真・恋姫†無双 外史 〜天の御遣い伝説(side袁術軍)〜 おまけ:初日の出
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『ぬ、主様・・・い、今・・・なんと・・・?』

 

 

 

うそじゃ・・・主様がそのようなこと言うはずがないのじゃ・・・

 

 

 

『聞こえなかったのか?オレはもう君にはついて行けない。君の横暴な生き方にはもううんざりだ。オレは今から袁紹のところに行く。

 

それで、オレが袁紹に天下を取らして見せる』

 

 

『れ、麗羽姉様のところになど行かせぬ!主様はずっと妾の傍にいてくれると言ってたではないのかえ!?』

 

 

 

そうじゃ・・・主様は言うたではないか・・・劉備軍から守ってくれた時、妾をずっと守ると・・・妾に天下を取らせると・・・

 

 

 

『言葉の通じないやつだな((袁術|●●))、いつの話をしてるんだ?そんな昔の話なんてもうどうでもいい。オレは今の君にはもう興味が

 

ないって言ってるんだ』

 

 

 

そ、そんな・・・主様は、もう妾のことが嫌いになったのかの・・・もう妾のことを真名で呼んではくれぬのかえ・・・?

 

 

 

『い、嫌じゃ・・・嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ!主様!妾を捨てないでたも!』

 

 

『諦めるんだな。もう決めたんだ。君みたいな我が儘なちびっ子よりも、優雅で美しい袁紹のもとに行くんだ。おっぱいもデカいしな』

 

 

『なっ・・・!?』

 

 

 

麗羽姉様が優雅で美しいじゃと!?お、おっぱい!?

 

 

 

『もう七乃や紀霊たちには別れを告げた。まぁ、別れも告げずに去るよりはましだと思うんだな。じゃーな』

 

『ま、待つのじゃ!待っておくれ主様!!妾を、妾を捨てないでたも!!主様ぁ!!主様ぁあああああ!!!』

 

 

 

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「ぬ゛ズィざばぁアアアア!!!!!!」

 

「ど、どうしたんですかお嬢様?さっきからうなされてたみたいですけど、怖い夢でも見ましたか?」

 

 

 

突然隣で大声を出されたものだから、張勲は驚き半分、心配半分で袁術の様子をうかがっている。

 

 

 

「ひっぐ・・・な、ななのぉ〜〜〜」

 

 

 

すでに目には大量の涙を浮かべていた袁術であったが、今まで見てきた光景がすべて悪夢だと分かった瞬間に、

 

堰を外したかのごとく大量の涙を流しながら腹心張勲の胸へと飛び込んだ。

 

 

 

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【冀州、渤海郡、南皮城】

 

 

「主様!今から初日の出を見に行くのじゃ!」

 

 

 

バタンッと遠慮なく開け放たれた北郷の部屋の扉の音と共にてててっと入ってきたのは、

 

腰元まで伸びた緩い縦ロールの金髪に、錦糸で織られた華美なロングドレスに身を包んだ少女、袁術である。

 

彼女はそのクリクリした愛くるしい碧眼をきらきらと輝かせながら、突然そのようなことを北郷に告げた。

 

 

 

「ど、どうしたんだよ藪から棒に。昨日オレが誘っても『妾は朝は眠いし寒いのもごめんなのじゃ』って断ったじゃないか・・・」

 

 

 

ちょうど昼食を済ませ、新年に向けて最後の部屋の整理に取り掛かろうとしていた北郷は、

 

誰が聞いても馬鹿にしているとしか思えないハスキーボイスで袁術のモノマネをしつつ、

 

昨日のことを思い出しながら困惑した表情を作って見せた。

 

 

 

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<美羽、明日海岸へ初日の出を見に行かないか?>

 

<はつひので?>

 

<一刀さん、日の出なんて毎日お城から見てるじゃないですか。わざわざ遠出までして見に行くようなものなのですか?>

 

 

<いや、年明け一番に見に行くことに意味があるんだよ。それに、海岸に行かないと初にならないだろ?水平線の向こうから昇って来る

 

太陽を拝むことに意味があるんだからな>

 

 

<それも天の国の風習なのか?けど御遣い様、日の出を拝んだからって何になるんだ?心が洗われて((綺麗|●●))になるとかそんなのか?>

 

 

