真・恋姫†無双 侍臣墜遇、御遣臣相偶〜第六席〜 |
第6席
「これ以上力を与えてはいけないな」
庶侖が呟いた。何進のことではない。彼女に取り入って、洛陽に居座っている諸侯のことだ。
特に、袁紹、孫堅、曹操である。
庶侖は距離がかなり縮まっている一刀と風鈴を見た。
軍略の指導なのか、いちゃついているのかわからないが、庶侖は邪魔しないように部屋を抜けると、例の賄賂が隠されている部屋に入り、隠して持ち運ぶにギリギリの重さの金を引っ張り出した。
屋敷を抜けると、まっすぐ、宮中に近い遊郭の女主人にすべて渡して、最も奥の一部屋を3日ほど借り切った。
「ああ、女はいらないよ」
庶侖はまだ顔をほくほくさせている女主人に言った。
「あら、左様でございますか」
いくら大枚叩いたとはいえ、人気のある遊女を何人も連れて行かれたら商売にならない。
金を出して、部屋だけ借りて、商売道具は持っていかない庶侖は、ここにとってはなかなか気前のいい客なのである。
さて、うかうかしていられない。何進はすでに動いている。だが、2年も前から仕込みをしてきたこちらが先手なのは言うまでもない。
勝てる――庶侖は懐の中の小さな鍵を弄び、小さく笑った。
「瑞姫が手紙をよこしてきたと?」
何進は宮中からの手紙を受けとった。
何皇后が相談したいことがあるというのだ。
「罠ではなかろうか?」
妹は滅多に弱さを見せない、むしろ、何進にあれこれと指図するほうで、妹が何進にものを尋ねるなどかつてないことだった。
夜に諸侯の前で宮中に出向く旨を伝えたら、助言は何もなく、曹操に、「くれぐれも警戒を怠るな」という、わかりきった警告を受けるにとどまった。
残念ながら、これは庶侖の罠であった。
宮中に入った途端に門が閉められ、10数人の刺客が何進を取り囲んだ。
「おはようございます、大将軍。清々しい朝になりそうですね」
「張譲!何の真似じゃ!」
庶侖は巨大な肉切り包丁を出していった。
「肉を切り分ける手順は?本職の貴様ならわかっているだろう?」
何進の顔はすでに青く、足は震えていた。口の端からは汚物が滴り、目には涙が浮かんでいた。
こういう時、すでに去勢された庶侖は便利だった。大概の男であれば、牢にでも閉じ込めておいて慰み者にするだろうが、その点、庶侖は無駄に生き伸ばしてのちの憂いになることはなかった。
庶侖は何進の襟元に手をかけ、一息に引き裂いた。
「止めろ!下種が触れていいものではない!」
何進の怒りはさらに悪い方向に裏切られた。肉霧脳帳を振り上げた庶侖は、何進の右の乳房を切り落とした。
声にならない悲鳴を上げたが何進はまだ生きていた。
今度は左の乳房が落ち、何進はさすがに気を失った。
「……つまらないな。残るを八つ裂きにせよ!」
何進の四股と首は胴体から離れ、最後に庶侖が心臓を突き刺し彼は何進の首だけを引っ掴んで、趙忠を呼んだ。
「張譲様、どうなさっ……ひっ!か、何進殿の首じゃないですか!」
「そうだ。奴は死んだ。だが奴の手下は多い。ここは一度逃げよう。お前も来るんだ。ここにいてはいずれ殺されるぞ!」
愚図ほど生に対して執着するものである。殺されると聞いては逃げ出さないわけにはいかない。走りも大して速くないので、庶侖としては心配ではあったが、上級の身体を持ちながら、子を宿すことなく死なすのは可哀想なので(絶対に外れぬ例の鍵は庶侖が持っているのだから)手を引っ張るより背負ってたほうが速いと、趙忠は庶侖に負われて逃亡した。
姉はニートの極みであったが、白湯は時節を心得ていた。
外で騒ぎがあったと見るや、すぐさま大きな剣を引き抜いた。
彼女は庶侖を信じていたこともあるが、何進の転嫁になれば自分は消されるだろう危惧していたので、どのみち十常侍に従うしかなかった。
姉のことは気にはなるが、専ら耳を貸そうとしないし、何進のことを考えれば、あまり更生させようとするのもまずかった。
外の様子を見ようと扉に近づいたのと、庶侖が無礼にもバーンと扉を開けたのはほぼ同時であった。
「白湯様!お逃げください!私どももお供いたします!」
供する、と言われても、おぶった趙忠を右手で支え、何進の首が左手に握られている庶侖の姿は、とても助けになるようなものではなかった。どうやって扉を開けたのか。、白湯は笑いながら首をかしげた。
「じゃあ、庶侖が何進を討ったんだもん?」
「はい。漢室の膿は先ほど流れ出ました。問題は、漢室の外にいる病の蟲」
白湯は剣を握ったまま、庶侖の前に立って走り出し、振り向きざまに叫んだ。
「その何進の首は捨てておけばよい!」
庶侖は中庭に首を放り出して、白湯の後を追った。
「門をお開けなさい!何進大将軍は如何したのです?私は袁本初ですわよ!早くお開けなさい!」
