律子「私の麻雀は!」小鳥「気付いて……」 第5話前編 |
―-事務所内――
律子「ただいま〜」
小鳥「あら、律子さん。お帰りなさい。なんだかお疲れみたいね」
律子「ちょっと今日は辛かったです。正直、竜宮小町で仕事を取るってのがこんなにも難しいとは思っていませんでした」
小鳥「新規ユニットの立ち上げですもの。苦労して当たり前よ。最初は顔見せで仕事は取れたりするけれど、継続してとなると」
律子「三人ですから、枠の関係で難しくなっちゃうんです。歌ものなら関係ないんですが、色々な経験をさせたいんですよねえ」
小鳥「しっかり考えてるじゃない。律子さんがしっかりと考えて動いてくれているうちは、みんなもきっとついてきてくれるわよ」
律子「そのあたりはもう信じるしかありません。ただ、本当にこれでいいのかって、歌メインでいいんじゃないかって、いつも自問しています」
小鳥「うふふ。悩んでも迷ってもいいのよ。誰もがそうやって、同じような思いをしながら大きくなっていったんだから」
律子「だと思いたいです。私の能力不足で、いらない苦労や無駄な営業を積み重ねている、なんて思いたくないですもの」
小鳥「大丈夫ですって。確かに、律子さんはまだプロデューサーとして名が売れているわけではないけど……」
律子「うわっ、酷い」
小鳥「違うの。律子さんの名前を知っている人には、いい印象を与えているみたいなのよ。いい方向に成長しているんだと思うわ」
律子「だったらいいんですが……って、ああもう。気休めはやめてください。そんなの事務員の小鳥さんが知ってるわけありません」
小鳥「気休めなんかじゃないわ。業界に詳しい私の友人から得た、貴重な情報」
律子「こんなマイナーな情報を知り得るって、どんだけ情報通なんですかその人……ひょっとして、すごい人なんじゃないですか?」
小鳥「私だって、この業界は長いのよ。ある程度は、ね」
律子「……実は、たまにですが小鳥さんの得体の知れなさに戦慄してしまう時があるんですよ。今もちょうど、そんな気分です」
小鳥「うふふ。いい女は秘密を持っているものなのよ」
律子「いつもそうやってはぐらかして……まあ、引き出しの奥の秘密はご自宅で楽しんで頂きたいものですが」
小鳥「ピヨっ!……えーっと。ところで、竜宮のみんなはどうしたの?一緒に帰ってくる予定だったと思うんだけど」
律子「ああ、向こうでプロデューサーと会いまして。疲れているようだから代わる、と。帰って事務処理だけやるように言われました」
小鳥「なるほどね。さすがはプロデューサーさん」
律子「アイドルだけじゃなくて私のことまで、本当によく見てるなあって思います。見習いたいですよ。そういうとこ」
小鳥「余裕がね、大切なの。律子さんならきっと、いつの間にか出来るようになっていると思うわ」
律子「だといいんですけど……さーて、もう一頑張りしますか!」
小鳥「頑張ってね。あ、事務処理ってことは、今日の営業報告でも作るの?」
律子「いえ、それはもうメモと頭の中でまとめていますから、後は清書するだけです」
小鳥「出来ることがあれば手伝うわよ。今日の分は終わっちゃってるから」
律子「ありがとうございます。では、この様式で申請する書類がですね−−−−−」
――会議室――
春香「さすがに山を積むのも飽きちゃったねー」
美希「ミキ、17牌ならもう完璧に積めるよ」
春香「私も。あーそろそろ次の段階に行きたいなあ」
美希「こんな時に限ってハニーは帰ってこないし」
春香「ツモって切る動きの練習ってのも、長くは続かないよねー」
美希「ミキも早くホンモノを打ってみたいなあ」
春香「そうだねー。私も久しぶりに打ちたいよ」
美希「そういえば、春香は実際に打ったことあるんだよね。どんな感じだった?やっぱりゲームと違うの?」
春香「もうね、ぜんっぜん違うよ!やることが多くてさ、もうずっと考えっぱなし。一打一打で、なんだかもうすごいドキドキするの」
