鬼の人と血と月と 外伝1話 「One day of summer」 |
外伝1 「One day of summer」
…それは、魁魅(かいみ)高等学校の1学期が終わり、夏休みを迎えてから数日経った頃
夏休み前の鬼焚(きたく)部の活動終了直後、蒼依(あおい)陸(りく)聖(たか)の発案により計画・決定した予定、
“カラオケ”の為に夏の熱い日差しの中、霧(きり)海(うみ)統司(とうじ)は集合場所であるファーストフード店「マクドール」の前に立っていた。
統司は待っている間、音楽プレイヤーに入れた曲を イヤホンを通して聴きながら、日陰の中で暇を潰していた
これは統司が都会に住んでいた頃からの習慣であり、時間を見つけてはいつもイヤホンを付けていた。
統司は時間を見るが、まだ予定の30分前であった
「流石に早すぎたか…」
統司はそう小さく呟きながら空を見る、太陽は容赦無く 舗装された道路に照りつけ、日陰にいても焼かれそうな気分になるほどに気温は高まっていた。
汗を滲ませながらもしばらく待っていると、不意に呼びかける声が聞こえた
「統司君〜!」
その声に気が付き、イヤホンを外しつつ声の方向を振り向く
「お待たせ、早いね統司君、他の皆は?」
やってきたのは、セーラー服ではなく私服姿の北空(きたぞら)恵(めぐみ)であった
「おはよう統司!ってか早くない?まだ時間の15分も前だよ?」
そして一緒に来た城乃(きの)咲(ざき)要(かなめ)である
二人の姿は対照的であり、尚且つそれぞれの性格を捉えている
恵は白を基調とした薄く涼しげな服装であり、城乃咲は黒いプリントTシャツにショートパンツ そしてキャップと、活動的な服装であった。
「それにしてもあっついなー、こんなとこで待ってないでさっさと“マク”に入ろうよー」
城乃咲がそう催促し、3人はマクドールに入る
「…ところで統司君、もしかしてずっとあそこで待ってたの?」
『ああ、そうだけど、どうかした?』
その統司の返答に、二人は驚いて言葉を返す
「うそ、先に入って待ってて良かったのに…」
『信じらんない!こんな暑い中よく外で待ってられるなあ』
何やら少々奇異な様子に見られている為、とりあえず統司は弁明する
「いやこれはいつもの事だから、…癖って言うか、都会じゃ人が多いから外で待ってた方が待つには確実だし、それに都会(むこう)と比べたらここは割と涼しい方だしね」
統司の言葉に、城乃咲は感嘆の声を漏らす
「そうなのかぁ、都会も大変なんだね〜」
『まぁ、慣れさえすればどうってことないよ』
そう3人で会話していると、背後に人が近づいてくる
「何やら楽しげな話を遮ってすまないが、横に座っても構わないだろうか?」
その丁寧な口調と聞き覚えのある声に振り向くと、その人物は「魁魅(かいみ)月(つき)芽(め)」の姿であった
眼鏡は普段通りだが、ニットのベストにネクタイと、気品を感じる服装であり、流石は理事長の息子である。
「げぇっ!魁魅だ、…んで、理事長の息子様は 私達に何のご用件でしょうか?」
城乃咲は驚きで思わず声を漏らし、作り笑顔で魁魅につっかかる
「要件とは良いジョークだな、無論カラオケに決まっているだろう」
『嘘ぉ!!あんたがカラオケだって?さては馬鹿にしているな?』
根拠もなしに城乃咲は続けて突っかかっている、多少は冗談であり本心ではないのだろうが、どうやら城乃咲は魁魅の事が苦手のようだ。
「馬鹿になどしていない、何か勘違いし続けている様だが、俺だって一端の高校生だ、年相応の趣味は共有できるさ」
丁寧に反論を返す魁魅に、城乃咲は「はぁ、さいですか」とそっぽを向いた。
統司の横に魁魅が座ると、魁魅はおもむろに口を開く
「それで、“言い出しっぺ”の姿が見えないようだが」
