ログ・ホライズン コミュ障奮闘記
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四話

 

ほぼ巻き込まれれ形で始まった、ミノリとトウヤにとっての初の対人戦。とはいえレベル差があるためにほとんど見学なのだが…

 

「ラフティングタウント」

 

戦闘開始直後、すぐさま俺はラフティングタウントを使用する。他の攻撃特技にヘイト上昇の効果を付与するスキル。こうすることで俺が暴れればそれだけ俺にヘイトが集中する。

 

さて、下準備は整った。切り込んで行く時はいつもこの技だ。

 

「ワイバーンキック!」

 

音をも置き去りにした、弾丸のような蹴りはその大盾に防がれていた。だが完全には威力を殺せなかったようで、吹き飛ばされていた。一気に畳み掛けをかけようとするが相手もそう甘くはなかった。

 

「なめるな!」

 

あと少し、というところで邪魔が入る。後ろから振り下ろされる大剣に追撃を諦め、ファントムステップで包囲から抜ける。

 

振り下ろされた大剣は残像を切り裂くにとどまる。その一瞬であたりの状況を把握する。

 

現状、アイツはまだ復帰できていないようだ。そして、もう一人もカエデによって完全に遊ばれていた。これならばいけるな、そう判断を下す。

 

空振りに終わった剣撃、巨大な大剣をふるった反動で動けないソイツにお返しの一発を浴びせる。

 

「タイガーエコーフィスト!」

 

ダメージを与えるだけではなく、時間差でダメージを与えるスキル。また、それまでの間は相手の防御も低下させる付与効果を持つ。

 

ここで一気に畳み掛ける!

 

「エアリアルレイブ!」

 

低姿勢からの打ち上げ攻撃。これによって一瞬、無防備な姿を中空に晒すことになる。

 

格闘ゲームなんかであるコンボ始動技。まさしくそれだった。アイツもようやく復帰したようだが、まだ状況を把握できていない。奴が動く前に、決める。

 

さあ、ショータイムだ!

 

「ライトニングストレート!」

 

青白い雷を纏った拳が相手に突き刺さる。単純な物理ダメージに加え、雷の属性ダメージも加わった一撃。だが、まだ終わらない。終わらせなどしない。

 

「トリプルブロウ!」

 

強烈な一撃を左右の拳で叩き込み、そして右トドメのフック。既に相手のHPは五割を切っており、コンボの効果もあってあと一、二発で終わらせられるだろう。そろそろフィニッシュだ、というところでさっき吹き飛ばした一人が駆け出し、ミノリ達の方へと向かっていた。…どうやら、潮時らしいな。

 

カエデの方も手一杯のようだし、なんとか応戦しているがこれ以上はミノリ達が危ない。

 

咄嗟に予定を変更し浮いてる守護戦士を両手で掴み、全力で投げる。グリズリースラムという投げ技で、間合いを外すのに使うのだが、擬似的な飛び道具としても使える。

 

こうして背後から迫る味方に気づかずミノリ達に剣を振りかざしていたが、突如襲った衝撃に体勢を崩した。

 

今、二人は重なっている。それはつまり、まとめて始末するチャンスだということ。

 

「ワイバーンキック!」

 

これで二度目の蹴りは、今コンボを決めていた奴だけでなくミノリ達のところに向かった奴も巻き込んでいた。散々にやり込められた二人の注目は完全に俺に向いていた。

 

武闘家のスキルの中でも、ワイバーンキックに主軸に置いたビルドをキッカーと呼ぶ。移動手段としてそれを用い、戦線を縦横無尽に駆け巡るのだがいかんせん、パーティでの運用は難しい。なぜならその突出した機動力がパーティーの動きを乱してしまうからだ。前に出過ぎてしまったり味方を置き去りにしてしまったり…

 

そんなわけで、このビルドの者は大体嫌われる。

 

だが、そんな奴らの大抵はこの技を使いきれていないだけだ。ほとんどの者が基本的なビルドを使っているが、上位ランカーであればキッカーのビルドも多く見かける。

 

基本に忠実に、つまりは前に出過ぎないようにと意識するあまり武闘家の有する機動力をないがしろにするのが三流。その機動力を持て余しているのが二流。

 

そして、その機動力を存分に発揮するのが一流の武闘家だ。

 

その卓越した機動力は戦線を崩壊させかねないほど危険なもの。だからと言って使わないのも宝の持ち腐れ。そのバランスを見極めるのが熟練者だ。

 

