ログ・ホライズン コミュ障奮闘記
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三話

 

俺達がこの世界に連れてこられた『大災害』と呼ばれる異常現象から早五日。

 

もっと言えば、PKから双子を救った日か。それまでの間、俺達はフィールドに出て戦闘に勤しんでいた。

 

俺が、ではない。俺達がだ。

 

「ミノリ、判断遅い。それだと前線がもたなくなるぞ。もっと先を見通せ。トウヤ、お前は前に出すぎだ。戦線が滅茶苦茶になる、もっと考えて動け」

 

俺は今あの日助けた双子、ミノリとトウヤに師範システムを用いて戦闘の基本を教えていた。二人ともまったくの素人ではなく、少しは知識を持っているようだった。曰く、優しいお兄ちゃんに教わったそうだ。…あの人みたいな人がいるんだな、と思うと感慨深い。

 

っと、いけない。

 

「ほら、トウヤ。もっと周りを見ろ。目の前のことだけが全てじゃないぞ」

 

幾分か戦闘らしくはなってきたが、まだまだ教えることは多い。が、変に癖が付いてない分、すんなりと覚えてくれるのは助かった。

 

「…、コーキさん、前方から敵影!目視で三体です!」

 

そしてミノリの方は、この五日でかなり腕を上げた。レベルはまだまだ低いが、技術で見れば中堅どころの冒険者くらいはあるだろう。このままの速度で成長すれば、いつかたどり着くかもしれない。俺の成し得なかった技に。

 

俺があの人の技術の中でも適正のなかったもの。能力的には問題はなかったのだが、前線職の俺とは致命的に相性が悪かった。そんなわけで俺には扱うことはできないけど、ミノリだったら…ってアイツは。

 

「…トウヤ、そろそろ怒るぞ?」

 

まぁ、まずはトウヤのトリ頭をどうにかしないとな。いい加減突っ込みすぎるのも大概にしてほしいもんだ……

 

 

 

「それじゃ、一旦休憩にするか」

 

その後、自分達と同レベルくらいのモンスターを何度か打ち倒し、休憩をはさんでいた。腹ごしらえと行きたいところだが…とても残念なことがあった。

 

「味がないんですよね…コレ」

 

そう、ミノリの言ったようにこの世界の料理はなぜか味がしない。いや、正確に言えば微妙な味しかしないのだ。味のしないせんべいをふやけさせたようなもの、見た目がどんなに美味しそうでも全てそんな味で、そんな食感になってしまう。それは飲み物も同様で、全て水道水の味しかしない。

 

ただ、その中でも手の加わってないもの、要するにもぎたての果物などは普通の味がするし、塩を振るなどといった簡単な調理ならばできる。

 

それ以上の調理をしようとすれば、ゲル状のなにかになってしまうが…

 

そんなわけで、今の世界では食料というものの価値はだだ下がりだ。なにを食べても一緒なら安いほうがいい、それが人情というものだ。

 

そのうえ、一日を過ごすのに必要な金貨はゴブリンを五、六匹も倒せば賄えてしまう。生きることにお金がかからな過ぎる。

 

そんな現状が、アキバの街に暗い影を落としている。そう、あまりにも生きる楽しみがないのだ。食事もそうだし、娯楽もそうだ。戦闘は自身の身体で行うもの、怖くないはずがない。だからこれを嫌う人は少なくない。生産職で作成したアイテムで稼いでいる者が増加しているのもそれが原因だ。

 

かと言って、遊べるものなんて存在しない。ごく一部のものはこの現象の解明という高度な遊び?を楽しんでるようだが…

 

食事や娯楽は生きる活力になる。それを奪われた俺達にはやる気が欠如する、そして、皆が金貨を使おうとしなくなり、街の雰囲気も悪くなり…そんな悪循環の中にいた。

 

この世界はまるで、江戸時代の『生かさず、殺さず』のようなものだ。

 

違うところといえば俺達に死の概念は存在しないこと。そんなかつての日本のような状況で、荒んだ人々の心はなにをするか分からない。実際、アキバ全体の治安は乱れていた。大手の戦闘ギルドが力を振りかざし、小規模ギルドが泣きをみることになる。仕方ないから他のプレイヤーから奪う。こちらでも悪循環が生まれていた。

 

そんなわけで、俺達みたいに戦闘をしているのはバリバリの戦闘ギルドくらいのもので、ほとんどが街で自堕落な生活をしていた。

 