<黙れ変態、つまんねー洒落言ってんじゃねーよ。次美羽様の前でしょーもないこと言ったら石抱かせてやんよ>

 

 

<ま、まぁ心が洗われるとかもあるだろうけど―――おいおい紀霊マジ武器出すなっつーかどこからそんな馬鹿でかい三尖刀取り出・・・

 

楊弘さんも怪しげな拘束具取り出さないで!―――えーと、そうそう、重要なのは、そこで願い事をすると叶うって言われてるんだ>

 

 

<なんと!?では、はちみつをたくさん食べたいと願えば叶うのかえ?>

 

<は、蜂蜜?うーん、どうかな・・・たぶん叶うんじゃない・・・かな・・・?>

 

<けど、日の出に願うっつーことは天に願うってこったろ?そんじゃあんたに願うんと同じだろうよ?>

 

<楊弘ちゃんの言う通りですよお嬢様。蜂蜜が欲しければ、わざわざ眠くて寒い思いしなくても御遣いさんに直接頼めばいいんですよ♪>

 

<それもそうじゃな、よー言うた七乃!主様、妾は朝は眠たいし寒いのもごめんなのじゃ!>

 

 

 

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「妾はそのような気持ち悪い声ではないのじゃ!とにかく行くのじゃ!妾が行くと言ったら行くのじゃ!」

 

「おいおい、引っ張るなって!分かった分かった、すぐに支度するから!」

 

 

 

そうして、急いで支度を済ませた北郷は、半ば袁術に引っ張られるような形で、

 

初日の出を拝むために渤海郡東部の沿岸目指して歩き始めたのであった。

 

 

 

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【冀州、渤海郡、道中】

 

 

 

「疲れたのじゃ〜」

 

 

「早いよっ!早すぎるよっ!後ろ振り返ってもまだ南皮城見えてるよ!?まだ出発して3分も経ってないよ!?ム○カもまだ待っていて

 

くれる時間だよ!?」

 

 

 

出発早々ギブアップをカミングアウトした金髪碧眼幼女に対して、北郷はツッコミの嵐を浴びせかけた。

 

 

 

「んん?何を訳の分からぬことを言っておるのじゃ。ム○カがメス化とかよー知らぬが、とにかく妾は疲れたのじゃ。もう一歩も歩けぬ」

 

 

 

北郷のツッコミの中に、到底理解の及ばぬ文言が入っていたせいか、袁術は頭に?を浮かべながら軽く斬り捨てた。

 

 

 

「うーん困ったな・・・海岸までは歩けない距離じゃないんだけど、さすがに美羽にはちょっとキツイか・・・袁紹の奴もいくらオレ達が

 

居候の身だからって馬くらい支給してくれたらいいのにな」

 

 

 

もともと袁術たちは孫策を筆頭としたもと配下たちの反乱を受けて本拠の寿春を追われたのち、

 

劉備軍に襲われているところを救った北郷の提案によって袁紹を頼り、結果かくまわれることになったのだが、

 

そのような肩身の狭い境遇のせいか、馬すら支給されていない実情であった。

 

かつて袁紹が居城に使っていた南皮城を貸し与えられているのが、同じ袁家としての情けか。

 

 

 

「麗羽姉様はケチじゃからしょうがないのじゃ。とにかく休憩じゃ!」

 

 

 

そして、ついに袁術は服が汚れることも気にせずその場に座り込んでしまった。

 

 

 

「おぉそーじゃ、主様!はちみつじゃ!はちみつ水を持つのじゃ!そろそろお弁当にしようかの!」

 

 

 

そして、袁術は急に思い出したかのように蜂蜜を所望した。

 

 

 

「お弁当!?フリーダムすぎるぞ!ピクニックじゃないんだから、ていうか出発前にランチ済ませただろ!?このペースだといくら同じ

 

渤海領内っていっても暗くなるまでに海岸に着けないぞ!?」

 

 

 

袁術の通常運転の自由奔放な我が儘っぷりにもめげず、北郷はツッコみつづける。

 

 

 

「むー、天の言葉は難しくてよくわからんのじゃ。とにかく、妾ははちみつ水を飲まぬともう動けぬのじゃ」

 

 

 

しかし、北郷がカタカナ語を連発したせいで、袁術はその意味の大半を理解できず、

 

