質問したくてこれだけの生徒が集まっているらしく生徒のやる気が伺える。

 

「先生!!今回の労働政策のことなのですが・・・・・・・」

 

「ああ、そんことはだな・・・。それほど難しく考えなくていい。まずは基本を知ることだ。需要と供給線で考えてみろ。それを政府の財政政策による市場介入により供給線がどう変化するのか?それが分かれば問題はない」

 

「ありがとうございます!!」

 

「先生、民法の九十四条の解釈なんですが・・・・・」

 

「それについては第三者に転売した者によって決まる。それが過失があるのか、また悪意があるのか?論点はそこだ。自分で考えてみて分からないならまた聞きに来い」

 

と生徒たちの質問に答えを教えるというのではなく、自分で考えるようにヒントを与えているようであった。

 

『自分で今ある知識でまず考えろ北郷』

 

というのが俺が弟子だった頃の彼女の口癖であったのを思い出す。

 

冥琳はチラッと此方を見ると質問している生徒にちょっと待つように言うと席を離れ俺のもとにやってくる。

 

「どうした?お前が来るのは珍しいな。もしかしてここに学びに来たのか?」

 

「ははっ、冗談はよしてくれよ。・・・・・・・・それより冥琳、今日の夜空いてるか?」

 

「ん?空いてるが・・・・・・?」

 

「そうか。なら・・・・・・・・・、その何時もの酒場に来てくれないか?その・・・・・まぁ積もる話もあるというか」

 

緊張してなかなか言えないでモジモジしている俺に冥琳は何かを察したかのように静かに頷く。

 

「ああ構わない、夜そっちに向かう」

 

「有難う!じゃあ・・・・準備しとくよ」

 

と言うと冥琳は照れくさそうに、何処か困ったような笑顔を此方に向けるがそれは一般人には分からない些細な表情の混在であったが長年の付き合いでわかる。

 

冥琳、照れてるな。

 

「「馬鹿!!押すなよ!!」」

 

「「う、うるせぇ。声がよく聞こえねんだからしょうがねぇだろが・・・・」」

 

「「違う・・・・これ以上押すと・・・・」」

 

「「ぎゃあああああ〜〜〜〜〜〜〜!!」」

 

怒号が聞こえたと同時に戸が開くと同時にドドっと生徒たちが雪崩のように崩れ込んでくる。うん、気配で分かっていたがあまりにもベタな展開で思わず苦笑いを浮かべるが彼女は表情を一変させ真っ赤になったかと思えば急に真っ青になりと七変化したが無表情になり、崩れ込んだ生徒の方へと向かっていく。

 

その手には何故か何処からともなく現れた白虎九尾を手に殺気を発していた。

 

(まずい・・・・・!冥琳マジだぞ!)

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」

 

「落ち着け、冥琳!!」

 

羽交い絞めにする俺に冥琳は羞恥のあまり顔を真っ赤になり暴れるあまりメガネがずり落ちそうになっていた。

 

「・・・・・・・・・・・冗談だ。北郷、もう私は何もしない・・・・・・・」

 

と生徒に出していた殺気を解くと恐ろしさのあまり完全に腰を抜かしてしまった学生たちはそれからは何も言わずに青ざめた顔つきでそそくさと部屋を出ていった。

 

「・・・・・・・・・・・ホントか?」

 

「ああ。ただ私にも講師としての面子があるからな。少し恥ずかしくて・・・・・・その・・・やけくそになっただけだ」

 

冥琳は少し変わった。昔はそれほど感情を表には出さない、皆とは一歩引いた立ち位置で物事を捉えている。そんな感じではあったが仕事を辞めてからは今まで溜めていた感情の波を放出するかのようによく笑い、よく怒り、そしてよく泣いた。

 

「そうか。なら夜待ってるよ。よろしく頼む」

 

「ああ、分かった。・・・・・・・楽しみにしているぞ北郷」

 

彼女と別れたあと冥琳の生徒から宇宙人を見るような奇妙な視線を感じつつも仕事場に戻ると早速準備に取り掛かる。

 

酒を顧客に届けたあと市場に行き、材料を買う。

 

帰ったあと厨房で手早く食事を作り、店は貸切の看板を立てる。最後は自分が作った酒を杯に注ぐ。

 

自分で初めて作った酒はどうしても冥琳に飲んで欲しかったからだ。

 

誰もいない店でソワソワと自分が考えていた台詞をぶつくさ言いながらウロウロと手持ち無沙汰に反諾する。

 

暫くすると冥琳が店に入ってきた・・・・。俺はいよいよ時が来たのだと覚悟を決めると同時にあまりの緊張に暗記していた台詞を全て頭の外に吹っ飛ばしてしまっていた。

 

「どうしたんだ・・・・?今日は他の客がいないようだが・・・・・・?」

 

「あ、ああ。今日は珍しく客が来なくてねぇ〜。いやぁアハハハハ客が来なくて退屈で、退屈で」

 

と乾いた笑いを上げながら冥琳の背中を押していく。席に座らせると自分も向かい合うように席に座る。

 

「じゃあ、その・・・・・・今日に乾杯!」

 

「フフフ・・・・・、何の記念に・・・だ?」

 

と含み笑いを浮かべて杯をチンと当てる。彼女の視線は三人分添えられている料理と酒。何となく察しがついているのだろうか・・・・・。

 

「そうだな・・・・・・・。雪蓮に、そして俺たちのこれからを祝ってかな・・・・・・・」

 

「雪蓮にか・・・・・。そうだな、基本法も作り、独立を果たして私もお前もけじめをつけれた・・・・、という意味では今日は確かに私達の祝日に当たるかもしれないな」

 

と俺が言うと冥琳も感慨に吹けるように寂しさと悲しみといった複雑な感情を抑えこんだ表情で俺が作った酒を飲んだがその表情に硬さがとれ驚きが広がる。

 

「驚いた・・・いつもと味が違うな・・・・・・。なんというか、・・・・私の口に合う」

 

「それは俺が初めて作った酒だよ。口にあったようで良かった・・・・」

 

「そうか、お前も自分で酒を作れるまでになったか・・・・。

 

私も学志塾を立ち上げてこうやって振り返ると時間が経ったのだなとふと思うよ。雪蓮の死からもう十年は経つ。

 

戦乱は終焉し我々は雪蓮の志を、遺志を実現したが・・・・、なぜだろうな・・・・・どこかで胸に穴があいたように冷たい風が胸を打つ時がある」

 

と言って料理に口を運びつつ酒を飲む冥琳。その姿はやはりどこか寂しげで、儚げだ。

 

「俺もだよ・・・・・。今、この場に雪蓮がいたらって想像しない日はなかった。

 

だけど冥琳、俺は雪蓮は今でも生き続けているんだと思う。黄蓋・・・・いやもう時効だな。祭さんや蓮華たちの心の一部となって今でも雪蓮は生き続けてるんだと思う。

 

俺の中にも・・・・、この国の人たちの中にも・・・・雪蓮が生き続けている。

 

だから俺は寂しくなんかないよ・・・・・・。街に行けば、酒を届けたあとのお客さんの笑顔や、畑を耕す農民全てに雪蓮の一部が埋まっている。

 

雪蓮は死んでない。肉体はなくなっても今でもまだ生き続けている。俺はそう感じてる・・・・・・・」

 

冥琳はポカンと狐につままれたような表情をしていたが直ぐに苦笑して杯に入った酒を啜る。

 