それは蒼依の事であろう、統司は「まだ来てない」と軽く魁魅に返答する
「全く、予定の10分前 最低でも5分前には来るのが常識だというのに、全くあいつは…」
そう苦言すると魁魅は軽くため息をつく。
やがて待ち合わせ時刻の5分前を過ぎた時、統司の携帯にメールが届く
案の定 蒼依は寝坊のようであり、集まった4人は各々呆れた様子をする
そしてマクドールを出発し、目的のカラオケ店へと向かった。
「暑い…」
城乃咲はそう声を漏らしながら、恵の隣で会話を始めた
その二人の後ろで、統司は魁魅と並んで後ろを歩く
統司は何気なく前の二人の服装を見ていると、この暑さによって汗が滲んだことで、恵の薄い服に張り付き、肌着の跡が見えたことに気づき、思わず目を逸らした。
カラオケ店はマクドールのすぐ近くであり、差程歩かずに到着する
店の前には既に2,3人並んでいた、夏休みの為早く来ないと部屋が満室になってしまうこともあり、予定は開店時間その少し前に決めていた、
その為、陽射しの下に数分の間 待機することとなった…。
やがて開店の数分前に聞き覚えのある声が聞こえた
「おーっす、霧海ぃ」
視線を声の方向に向けると、そこには長い前髪で顔の見えない少年がいた
「…あれ?なんで藤森(ふじもり)がいる」
統司は思わず声を漏らした
彼は藤森(ふじもり)風(ふう)牙(が)、統司のクラスメイトであり、統司の最も気の合う友人である
「いや、何でって、蒼依に誘われて来たんだけど…、あいつそれぐらい知らせとけよなぁ…、あ そうそう、あのバカはもうちょい掛かるってさ、開店時間過ぎに来ると思うぜ」
藤森は蒼依に対して苦言を漏らしつつ、蒼依の状況を教えた
「全くあのバカ後で殴る…」
陽射しの暑さでイライラが募っている城乃咲はそう漏らす、紛れもなく八つ当たりであり、蒼依が哀れに思えた。
一方 蒼依は家の玄関を出ようとした矢先、悪寒を感じていたのであった。
やがてカラオケ店は開店し、新たに藤森を含め5人は一室に向かう
そして部屋に入って1分ほどで、息を切らし 汗を垂らした蒼依が合流する
蒼依は部屋に着いてそうそうドリンクを一気に飲み乾し、アイスクリーム頭痛に襲われるのであった。
蒼依は新たにドリンクを入れなおし、6人全員が落ち着いてソファーに腰掛けると、おもむろに城乃咲が声を上げる
「それじゃあ!一学期お疲れさまでしたー!」
それは乾杯の音頭であり、少々タイミングがばらついているものの、緩い声でそれぞれ乾杯した。
乾杯をした後で、魁魅は統司に耳打ちをする
「なぁ、カラオケって乾杯の音頭を執るものなのか?」
『さぁね、俺も都会ではやる時もあったけどね、まぁいいんじゃない?』
統司の返答に「そんなものなのか」と魁魅は声を漏らしていた。
「さてさて、じゃあ誰が初(しょ)っ端(ぱな)歌うよ?」
部屋の冷房ですっかり復活した城乃咲は、高いテンションで仕切り始める
「じゃあここは言い出しっぺの俺から行くとすっか!」
ノリノリの様子の蒼依が声を上げると、そそくさと選曲し、マイクを取る
初めに流れた曲は、何と「国家」であり、一同爆笑する、勿論 魁魅も含めて。
歌い始めるまで真面目に歌おうとしていた蒼依もつられて笑ってしまい、その後もまともに歌えることはなかった。
「…、ホントあんたバカ!もうあたしが歌う!」
城乃咲は蒼依からマイクを取り上げ、選曲して曲が流れ始める
流れた曲は 数年前流行ったガールズロックであった
「本当、キノってこの曲好きだよね」
穏やかな笑みで恵が言うと、城乃咲は「へへん、あったり前でしょ!」と返し歌い始める
城乃咲は、声の音域は高くないものの、普段の様子から相まって声量が高く、皆のボルテージを上げていった。
「…ふぅ、じゃあ次は恵ね」