頬をぷくーっと膨らませたまま頑なに主張を撤回しようとするつもりはないようであった。

 

 

 

「・・・・・・くっくっく、よーしわかった、そっちがその気ならオレにも考えがある。我が儘お嬢様には・・・こうだ!せいっ!」

 

 

 

袁術のテコでも動きそうにない様子を見て、少しの間どうしたものかと思案していた北郷であったが、

 

やがてわざとらしく不敵に笑ってみせると、ひょいっと袁術を抱きかかえて見せた。

 

 

 

「なっ!?何を・・・ぴぃーーー!?」

 

 

 

当然突然自身の体が浮遊感を覚えたことで袁術は奇声を発すると共に、

 

それが北郷に抱きかかえられてのことだと分かった途端、顔が耳まで真っ赤に染まった。

 

 

 

「よっと・・・これなら文句ないだろ?美羽が回復するまでオレがおんぶしてやるからさ」

 

 

 

そう告げると、北郷は袁術を抱きかかえる体制から器用におんぶの体制へと強制的に持って行った。

 

袁術はなすがまま北郷の背中にしがみつく形となる。

 

 

 

「じ、じゃがこれでは主様が疲れてしまうではないかの!?」

 

 

「ははは、全然平気さ。美羽は軽いからね。それに、背中も美羽のおかげで温かいし。さすがは三公を配した袁家の姫君。運ばれること

 

すら人々に恩恵を被らせるとはな、恐れ入るよ」

 

 

 

心配そうな声をかける袁術に対して、北郷は慣れた口ぶりで袁術をおだてつつ心配ない旨を伝えた。

 

 

 

「そ、その通りなのじゃ!うはは♪さすがは妾なのじゃ♪よし!このまま一気に海岸まで直行なのじゃ!」

 

「了解!」

 

 

 

北郷のおだてを素直に受け取った袁術は上機嫌な様子で北郷の背中にギュッとしがみつくと、拳を突き上げ前進するよう北郷に命じ、

 

そして、北郷は袁術を背負ったまま、お互いの体温で暖をとりながら沿岸を目指すのであった。

 

 

 

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【冀州、渤海沿岸】

 

 

二人が沿岸に着いたのは、結局日もだいぶ落ちた頃合いになっていた。

 

とりあえず目的の初日の出は文字通り日の出の時間にならないと見ることができないため、

 

それまでの間、北郷は近くの集落に住む人に日の出まで部屋を貸してほしいと頼み込んだところ、

 

二人が袁術と天の御遣いであるということが分かった途端、快く引き受けてくれた住民のおかげで、

 

空き部屋を借りることに成功し、その時を待つことにした。

 

加えて夕食までごちそうになった後の現在、二人は部屋でゆっくりしていた。

 

 

 

「ふわぁぁぁ〜〜〜〜〜〜」

 

「美羽は別に寝てても良いよ?時間になったらオレが起こしてあげるからさ」

 

 

 

時刻は午後10時になろうかという頃合い。

 

それまでは北郷の膝の上という定ボジションに陣取った袁術に対し、北郷が天の国の話をすることで袁術は起きていられたのだが、

 

この時間になるともはや袁術の体内時計が働き、とても起きていられそうな雰囲気ではなかった。

 

 

 

「いいのじゃ.妾は全然眠くなど・・・ふぁぁ〜〜〜ふぁいのひゃ」

 

 

 

しかし、北郷の気を利かせた言葉に対して袁術は強がってみるものの、途中から欠伸が加わり、思わず赤面してしまう。

 

 

 

「もしかして、オレが寝過しちゃうかもって心配してるのか?けど、オレ昔は結構夜型だったし、まぁ、心配があるとしたら、一度寝た

 

美羽がすぐ起きてくれるかってのはあるけど、それでも我慢して起きようとするのは体に悪いし・・・」

 

 

「そ、そんなことを心配してるのではないの・・・ふぁ〜〜〜」

 

 

 

しかし、この袁術の発言はただの強がりなどではなく、本当に他に寝たくない理由があったのであった。

 

それはつまり、次寝たらまたあの悪夢を見るんじゃないかという不安。

 

北郷が自身に愛想を尽かし去ってしまうという恐怖の夢物語。

 

とは言ったものの、結局少しは頑張っていた袁術も、睡眠欲という生理現象に抗う術もなく、

 