「・・・・・・ふぅ正直妬けるな。お前がそれほどまで雪蓮を愛していたという事実に私もヤキモキしてしまうよ。まったく」

 

「それを言うならこっちのセリフだよ。君たちの出す雰囲気に俺もかなり疎外感をくらってたし。実はあの当時、俺冥琳を勝手にライバル視していたのはいい思い出だよ」

 

「ん?らいばる?それはどうゆう意味だ?」

 

「あぁしまった・・・・。ライバルは競争相手というか負けられない相手といった意味かな」

 

「ほぉ?では私をその、ライバル視するとは・・・。非常に興味深いな?」

 

と冥琳は口の端をニヤリと持ち上げ意地悪な視線を投げかけつつ酒を拝借していく。俺自身ももう時効だからといろいろ話した。

 

「雪蓮に振り向いてもらうように冥琳に負けないような奴になるって勝手に意気込んでてね・・・・。俺自身自信がなかったっていうのもあるけど雪蓮にとって冥琳の存在がかなり大きいのを思い知らされてね」

 

雪蓮と初めて体を重ねたあの時雪蓮は自分の性癖を語ってくれたと同時に『それ』の解消を冥琳に頼んでいたことに俺自身大きなショックを受けていたのも事実だった。

 

同性だからとかそういうのではなくただ純粋に二人の絆の深さを思い知らされたというかそういった感情だった。

 

かなわない

 

その言葉が自分の現状、心情に一番適した言葉であったのには変わりないだろう。

 

「そうか・・・・・」

 

と呟くとかけている眼鏡を静かに外しテーブルに置いた。以前俺に冥琳はこの眼鏡は自分を分別するためのものだといっていた。

 

軍の最高司令官として、内政の頂点を極めた人間である彼女は感情を押し殺して仕事をしていたことからも感情の起伏を晒すのは政治的にもまた自分の精神上においても大きな弱みを握られることになるのは予想ができる。

 

だから冥琳は二重人格とまでは言わないが眼鏡を付けた凛々しいがどこか冷めた、冷徹な雰囲気を発する女性になるし、外せば誰よりも人情に厚い心優しい女性になる。

 

二人の冥琳は果たしてどちらが本物なのかは長年の付き合いである俺にはわかっているつもりだ。

 

「確かに私は雪蓮とはそういった関係であったのは確かよ。でもそこには私と貴方が交わすような『愛』というのはなかった。強いて言うなら性欲を持て余した彼女の処理をするだけ。

 

それ以上でもそれ以下でもない。

 

雪蓮は私と体を重ね終わった時は何時も泣いていたわ。ごめんね・・・・って。

 

蓮華様以上に自分を激しく嫌悪していたと思う。

 

友人の体を利用して自分の性欲を都合よく処理するなんて常人ではなかなかできないこと。

 

でも雪蓮は貴方と深い関係になったときそういったモヤついた『モノ』が一切なくなったサッパリした笑顔だったのを覚えている・・・・・。

 

『一刀がね・・・・私を受け入れてくれたの』

 

と笑顔で私に話してくれたわ。貴方にとっては私は雪蓮のライバルであったかもしれないわ・・・・。でも私からすれば雪蓮は友人。だたそれだけに過ぎない。

 

どれだけ好きでいようと私にはその資格がなかった。

 

ありのままの自分を曝け出しても受け止めてくれる貴方に雪蓮は大きく傾いていたのは事実よ。本人には話せないって顔を真っ赤にして言ってたけど」

 

と冥琳は苦笑しながら空になった杯に静かに酒を再度俺のにも注ぎチラッと冥琳の真正面にある空席を見やる。その表情は雪蓮をからかうときによく浮かべている表情であった。

 

俺にとっては初めて聞いたことだったので驚きを隠せないが彼女と同じように笑った。

 

「とにかくそういったライバル関係からこういった関係になるのは驚きね・・・・・」

 

「あぁ。全くだ」

 

そう言って改めて乾杯してから継いでもらった酒を口に運んでいくのだったが俺は何時彼女にアレを言おうかと酔いが廻りあまり働かない頭で策を巡らせようとするが目眩が激しくなり、動機が激しくなり視界が歪む。

 

『?!なにが・・・・?』

 

体が重い・・・・・。まるで100tの重りが体に括りつけられてるかのように地面に倒れこむ。呼吸ができない・・・・。苦しい。

 

「北郷?一刀、しっかりしろ!!」

 

冥琳が駆け寄ってくるがそれに対し反応ができない。俺の頭に何かが囁きかけてくる。そう、どこか聞き覚えのある図太い猫なで声の男の声が。

 

俺はそのまま意識を手放してしまった・・・・。

-4ページ-

 

「・・・・・・・・・・・ん?ここは?」

 

今までいた場所ではない。冥琳がいない。あるのは菱形の結晶が数多くあり、それらが俺の周りを浮遊霊のようにふわふわと浮かんでいる。周りはまるで宇宙のように真っ暗でその中に俺が一人ポツンと浮かぶように存在している、そんな感じだ。

 

ゆっくりと起き上がるとその結晶を覗いてみる。

 

「これは・・・・・?!」

 

なんと俺がいる。それも雪蓮が生きているのだ。二人で笑いながら畑を耕している。

 

雪蓮は俺を面白可笑しそうに見ながら慣れた手つきで鍬を持ち畑を耕しているのに対し俺は頼りない動作で如何にも経験がないことが分かるほどたどたどしい動きである。

 

「なぜ・・・?雪蓮は死んだはず。それになぜ俺が?」

 

「それは外史。ありえたかもしれない可能性のひとつよ〜ん」

 

と声がすると同時に結晶を挟んで目の前にいかつい男が現れる。体長は190を超え、ボディービルダーのような体つきで坊主の頭に二つのおさげがついているといったような不気味な髪型。顔は化粧をしているのか口紅がついているのは分かるがヒゲを生やしており何とも不気味な雰囲気を醸し出してる。

 

「お前は?」

 

「私は貂蝉。外史の管理者よ」

 

「これは・・・・なんだ?」

 

「外史。貴方たちが知る正史とは少し違う有り得たかもしれない歴史・・・・。そうね、平行世界、パラレルワールドと言った方が分かり易いかしらねぇ」

 

「じゃあこれは・・・・俺と雪蓮が・・・・・・。雪蓮は死ななかった時の有り得たかもしれない世界だと?」

 

「ええ。この世界は貴方と雪蓮ちゃんが共に生きていく。そんな世界。他にも沢山あるわ」

 

貂蝉はそばに浮いている結晶を掴むと俺に渡す。それを覗き込むと関羽と張飛たちと戦っているのが見える。

 

「他にもイロイロとあるわ」

 

そう言って貂蝉は俺に結晶を見せていく。

 

戦っている俺、途中で行き倒れる俺、魏や蜀やはたや山越、南蛮に仕えて戦う俺の姿もある。

 

「貴方が今いる世界もその有り得たかもしれない世界の一つ・・・・のはずだったんだけどね」

 

貂蝉は溜息を着くと何処か困ったような顔をして、ひときわ力強く輝く結晶を俺に見せる。それは俺たちがいた世界。

 

意識を失った俺を冥琳が必死に呼びかける映像が流れている。

 

「外史と正史というのはね、相互のバランス、つまり相互依存な関係なの。外史の力なくして貴方たちの世界はないし、正史がなければそれを支える外史すらない。

 