「……やってみるか」

 

そんな辛気臭い雰囲気でいるのも嫌だし、いつまでもこんな味気ない食事というのも頂けない。これまでの数少ない情報と、俺のサブ職業ならばもしかしたら…できるかもしれない。

 

そうそう、俺のサブ職業は錬成士。鍛冶屋を極めた先に存在する生産系の上位職だ。数多もの知識を有し、有から無を作り出すもの。一言で言えば生産職の詰め合わせだ。武具の手入れも、回復アイテムの作成も、あらゆる生産職のスキルを扱うことができる特殊なもの。そして、その真骨頂はその名の通りアイテムの錬成だ。

 

 

 

いくつかのアイテムを組み合わせ、新たな何かを作り出す。つまり、自分の手に『有る』アイテムから今までに『無い』アイテムを作り出すのだ。

 

他の職業に作れて、この職業に作れないものはない。ないのだが、成功率は極端に低い。

 

低級のアイテムの錬成でさえ成功率は七割を割るほどだ。これが幻想級ともなればとんでもない確率になるだろう。ただ、その分成功した時の見返りは大きく、高確率で通常にはない効果が付与されることがあるのだ。そして、素材がレアであればあるほど付与される効果も強力になり、多く付く傾向にあるのだ。

 

俺の装備しているこの手甲も、結構なレアアイテムをつぎ込んでようやく成功させたもの。苦労した甲斐もあり、その性能は幻想級に匹敵するものだ。

 

このハイリスク・ハイリターンこそがこの職の醍醐味といっても過言ではない。決して一人だから、自分で全てをこなさなきゃならなかったわけじゃない。断じて、ない。

 

……さて、話を戻そうか。

 

 

そんな錬成士だが、下級とはいえ料理人のスキルだって使えるのだ。

 

「この世界では、すべての調理ができないわけじゃない。現に調味料を振るくらいならできてる。ならば、何か別の条件があれば普通の調理だってできるはずだ」

 

そして、その条件に当てはまるもの。たぶん『調理スキル』だ。それの有無がきっと関係あるはず。そう目星をつけ、先ほどの狩りで手に入れた肉を串に刺し焚き火で軽くあぶってみた。

 

あまり難しいものはそもそも失敗する可能性があった。だから今回は簡単な切って焼くというものにした。

 

 

いつもならば、ここでゲル状になる。そう、いつもならば…

 

 

 

「すっげぇ…肉の焼ける匂いが!」

 

どうやら、正解らしい。調理スキルを持ったものが、現実の通りに調理をすればちゃんとした料理になるのだ。これが意味することはーーー

 

「美味しそう…」

 

………まぁ、理論は実証されたことだし、キラキラと目を輝かせている二人を待たせるのも悪い。さっさとやってしまうか。

 

 

 

 

 

狩りで得た肉を焼き、塩と胡椒で味付けをした単純なもの。だけど、俺たちにとっては五日ぶりに食べるまともな食事であり、その旨さは言い表せない。

 

「うめぇ、うめぇ、うめぇ!今までの味気ない食事が嘘みたいだ!」

 

「もう、トウヤ!もっと落ち着いて食べないとダメでしょ!」

 

がっつくトウヤを注意するミノリだったが、その口は肉を食べることはやめない。といっても、俺も久しぶりの肉の味に虜になっているのだが。

 

「ほら、まだいっぱいあるからゆっくり食え。焦って食ってもいいことねえぞ」

 

なんて言ったところでトウヤの勢いは止まらないだろうが。ふと、隣に座るミノリを見れば不安げな顔をしている。

 

はて?なにかあったか?

 

「それにしても…フィールドにしてはモンスターが出てきませんね。それどころか、他の冒険者も…」

 

あれだけの時間、フィールドに出ていたのに冒険者に出くわさなかったし、今ではモンスターさえ出なくなっている。ここが初心者用のフィールドだっていうのもあるのだが、なにかに異常でも…というミノリの考えは

 

「あぁ、それは俺が錬成したアイテムで人払いの結界を使ってたからだ」

 

木っ端微塵に粉砕された。

 

「って、何してるんですか!?明らかなマナー違反じゃないですか!」

 

「だって、人に見られたくないし…」

 

「子供じゃないんだからワガママ言わないでください!」

 

なんてことだろう。そんなことしていたら、私達は…なんて心配は杞憂に終わった。

 

