女神異聞録〜外伝〜 ヒーホー君物語 聖夜編 |
女神異聞録〜外伝〜
ヒーホー君物語
あ?HAPPY?苦しみます
良い子にしていたらサンタさんがやってくる。
そんな言葉を親から聞いたことは日本ではまず聞いていると思います。
もしくは、こうでしょう。
良い子にしてなきゃサンタさんはやってこない、と。
一つ申して置きましょう。
悪い子の元にもサンタクロースという者はやってくるのです。
そう、良い子にも悪い子にも………
これはある意味当然の結果、後の英雄と呼ばれるモノ達に訪れる運命的なもの。
彼は彼に出会う。
彼の性格を、目的を知っているのなら当たり前とも言えるが。
出会ったのは男性であり、女性ではない、俗に言うサンタガールと呼ばれる存在ではなかっ
た。
「く、アクマめ………主と御名の元、地獄へと還るがいい………」
「ヒーホー?おっさん真っ赤だホ?」
心配そうに首を傾げ、同じように心配そうな声をかけてくるヒーホー君を豊かな髭を携え
た男性、もとい老人は目を見開き驚いていた。
アクマとは悪を成し、人を神の奇跡では無い魔導へと魅せるもの。
老人は今までそうだと教えられ、またそれを説いてきた。
何よりもそれを信じていた。
「ヒホー、血だらけだホ。ディア、ディア」
「君は………アクマでは無いのかね?」
「オイラはヒーホー君だホ?おっさんは誰だホ?」
「私か、私は聖ニコラウス………今はサンタクロースの方が有名じゃのう」
「ヒホ!子供の味方だホ!」
彼がサンタクロースだと知ってヒーホー君は喜んだ。
多くの血が流れ、骸が横たわる今。
親兄弟を亡くし、笑顔を無くした子供たちは少なくは無い。
サンタクロースなら子供たちも笑顔に出来るはずだと。
「ヒーホー!きっと子供たちも笑顔になるホ!」
サンタの原型、聖人とまで呼ばれた人物ならきっと出来ると喜んでいた。
「すまん」
その喜びは、その一言で砕かれる。
サンタは心から望む物しか贈る事ができない。
物しか贈れないのだ。
心の傷を癒す為の『誰か』を贈ることは出来ない。
「なんでだホ!?偉いヒトなんじゃないのかホ!?なんで出来ないんだホ!?」
「すまん………私では勝つ事が出来んのじゃ………」
「どういうことだホ?」
不思議がるヒーホー君にサンタは掻い摘んだ説明をする。
曰く、黒サンタと呼ばれるものも存在しており、手伝うこともできない子が多いため、『悪
い子』と認識されてしまっている事。
更にその理由から『良い子』が少ないためサンタとしての力も弱くなっているのだと。
「ヒーホー?つまり、黒サンタをやっつければいいのかホ?」
ヒーホー君は極簡単な理解を示した。
「おお………主よ、私の非才をお許しください」
なぜか、サンタは嘆いていた。
「ヒーホー、それじゃオイラは悪者を懲らしめてくるホ。おっちゃんは子供たちのプレゼン
トをお願いするホー。ヒーホー」
一度、両手を天高く掲げ、手を振り別れた。
空は闇に包まれ、夜がやってきた。
足音を忍ばせ、気配を殺し、その服装は夜の闇に融け、鉄錆に似た生臭い臭いを放つ袋を担
いだ黒サンタ達が子供たちの眠る家屋へと這い寄ってきていた。
「まるでゴキブリだホ………此処は通さんホ!」
一匹の黒サンタを氷の纏わり付いた拳で殴り飛ばし、宣言する。
自分たちの仕事を阻む者が現れた、それを理解した黒サンタたちは一斉に肉厚のナイフを
取り出し、腰を低く、片腕は不用意に振り回さないように後ろに回す構えを取る。
ヒーホー君の拳が振るわれ、戦いの火蓋は切って落とされる。
ゆらゆらと空から地面を白く染める筈の雪が降ってくる。
闇はアクマたちの領域で、冬はジャックフロストたちの縄張り。
では、彼の居場所は何処なのだろうか。
創り出され、求められ、求めて、かく在らんとする、後に英雄と呼ばれるアクマの存在の還
る場所………今も昔も、そしてその先にもそれは決まっていた。
だからヒーホー君はただ一つのことだけを背負い、守る。
「これは私も負けておられんのぅ」
「おっちゃんは無理するんじゃないホ」
ジリジリとお互いに隙を探るように、ヒーホー君とサンタは黒サンタたちと距離を詰めて
いく。
足に力を溜めて飛びかかろうとした瞬間にヒーホー君は素早く反応する。
「ブフーラホ!」
力を込めた足を即座に凍らせ、地面に縛り付ける。
その氷は徐々に足から侵食して行き、体を動けなくしていく。
「っ!?」
驚きながらも声をあげることは無く、ただ目を見開き、ヒーホー君を睨む。