貴方が選ばれたのはその相互依存の関係を調整する役。生まれゆく外史を滅ぼさす出来うる限り完成させて、正史を支える。時には急進派の連中が外史を弄りまわしてたんだけれどもそれを何とかするのが貴方の役目なの」

 

「なぜ俺が?」

 

「さぁ?私はあくまでも管理者。中間管理職に過ぎないからお上の考えは分からないわねぇ」

 

と肩をすくめてヤレヤレといった感じのジェスチャーで答える。

 

「じゃあなぜ俺をここに呼び戻すんだ。俺をここの呼ぶというのは何らかの意味があるんだろ?」

 

「ええ・・・・・。貴方は外史の調整役であることは話したわよね?」

 

「ああ」

 

「調整役はね、決して正史に勝る外史を作ってはならないのが掟なの。

 

つまり外史が、歴史が変わるような事をするのは許されない。やろうとすればそれをさせない抑止力が働く」

 

貂蝉はまた一つ別の結晶を見せる。その結晶は俺のいる世界の結晶と比べると今にも消えそうな、それでいて壊れそうなほど弱りきった結晶だ。

 

覗くとどうやら魏の世界で天下統一を果たした世界であり、俺がまさにその修正力、抑止力で消えようとしてるのを曹操が見送るように見つめている。

 

「この外史はもうすぐ消滅する。でも貴方の、今いる世界は其れがなぜか出来ないのよ」

 

「どうゆう意味だ?」

 

「さっき言ったように外史と正史は相互依存の関係ではあるけれど、外史というはあくまで正史を支えるモノに過ぎない。

 

外史が、パラレルワールドが現実世界を飲み込むのはオカシイと言った方がいいかしらねぇ」

 

「つまり俺がいる世界が正史を飲み込もうとしていると?」

 

「ええ。歴史の修正力、抑止力に逆らった世界は当然消されるはずなんだけどこの世界は其れが出来ない・・・・」

 

「それで俺を呼び出したというわけか・・・・・?」

 

「ええ、今まで貴方の世界を見てきたわ。上はあなたの世界が消えない原因が分からないらしいけど今、私はわかる気がする。

 

ご主人様、貴方が外史を変えたのよ。間接的にであれ、直接的にであれ関係なくね。あなたの想いが皆を強く結びつけて強い絆を作り出した。

 

それこそ万物の掟ですら破ることができないほど。

 

だからこそ私はあなたに伝えなければならないわ。ご主人様、貴方は・・・・・世界にいることはもう難しくなりつつあると」

 

「つまり俺は・・・・消えると?しかしお前は抑止力による俺の存在の消滅を説明したはず。それなら説明は不要なはず。

 

抑止力が機能しないと俺は、世界はどうなるんだ?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

貂蝉は俺を見て表情を暗くしたことが彼がまだ俺に何かを隠しているということを雄弁に語っていたも当然であった。

 

「貂蝉、お前は何か俺に隠しているな?」

 

「・・・・・・抑止力を発生させることができるのは私の権限に基づいてやってることよ。でも上は貴方を脅威とみなしたようね。

 

あなたが今いる世界が外史の中心になってしまっている以上世界を消滅させることはできないわ。だから貴方がいたという存在の記憶そのもの抹消させるという結論に達した・・・・、と知らせが来たわ」

 

「つまりあの世界の皆の記憶に俺の存在自体なくなってしまうということ・・・・か」

 

「・・・・・・・・・・・・・・ふざけるな」

 

フツフツと湧いた怒りが頭に集まりそれが爆発する寸前。

 

泳がされた怒り、彼らの中で自分がなかったことになってしまう怒り、そして最愛の人にまで、最愛の人と過ごした時間までもが実は存在のしない架空の世界であったなんて・・・・。

 

俺自身怒りをどこにぶつけていいかわからない。納得ができない。

 

「今まで俺がやってきたことが全てが・・・・現実にはないことだと?くっくっくっく・・・あっはっはっはっはっは!!

 

さぞかし面白かっただろうな?!お前たちから見た俺やそしてこの世界の人たちの行いは・・・・。

 

歴史にも記録されない、誰にでも認められることもない・・・・・。そして・・・・結局は誰も救われない」

 

笑いが止まらない。自分の決意、そして雪蓮の死、それに感化された人たちや命を懸け、また失った同志たちの生き様や行いが全くの無駄だったのだ。

 

これが滑稽と言わずして何と言うのか?

 

「ええ・・・・・そうなるわね。彼女たちは外史の安定という役割を果たすとまたリセットされ再び戦乱を生き抜くことになるわ。・・・・・でもさっき言ったようにご主人様がこの外史の表舞台に立たず、呉の人達が歴史を作り出したのはこの世界だけ。

 

そしてこの世界はまさに正史の中心になろうとしているわ。ご主人様、これは今までなかったことよ。管理人である私はただ見守るだけだったけれど私にも貴方の考えや、あの国のいく末を見てみたいのが正直な意見だわ。

 

ただこれはあくまでも外史なの・・・・・。ごめんなさい。貴方を利用していたのは謝るわ」

 

正直この管理人というオカマ野郎を俺は殺したくて仕方がなかった。そして外史を作った奴らにそれに対する行いを公開させてやりたかった。

 

がそんなことをしても俺もみんなも動となるわけではない。そう・・・・・、俺はどうしようもないのだ。

 

俺にできることはこの世界がせめて無くならないように消えること。

 

それが冥琳を・・・・みんなを守ることにつながるのなら俺は・・・・・・・・・・・

 

 

 

「貴方は元の世界に戻すけれども・・・・何か言いたいことは、言い残したこととかあるかしら・・・・?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・う?!」

 

また急激な眠気と頭痛が頭を襲い意識が薄れていくが俺は瞼を閉じるまでは貂蝉を睨み続ける。それしかできない自分を呪い、またあの世界にいる実は誰よりも寂しがり屋で誰よりも優しい彼女の、冥琳の顔が頭をよぎった。

 

その顔は何処か満足をしていて慈愛に満ちたような・・・・・そんな顔であったのは俺の自己満足でなされたものではあるのか、ないのかははよくわからない。

 

頭が混乱をし始める。今までやってきたこと、そしてあの世界ではない似たような世界の記憶が・・・一気に頭の中に入り込んできて頭がその処理に追いつけずショートしそうだ。

 

そんなことをお構いなしに貂蝉は俺に向かって一瞥したあとぼそりと呟く。

 

「そう・・・・・分かったわ。ただ一つ言っておくとこの外史は大きくなりすぎたわ。この支障は貴方の現代世界に影響が出るかもしれないということは先に行っておくわね〜」

 

 

(さよなら・・・・・、そしてごめんな冥琳。俺がいなくても強く生きていてくれ・・・・・・・よ・・・・・・)

 

と気になることを一言言うとまた俺は激しい睡魔に襲われ意識を手放した・・・・・・・・・。

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

気がつくとそこは見慣れた、それでいて懐かしい、そうフランチェスカ高校の男子寮の俺の部屋だった。

 

(戻ったか・・・・・。ここはフランチェスカ・・・・・・。そうか・・・・・俺は・・・・・・・)

 

 

今まであったことがまるで夢だったのであろうか?