「いや、別に立ち入り禁止になってるわけじゃなくて、あくまで《俺を中心とした半径五十メートル以内を知らない奴が認識できなくなる》ようにしただけだから」

 

…………

 

杞憂ではあったけど、これはこれでどうなんだろう…それに、そんな効果はどうやったらできるのか…

 

「…もっと他の人にも心を開いてくだ「やだ」って早!」

 

まさかの言い切る前に否定されるとは…

筋金入りだとは知っていたけど、ここまでだとは。

 

「……本当にお友達がいるんですか?」

 

そんな、とても失礼な質問をしていた。それは分かっているけど、どうしても聞きたくなった。

 

「…………」

 

隣に座るトウヤも食べるのをやめて聞き耳を立てている。トウヤの好奇心も彼の返答に興味を示したようだ。

 

「友達ってあれだろ?仲良く話して、ふざけあったりする奴だろ?」

 

そんな質問をする時点で怪しいけど、ここまでくれば逆にその口から聞きたくなる。

 

「ちゃんといるって、それくらい」

 

その言葉に、安心したのと残念なのとで半々だった。期待はずれだ。

 

「一人だけどな」

 

その後に付け加えられた一言、それに私達は呆然とした。

 

「一人って…それは自慢げに言うことじゃないですよね?」

 

「いや、さすがに一人って…そりゃないぜコーキ兄」

 

私達からのダメ出しで、コーキさんのライフは尽き果てた。それからしばらく立ち直ることができくて、励ますのに苦労した…

 

 

 

 

 

 

 

 

「…その、ちょっと調子に乗ったのは謝りますから。機嫌を直してください」

 

あの後、再び戦闘を再開した俺達だったがその空気はギクシャクしていた。

 

誰だってあそこまでバカにされればかなり頭にくるだろう。それも目の前となれば尚更だ。

 

そんなわけで、俺は荒れに荒れていた。どれくらいかというと初心者用のフィールドで師範システムを解除し、全力で叩き潰すくらいだ。

 

これまでは二人のレベルに合わせていたために戦闘になっていたが、今となっては敵は一瞬で塵になる。ワイバーンキックで切り込み、適当にボコればそれで終了。おかげで二人のレベルはさらに上がり、二十を少し超えるくらいまで来ていた。…代わりに戦闘経験は積めなかったが。

 

「まぁ、まだムシャクシャするけどこれくらいにしとくか……」

 

いろいろ必要なものも手に入ったし、そろそろ帰ろう。そう思い、結界を解除した時…

 

突如として空気が変わった。ピリピリとした、殺気立った空気だ。この方角は…ミナミの方か?

 

「く、結構逃げてきたのに…!」

 

遠くてよく分からないが黒装束に身を包み、マスクをつけた暗殺者(アサシン)が何者かに追われていた。

 

数は三人ほど。誰もが最高峰のレベル九十の守護戦士(ガーディアン)、ではあったが追っている暗殺者との装備の差は歴然だった。追われている方はかなり上位の装備に身を包んでいるにも関わらず、追っての奴らは統一された安物の鎧に身を包んでいた。

 

それはまるで、統率された軍隊の下っ端であるかのように…

 

理由はよく分からないが…

 

「帰るか」

 

幸い、双子達はまだ気づいてないしこのまま街に行けば問題ないだろう。名前も知らない冒険者には、逃げ切れることをお祈りしておこう。

 

 

 

そうして踵を返そうとしたら……

 

 

「あ、そこの人!ちょっと助けて!!」

 

 

 

な、ん、で!そんな大声出しちゃうんですかーーーー!!!!

 

 

「ん、今の声は…」

 

「うん、誰かが助けを呼んでる」

 

なんてことをしやがる…完全に巻き込まれちまうだろうが……

 

こうして俺は、三日ぶりに面倒ごとに巻き込まれることになった。

 

「……………」

 

こうなってしまったら仕方ない。まとめて退散してもらおう。

 

「ワィバーーーーーン…キック!!!」

 

助けを求めた暗殺者も、後を追っていた奴らも、全部をなぎ倒すつもりではなった一撃は

 

「うわ、あっぶな!?って光輝君?」

 

一番当たって欲しかった奴に当たらなかった。ってか今俺の名前呼んだ?