北郷が気づいたときには北郷の膝の上ですやすやと眠りこけてしまっていた。

 

 

 

「おやすみ、美羽」

 

 

 

袁術が膝の上で眠ってしまったことにより動けなくなってしまった北郷は、

 

何とか手を伸ばして家主が今夜は冷えるからと用意してくれた毛布に手を伸ばすと、袁術にそっとかけてやった。

 

その時、北郷が袁術の可愛らしい寝顔を見たことで、思わずぎゅっと抱きしめたい衝動に駆られるが、かろうじて理性で本能をねじ伏せ、

 

頭を撫でるに押しとどめたのだが、それでも起きないぐらい、袁術はぐっすりと眠ってしまっていた。

 

 

 

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『袁術、悪く思うなよ』

 

 

 

なぜじゃ・・・なぜ主様が妾に刃を向けるのじゃ・・・

 

 

 

『君はやりすぎたんだよ。周りを見てみな。人々の口から出るのは君に対する不平不満の怨嗟ばかり。もはや君は許されないんだよ』

 

 

『じゃが、主様は妾に言うてくれたではないかえ!?妾が間違ったことをしたらちゃんと叱ってやると!今までもそうしてきたではない

 

かえ!?実際、妾は何度も主様に叱られて、それでようやく最近も渤海の人たちも妾のことを信用するようになったではないかえ!?』

 

 

 

そうじゃ・・・妾は何度も主様に叱られて・・・そのたびに直して、人々からようやく受け入れられるようになってきているのじゃ・・・

 

 

 

『そう思っているのは君だけだよ。君は人々の声が耳に入らないようだね』

 

『そんな・・・じゃから主様は・・・妾を殺すというのかえ・・・?』

 

 

 

そんなの妾が知っておる主様じゃないのじゃ・・・こんな冷たい顔の主様など知らぬのじゃ・・・

 

 

 

『そうだ、それで君の首を手土産に孫策のところに降る。袁紹は馬鹿で天下なんて任せられないし、曹操の覇道はオレの性に合わない。

 

それに孫策はずっと君の首を欲しがってたしね。元袁術軍のオレでも軍門に入れてくれるだろうさ』

 

 

 

そんなの七乃たちが許すはずないのじゃ・・・!

 

 

 

『七乃は・・・七乃はこのことを知っているのかえ!?紀霊は!?楊弘はどうなのじゃ!?』

 

『もちろんみんな知ってるさ。なぜなら、みんなで話し合って決めたんだからな』

 

『なん・・・じゃと・・・』

 

 

 

そんな・・・七乃たちまで・・・

 

 

 

『まぁ、訳の分からない賊に討たれるより、オレに討たれた方が君も本望だろうって話になったわけさ』

 

 

 

そうか・・・妾は知らぬうちに取り返しのつかぬことを・・・この主様が妾の知らぬ主様なのも、妾がそう変えてしまったのじゃな・・・

 

じゃが、それでも妾はまだ死にたくないのじゃ・・・!まだ七乃や紀霊や楊弘、そして、主様と一緒にいたいのじゃ・・・!このわがまま

 

だけは諦めきれぬのじゃ・・・!

 

 

 

『わ・・・悪かったのじゃ・・・妾が悪かったのじゃ!じゃから許してたも!!大好きなはちみつも我慢するのじゃ!!わがままも言わ

 

ないのじゃ!!人々の声に耳を傾けるのじゃ!!じゃから、主様!!妾を捨てないでたも!!』

 

 

『悪いけどおしゃべりはここまでだ。じゃあな袁術。あの世の人たちにまで我が儘言って迷惑かけるなよ・・・!』

 

『主様ぁ!!』

 

 

 

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袁術「主様ぁああああ!!」

 

 

 

袁術は思わず夢の中とリンクして現実世界でも北郷のことを大声で呼んでしまっていた。

 

袁術が悪夢から目覚めたのは、ちょうど夜明けの1時間前といった頃合いである。

 

 

 

北郷「お、すごいな美羽。オレが起こさなくても起きれたじゃないか。もうしばらくしたら日の出の時間―――」

 

「ぬ゛、ぬ゛ズィざばぁアアアア!!!!!!」

 

 

 

袁術がちゃんと時間通り目覚めたことに感心していた北郷であったが、

 