 

昔者荘周夢為胡蝶。(以前のこと、わたし荘周は夢の中で胡蝶となった)

 

栩栩然胡蝶也。(喜々として胡蝶になりきっていた)

 

自喩適志与。(自分でも楽しくて心ゆくばかりにひらひらと舞っていた)

 

不知周也。(荘周であることは全く念頭になかった)

 

俄然覚、則??然周也。(はっと目が覚めると、これはしたり、荘周ではないか)

 

不知、周之夢為胡蝶与、胡蝶之夢為周与。(ところで、荘周である私が夢の中で胡蝶となったのか、自分は実は胡蝶であって、いま夢を見て荘周となっているのか、いずれが本当か私にはわからない)

 

周与胡蝶、則必有分矣。(荘周と胡蝶とには確かに、形の上では区別があるはずだ)

 

此之謂物化。(しかし主体としての自分には変わりは無く、これが物の変化というものである)

 

 

胡蝶の夢。

 

昔に習った、いや習っていたのか、それとも夢での出来事であったのかもう分からないが当時流行っていた言葉が頭をよぎる・・・・・。

 

 

自分に変わりはない?

 

そんなことはない。

 

あの時感じた好きな人のぬくもりやときめきそして思慕がウソだったは決して、無かったことにできるほど物分りのいいオツムをしていない。

 

だが・・・・・それが本当の出来事であったのか確かめる術も、そしてあの世界に行く術ももう持ち合わせていない。

 

そもそもあの世界に行けたのはあの貂蝉とかいう男がいたからなのだ。

 

辺りを見回すと薄暗くもう深夜を回っているのは間違いないだろう。久々に見た時計ではもう夜中の2時を回ったところだ。

 

ポケットに変な感触が・・・・そうか携帯は・・・・・・。

 

「そうだ・・・・・!携帯だ!!!!」

 

あの世界に行った証拠が・・・・ある。呉に来たとき携帯で写真を撮ったのを思い出した。

 

そうだ・・・・。携帯を見れば・・・・・・・・・。

 

すがるように何故かポケットにあった携帯をすがるように、救いを求めるかのように大切に握ると充電ケーブルを接続して電源が入るのを待つ。

 

 

2〜3分がとてつもなく長い永遠のように感じられた。いつまでたっても携帯が起動しないと感じるのだがそれを時計で見てもまだ1分も経ってない。

 

そんな長い永遠を感じながらも携帯はディスプレイを明るく照らしバイブレーターが心臓のように震える。

 

「動いた・・・・・!写真は・・・・・・・・・?」

 

メニュー画面を開こうとするのだが、手が震えてしまいうまいこと操作ができない。

 

怖い。とてつもなく怖い。あの世界が空想なのかもしれないというのを思い知らされるのが怖いのだ。

 

写真のアイコンで止め決定ボタンを押すだけだったがなかなかそのボタンを押すことができなかった・・・・・。

 

このボタンが彼女の・・・・、冥琳とのつながりを断ち切ってしまいそうで・・・・どうしようもない絶望感に苛まれる。

 

だが意を決してついにボタンを押すと・・・・・・・・・・あった・・・・・。

 

祭さんと雪蓮が物珍しそうに此方を凝視している映像がそこには写っていた。

 

「あぁ・・・・・・・・・・・・あああああああああ!!!」

 

声にもならない声を搾り出すと携帯を胸の内に抱きしめる。よかった・・・・・。嘘じゃなかったんだ・・・・・・!!

 

冥琳も雪蓮もそしてみんなも・・・・・・・そこにいたのだ。俺は・・・・・彼女を本当に愛していたんだ・・・・・・・・・・・!!!

 

 

そう思うと涙が出てきて止まらなかった。嗚咽が漏れてとめどなく溢れ出る涙を俺はこらえきることができず携帯を胸に抱いて床を涙で濡らしていった・・・・・・・・。

 

そしてもう冥琳に・・・彼女に会えないことを改めて認識させられ悲しくて、憎くて、そして寂しい。

 

こんなことなら誰かを愛するべきではなかった。

 

外史なんて・・・・、彼女がいないのにこの世界で生きていくなんて・・・・・・・。

 

どうしようもない、抗えない力にどうすることもできない自分を激しく呪い、そして絶望するしかなかった・・・。

 

 

-5ページ-

「漢王朝時で当時の自治制度は官位を与える代わりに統治は一切関与しないという分権型な制度ではあったが、それは地方政府の関与を、規制を一切できないという抜け穴がありそれを利用した地方政府の腐敗が・・・・・・・・」

 

私は何百人もいる生徒を前に今日も講義を行っていた。目の前には真剣に講義を聴く、そして自分のモノにしようと研磨している次世代の若者がいる。

 

気が抜けないし、私も彼らを一人前の自由人にさせる責任があるため日々全力投球で講義を行う。

 

「現在の呉での自治制度は呉の憲法を基本に、つまり憲法に違反しない以上は省での自由な立法権、自治権は認められている。地方評議会も省のもとに国の評議会と全く同じ権力を預けている。つまり下院における予算先議権や立法制定権での優越などもその限りではない。

 

国の憲法に違反しない限りはその省独自の特色、文化に合わせた省法を作ることが可能だ。つまり自治を広域に認めることで政府の負担をある程度は抑えられるし、地方も政府の関与がないことで省内での予算を自由に行使できるという利点がある。

 

もちろん国民を弾圧する不当な法、行いは別個憲法司法所にて審議を行うことで違憲審査も行えるため省内政府、議会は司法の監視と国民の監視により適正な運営が行えると・・・・・・・・・・・・」

 

私は教えている。生徒を・・・・、もう大切な人を簡単になくさせないために・・・・・、次の世代にそれを伝えるために。

 

ただ私はどうも釈然としない思いに駆られる時がある。そう、喉元に魚の骨が引っかかっているというか・・・・、なにか大切なものを忘れているかのよな・・・・・・・・。

 

講義終了の鐘がなり講義終了を宣言すると生徒からの質問攻めを答えていく。

 

「先生・・・・・・・、あの、これを・・・・・・!」

 

と文を渡されることも度々。内容はわかっているし渡す者もそれを渡したからといってどうなるというわけでもないことはこの学校に来ているな聡明さなら理解できているだろうに。

 

文を渡されるときに周りの生徒も肩をすくめる。これで何度目だよというかんじだろうな。

 

休み時間に見てみると甘く痺れるような言葉が並べ立てられた愛の告白がそこにあった。

 

ただ生徒の告白だけでなく、祝賀会と称したお見合いなんかも全て私は断っていた。たとえ財界の実力者や御曹司、また官僚や総統から求婚をされても応じるつもりはなかった。

 

なぜだろう。だがもう私は誰かを欲しい、愛したいという意欲が一切失われている。

 

それを私自身がよくわかっていた。

 

『お前もそろそろ身を固める時期なんじゃないか?』

 

とちょくちょく言ってくる五月蝿い友人、魯粛も結婚をして幸せな家庭を気づいているし私の教え子だった穏、亞莎、なんかも結婚をし子供を授かったという報せを先日受け取った。

 

だが私は誰とも結婚はできない。いやしようともしたいという感情すら湧かないのだ。

 

以前は誰かを・・・・・、胸を焦がすほどの恋を私もしたはずなのだ・・・・・・・・・・・・。

 

『冥琳・・・・・・・・・・・・・』

 

渡された文に返事を書いているとき、夜になると何時も夢に出てくる囁きを思い出すと私は胸が高鳴る。

 

夢に出てくる男は優しく私に囁き、肩を寄せ合い私の頭を優しく撫で、そのあと静かに接吻をする。

 

夢なのに感覚が生々しく甘美で・・・・・、彼をかき抱いて夢じゃないことを確認したい思いも込めて彼の口づけに積極的に応える。

 

下唇を噛み彼の口を開けさせると不器用ながらも舌で私の口内の暴れる。

 

それが心地よくて・・・・・、それがどうしようもなく嬉しくて・・・・・、それが彼ともっと時間を、価値観をそして人生を共有したくて・・・・・・。

 

そう夢の男こそが私が愛するただ一人の男。名前も知らない。顔もわからない不思議な男なのに、何処かであったことがある不思議な男・・・・・・。

 

何処か懐かしくて、悲しくて、それでいてどうしようもなく愛おしい。

 

 

可笑しいと思うだろ?夢の人物に恋慕しているのなどと・・・・・。

 

ただ私はその夢に出てくる男が夢でしか出てこない架空の人物とはどうしても思えないのだ・・・・・・・。なぜだろうか・・・・?