美希「いいなー。なんとかして四人集められないかな?」
春香「私、今日は小鳥さんとしか会ってないよ」
美希「ミキも」
春香「だよねー。そうだなあ……とりあえず、小鳥さんに新しい練習でも教えてもらう?」
美希「小鳥に?小鳥ってマージャン強いの?」
春香「うーん。よくわからないんだけど、プロデューサーさんがそれらしきことを言ってた気がするよ」
美希「らしきって、どーゆーこと?」
春香「うーんと、確か……誰が強いんですかって聞いてみた時だったかな?」
美希「あ、それミキも知りたいな」
春香「『伊織は強い』って言ってた」
美希「小鳥は?」
春香「ん〜……ちょっと待ってね。ええと……そうだ!『小鳥さんは別格として、強いのは伊織かな』って言ったんだ」
美希「その別格って、比べられないほど強いって意味?」
春香「だと思うよ。そういうニュアンスで受け取ったから、自然に『小鳥さんに教えてもらおう』って思ったんだし」
美希「ふーん。じゃあアイドルの中ではでこちゃんが一番強いんだ」
律子「その時に私のことは何か言ってなかった?」
美希「あ、律子」
律子「さんをつけなさい。で、春香。どうかしら?」
春香「ちょっ、ちょっといきなり言われても……何気なく聞いた話だから、あんまりよく覚えていないんですよー」
律子「気になるのよ。どうも私はあまり評価をされていないみたいだから、その理由を知っておきたいの」
春香「う、うーん。待ってくださいね。確か、何かは言っていたと思うんです」
律子「本当?お願いっ!思い出して!!」
春香「えっと、とりあえず強いと言っていたのは伊織だけでした」
律子「っ!……そう。他になにかある?」
春香「……はい。確かこんな風に言っていました」
律子「どんな風に」
春香「『次は雪歩か、律子だろうが……二人とも、あのままじゃあなあ……』って」
律子「なによそれ。雪歩の打ち方はともかくとして、私には何が言いたいのか全然わからないんだけど」
春香「うーん、ニュアンスで言えば”心配している”って感じだったような」
律子「はぁ?」
美希「律子?」
律子「…………気に入らないわね」
春香「あの、律子さん?」
律子「私の麻雀は、一回打っただけで不安にさせちゃうレベルってことかあ」
春香「えっ?律子さん、そういう意味じゃなくて」
律子「しかもわざと変に打ってる雪歩と同レベル……プロデューサーが格上なのは認めるけど、そこまで思われちゃうってのはねえ」
春香「だからそうじゃなくて」
律子「そうだとしか思えないでしょうがっ!」
春香「律子さんっ!ちょっと落ち着いて」
小鳥「ねえ。なんだか大きな声が聞こえてきたんだけど、って律子さん!どうしたの?」
美希「よくわかんないけど律子が急にキレちゃったの。で、春香に詰め寄ってるの」
律子「いい?私は基本に忠実な道を歩もうとしているの。妙な打法の雪歩と同レベルに扱われるのは、はっきり言って侮辱だわ」
春香「でもプロデューサーさんはそんなつもりで言ったんじゃなくて」
小鳥「ああ、律子さんもかあ……」
美希「?」
小鳥「うん。律子さん、ストップ。とりあえず冷静になりましょう。春香ちゃんに言っても仕方のないことなんじゃないの?」
律子「話を聞いてもいないのに横から出てこないでください!」
小鳥「そうね。ほとんど聞いていないわ。でもね、今のやりとりだけで意味の無い争いだってことくらいはわかるわよ」
春香「私は、争うつもりなんてないんです。ただ、誤解を解きたいだけで」
小鳥「それもちょっと待ってね。まずは落ち着かなきゃ話もできないから」
律子「でも、私は納得できませんっ!小鳥さんや伊織は認められて、なんで私は!あの雪歩とっ!」
小鳥「んーと……仕方ないわね。律子さん、私は伊織ちゃんと律子さんの違いなら説明できるわよ」
律子「は……えっ?」
小鳥「私が納得できるようにしてあげる。だから、まずは落ち着いてらっしゃい。仮にも元アイドルがそんな酷い顔してちゃだめよ」