歌いきった城乃咲は満足した様子で、恵にマイクを渡す
「えっ!?…うん分かった!」
一瞬戸惑いつつも、笑顔で受け取り選曲する。
流れた曲はバラードであったが、これは最近流行りの激しめのバラードである
恵の声は、癒し的な高音域であったが 意外にも声量があり、原曲の良さが引き立ち、城乃咲の上げたボルテージを損なうことなく より上げて見せた。
「…ふぅ、じゃあ次は誰の番かな?」
『んじゃ俺行くわ』
手を挙げてアピールするのは藤森であり、恵からマイクを受け取り選曲する
流れた曲は、少し前に発売したゲームの主題歌であった
一応CM(コマーシャル)に流れたことで城乃咲や恵は「聞いた事がある」と声を漏らしていたが、何の曲かは分からないでいた、藤森は相変らずマイペースな奴であった。
藤森の声は、音程が定まっていないものの瞬間の声量は抜群であり、サビのシャウトで何とかボルテージを上げていた
しかし最後の長いシャウトで息を切らし、歌い終わった後はマイクを置いてソファに寄りかかっていた。
「…ではそろそろ行くとするかな」
テーブルの上のマイクを拾い、選曲を終えた魁魅が立ち上がり歌い始める
流れた曲は、最新の流行曲であるヴィジュアルロックであり、予想外の選曲に周囲はどよめいた
魁魅の声は、地声を軸に安定した音域であり、瞬間的な声量に少々頼りないものの、最新の曲に関わらず歌詞やアクセントを間違えることなく、流石と言ったもので、ボルテージを高めていった。
ふぅと一息つきつつ、マイクを置いてソファに座る
「…さて、そろそろ君の出番じゃないか?」
いつもより明るい調子で魁魅は統司に対して声を掛け、「ん」と統司は軽く返事を返す。
しかし統司がマイクを取る前に曲が流れ始める
この曲は、最新の女性ヴォーカルのロックであった、しかも高音域のである
「キノ、曲入れたの?」
恵は思わず城乃咲に確認を取るが、城乃咲は「違う、あたしじゃないよ?」と否定する。
誰の選曲か探そうとすると、一人返答する
「いや、さっき俺が入れた」
それはマイクを取っている統司であった。
魁魅が歌っている間に、手早く曲を入れていたのである。
「おいおい、お前コレ歌えんの?」
統司の声質は普通より高めであっても、やはり男性特有の声の癖が存在する。
蒼依は心配混じりに茶化して言った、しかし統司は冷たく言い返す
「舐めるなよ、カラオケは都会(むこう)で十八番の趣味で特技だったんだぞ」
そう言い終えると軽く咳払いし、「あーあー」と声の確認をする。
そして統司が歌い始めると、一様に目を丸くし、すぐにボルテージが高まった
…統司の声は、紛れもなく女性の声であった、しかも原曲にとても似通った声質で、音程も安定している
そして魁魅に引けを取らず、歌詞もアクセントも忠実、歌詞の存在しない部分の模倣も行い、ボルテージの波を巻き起こす。
統司が歌い終わると、仲間内にも関わらず拍手喝采を起こしていた
「すっげー!!何これ!!お前何!!そんな特技あったのかよ!」
興奮したまま、蒼依は統司に聞きただす
「…ふう、まぁな、言ったろ俺の特技だって?」
一息つきつつ、したり顔で蒼依に言い返す
「もう霧海アンタ最高っ!!」
『すっごい、統司君すごいよ!』
城乃咲や恵も称賛しており、「おう」と統司は言いつつ少々照れていた。
やがて蒼依が改めて歌い始めたが、統司の後にガールズポップをネタとして歌ったばかりに総スカンを受けるのであった。
一方で、他の鬼焚部員は夏休みをそれぞれにどう過ごしているのだろうか…。
鬼焚部部長 詩(し)月(づき)鬼(き)央(お)、
彼は特殊な出で立ち、まるで修行の様な恰好で更にずぶ濡れになった状態で、山へ続く階段を降り、自宅へと戻っていた
やがて服を脱ぎ軽装に着替えると、自室へと戻る。