しかしその時、一瞬あたりをキョロキョロと見まわしていた袁術が、北郷の方を振り返ると、

 

大粒の涙を流しながらものすごい勢いで北郷に抱き付いてきた。

 

 

 

「わっ!?どうしたんだよ急に―――て、泣いてるのか?」

 

「ひっぐ、主様ぁ〜、えっぐ、妾を捨てないでたもぉ〜」

 

「オレが美羽を捨てる?どうして?」

 

 

 

北郷は袁術が泣いているという事実に戸惑う中、袁術が猛烈な勢いで北郷の胸で泣きぐしゃりなから訴えかけるものなので、

 

北郷もただ事ではないとは思うものの、全く状況が理解できずにいる。

 

 

 

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とりあえず北郷は袁術の頭を撫でながら落ち着かせ、訳を尋ねた。

 

袁術も北郷の胸で思いっきり泣き、そして撫でられることで徐々に落ち着きを取り戻し、

 

夢の中で自身の愚行に愛想を尽かした北郷が、自信を討ち取ろうと刃を向けてきた話をゆっくりと語りだした。

 

 

 

「ほっ、なんだ、夢の話か」

 

 

 

原因が夢であるとわかった北郷は大きく一息つくと脱力した。

 

 

 

「ぐすん、何だとは何じゃ!ひっぐ、妾は真剣に悩んでおるというに!」

 

 

 

当然そのような北郷の反応に納得いかない袁術は、涙目のまま憤慨している。

 

 

 

「ははは、ごめんごめん、けど、そっか、夢の中のオレはそんなひどい奴なのか」

 

 

 

ははは、ではないのじゃ!と袁術は未だ止まらぬ涙をぬぐいもせず、頬を膨らませながらプイッとそっぽを向いていた。

 

しかし、北郷は自身の袁術の夢の中での姿に苦笑するものの、一方で袁術の見たという悪夢の内容に非常に関心を持っていた。

 

悪夢とは得てして、自身の不安や後悔といったストレス・負の感情から生まれるものである。

 

それはつまり、袁術が自身の我が儘な振る舞いが渤海の人々の不満を生むということを理解しており、

 

そして、そのせいで北郷が愛想を尽かすのではと恐れていることの表れであると言える。

 

自身の過ちの存在を内在的に自認できるようになっているのは、これは袁術にとってはすごい進歩なのである。

 

 

 

「まったく、夢の中の主様はひどいのじゃ。最近は事あるごとに妾を見捨てて去ろうとするのじゃ。じゃから、今日は初日の出にお願い

 

をして、主様がずーっと妾のもとにいるようにお願いしようと思ったのじゃ」

 

 

(なるほど、急に初日の出が見たいとか言い出したのはそういうことだったのか・・・)

 

 

 

そして、袁術が急に初日の出を見に行くのにやる気になった原因が分かったのと同時に、

 

北郷は袁術の見たという夢の話から様々な光景が頭の中を駆け巡り、表情を曇らせていた。

 

そう、これまで数多巡ってきた別の外史の世界では、ほぼ確実に袁術は悲劇を辿っている。

 

中には、極刑に処された末世間に首を晒されるという、史実以上に酷い世界もあった。

 

そんなことが一瞬で頭をよぎった北郷がとった行動は、とてもシンプルなものだった。

 

それは衝動的な行動であったかもしれないが、しかし理性的に動いたとしても、北郷の行動は恐らく変わらなかったであろう。

 

 

 

「ぴぃ!?な、なんじゃ!?」

 

 

 

北郷は袁術を強く強く抱きしめていたのであった。

 

それこそ袁術にとって苦しいのではと思えるほどに。

 

 

 

「・・・決して放さないよ。夢の中のオレが何度美羽のことを見捨てても、少なくともこの世界では、オレは絶対美羽の傍から離れない。

 

怖い思いも悲しい思いも極力させない。きっと守り通して見せる」

 

 

 

袁術の耳元で告げられる北郷の言葉の節々には、落ち着きと共に普段は見られないような強い意志が漲っていた。

 

 

 

「ほ・・・ホント、かの・・・?」

 

「ああ、だから、もう泣かないでくれよ。折角の可愛い顔が台無しだ」

 

「主様・・・」

 

 

 