律子「…………わかりました。すみません、ちょっと顔を洗ってきます」
………
……
…
小鳥「なるほどね。二人の話を聞けてよかったわ。うん、何とかなると思う。それにしても、びっくりしたでしょう?」
春香「あんなに怖い律子さん、久しぶりに見た気がします」
美希「ってゆーか、入ってきた時からちょっと様子がおかしかったの」
小鳥「きっと伊織ちゃんが強いって話だけでもうダメなんでしょうね。その上、打法が根本から違う雪歩ちゃんと同一視されたから」
春香「そんなことであんな風になるものなんですか?我を失う、っていうか」
小鳥「麻雀だから。麻雀にのめり込んじゃうと、ああいうことって珍しくないのよ」
美希「え、なにそれ。なんか怖いの」
小鳥「反抗期みたいなものよ。成長過程の一時期だけ、物凄く許容範囲が狭まっちゃうこともあるってだけ」
春香「そんなものなんですかね……って、あれ?律子さんって、麻雀にハマっているんですか?」
小鳥「前に伊織ちゃんから聞いたんだけど、律子さんはどうもかなり前から麻雀マニアらしいのよ」
美希「マニア?」
小鳥「小さい頃にハマったらしいんだけど、一緒に遊んでくれる子がいなくてね。いとこの子と二人だけで遊んでいたらしいわ」
春香「二人、ですか?さっきずっと美希といましたけど、二人じゃ暇で暇でしょうがなかったんですが」
小鳥「普通はそう。遊べないもの。だから、遊んで楽しむってよりも麻雀を研究することに没頭し始めた」
美希「律子が好きそうな、アレだね。ケイコウとタイサクってやつ」
小鳥「でも、少人数かつ独学で麻雀を学ぼうとすると、どうしても悪い意味で理論先行になってしまうの」
春香「それが効率、なんですか」
小鳥「ちょっと違うかな。効率優先の理論を確立するならば問題は無いの。でも、律子さんはそこに至っていない」
美希「じゃあ律子が上手くなっちゃえば解決するんじゃないの?」
小鳥「伊織ちゃんが”効率至上主義”と呼ぶアレは、そういうものじゃないのよ。方向性が間違っているの」
春香「方向性?」
小鳥「律子さんは、麻雀で使える効率理論じゃなくて”効率という名の自己肯定”にハマってるのよ」
美希「ジココウテイって、”これでいい”ってことだよね?ん〜……」
小鳥「あ。ご、ごめんなさい。このあたりは二人にはまだ早い話だったわね」
美希「よくわかんないの。結局さ、律子はどうしちゃったの?」
小鳥「そうねえ。まあ簡単に言うと、麻雀が好きって気持ちが暴走しちゃってるだけ。よほど、強い思いなんでしょうね」
美希「ふーん。まあ気持ちが強いと間違っちゃったときにタイヘンだよね」
春香「プロデューサーさんの心配の元も、そういうところにあるんでしょうか」
小鳥「それはわからないわ。でもたぶん、私はもう少し色々と気になっちゃってるかも……」
美希「まあいいの。とりあえず律子って、麻雀がめちゃくちゃに好きなんでしょ?なら、たぶん大丈夫なの!」
小鳥「そうね。きっとそう。私も出来る限り協力するわ・・・…ねえ、律子さん。聞いてる?」
律子「……」
小鳥「落ち着いた?」
律子「はい。取り乱して申し訳ありませんでした。あの、春香と美希も、ごめんね……」
春香「いえ、あの」
小鳥「いいのよ。みんな、律子さんの思いの強さをわかっていなかったわ。私も、プロデューサーさんも」
律子「いえ、全部私のわがままで」
小鳥「麻雀を本気でやっていた人なら、わかる。譲れないものなんでしょう?」
律子「はい」
小鳥「少なくとも私は、律子さんの気持ちをかなり理解できたと思う」
律子「そう、ですか」
小鳥「だから、言うわ。律子さん、今のままじゃあなたの麻雀はダメになると思う」
律子「……っ!」
小鳥「その前に、春香ちゃん、美希ちゃん。それから律子さん。今から少し、時間あるかしら?」
春香「えっ?えっと、はい。時間はありますが」
美希「ミキもなーんにもないよ」