「あ!やあおはよう鬼央!」
陽は登りきった時間であるが、屈託のない笑顔で挨拶するその少女は、鬼焚部副部長であり、一歳年下の幼馴染 月雨(つきあめ)魃乃(ばつの)であった。
「月雨じゃないか、今日はどうしたんだ?」
落ち着いた様子で月雨に質問をし、卓の向かい側に腰掛ける。
「うん!帰りに近くを寄ったもんだから、ついでに一緒に宿題やろうと思ってね!」
満面の笑みで詩月の質問に答える月雨に、やれやれと微笑で返事を返す
「そうか、…調度良い、一人では苦戦しているところがあってな」
そう言い詩月は、机から勉強に必要な道具を取りだした。
…静かな和室に、紙とペンの擦れる音だけが伝わってゆく。
やがて、詩月は月雨に対してふと声を掛けた
「そういえば月雨、昨日もだったんだろ?体の調子は大丈夫なのか」
何の事かは分からないが、月雨は何かの用事を行っているようである。
月雨は質問され、顔を上げて緩い表情で返答する
「うん!大丈夫だよ?まあ相変らず体が堅くなっちゃって動かし辛いけど、もう何度もやってるから慣れてる慣れてる!」
そう言いながら肩をグルグル回すが、すぐに「イテテ」と呟いた。
「それを言ったら、鬼央もついさっきまでやってたんでしょ?今年がその時期だってのは知ってるけど、大変だねぇ?」
『まぁお互い様と言った所だな』
慣れた様子で、詩月は月雨に言葉を返す
どうやら各々に事情があり、それを互いに理解している様だ。
再び部屋が静寂に包まれるが、今度は差程時間を空けずに 詩月が口を開く
「ふぅむ、…すまない月雨、分からない所があるのだが、頼めるか?」
『うん?何の教科だい?』
月雨は返事を返しながら立ち上がると、詩月の隣に寄る
「数学をやっているが、ここのところだが…」
教科を聞いて月雨は嫌な顔をする
『うげ、数学を聞かれてもねぇ…、あ でもココはこの間やったところだから分かると思う』
月雨はそう言い「よいしょ」と呟きつつ、詩月の胡座(あぐら)の上にちょこんと座った
「…で、ここに方程式を当てはめて、さっきの答えを使って…こうやれば、 多分この答えかな?」
大柄な詩月に 小さな月雨が密着していると、まるで兄弟のようであり、もっと言うと親子の様な光景であった。
「ところで月雨よ」
『うん?何だい鬼央?』
疑問を問いかける詩月に、顔を上げ無邪気な上目遣いで詩月を見る月雨。
「何故二人の時、こういう静かな状況だといつも俺の膝に座るんだ?」
詩月の質問に、屈託のない満面の笑顔で月雨は言い返した
「だって、ここが凄く落ち着くから!」
その答えに詩月は受け止めきれず少々怯んでいた。
「一応 鬼焚部の皆は後輩だし、後輩の前ではしっかりしなきゃと思ってね…」
月雨の言葉に詩月は思わず赤面してしまい、顔を天井に向ける
「うん?どうしたの鬼央?」
月雨は純粋な眼差しを詩月に向け、疑問を投げかける
「…いや、何でもない、いつも助かってる、ありがとうな月雨」
穏やかな表情で月雨の頭を撫でる詩月、月雨も小さな子供のように「えへへへ…」と、少々照れながらも笑顔で撫でられていた…。
…時は夕暮れ。
町内にある大型の本屋に、一人の少女は 隅にあるコーナーで本を立ち読みしている。
その姿は夏休みにも関わらずセーラー服姿であり、彼女は普段通りの様子であった。
大型の禍々しい表紙の一冊を、平気な顔して読んでいる少女は 篠(しの)森(もり)月裏(つくり)
冷徹な目付きを大きな丸眼鏡で覆い、長めの黒髪をポニーテールに纏めている、そんな彼女は暗い雰囲気を纏わせており、人を近寄せないどころか 視界に留めさせない強い気配であった。
大型の本を黙々と読み進める篠森は、「…これは知らない」と一言呟くと、本を閉じ、会計へと向かってゆく