余りある機動力をものにする胆力と判断力を持った時、武闘家は大きく様変わりする。

 

常に前線に立ち、敵を打ち据え、味方のフォローをする。そんな八面六臂の活躍は、普通ならば不可能だ。だが、その卓越した機動力が不可能を可能とする。攻撃力では武器攻撃職には及ばないが、その全体をフォローする動きはこのビルドでしかできない。

 

単なる前線での壁役から、全体を支配する統括者へと変貌する。

 

……もちろん、これを可能にしたのはあの人の教えがあったからだ。

 

 

 

「一%刻みで、三十秒先かな?」

 

それがあの人の実力。フルレイド、六人パーティを四つ合わせたもので二十四人のMPを一%刻みで管理し、三十秒先を読む。

 

全力管制戦闘(フルコントロールエンカウント)と呼ばれる技能、いや、あの人だけの神業だ。絶え間なく変化する戦場で次の行動を予測するのも困難なのに、あの人は三十秒先を見通しているのだ。

 

そして、それを俺なりにアレンジしたものがこの戦闘スタイル。前衛として敵を翻弄し、全てをコントロールする様は一種の全力管制戦闘と言える。

 

それでもあの人の領域には遠く及ばないが、前衛職の俺ならばそれで十分だ。

 

さてと、今はこの戦闘を終わらせるだけかな。

 

「ほら、かかってこいよ」

 

さらなる挑発によって、三人の注意は完全に俺に向いた。

 

「クソ、カッコつけやがって…」「アァー、コロス。ゼッタイコロス!」「リア充爆発乙」

 

注意って言うか殺意だけど。多分、コイツらも現実ではいろいろ苦労してんだろうな…ちょっとだけコイツらに同情した。だけど、俺に殺意が向く、ということは他を疎かにすること。

 

そう、暗殺者であるカエデを完全に忘れていた。武器攻撃職でも最高のダメージを叩き出す暗殺者を、だ。

 

「こっちにもいるからね☆」

 

音もなく背後に回り込み、鮮やかな一撃が放たれる。刀の軌跡を置き去りにした斬撃。黙視することもかなわない一撃が放たれる。

 

アサシネイト。暗殺者のスキルの中でも最高の威力を持ったもの。

 

音もなく突き立った刀が守護戦士のHPを減少させていく。不意打ちでもろに喰らえば、HPの減少した奴らには耐えられないだろう。

 

それほど待つことなくソイツのHPは全損した。つまりは『死』ということだ。

 

光を撒き散らしながら、アイテムと金貨を残し消えて行った。恐らくは、ミナミの大神殿で復活しているだろう。……にしてもエグいな、こうホイホイ人を殺せるとか…素質でもあるんじゃねえか?

 

この前あれだけ暴れていたコーキだが、誰一人として殺していなかった。全員痛い目にはあったがHPは残っており瀕死の状態だった。

 

まぁ、それはいいとして。これでニ対ニ。数の上での優位もなくなったし一人は瀕死だし楽勝だーーーー

 

 

 

 

 

「いたぞ、あそこだ!」

 

そう思ってる時期が、俺にもありました。

 

見た所敵の増援は十。総勢十三人に追われてたってなにしたんだよ、カエデは?

 

なんてふざけている場合ではない。はっきり言って状況は最悪だ。二人で相手取るには数が多過ぎる。ミノリの補助があったとしても三分持てばいい方だ。逃げ出そうにも、ミノリとトウヤがいてはそれも厳しいだろう。まだ移動系特技を扱いきれてないし、街までMPが持つかどうか…

 

万事休す。

 

もうここは、アレをするしかーーー

 

正に死力を尽くそうとした時、救いの手は差し伸べられた。コーキはこういう時の悪運だけは昔から良かった。

 

「あれ、もしかしてコーキじゃないですか?」

 

そう、ここで俺の現実での友が偶然にも通りかかったのだ。大手の戦闘ギルドのギルマスで、ちょうど訓練にでもきたのだろう。

 

「ソウジロウ!」

 

ありったけの声で友の名を叫んだ。

 

今の状況と、俺の叫びで大体の理由は察したのだろう。後ろにナズナさん達を引き連れ、すぐに駆けつけてくれた。その顔を綻ばせながら。

 

「へぇ?コーキが初心者にものを教えてるのもそうだけど、女の子を助けてるなんてね」

 

「うるせえ。こっちにもいろいろあんだよ」

 

そんな乱雑な返答をする。さっきから十二人分のリア充爆発しろをもらってんだ、そんな気分じゃないんだよ!