北郷が袁術を抱きしめる力は弱まるどころか強まる一方なのだが、徐々に苦しくなっているはずなのに、

 

袁術にとって、この苦しみは何よりも心地の良いものであった。

 

北郷の強い意志を感じながら、袁術は北郷の胸の中で北郷の名をつぶやいた。

 

 

 

「それに、オレは美羽が太平の世を築く手助けをするために天の国からやって来たんだからな。まだまだ先は長いぜ?とりあえず、今は

 

袁紹の膝元に隠れてるけど、曹操を倒し次第すぐに乗っ取るつもりだからな。まずはここでの評判を得て渤海の太守に推挙してもらう。

 

もちろん、袁紹の機嫌を取りつつな。それが第一歩になるんだ。これからが忙しくなるんだから、頼むぜ、美羽」

 

 

「うむ♪」

 

 

 

ようやく抱きしめる力を弱めた北郷は、ニッと穏やかな笑みを浮かべながら袁術の頭を撫でた。

 

袁術も北郷の言葉をしっかりと胸に刻み込んだようで、ゴシゴシと袖で涙をぬぐうと、

 

ニコッとしたお日様のような笑顔でうなずき、再び北郷に抱き付くのであった。

 

 

 

「のぅ、主様」

 

 

 

すると袁術は、北郷の胸の上でもぞもぞしながら呼びかけた。

 

 

 

「ん、何だい?」

 

「・・・その・・・あのじゃな・・・主様が妾を決して放さぬと言うのなら・・・その・・・妾を主様のものに―――」

 

 

 

そして、袁術が頬を朱に染め、言葉を詰まらせながら意を決して北郷に爆弾発言をしようとしたのだが、

 

その言葉は途中で北郷にさえぎられてしまった。

 

唇を重ねるという形で。

 

 

 

「それ以上はまだ言っちゃだめだよ」

 

 

 

顔から湯気が出るのではというほど顔を真っ赤にさせて目を見開き驚いている袁術をよそに、

 

一度唇をゆっくりと離した北郷はそう告げると、再度唇を重ねた。

 

今度は一度目とは違う、深い深い交わり。

 

最初は北郷の行動に理解が追いついていなかった袁術も、北郷に合わせて深い口づけを交わす。

 

 

 

「ごめんな、今はこれくらいのことしかできなくて。けど、もしこのまま先まで行っちゃうと、オレ、美羽のこと大好きだし、今以上に

 

メロメロになっちゃって、とてもじゃないけど天下泰平になんて集中できなくなっちゃうからな。だけど、オレたちの地盤が固まって、

 

天下の趨勢がある程度整ったら、その時はオレの方から言わせてくれよな」

 

 

「・・・まったく、困った主様よの♪じゃが、それなら仕方がないのじゃ。妾はその時までずーっと待っておるかの♪」

 

 

 

北郷が若干照れくさそうに頬をかきながら告げた言葉に、袁術は未だ顔は真っ赤なものの、

 

再度ヒマワリのような大輪の笑顔を咲かせると、三度北郷に抱き付き、今度は袁術の方から唇を重ねるのであった。

 

 

 

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その後、日の出の時刻になると、二人は手をつないで海岸へと向かった。

 

そして、ちょうど海岸に着いたのと同時に朝日が昇る。

 

朝日が水平線の彼方から顔をだし、薄暗い寒空にオレンジの暖色を滲ませ、

 

水面に映る一直線の陽光が、より幻想的な光景を生み出していた。

 

 

 

「おぉ!!きれいなのじゃ!!」

 

「あぁ、オレもここでは初めて見たけど、すげぇな・・・」

 

 

 

二人は暫しの間天然の美に酔いしれた後、当初の目的であるお祈りを始めた。

 

 

 

「・・・主様は何とお願いしたのじゃ?」

 

「美羽や七乃さんたちと太平の世を築けますようにさ。美羽は?」

 

「(妾はもちろん主様と早う契りを結べますようにと―――)」

 

「へ?」

 

 

 

北郷の問いかけに、袁術は恥ずかしそうに俯きながらゴニョゴニョとつぶやいたが、どうやら北郷の耳には届かなかったらしい。

 

 

 

「わ、妾はもちろん今年もはちみつをたくさん食べられるようにじゃ!」

 

 

 

しかし、一度口にした恥ずかしい発言を再度言えるほど袁術の肝は据わっておらず、

 

再び口にした内容は、全然違うものとなってしまっていた。

 

 

 

「えー、さっきと言ってること違うじゃん!オレがずっとそばにいますようにとかそんな感じのやつじゃないのかよ!?結局蜂蜜かよ!