律子「仕事は終わらせましたから、後は帰って休むだけです」
小鳥「じゃあ、半荘だけ付き合ってくれないかな?それで律子さんには、わかってもらえると思うの」
律子「でも、相手が春香と美希じゃあ」
小鳥「まずはそういうところからなんだけど……これは本当に頑張らないといけないわね」
春香「えっと、えっと……これどういうこと?」
小鳥「春香ちゃん。美希ちゃんも。私たちは勝負をするけれど、二人は楽しんで打ってくれればいいの」
春香「でも、なんだかこれ……どうすればいいのかなあ」
美希「春香、ミキは本気で打つよ」
春香「美希……」
美希「せっかく打てるんだもん。このチャンス、逃したくない。ミキ、勝つよ」
律子「私に勝てるとでも思ってるの?」
美希「わかんない。だって本物なんてやったこと無いんだもの。だけど、やる前から諦めたりなんかしない!」
小鳥「うん、その調子。春香ちゃんも、ちょっと変な麻雀になっちゃうけど、気兼ねなく打って欲しいな」
春香「わかりました。まだまだ勉強中のマージャンですが、全力でいかせてもらいます」
律子「私の敵は小鳥さんだけ。誰が何と言おうと、それは変わらないわ」
小鳥「そう……」
律子「……」
小鳥「ねえ、律子さん。さっき私は『納得できるようにしてあげる』って言ったわよね?」
律子「はい。そう聞きました。ですから、実戦で私を叩き潰してくれるんでしょう?」
小鳥「でも、麻雀の勝ち負けは一戦じゃあ納得できない。違う?この勝負に負けただけで、本当にそのもやもやは解消されるの?」
律子「それは……まあ、そうです。余程のことがない限り、半荘程度じゃ何も決まらないと思います」
小鳥「だから、こうしましょう。私は半荘を通して二回しかあがらない。その上で、絶対に律子さんの順位を上回る」
律子「はぁ?!麻雀は運の要素が強いゲームなんですよっ!私が役満でもあがっちゃったらどうするんですか?」
小鳥「例え律子さんが役満をあがろうとも、なんとか上回れると思うわ。今の律子さんなら、この勝負は九分九厘外さない」
律子「その条件、その口ぶり……私を舐めているってことでいいんですよね?」
小鳥「私は”そうなるように打つ”って宣言しているだけ。だから、律子さんは対応すればいいだけの話よ」
律子「いえ、私はいつもの打ち方を貫くだけです。変な卓外戦術には乗りません」
小鳥「変則的な差し馬だと思ってね。万が一、律子さんが私の上をいくようなら、なんでも言うことを聞くわ。本当に、なんでも」
律子「なんでも、って。今の私なら酷いことを言うかもしれないってこと、わかって言っているんですよね?」
小鳥「大丈夫よ。今の律子さん相手なら、残念ながら大丈夫なの」
律子「じゃあ私も同じ条件でお願いします。ここまで挑発されて引けるもんですか!」
小鳥「違うのよ。挑発するつもりなんて無い。ただ、間違った道に入り込んでいることを自覚して欲しいだけ」
律子「間違ってなんかいないと証明すればいいんですよね?わかりました」
小鳥「律子さんはもっと麻雀を楽しめる。プロデューサーさんも、似たような気持ちだと思うわ。だから……」
律子「わからないですよ、そんなの。二人が何を望んでいるのかなんて、私にはまったく理解できません!!」
小鳥「それをわかって欲しいから、こんなことまでやっているのよ。私だって……本当はただ楽しんで打ちたいのに」
律子「もう引けないんですよ。私が負けたら、小鳥さんの言うことをなんでもを聞きます。これは絶対に譲れません!」
小鳥「……じゃあせめて、もう一つだけハンデをつけさせて。それなら律子さんの提案を受け入れてもいいわ」
律子「この上まだっ?!……いえ、わかりました。聞きましょう」
小鳥「私がトップを取った場合でも、律子さんが2着なら律子さんの勝ち」
律子「自分が何を言っているのかを、本当にわかっているんですか?」
小鳥「ここまでやれば、律子さんにも勝ちの目が出ると思うわ」
