おにむす!C
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窓から差し込む朝日に矢崎は目を覚ました。

いつもの質素なベッドに秋穂を寝かせ、自分は応接用のソファーで夜を明かした。

「・・・背中いてぇ」

体を捻るとボキボキと骨がなる。

その感覚で頭が少しずつクリアになっていく。

一夜明けてみても自分が父親になった実感があんまりわかない。

「あぁやって握手もしたけど、やっぱ社交辞令だしな〜。実際父親ってのはなにすりゃいんだ?」

盛大に欠伸をしながら、とりあえず娘の寝ている元・自室の扉を開けた。

「おきろー、朝だぞ」

が、目に入ったのはもぬけの殻のベッドだった。

部屋を見回すと小さな窓から空を見上げる秋穂の姿があった。

「何か見えるのか?」

「うん、見たことないものいっぱい」

窓から目を離さず秋穂は口を開いた。

矢崎はその視線を追ってみたが、別段変わった物はなかった。

太陽、雲、鳥、飛行機、どれも珍しいものではない。

「ここに来る前ってどこにいたんだ?さすがにずっと双波と一緒だったわけじゃないんだろ?」

矢崎にとってちょっとした興味本位で聞いたことだった。

が、秋穂の反応は予想外のものだった。

顔を真っ青にし、肩が小刻みに震えている。

「お、おい!?大丈夫か?」

しゃがみこんで肩を抱いてる秋穂の頭を撫でようと矢崎は手を伸ばした。

「触らないで!!!」

強い拒絶、その迫力に矢崎は少したじろいでしまった。

「あっ・・・」

固まる矢崎の姿に秋穂も固まってしまう。

そして秋穂の瞳から一筋の涙がこぼれた。

(またやっちまった・・・)

人の触れて欲しくない領域に触れてしまう、矢崎はそうやって幾度となく傷つき、そして人を傷つけていた。

秋穂程ではないが、矢崎にもこの手のトラウマが存在する。

触れられたくない過去、忘れたい過去。

こんな幼い少女でも抱えていることがあるのだ、と矢崎は自分に言い聞かす。

「ごめん・・な?」

「・・・なんでそっちが謝るの?」

少し落ち着いた様子の秋穂が涙を拭いながら見上げている。

「触れて欲しくない事に触れて、傷つけたのは俺の方だ。悪いことをしたら謝るのが常識だろう?」

秋穂の体を抱き上げて矢崎は優しく語りかける。

「例えそれが父親でも、娘を泣かしていい道理はないしな」

秋穂は矢崎の顔を見つめ口を開いた。

「ごめんなさい」

「どうした?」

「私もひどいこと言った・・・」

「じゃ、お互い様だな」

ぐぅぅぅう〜

矢崎の腹が盛大に音を立てた。

「そういや、朝飯まだだったな」

「ふっ、ははは」

初めて見る秋穂の笑顔に矢崎もつられて笑い出した。

「よし!2人で何か作るか」

「うん、お父さん」

何気ないその一言が少しずつ2人の壁を溶かしていった。

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