本屋には他にも客はいるが、彼女に纏わる特有の空気により、まるで篠森が存在しないとでもいうかのように誰も気に留めていない、そんな人たちを篠森はスイスイと軽く避けて進んで行く。
会計に着くと本をカウンターに置き、懐から“がま口財布”を取り出すと現金を渡す。
「…相変らずじゃね、つくりちゃん」
カウンターの男性が突然 篠森に話しかけた
その男性の見た目はまだ年老いた外見ではないが、その口調はオジサンそのものである、おそらく男性の年齢は口調に見合ったものなのだろう。
「…ええ、未知の物は私の興味の対象だから、無知はいずれ罪になるから」
意外にも小慣れた篠森の口調は、その男性と知り合いである事を示していた。
「まぁつくりちゃんのおかげで、この商売やっていけているのじゃから、本当にありがたいわい」
『…いえ、私は得る物があるからここに来ているだけ、それにこんな大きな店をやっていて、その意見はどうかと思うわ』
篠森のきつめの返答に、おじさんは軽く笑いながす
「ははは、たしかにそうじゃの、まぁいつも贔屓(ひいき)にしてもらって助かっとるわい、まいどどうも」
月雨はおじさんに対し微笑を返し、店を出る。
外は既に夕暮れではあるが、昼間の熱が残り未だに暑さを保っていた。
しかし篠森は相変らず、汗一つかかずに平然と歩いていた。
やがて人込みを歩いていると、普遍的な少年とすれ違い、篠森はその姿を目で追った
そして目で追った少年は既に人込みに紛れており、篠森は少年を注目することなく歩き続ける。
その際に篠森は呟いていた、何を言っていたかは定かではないが、「了解」と言っていたようにも見えた…。
…日は暮れて夜。
統司達6人はカラオケ店を出て帰路に着いていた。
「いやー、しっかし霧海スゲェな、よくあんな声が出せんなお前」
喉を潰して荒れた声の蒼依が統司に話しかける。
「まぁ俺の唯一の特技だしな、つっても先天的なものだけどな」
統司の発言に疑問を浮かべる蒼依に、統司は説明をする
「俺の母親が特殊な声域でさ、“f分の1の揺らぎ”っていうやつ みたいなんだけど、それに近いのを遺伝しているみたいでね」
そう説明していると蒼依は声を上げる
「いや、何にせよスゲェよ!」
そう言った後、蒼依は統司に肩を組む
「んでさ、前から考えてた事があってさ、それにお前を加えようと思ってさ」
声を抑える蒼依に対して、統司は肩を組んできた事に抵抗する
「暑苦しい、離れろ」
『まぁ聞けって』
蒼依は統司に、今度は耳打ちを始めた
「なぁ、一緒にバンドを組まねぇか」
『はぁ?』
蒼依の思わぬ発言に、統司は声を上げる
「だから前から考えてたって言ったろ?いやマジでお前がいたらイケるって、ちなみに藤森も一緒のつもりだぜ」
呼ばれた気がしたのか、藤森は「うーっす」と軽く声を掛けてきた。
「まぁ夏休み中に考えてくれよ、どちらにせよやるとしたら お前はボーカルだし、2学期始まってからでも練習は遅くないだろ」
蒼依の言葉を受け取り、統司は少し考えてから返答する
「…まぁ考えておくよ」
『おう、サンキューな!』
そんなやり取りの後、会話を交えつつ歩き続けているとバス停に着き、統司・恵・城乃咲と、蒼依・魁魅・藤森の3人ずつに分かれていった。
都会側の3人も、別れた後すぐに各々の用事で別れて行った…。
蒼依が帰路に着き、やがて自宅の玄関を開けようと思った矢先
「おいっす!!」
声と共に強く背中を叩かれ、蒼依は すっ転ぶ。
「痛ぇ!何すんだ城乃咲!」
その名の通り、蒼依の振り向いたそこには、笑いながら手をヒラヒラと振る 城乃咲の姿であった。
「お前帰ったんじゃなかったのかよ…」
呆れつつそういう蒼依に、城乃咲は返答する
「ちょっと用事があってさー」
何か裏がありそうな笑みで言う城乃咲を、蒼依は勘繰った