他のモノ達は散開し本懐を遂げる為、足を凍らされた一体を犠牲にすり抜けようと行動す
る。
「マハブフだホ!」
「そちらには行かせんぞ!」
ヒーホー君は吹雪を、サンタは雷を降らせ、ゴキブリも驚くほどにワサワサと進む黒サンタ
たちの足を止めさせる。
ゴキブリほど多くは無いが、大きくしぶといのでゴキブリの方が可愛く見えるかもしれな
い。死臭を放つ袋も提げているし、隙あらばナイフも振るって来るだろう極めて危険な存在
な為………袋の中身もアレな訳ではあるのだが。
広範囲に魔法を打ち込み続け、聖ニコラウスの方がヒーホー君よりも先に息切れ始める。
「おっちゃん無理するんじゃないホ、ヒーホー!雪よ!冷気よ!オイラに力を貸してくれ
ホー!マハブフーラ!」
降り続ける雪を巻き込み、渦巻かせなぎ払っていく。
「一体ドンだけいるんだホ?」
倒しても、倒しても沸き続けるような気すらし始めた頃、嘲りの笑い声が響いてくる。
その声は天高くから聞こえるように甲高くもあり、深淵の底から響くように空恐ろしい、男
性とも女性とも年若くもありしゃがれた様にも聞こえた。
それは笑いながら近付いてくる。
「諸君は子供が好きか?私は大好きだ」
それは演説するように歩きながら。
「あの泣き顔が好きだ」
黒サンタをひれ伏させながら。
「あの壊れる寸前の放心した姿は大好物だ」
そして黒サンタを生み出しながら。
「壊れた笑い声は最高だ」
「ふざけるなホ!ブフーラ!」
その声に向かい氷の剣は放たれる。
「よろしい、ならば戦争だ。俺は子供をいじめるのが好きだ。君はそうじゃないのだろう?
ならば止めて見せたまえ。倒して見せろ。私を殺して終わらせてみてくれ」
氷の剣を避けようともせず、その体に突き刺さる。
ドプンと飲み込まれるように。
「さぁ、僕に何をしてくれるのか?わしを止めなければお前は勝つことすら出来ない。ふふ
ふ………あはははははは………お〜ほっほっほっほっほ」
まるで声が重なるように聞こえてくる。
それに重ねて空からも、空を切り裂くように赤く赤く、灼熱に染まった巨大な物体が空か
ら流星のようにその熱量を尾に引きながら闇夜の夜を切り裂いていく。
「あれは何だホ?」
「まさか………」
「知っているのか!?サンタ」
「人工衛星………か?」
優に数トンを超える質量を持つ成層圏外からの飛来物。
そんなものが地表にぶつかろうものなら、核の冬にも似た土砂を巻き上げ永く明けること
の無い冬が来る。
何故こんなものが降って来るのか。
成層圏の外、宇宙空間にて戦っている二体のアクマの流れ弾が当たり、その衝撃により軌道
が逸れ今、地球へと災害を起こそうとしている。
奇しくも落ちてくるその時間は、アヌビスがあのボタンを押したミサイルが飛来してくる
時間に酷似していた。
「ふ、わしは逃げるとしよう!子供たちよ!生き延びたならば私が遊んでくれようぞ!」
土煙を上げて正体不明の生物は正体不明のまま走り去っていった。
「ヒーホー、逃げやがったホ!オイラ達はどうするんだホ?ぶつかっちゃうホ」
「主よ、主よ………天高きに居わせし主よ、人の子達に祝福があらんことを………アーメン」
サンタクロースいや聖ニコラウスは胸の前で十字を切り祈った後、ヒーホー君を見てにっ
こりと微笑んだ。
「子供たちの笑顔は頼む」
橇を引くトナカイを口笛で呼ぶと橇に飛び乗り、今にも落ちて来んとする人工衛星へと空
を駆けていく。
自分の身を盾に少しでもその威力を軽減させる為に。
どれほどの力が出せるかわからない。
アクマといえどその本体をも使用しての行為。
死ぬことは避け得ないであろう、本体を引きずり出してでの死は長くその存在をこの世に
出すことは叶わなくなる。
サンタクロースとしての死、クリスマスにおいて、サンタが既に死んだという事が認知され
る。
プレゼントを配る翁はもう既に居ないのだと。
そして激突の瞬間。
世界は灰塵と轟音、そして衝撃波、サンタが散り際に残したささやかな、これからの地獄を
生き残る為のプレゼント。
子供たちの枕元には携帯用の端末、COMPが置かれていた。
子ども達はデビルチルドレンと呼ばれ、最初のデビルバスターズとなる………。
説明 | ||
クリスマスに間に合わなかった! チクショウ |
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