律子「それって春香か美希が私の上をいくってことですよね?」
小鳥「そうじゃないわ。春香ちゃんや美希ちゃんの実力は未知数だもの」
律子「この子たちは初心者ですよ!少なくとも私の2着は予想して然るべきじゃないですか!」
小鳥「そうね。負けちゃうかもしれない。でも、九分九厘外さない勝負で大きな約束をもらうのはフェアじゃない」
律子「それでもまだ優勢だと思っているんですね」
小鳥「酷い条件でしょう?だからこそ、わかってもらえると思うの。もし律子さんが正しいなら、ほぼ負けない条件だから」
律子「くっ……わかりましたよ。私が2着以上なら、問答無用で勝ちなんです。せいぜい頑張らせてもらいます」
小鳥「ええ、いい勝負にしましょう。春香ちゃん、美希ちゃん。頑張ってね」
春香「あ、えっと……はい。頑張ります」
美希「早くやろっ!ミキ、もう待ちきれないの!」
小鳥「じゃあこのままつかみ取りで……あ、えっと。東南西北を裏返して混ぜるから、東を引いた人が席を決めていいわよ」
美希「はいっ!ミキがとーん!!」
律子「なんで好きな麻雀でこんな思いをしなきゃいけないのよ……私の何が間違っているって言うのよ……」
小鳥「大丈夫。律子さんならきっといい方向へ進んで行けるわ。だから……」
律子「だから、なんですか?」
小鳥「辛い麻雀になるだろうけど、頑張って耐えてね」
【東一局】
起親:小鳥 30000
南家:美希 30000
西家:春香 30000
北家:律子 30000
――4巡目――
律子『さて。おかしなルールになっちゃったけど、麻雀に変わりはないんだから問題は無いわ』
律子『小鳥さんには”2回しかあがれない”という条件がある。私としては、親で大きいのをあがられるのだけは避けたいところ』
律子『まずはこの小鳥さんの親を流してしまいましょう。そして、小鳥さんが親でない局面で手を作るのが基本路線』
律子『……ふふ。楽な話ね。春香と美希は超初心者。小鳥さんはあがり制限付き。私だけやりたい放題じゃない』
律子『こんな戦い、小鳥さんじゃないけど九分九厘落とさない。きっちり勝って、私の正しさを証明してみせる』
律子『出足の配牌も高くはないけどいい感じ――――四巡目現在:二三四六八3356(224)東――――』
律子『基本路線通り、食いタンの仕掛けで親を流すとしましょうか』
小鳥「あ、そうだ。基本的にはこの間のルールでいいでしょう?」
律子「そうですね。いいんじゃないかと思います」
美希「この間のルールって?ミキ、正直言うとマージャンのルールはあんまりわかんないの」
小鳥「基本的には本に書いてあるのとだいたい同じよ。だけど、細かい部分がちょっとね」
春香「えっと、東場がテンパイ連荘で、南場はノーテンでも連荘でしたよね?」
小鳥「そうそう。初心者に優しいルールね。親の連荘条件は大事だから確認必須よ。それから食いタンあり、後付あり」
美希「なにそれ?」
小鳥「鳴いたタンヤオのことを食いタンって言うの。これを認めるかどうかで、ゲーム性が全く変わってくるのよ」
律子「後付けも鳴きに関してのルールだから一緒に覚えるといいわ。例えば2つポンをして、発のみをあがったとするでしょ?」
美希「うん」
律子「でも、発を2つ目に鳴いていると”一つ鳴いた後で役を付けている”わよね?これが後付け」
美希「それって何か問題があるの?ミキ、役があればあがれるって聞いたんだけど」
律子「後に役を付けることを認めないってルールがあるのよ。今はだいぶ廃れちゃったけど、それでもまだよく聞くルールね」
美希「なにそれ。意味わかんない」
小鳥「まあウチは最後に役があればいいってルールにするから、みんなはまだ気にしなくてもいいわ」
美希「うん。ややこしいのはめんどっちいから嫌いなの。それでいいと思うなっ!」
小鳥「それからこの間は話に出なかったんだけど、あ、リーチね」