「俺に用事?借りたCD返しに来たとか?」
しかし城乃咲は変わらずに続ける
「あーCDもそうだけど、アンタに聞きたい事があって」
『聞きたい事だぁ?宿題ならまだ手ぇつけてねえぞ?』
残念な事を言い返す蒼依に、城乃咲はすぐに突っ込む
「アンタに勉強教わる位なら、恵に聞いてるわよ!…んで、聞きたい事ってのは、アンタら楽しそうな事考えてるみたいだから、一体何かなーって」
その言葉に、蒼依は目を泳がしつつ返答する
「…誰かに聞いたのか?さては藤森とかか」
しかし言いきる前に城乃咲が言い返す
「いや、だから本人に直接ーって、…つーか藤森ってあんな外見のオタクの癖に、いつもケロッとした態度で口が堅いじゃない」
城乃咲の言葉に、蒼依は少々挙動不審になる
「い…いや、何も知らねぇよ」
怪しい様子の蒼依に、城乃咲はスッと近寄り、すかさずフェイスロックをかけて尋問し始めた
「嘘つけやぁ!ほら観念して喋れぇぇぇ!!」
『イテテテテ!!わ、分かったから放せって!!』
観念した蒼依は、仕方なくバンドの予定を話し、統司を誘った事を白状した。
「…それ、あたしも入る!」
その言葉に蒼依は「はあああああ!?」と大声を上げる
「…何?あたしが入るのに文句でもあんの?」
腕をストレッチしつつ、城乃咲は脅迫めいた言葉を返す
「…いや文句は無い!確かに人数はまだ集まってなかったけどさ、お前楽器出来んのか?」
その質問に城乃咲は即答した
「今まで楽器の経験は一切無しっ!! …あ、授業以外でね?」
その言葉に蒼依は呆れたが、間髪いれず城乃咲は言った
「でも今から根性でやればなんとかなるっしょ!…それにそんな楽しそうな事を私抜きでやるなんて…」
妙に言葉を伸ばす城乃咲に、蒼依は疑問を浮かべたが…
「…これからあんたを一生殴り続ける」
その城乃咲の脅迫に、蒼依は深くため息をつく
「…分かったよ、楽器も余りを貸してやるからさ、その代わり部活があるからって言い訳はねぇからな?」
その言葉に城乃咲は一瞬パァッと笑顔になり「ニヒヒッ」と笑みを浮かべた
「あったり前でしょ!」
そんな城乃咲の様子に、蒼依はやれやれと 呆れながらも微笑する。
…夜。
統司がパソコンをやっていると、突然携帯が反応する
携帯を開くと、宛名は恵からであった。
件名:お疲れ様
今日はカラオケ楽しかったね
それにしても統司君の特技ってとても意外だった
とても歌が上手かったし、流石都会人だね
また機会があったら一緒にカラオケに行こうね
本文を読んだ統司は、慣れた手つきですぐに返信した。
件名:Re:お疲れ様
今は「元」が付くけどね
歌は恵もかなり上手かったよ、感情が伝わってきた感じだし
特に夏休みは予定もないし、部活がなければいつでも良いね
何ならまた明日言っても良いくらいだ
それじゃあまた今度、会わなければ合宿の日かな
統司は携帯を閉じ、仰け反るように椅子に背持たれる
そして一息つき 携帯を横目で見た後、再びパソコンに視線をやった。
夏休みは始まったばかり、神魅町の魁魅高等学校の夏休みはまだまだ続く…。
鬼の人と血と月と 外伝1 終
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鬼の人と血と月と 外伝1話 です。 第5話と第6話の中間の話です。 一部9話へと関わっています。 外伝なので本編の流れのオマケ的な話です。 |
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5.5話 外伝1話 バトル 鬼人 現代 部活 高校生 田舎 学校 学園伝記風 | ||
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