 

「まったく、つれないなぁ…でも、まぁ」

 

他愛もない会話の後、すっと細められた目にはどんよりとした暗い影がさす。早速スイッチが入ったみたいだ。

 

「友を傷つける奴は…切り捨てる」

 

その雰囲気に、ミノリとトウヤだけでなく、ナズナさんを除いたソウジロウの取り巻き達をも恐怖させた。…カエデ?こんなくらいでビビらないから。いつでも平常運転だよ、アイツは。

 

…とにかく、このタイミングで西風の旅団に出会えたのは本当に良かった。心強いってのも確かにあるけど、他にもいろいろある。

 

まず、ここには茶会出身のソウジロウとナズナさんがいる。職業はそれぞれ武士に神祇官(カンナギ)。トウヤにとってもミノリにとっても学ぶことは多いだろう。特にトウヤは同じ刀の使い手だ。

 

「さて、誰から切り捨てようか?」

 

こうなってしまったソウジロウはもう俺達には止められないから置いとくとして。これで数は十四対十二。数の上ではこちらの優勢、その上こちらは戦闘系ギルドのメンバー達。相手は装備的に見てもこちらを上回るとは考えにくい。

 

数の上でも、質の上でもこちらが上回っており、勝ちは決まったようなもの。それに気づかないほど相手もバカではないらしく、素直に逃げ帰っていった。

 

「後で、後悔するなよ…」

 

そんな嫌な言葉を残して去って行ったのだった……

 

去り際に見た情報だったが、奴らの所属するギルドは全て《plant hwyaden》となっていた。

 

どっかのギルドの差し金か…

 

この時はその程度にしか思っていなかった。だが、今後深く関わっていくことになることを、俺はまだ知らなかった……

 

 

 

 

 

 

 

そんな微妙な終わり方をした戦闘の後、俺達は西風の旅団に混じり訓練をしていた。

 

トウヤは真っ先にソウジロウの元に行き、教えを受けに行った。ミノリの方もナズナさんの元へ行き、俺はというと…

 

 

 

「えっと…私に戦闘のこと教えてください!」

 

「待って、私が先よ!」

 

「いーや、ここは同じ武闘家のアタシが…」

 

完全に包囲されていた。ソウジロウと話している時から視線は感じてたけど、なんでこんなに来るんだよ!?

 

「やーねえ、あのぼーやはアタシが相手をしてあげるんだから!」

 

明らかに女の体ではない厳つい体をした男?の言動で身体中に悪寒が走る。アイツはヤバイ。絶対にあっち系だ。相手っていうのも違うニュアンスだろ、アイツの場合は!

 

「ええい、こうなったら決闘よ!勝った者がコウ様の教えを請うことができる、それでどう?」

 

異議なし!!!!

 

俺の人権は完全に無視され始まった女の闘いを尻目に、俺はその輪の中から抜け出した。この場にいたら巻き込まれてしまう。そう思い、人の輪から離れていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ」

 

近くにあった石に腰掛けようやく腰を落ち着けることができた。いろんな意味で、今日は本当に疲れたな…

 

初めての料理に、面倒ごとに巻き込まれて、たくさんの人に囲まれて……

 

『疲れた、めっちゃ疲れた…』

 

襲い来る疲労感に思わず溜息を吐く。相変わらず、今日という日はめんどうだ。

 

『だけどまぁ、ちょっとは楽しかったかな。こういうのも…』

 

偉そうに言えたことではないけど、こうやって人と接するのが以前ほど苦ではなくなってきていた。

 

『これも、きっとーーー』

 

そんな時だった。誰かから念話が入ったのは。

 

誰からだろう?そう思い確認した時、目は見開いた。

 

そこに記されていた名前はーーー

 

 

 

 

シロエ

 

 

俺の憧れの存在だった。

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あとがき

駆け足での更新になってしまいましたが、これで今年の投稿はおしまいです。

来年もお付き合いしてくださると嬉しいです。

 

それでは、良いお年を!

説明
今年最後って言うのと、明日が投稿できないってことで今日投下します。
いつもより誤字とか多いかもだけど気になさらず。

それではどうぞ!
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