 

だが夢から目覚めると必ず涙を流している・・・・・・・・。涙が止まらなくなるのだ。

 

『それは・・・・・なんだろうな?俺にはさっぱりわからんなぁ』

 

と魯粛に相談をしたがやはり答えは今でもさっぱりわからない。ただ魯粛は釈然としない顔つきで語ってくれた。

 

『ただなぁ俺もお前と似たような夢を見るときがある。懐かしい旧友にあったかのようなそれでいていい奴なんだよ。でも誰かわからない。顔も影で隠れていて見えないし・・・・・不思議だよなぁ』

 

と気になることを話してくれた。よく行く酒屋のオヤジや常連の朱然、徐盛なんかも魯粛と同じ夢を見るのだとか・・・・・。

 

でもそれがなんなのか?また誰なのかを解決できる術は私たちにはなく、私は今日も酒場で一人お気に入りの酒を飲む。

 

この酒は私がいつも飲む酒で私好みのすっきりとした味付きの酒だったがその酒を飲むと何かが頭の中をよぎるから飲んでいたりする。

 

そうあの男だ。

 

『うまい?それは俺が初めて作った酒だよ。いやぁよかったー。気に入ってくれて』

 

と嬉しそうにほころぶ彼が浮かんでは消えていく。そんな彼に少しでも近づきたくて・・・・・、彼が何者なのか知りたくて・・・・・・この酒を毎日飲んでいる。

 

酔うと彼に会える。彼が私に苦笑いしておんぶして家まで送ってくれる・・・・・。そして閨で私の頭を眠るまで撫でてくれるから。

 

でも夢から覚めると酒場で・・・・・。

 

 

酒場で何時もの酒を頼むと酔っ払って帰ってくると子供の頃からいた使用人の爺が思い出したかのように水を注ぎながら話しかける。

 

「おかえりなさいませ、冥琳様。・・・・・・またお酒ですかな?酒豪なのはわかりますが、お体にさわりますぞ?」

 

「・・・・・・・・・あぁ爺か。言われなくても分かってる」

 

「そういえば孫策様の墓場に行かなくてもよろしいのですか?先月墓を掃除してからもうひと月は経つかと」

 

「おぉ・・・・そうか・・・・・・。そうだった。明日は休みだからいってくる」

 

月に一度は必ず死んだ親友の墓参りに行っている。孫策伯符、前王の彼女が眠る場所は実はごく少数の身内にしか知られていない。

 

蓮華様も戦役が終わったあと雪蓮の墓に尋ねるようになった。彼女も、姉を慕い、そして愛していたのに憎んでいた。

 

だがそれも時をおうごとに愛憎が王として、また家族としての思慕へと変わっていったのは雪蓮を知る私からしたらとても嬉しいことであった。

 

公務の傍ら蓮華様は母の墓、姉の墓を必ず訪れるようになりよかったと安堵しているし、雪蓮も、孫堅様もきっと喜んでおられるに違いないだろう。

 

成長した娘、妹。今ままで姉の後を追いかけていた少女が今では大きく、それでいて江東の地をここまで劇的に発展させた雄君として名を馳せるほどにまでなるとは雪蓮も驚いているに違いない。

 

疲れた体を酔いに任せておぼつかない動きで寝具に飛び込むとあの夢を、あの男の会えることを願いながら深い眠りについた・・・・・。

 

 

 

朝目覚めると酒場で酒を何時ものように買って、雪蓮が好きだった花をいつものように摘んでいく。

 

小川のせせらぎと涼しさが江東の熱く湿った空気を癒してくれる。この小川で雪蓮は釣りなどを楽しんでいた。・・・・・全然うまく釣れないのだが・・・・。

 

『私、こんなじっと待つなんて出来ないわ!』

 

なんて言って自分から始めるのにキーっと暴れるのが彼女の常でもあった。おまけに私も釣りをするのだが・・・・・・ん?何時も私と・・・・・・・・?

 

(私と雪蓮以外にここで・・・・・・・?)

 

そうだ・・・・・。ここで私と雪蓮と・・・・そしてもう一人で笑いあい、釣りを楽しみ、そして癇癪を起こす彼女を二人で鎮めていた画が私の頭をよぎる・・・・。

 

魯粛か?いや違う。魯粛とは雰囲気が全く違うし・・・・・・・、では誰だ?

 

『ははは・・・・、雪蓮は相変わらずだなぁ』

 

『だって〜私にだけ魚が来ないなんてオカシイじゃない』

 

とぶーたれる彼女をいなす男・・・・・・・。やはり私はこの男を知っている・・・・・。

 

『もう!一刀と冥琳だけ魚が大量だなんで・・・・・』

 

雪蓮は男を確かにそう言っていた・・・・・。名前を聞くと今までぼやけていた彼の顔にフッと光が灯る。この顔・・・・、あの夢で出てくる男なのか・・・?!

 

(一刀・・・・・・・・・。かず・・・・・。北・・・・郷・・・・一・・・・・・・刀?)

 

「北郷一刀・・・・・・。天の御使い、北郷・・・・・・・!北郷!!!」

 

なぜか知っていた名前を呟くと頭が強烈な頭痛に襲われると同時に、彼、北郷との記憶が頭の中で流れてくる・・・・・・。

 

『ああ。これからも宜しく!師匠』

 

と笑いかけてくれた軍師時代・・・・・・・・・。

 

『将軍、ここの警護の指揮は私が採りますのでどうかお休みになってください・・・・・』

 

と壊れた私の体を案じてくれたとき。

 

『これからは君を真名で呼びたいんだ・・・・・。ダメかな?』

 

と初めて結ばれた、呼ばなくなった真名を呼んでくれたあの満月が照らす彼の顔・・・・・。

 

そして急に意識が失い倒れる彼の姿・・・・・・・・・・・・。

 

「北郷・・・・・・北郷・・・・・・!!北郷・・・・・・・・!!!」

 

涙がとまらなくなった。そうだ北郷一刀・・・・・。一緒に戦乱を生き抜いた戦士、そして愛する人・・・・。どうして忘れてしまったのだろうか。こんな大事なことをどうして思い出せなかったのだろうか・・・。

 

彼はもういない。彼が・・・・、彼はどこに行ったのか?