 

まぁ、いいや。後追いの奴ら吹き飛ばせたし。

 

さっさと町に戻るか……という歩みを、さっきの暗殺者が阻んだ。

 

何の用だよ。

 

そう言おうとする前に、奴は話し出した。

 

「…もしかしなくても、西垣光輝でしょ?」

 

……なんで俺の本名知ってんの?つーか声もなんか聞いたことあるし…

 

「やっぱり、そうなんだ」

 

困惑する俺を無視してそう自己完結すると、顔を覆っていたマスクを外した。その下から現れたのは…

 

 

 

 

 

 

「やっほ。三年ぶりってところかな?」

 

「…お前か」

 

俺の幼馴染で、名前は藤崎楓。プレイヤー名はカエデのようだ。

 

俺と同じような黒髪を肩まで伸ばし、可愛らしい顔立ちをしている。結構近所に住んでたけど、三年前どっかに引っ越しした。…まあ、俺は興味ないけどな。

 

……にしても、追われてたにしてはずいぶん余裕だな。せっかく吹き飛ばしたのに逃げないのか?

 

「早く逃げろよ、お前」

 

結構な重装備だったし、まだ立ち上がるだろう。復帰する前に逃げろ、そう言っているのに一向に逃げようとしない。

 

「…ごめん、アキバの街はどっち?」

 

…………なんで俺が面倒ごとに出会うと毎回迷子が出てくるんだか。

 

「…お前、どうやってここまで来たの?」

 

「三割が運で、七割が勘って感じだね」

 

つまりは全部『勘』じゃねえか!!

というツッコミも、この天然の前には通用しない。

 

「まぁ、落ち着いて。ちょっと違うでしょ、運と勘って?」

 

「例えそうだとしても全体から見れば結局は全部勘なんだよ」

 

「うん、かん、うん、かん、うん…私、三国志で関羽が好きなんだ」

 

「お前、その文脈でいきなりそこに行くのか!?どういう思考回路だよ!」

 

結論から言おう。コイツは苦手だ。主に会話が通じない点で。

 

だというのに、友達はコイツの方が…なんて言ってる内に復活しちまった。つーかなんなの、コイツら?めっちゃ怖いんだけど…

 

「くそ、目の前でいちゃつきやがって……」

 

「マジブチコロ?、理由はそこにリア充がいるから?」

 

「イケメン死すべし…」

 

うわぁ…五日前の俺ってこんなんだったんだ。なんか、すっげーショックだわ…こりゃ、心配されても文句は言えないわ…

 

「もう、光輝君のせいで逃げ遅れたじゃん!」

 

こっちはこっちで、人のせいにしてくるし。本当俺を怒らせるのが上手だな。

 

「分かったよ。アイツら始末すっから手伝え。」

 

任せて!という元気のいい声が返ってくる。これならば大丈夫だろう。後は…

 

「ミノリ、俺たちに障壁を…ミノリ?」

 

これまで天然の相手をしていて気づかなかったが、ミノリの様子が明らかにおかしい。心ここにあらずといった感じで集中できていない。

 

「ミノリ!」

 

声を荒げて、ようやくミノリは我に返った。どうやら意識も切り替えれたようだし問題ないだろう。…後で話でもするか。

 

「トウヤ、お前はミノリを守れ。お前が前線に出ても仕方ない。できることをやれ」

 

非情なもの言いかもしれないが、相手は三人ともレベル九十。こちらは四人いるがレベル九十は二人、ミノリとトウヤは二十を少し超えたくらい。

 

回復職のミノリはまだ役に立てるかもしれない。だけど、前衛職のトウヤはそうはいかない。こういう打ち合いはレベルがものを言うし、高レベル=技術も高いという図式が成り立つ。

 

つまりは、レベルでも技術でも劣るトウヤを前線に出すのは命取り。四対三ではあったが、実質はニ対三、よく見積もってニ・五対三だ。

 

悔しそうに歯噛みするトウヤに、俺は告げた。

 

「そこで見てろよ?格上の前衛職の動きを…」

 

これまでは師範システムでレベルが低下していた分、動きもかなり落ちていた。だが、今はその制限はない。

 

そして、相手は同格。

 

ここから見せるのが、この世界で見せる初めての全力戦闘だった。

 

「行くぞ!」

 

こうして、突貫パーティでの初戦闘が開始した。

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独自設定が入りましたね。

いろいろ苦しい部分もありますが目をつぶってください。

最後に、カエデのサブ職は食闘士(フードファイター)です。

ミノリは…測量士、理由はいつか明かしたいと思います。トウヤは会計士です。

 

説明
オリジナル設定いっぱいです。
オリキャラでます。

それではどうぞ!
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