律子『えっ?!は、早い。まだ4巡目よっ?!しかも小鳥さんの親リーチって、これは初手から厳しいわね』
小鳥「律子さん、チョンボってどうしようか。初心者が2人もいるとどうしても出てしまいそうだから、早めに決めておきましょう」
律子「あ。えーっと、そうですね。場合によりけりですが、基本的には罰則なしでいいと思います。初心者に優しいルールで」
小鳥「じゃあ現状を正当とする感じで、維持できる状態はそのまま維持しましょうか」
律子「はい。役が無かったとか、間違えてツモったとか、そういうのはもう無かったことにして続ければいいと思います」
小鳥「わかったわ。みんなも、これで罰則はほとんど無くなったから、気軽に打ってね」
美希「はーい」
春香「わかりました」
美希「それにしてもリーチかあ。小鳥のくせになまいきなの」
春香「親なのに早いなあ。こっちの手はまだ全然なのに、ちっとも当たり牌がわかんないよー」
律子「そりゃたった4牌で読めやしないわ。字牌3枚と9ピンだけじゃ読みようがないもの」
律子『小鳥さんに許されたあがりは2回。勝負手になっているってことよね。これはちょっと迂闊に飛び込めないわ』
美希「律子でも読めないんじゃしょうがないね」
春香「はあ〜。もう振込み覚悟だよ。いきなり厳しいマージャンになっちゃったなあ」
律子『あんたらが思っている以上に厳しい状況なのよ。まあ、まだ二人にはわからないでしょうね』
律子『うん。ここまでの不利な状況なら、確実に降りて失点を防ぐのが鉄則』
………
……
…
――流局――
春香「終わったー!全然テンパらなかったよ」
律子「小鳥さんにあがられなかっただけでも良しとしなさい。きっと高かったわよ」
美希「まったく読めないんじゃなかったの?」
律子「それでも他の情報からわかることだってあるの。あ、私もノーテンです」
美希「ふーん。よくわかんないや。ミキもノーテンね」
律子「じゃあみんなは小鳥さんに1000点ずつ……」
小鳥「私もノーテン」
律子「……は?」
春香「えっ?で、でも小鳥さん、リーチかけてましたよね?」
小鳥「かけたわよー。でもね、最初から形を見せるのもどうかと思うのよ」
律子「で、でも、それじゃあノーテンリーチ扱いになりますよ!」
春香「えっ……それって、確かチョンボじゃあ」
小鳥「この手がノーテンかどうかは開けて見ないとわからないわね。それから、前回のルールにテンパイ料は無いわよ」
律子「あっ。そういえば、初心者向けルールってことで無しに」
小鳥「それに、チョンボは無いってついさっき決めたじゃない。だから終局時に手を開く意味が無くなっちゃってるのよ」
律子「でも小鳥さんは親です。東場はノーテン親流れですから、手を見せて頂かないとせっかくの親の権利が流れますよ?」
小鳥「ええ。問題ないわ」
律子「……そうですか」
小鳥「そんなに深く考えないで。さあ、次の局にいきましょ。リーチ棒の1000点で私が暫定ラスだから頑張らないとね」
律子『確かに私は小鳥さんの手を見たかった。だけど手を隠すために親の連荘を捨てる?』
律子『小鳥さんはたったの2回しかあがれないのよ?なのに維持できるはずの親の権利を捨てていいわけがない』
律子『わからない。私の理論では絶対に有り得ない選択。小鳥さん、あなたはいったい何を考えているの……』
H26.4.24 開局時の持ち点を修正
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律子さんの麻雀は評価されていないようです。 注1:『一』は一マン、『1』は一ソウ、『(1)』は一ピンです 注2:このお話は、以下から始まるシリーズの続編です。 春香「マージャンですよっ!マージャンっっ!」 P「え?」(http://www.tinami.com/view/593606 ) |
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