 

「逢いたい・・・・・・・・・。逢いたいよ一刀。どうして・・・・・どうしていなくなってしまうんだ?一刀。私を守ると、私と・・・・・・生きていくと・・・・い、言ってくれた・・・・ではないか・・・・」

 

こみ上げる涙と溢れ出る寂しさ、そして思い出した彼の逢瀬の日々に感情が、体が追いつかず嗚咽をこらえて絞るように、呻くように誰もいない、流れ出る涙が頬をつたいこの小川に涙が混じる・・・・・・。

 

すると小川が急に光りだし強烈な、眩ゆい光が私を包む。

 

「うぁ・・・・・・!」

 

音も聞こえない、前も見えない。聞こえるのは誰かの泣いている声・・・・・。あぁ言わずとも分かる。彼が泣いているのだ。

 

(一刀・・・・・、お前も・・・・貴方も泣いているのね・・・・・)

 

私は眩い光が包まれた不思議な空間のなか彼の声がする方へと歩んでいく。会いたい。また彼と・・・・ともに生きたい。その願いが私を突き動かしその思いだけが私の中を埋め尽くしていた。

-6ページ-

 

広大な学校の屋上に上がるとまず見える雲一つない快晴な空は今の俺にとってはどうでもいいことで、もう着ることもないと思っていたこの白いフランチェスカ学園の制服の上着の内ポケットから小さなタバコの箱を取り出し慣れた手つきで人差し指でポンと二、三度叩きタバコを取り出し口にくわえるとライターで火を点ける。

 

 

火のついたタバコの煙が空に紛れてやがて消えていく・・・・。それが外史から追い出された俺に見えてしまい不愉快でタバコを深く吸い煙を肺に溜め込み一気に吐き出す。

 

もとの世界に戻った俺はどうしようもない無気力に苛まれた。やる気も起きない、生きる気力もないでも自分で命を絶つこともできない臆病者。

 

「いや、俺はまた諦めきれないだけなんかね」

 

と一人呟くと地面にグリグリと押し付けて消すと屋上からポイッと捨てる。

 

ゴロンと寝転がると今まで把握してきた事柄を再度頭に反復させる。

 

貂蝉が言っていた外史と正史の影響・・・・・。

 

まず変わっていたことは正史の歴史が変わっていたこと。そして俺自身が中国語を話せることだった。

 

歴史では中国が二つに分離されており南京を首都とした中華民主連合国、そして俺が知っている中華人民共和国の二つに真っ二つに割れていた。

 

そしてさらに調べるとこの民主連合の国境線は呉が制定した国境線とほぼ同じでかつ呉がベトナムやミャンマー、インドとの領土問題や摩擦もなく友好な関係を結んでおりそれはこの国、日本でも同じであった。

 

さらに調べると歴史も大きく変わっておりこの呉は後に漢王朝を超える統治時代を築き上げ中国国内での民主政治の浸透の大きく貢献したと世界史の教科書も変わっていたのだ。

 

俺は調査も兼ねて夏休みに南京へと飛び歴史博物館や施設を数多く訪問したが特に民主国家を作った呉と蜀の二国と世界初の国際秩序を作り上げた華夷連合が大きく焦点を当てられており中民連(略称)の図書館で歴史を調べると、その後呉が崩壊した後の専制君主的な独裁国家がつまり元や明といった国家が続くがなんと市民革命でもって君主政府が打倒され民主政治が再興された・・・・というのが今日の中民連の歴史らしい。

 

二つに分かれたのは歴史的に対立している北方民族系の国々が合併を繰り返し冷戦時代でソ連の影響下で成立した国が中華人民共和国なのだ・・・・とある。

 

こういった事実が貂蝉が言っていた外史と正史がごちゃまぜになったということだろう。だが外史への行き方やましてやタイムスリップなんて今の技術でもできるものでもないため歴史を調べて現在は手がかりを探してはいるのだがその手がかりは依然としてつかめない状況が続いていた。

 

 

調査を行うので学校の授業には殆ど顔は出さずただテストの時だけと出席数の関係上必要最小限出席した。

 

勉強なんて今までやっていた経済学、法律学、兵站学、流通学、政治学、地政学なんかと比べるとおままごとに近いし合格点は簡単に取れたので自分で勉強してテストだけ出れば問題はなかったし、不登校でもテストで十分な成績を残している俺に声をかける先生は誰もいなかった。

 

入部していた剣道部は今では幽霊部員。一度部長の不動先輩に顔を出せと迫られたが・・・・。

 

業を煮やした彼女が喝を入れるために無理やり道場に連れてきたが今まで戦場で命のやり取りをしてきた俺にとっては生ぬるく、全国大会を最年少で優勝したホープの不動先輩までもが幼稚に見えるほどであった。

 

彼女も俺が甘ったれた坊やに見えたらしく、修正させてやるという思惑も込めてやった試合形式では特の苦戦することもなく彼女を完膚なきまで叩きのめした後は体が鈍らない程度には顔を出してはいるが・・・・、誰も俺とは話しかけようとしない。

 

今まで温暖な性格だった俺のあまりにの急変っぷりに皆が困惑したが友人の相川と早坂は変わらず俺に絡んでくれたことは予想外であったが・・・・。

 

大学の中国の歴史、政治史の講義に潜り込む、また講義の先生に質問等をして手探りながらなんとか手がかりをつかもうと日々奮闘したが、砂漠の中から小さな針を見つけるかのようなこの調査は成果はなく行き詰るのは時間はそうかかることではなかった。

 

今は高校の屋上で隠れて煙草を吸ってボーっとする。そんな不良のような日々を続けていたのだが・・・高校2年に進級したとき相川が今日から教育実習生が来るんだと俺の部屋まで来て悶えていたが・・・・・。

 

「かずぴーも来いや。きっと美人な大学生に会えるかもしれんで〜。はぁー大人の世界を垣間見たりなんてあるしれんなぁ」

 

なんて一人で勝手に妄想して勝手に大学生の教育実習生と恋仲になる妄想をしているところが彼の残念なところだよな・・・。顔は悪くなく、黙っていれば端正な顔立ちなのに・・・・・。

 

「お前、美人じゃなかったらどうすんだ?おまけにフランチェスカのOGなんて堅物な女しかいないだろうに」

 

相川はチッチッチと人差し指を立てて横に振ると得意げにまくし立てる。

 

「分かってへんなぁかずぴーわ。ええか?堅物な女子ほど倒錯的な恋愛に憧れるって聞かへんかぁ〜。きっと男に対する免疫もないかわええお姉さまが・・・・・。いやぁ〜ん相川ちゃん困っちゃうわぁ〜」

 

「お前のその無駄に湧き出てくる自信を俺にも分けてもらいたいよ全く・・・・」

 

「やかましいわ!自信がなきゃやってられんやろが!!!誰が好き好んでこんな本ばっかのむさくるしい部屋で男と変態話で花咲さなあかんのや」

 

と泣き真似をする相川を無視して資料を再度目を通すと相川は無視された事など気にすることなく俺の資料を覗いて目を点にさせる。

 

「しっかしかずぴーもよくこんな本読むわなぁ。周りを見回しても法律だの国際関係の歴史とか中国の政治史だとか学校の教科がひとつもあらへんやんけ」

 

「俺には必要ないからな。今はやらなきゃいけないことで精一杯なんだよ」

 

「だからってわざわざ学校、部活サボってまでやることかいな?姿を現すのが朝のめしのときと学校の昼休みの時の食堂だけって味気なさすぎやでかずぴ〜。もっと青春せんと〜」

 

ブーブーと拗ねる相川だが俺を含めて男子が口内で10名もいないから俺がいなくなると教室で相川一人だけになってしまうので気まずいことこの上ないのだろう。

 