 

なんだよこのオチ!オレの感動返せぇーーー!!!」

 

 

 

そのような袁術の事情をくみ取ってやることのできない天下一の鈍さを誇る男・北郷一刀は、

 

頭を抱えながら朝日に向かって叫ぶのであった。

 

 

 

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そして・・・

 

 

 

「今夜はお嬢様からたくさん楽しいお話が聞けそうですねー♪それにしても、御遣いさんは本当に乙女心が分かってませんねー」

 

「うぉぉぉぉぉ!!!美羽様可愛すぎますぅぅぅぅぅ!!!ぺろぺろさせて下さいぃぃぃぃ!!!あと御遣い様の野郎あとでシバくッ!」

 

「黙れ変態。美羽様ぺろぺろすんのはあたしだ。あと御遣いは宮刑だ。シバくとかヌルすぎんよ」

 

 

 

実は袁術に初日の出のことを提案した張本人たる張勲は勿論のこと、袁術を溺愛する紀霊、楊弘が二人っきりの外出を見逃すはずもなく、

 

ちゃっかり最初から気づかれないようについてきていた三人は、各々好き放題な感想を述べながら、

 

片やどのように袁術を弄ろうか、片やどのように北郷に嫉妬の鉄槌を食らわそうか考えるのであった。

 

 

 

【おまけ:初日の出 終】

 

 

 

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あとがき

 

 

さて、新年一発目side袁術軍のおまけ、いかがだったでしょうか?

 

side袁術軍については本当に連載したいくらい思い入れのある陣営なのですが、なかなか、、、

 

しばらくは今回のような節目節目に一話完結を投稿というのが現実的っぽいですね。

 

ちなみにside袁術軍はside呂布軍のようなハーレム設計ではなくワンヒロイン設計!(結構重要)とか考えてたりします。

 

今回のお話もし連載してたら、二人の親密さから推測して、拠点フェイズ:袁術BかCくらいの内容といったところでしょうか。

 

 

では、次回1月11日0時からは通常通りside呂布軍をお送りいたします。

 

今年も隔週ペースを早めることは叶いそうもありませんが、どうかスローペースにお付き合いいただきたく。

 

改めまして今年も恋や音々音たちの外史を温かく見守っていただいたく、どうぞよろしくお願いいたします。

 

 

それでは、また次回お会いしましょう!

 

 

 

次回はななのおまけですが、これまでとは少し違った展開が、、、?

 

説明
皆さま新年明けましておめでとうございます!今年も御遣い伝説をどうぞよろしくお願いします!

さて、新年一発目は特別編!side袁術軍をお送りいたします!

そうです、去年4月に投下した四月馬鹿ネタの時間軸を組む内容となっております。

そんなの知らねぇという方は下記をチェック!(しれっと宣伝してみる)


※真・恋姫†無双 外史 〜天の御遣い伝説(side袁術軍)〜 第零回 プロローグ<http://www.tinami.com/view/675272>


それでは我が駄文の至り、とくと御覧あれ・・・

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コメント
>くつろぎすと様  今年もちんきゅーたくさん書きます!さっそく次の第四章でも大活や―――あれ? 美羽ちゃん配下は変態ばっかなので安心して見ていられます(sts)
>nao様  私も美羽ちゃんが晒されるのとか見たくないのでそのお話が描かれることはありません(恐らく一刀君が処刑までに美羽ちゃんと接触する機会がなかった外史での出来事)確かに美羽ちゃんは君主に向いてませんが、向いてないなりに頑張って治政を行うのを見守るというのが良いと私は思うのです(sts)
あけおめです。今年もちんきゅー分を補給するため、何卒、よろしくお願い申し上げます。それはそうとside袁術軍のオリキャラはホント好きだわww(くつろぎすと)
美羽のさらし首とか見たくないな;;幼い美羽は君主からおろしてやったほうがいい気もする^^;(nao)
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真・恋姫†無双 恋姫†無双 オリキャラ 北郷一刀 美羽 七乃 紀霊 楊弘 袁術 張勲 

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