宮中の門の前では、袁紹がしきりに叫んでいた。
「攻城兵器はまだですの!?」
ようやく丸太が届けられた。
大きな丸太が何度も門を打ち、門が崩れると諸侯らは隈なく宮中を探し回った。
しばらくして、袁紹の前に、何進の首が届けられた。
「大将軍!なんということですか!皆の者!十常侍側の者どもを皆殺しにするのです!」
しかし、陛下は無事であったが、張譲と、趙忠、そして陳留王劉協は見つけることができなかった。
宮中を抜けだした庶侖は、一刀と風鈴を探した。
彼らは庶侖が借り切った遊郭の一部屋に二日ほど隠れていた。
ここは洛陽の隅にあるので、門に近い。
城門兵にはすでに賄賂を贈ってある。
見つけた。
剣を握って、風鈴の手を引いて走ってくる一刀を見た。
一刀も、別に風鈴の手を引っ張る必要はないのだ。風鈴とて十分に走れる。
ま、これを素でできるのが一刀の魅力なのだろうが。
「庶侖!こっちでいいのか!」
一刀が怒鳴った。
「ああ。その門を抜けて、まっすぐ進んだ森に逃げ込む。風鈴の手は離していい。彼女も十分に走れる。それよりこいつを頼む」
庶侖は一刀の背中に趙忠を乗せた。
そして懐の鍵を一刀のポケットに押し込むと、門兵に会釈した。
かなり目上の者に頭を下げられたというのに、兵はじっと動かなかった。
白湯が睨みつけても、膝すらつこうとしない。
庶侖はすっと白湯の背中を押して外に出した。
兵は庶侖に言われて、彼らを空気のように、見えないものとして扱っていた。
見てない聞いていない気づいていない、というわけだ。
一見固まっているように見えるが、よく見ると殺される直前の何進のように青く、震えて、冷や汗を流していた。
そんな兵に、庶侖は最敬礼をして、門の外に走り出した。
「まったく失礼な奴だもん!」
森に逃げ込んだ白湯はかんかんに怒っていた。
「そうお怒り給うな。皆を安全に逃がすために、僕らを見えないものとして扱うように言ってあったんですよ。さ、こちらです」
庶侖は森の中を更に深くまで進んでいった。
途中出くわしたイノシシを狩って担いでいく。
深く、さらに深く。
森に入ってくる光がなくなりかけるほど日が落ちた時、目の前に一軒の庵があった。
庶侖は扉を開け、先に入っていった。
「ああ、お疲れ様です」
中から、ちょうど鍋を火にかけた楼杏の目が庶侖から白湯に移り、ひざまずいた。
ちなみに視線が移る過程で、一瞬一刀に焦点を合わせたのを風鈴は見逃さなかった。
「陳留王、こんな狭い庵に、まさか……」
白湯は庶侖を見上げた。
「あれ?ここは庶侖の家じゃなかったもん?」
「ええ、僕の庵のはずなんですが……」
楼杏が洛陽にある庶侖の屋敷に入っていった日から、中立を保つのが難しくなってきたので、こちら側につき、数日前からこの庵に住み込んで片付けや掃除をしていたのだ。
初めは渋っていたが、風鈴が一刀のことを持ち出すと、あっさりこちらについてしまった。
「皇甫嵩は庶侖の仲間だもんね。朕の真名、白湯を預けるんだもん」
楼杏の頬に手を当て、白湯が言った。
「ち、陳留王の真名を……恐れ多いことでございます。で、でしたら、私の真名は楼杏と申します」
さすがに寡黙を保つことはできず、ややしどろもどろになったが、なんとか楼杏も自分の真名を預けた。
白湯は一刀たちを見渡すと、剣を抜いて言った。
「朕からの命令である。これからここに長く隠れることになるかもしれぬ。たった今から、ここでは堅い言葉とか一切禁止するもん。仲良くやるもん」
そして、剣先をまず庶侖に向けて、そこから体をぐるりと一回転させ、全員の顔に剣先を突き付けた。
「「「「「はっ!」」」」」
5人が返事をすると、白湯は大きく剣を振った。
「違うもん!その返事は違反だもん!」
う、と5人は固まった。とはいっても剣を振って権を振る白湯の威厳はどうしても皇族のそれである。
しばらくして庶侖がまず返事を返した。
「わ、わかっ、たよ」
白湯はうなずいて、一刀のほうを向いた。
「わかった。ごめん」
白湯は微笑んだ。が、残る三人はどうしても砕けた返事をすることができず、
「はい」で白湯はようやく妥協した。
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前の投稿からひと月たってしまいました。 受験生ともなると、うかつにパソコンをいじれないんですよね。 とりあえず、何とか今年中に投稿したい!現在12時55分! キャッチコピー省略!間に合ええええぇぇ! 追記※ 間に合わなかったか……。あけましておめでとう。 |
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