ハーレムや〜なんて騒いでいた彼だったが今ではその変態もなりを潜めている感じだ。女子の方が巨大な権力を持っているこの学校では男子はめっぽう住みづらいことこの上ない。

 

「なんだ〜お前、女の子がいっぱいって喜んでたろ?よかったじゃないか。教室ではお前と章仁しかいないし」

 

「それが

 

『一刀さんはどこにいらっしゃるのですの?』

とか

『これを一刀様に渡してもらいませんか?』

 

なんて俺をツテにかずぴーばっかモテてたら、そりゃおもろないもんよー」

 

「そりゃ困ったもんだなぁ」

 

適当に流すと相川はキーっと唸ったあと俺のコーヒーを勝手に全部飲んだあと捲し立てる。お前、コーヒーが飛び散って顔にかかってるんだが・・・・・。

 

「けっ!よう言うわ。なんでこんな不良男ばっかモテるんや!?背徳感に惹かれるったって限度があるやろに。・・・全部告白を断ってんねんろ?贅沢なやっちゃでホンマ」

 

「・・・・・・興味ないんだ。俺はやらなきゃならない事があるんでな」

 

「それが『コレ』かえ?・・・・・全く罪深いやっちゃでホンマに・・・・。あの不動先輩を泣かしたんやろ?容赦もないしでホンマに変わったなぁかずぴーわ。生徒会も目をつけとるらしいって莉流ちゃんも心配しとったで?」

 

「へぇ・・・・生徒会が・・・・・。流石は情報屋のドリル女だな」

 

五月蝿い!!とここにいたら怒った猫のようにフシャーと怒り出すであろう水泳部の巻き髪女を思い出す。

 

ただ試合でめたくそにやられた不動先輩はプライドが傷つけられたのであろう。

 

その場でしゃがみこんで泣き出してしまったのを思い出した。

 

『くっ!もう一回でござる!まぐれも三度までというではないか・・・・・!』

 

と最初負けたときはもう一回とせがんだが何度やっても勝てない。威勢がよかった最初とうって変わりどんどんと口数が減り最後は静かに涙をポタポタと流し始めてしまったのだ・・・。

 

まぁ無理はない。全国1位の彼女が何度やっても一本はおろか無名の、それも今ままでは自分の足元にも及ばなかった後輩の防具にすら触れられなかったのだ。今まで敵なしの先輩からしたらまさに屈辱を通り越して悲しかったであろうことは想像に容易い。

 

「あーあ不動財閥を敵に回したなぁーかずぴーは」

 

 

「言ってろ」

 

メガバンクである不動銀行を筆頭に自動車、軍需産業、宇宙開発、海運業、造船と手広く広げる不動ホールディングスの長女である不動先輩は不動財閥の次期後継者として財界からも、政界からも注目が高い。

 

そんな彼女であるからプライドも、また自己研磨もかかせなない彼女からしたら俺はひねり潰したい敵であろうが、武士道を重んじる不動先輩の性格上そんなことはしないだろう。

 

まぁフィアンセがいるらしくそれらしい奴からと先輩のファン倶楽部からの嫌がらせは結構受けてはいるが。

 

といっても中国での調査に行くためのバイトと日本での調査で学校なんか滅多に行かないため嫌がらせを受ける方が希だったりする。尾行されたりもするが素人の尾行なんざバレバレなのは分かっているので簡単に撒けるしな。

 

「あそこで俺が手を抜いたら先輩はそれこそプライドをズタズタにされてたぞきっと。

 

それにいちいち先輩ヅラされたらこっちが困る。

 

あの嬢さんはちやほやされすぎて舞い上がってるところがあるから、ここでお灸を据えるのもいいだろう。うん」

 

「うへぇ・・・・やっぱ鬼やな。あんさんは・・・・・」

 

「ん?怖くなったかい?相川くん?」

 

「うんにゃ、それでこそワイの友人やで。そのぐらいじゃなきゃつまらんもんな」

 

ニヤリと笑うと眼鏡を人差し指で釣り上げる。光の反射でレンズが光ってまるでマッドサイエンティストを彷彿とさせる。こいつは案外肝っ玉据わってるんだよなぁと感心させてくれる。

 

そういった意味では実業家を目指すこのフランチェスカには合ってるのかもしれない。

 

「大した性格してるよお前は・・・・・」

 

「かずぴーほどやあらへんしぃ〜」

 

「そうかい・・・・・・・。お前に免じて明日は学校に出るよ」

 

「わぁーい。ありがとなーかずぴー!愛してるでぇ」

 

「気持ち悪っ!!やめれ!!!」

 

抱きついてくる変態を押しのけながらも今日も友人のおかげで無機質な夜を過ごさなくてもいいことに感謝しつつも再び作業に没頭する。

 

この時はまだ俺は教育実習がどういったものになるのかを予想できるわけもなく・・・・・。

 

 

学校に着き食堂でいつものように朝飯で学食を食ってるとザワザワと今ままで上品だった雰囲気が蜂の巣をつついた様な雰囲気に変わる。学校一の不審者である俺が来たんだからまぁ無理はない。

 

訝しい視線をものともせず美味い飯を黙々と食べる。呉の兵食は悲惨極まりない出来だったからこのお嬢様学校の食事の出来はまるで天国のようなものだったし何より味がある飯が食えるのは天にも昇る気持ちにもなる。

 

学校には出席しなくても朝飯、昼飯、晩飯は必ずこの食堂に足を運ぶ。まぁタダだしな。

 

先生もテストで文句なしの成績を収めてる、一応出席はしている、また問題行為を起こしていない以上は俺には口出ししてこない。

 

まぁ生活態度は最悪だが今まで聞き分けのいいお嬢様ばかり扱ってきた教師には俺は手に余る存在のようで触らぬ神に祟りなしといった感じだ。

 

「相変わらずねアンタ。こんな雰囲気でご飯が食べれるなんて」

 

とドリル女・・・もとい莉流が俺の対面に座る。彼女のとなりでは早坂章仁の妹、未羽もいた。彼女はお辞儀すると莉流の隣に座る。

 

「・・・・・・・こんな雰囲気にしているのはお前らだろうに。俺に気にせず勝手に食えばいいんだよ」

 

「ふん・・・・、相変わらずの無愛想さねぇ。こっちは心配してあげてるんだから感謝しなさいよね?」

 

「まぁまぁ落ち着いて莉流ちゃん・・・・」

 

となぜかプンスカ怒って紅茶とすすりながらパンをかじる莉流とそれをなだめる未羽。

 

「心配されるようなことはしていないつもりだ。部活動にも顔出してるし、出席もしてるだろう?」

 

「あのねぇ・・・・、いきなりあの不動先輩を泣かしてまともに授業も受けに来ない奴に心配するな、なんていわれたかないわよ!」

 

「へーへーありがとうございましたね。俺にそう言うなら俺よりもテストでいい点採ってから言うべきなんじゃないですか?お嬢様?」

 

「ちょっと!心配してあげてるのにその態度はないんじゃない!?」

 

「莉流ちゃん、怒らないで・・・・。一刀さんも悪気があって言ってるわけじゃないんだし・・・・・」

 

いきりたつ莉流だったが俺は適当に流してコーヒーを啜って相変わらず持参していた考古資料を目に通す。

 

視界に入っていたんくても莉流のドリルが逆立ってるのはわかるし、早坂の妹もオドオドとしているであろうこともわかる。

 

「ふん!!やっぱりこんなやつ心配なんかしてやるんじゃなかったわ!!行きましょ、未羽」

 

「う・・・うん」

 

莉流はそう言って朝食が入ったトレイを持ってほかの席へと移つり、章人の妹もぺこりとお辞儀して去っていった。

 

全くやかましい奴だ。お前に心配されなくとも分かってるよ。

 

妹には目で礼をするとプンスカ相変わらず怒ってる莉流に一瞥すらせずブラックのコーヒーを静かに啜り続けるのであった。

 

教室に入ると無言が支配し俺を皆が見つめる。奇怪な化物でも見るかのようなその視線をどうでもいいとでも言うように受け流し、カバンを乱暴に机に置く。

 

相川と章仁が遅れて教室に入ると俺に気づいてやっほーとつるんでいるとチャイムが鳴る。どうやら朝のHRのようだ。皆が座るなか席に着いた相川が俺の肩をトントンと叩きひそひそ声で呟く。

 

「げへへへ〜かずぴー今年の教育実習の姉ちゃんはスゴイでぇ。ボン・キュッ・ポンのベッピンさんやさかいに興奮してまうわ〜」

 

「どんな人だか知ってるのかい?」

 

と章仁が言うとクネクネと悶える相川、どうやら相当美人らしいことがその気持ち悪い動きでわかる。

 

「そうやで〜。東京帝都大の美人ハーフやってなぁ。中国人っぽい名前やったから中国系やろなぁ」

 

「へーそうなんだ。こりゃ楽しみだね?・・・・ん?一刀、どうしたの?」

 

俺は中国系ハーフという言葉に心臓がドキッと跳ねるのを感じた。ひょっとしたら彼女が俺を追いかけてくれたのか・・・・。冥琳が・・・・・。

 

そんな望みとも妄想ともつかない事を一瞬で消去する。そんなことあるわけないのだ。彼女は外史の人間。ここに行くなどと・・・・。

 

「いや・・・・、なんでもない」

 

それから話を逸らして雑談にふけると先生が来た。相変わらず教育ママのような堅物な格好をした大神先生が教室に入ってくると俺に一瞥をやる。どうやら俺が来たことに驚いてるらしいがその驚きを一瞬でしまい朝礼を始める。

 

「え〜今日から今日実習生が来て一緒に授業を参加していただきますがどうか節度ある態度で接するように!相川くん、分かりましたか?!」

 

「は、はい〜」

 

と相川を睨みつける大神先生に相川もうなだれる。どうやらお見通しだったようだな。

 

「それでは教室に入ってもらいます。どうぞ・・・・・冥琳先生」

 

「はい」

 

そう言うと腰まである煌びやかな黒髪をなびかせて教室に入ってきた彼女・・・・・。褐色色の肌に均整のとれた顔、そして長身な身長がパンプスを履いているのでさらに長身に、かつグラマナスな体をスーツで包んでいる姿が艶やかさと凛々しさをより際立てせクラスの女性も惚けてしまうほどであった。

 

そう。俺が知っている周公瑾、冥琳とまさに同じであったのだ。

 

「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

思わず席から立ち上がる。心臓が跳ねあがり喉がカラカラに乾いていく・・・・・。彼女が・・・・・どうして・・・・?

 

 

そんな疑問と同時に俺の目から涙がこぼれ落ちて見えなくなる。ずっと探していたのだ。会いたかった。そしてその体を抱き寄せてしまいたい。そんな衝動に駆られてしまうが俺の思いを打ち砕く言葉が彼女から発せられる。

 

「コラ!!北郷君!勝手に立ち上がっては・・・・・」

 

大神先生は叱ろうとすると冥琳は手で制して俺にまるで初対面であったかのような無機質な何の感情も入っていない瞳でこう告げた。

 

「そこの男子・・・・・、お前が北郷というのだな?大神先生から話は聞いてるぞ?」

 

「え・・・・・・?!」

 

「今はHR中だ。さっさと座らないか北郷」

 

彼女からそう言われて座る俺に相川も章仁も心配そうに見つめる。今の俺はさぞや絶望に包まれた表情をしているだろうからだろう。

 

「今日から教育実習で諸君たちと学ばせていただくことになった周 冥琳だ。

 

私が受け持つ科目は大神先生と同じ国語の古典、漢文だ。まだまだ未熟ではあるけれども諸君たちと共に学んで行きたいと思っている。よろしく頼む」

 

そう凛々しく言うとお辞儀をし終えると教室から歓迎の拍手が迎えられた。俺を除き全ての人が拍手をするなか俺はどうしようもない倦怠感と酔いが頭を支配する。

 

現実が受け入れられないのだ。それより耐えられなかったのは冥琳が・・・・・、赤の他人になっていることだった。だが彼女なのかそれとも・・・・・・そんな混乱した思考が俺の頭を重くさせるのであった・・・・・。

 

-7ページ-

 

ども☆ご無沙汰です一年ぶりかな(^_^;)

 

まぁいりいろあったんですけれども書きためていたもの2話をそれも結構なボリュームで出すことになりました。如何でしたでしょうか?

 

歴史が変わっちゃったとか春恋乙女のキャラが出てくるのは結構前から考えてましたねぇ。

ただそれをどうやったらそういった流れに持ち込めるのかといった感じで苦戦してましたね。

そこで外史云々の設定を使うことでうまいことごまかry・・・・いや出来たかな〜と思っております。

 

正史での世界で春恋乙女で出てくるキャラが出てきますががわからない方はググってくださればすぐわかるかと・・・・・。たあ私もこのゲームをやったのはもうずいぶん前になりますのでどういった口調なのか設定なのかははうっすらとしか覚えておりませんので違う!!といった部分があってもどうか悪しからず。

 

次回が最終回になりますが皆さんもう予想がつきます?

冥琳さんそっくりの女性がなんなのかとかは結構ありきたりすぎてますがこの設定の方が結構しっくりくるんじゃないかなと思ってこうしました。

 

まぁただ冥琳と一刀くんが夢で絡むシーンはやたらリアルですねw

舌使ってキスとか描写が結構難しいかったっす。やたら気合入れてた印象がありますね。個人的にはキスは好きなんで結構気合入れてしまうんですよね(^_^;)

 

まぁいろいろありましたがなんとか最終回を投稿できるようになりました。長かったですが最後をぜひ楽しみに!

それではまたお会いしましょう。失礼しま〜す

 

説明
続き。
結構貯めたんだなぁっとビックリ!
もう少しつづくんじゃよ
次が最終回。これ本当!

あ、春恋乙女もキャラもちょこっと出てきてますが口調がおかしいところもあると思います。そこは見逃してください(>_<)
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コメント
コメントどうもです!ソーニャは名前は出しませんが間接的には出していこうかなぁとは考えていますが彩夏は出さない予定です。今の一刀では絡ませようもないので(^_^;)(コック)
ついに春恋の外史へと帰って来た一刀… 他の乙女武将の春恋外史への合流やソーニャちゃんや彩夏姉の登場も期待します。(救性主のナマジラ)
翔華さん、コメントありがとうございます!最終回は多分在り来りかもしれませんがハッピーエンドで、冥琳と一刀を笑顔で終わらせたいと思っていますので楽しみに!(コック)
一気読みしてしまいましたラスト楽しみにしてます!(翔華)
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