残された時の中を…(完結編最終話)
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雪が深々と降る1月31日水曜の夜、とある家の部屋の中で少女が1人、勉強に勤しんでいた。

その少女は鍵大医学部と書かれた赤本を開き、解答練習を行っている。

 

“あれからもう…、1年ですか……”

 

目の前のスマホのディスプレイに表示されている日付に目をやりながら、少女は溜息を吐く(つく)。

 

 

“コンコン”

 

「まだ起きてるの?」

「お姉ちゃん?」

 

少女の部屋のドアを彼女の姉と思しき人物がノックする。

 

 

「栞。明日も早いんだから、そろそろ寝ないとダメよ」

「これが終わってから…」

 

ドア越しに栞という名の少女を注意する姉に、彼女は問題をカリカリ解きながら返した。

 

 

少女の名前は美坂栞。高校3年生である。

 

現在の彼女は髪の毛が背中まで伸び、身長も165cmまで伸びた他、スタイルもここ1年間でグラマラスに変化し、

姉の香里はウェーブヘア、栞はストレートヘアという点を除けば、見た目が姉とほとんど同じになった。

 

1年前の誕生日に北川が栞の目の前から消えて以降、栞は鍵大医学部を志望する様になった。

高校1年時に病気で長期間休んでいた為、当初こそ学力のブランクはあったものの、

鍵大に通う姉が勉強を教えてくれた事もあって、2学期中間から同学年の沢渡真琴や天野美汐と一緒に学年上位の成績を出す様になり、

2週間ほど前に実施されたセンター試験では真琴は8割、美汐は満点に近い成績を出し、当の栞は9割の点数を取れたので、3人共に鍵大入試に挑む事になった

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しばらくしてタイマーが鳴り、栞は解いていた問題の答え合わせを行った。

 

 

“大分、点数が取れる様になってきました♪この調子でいけば、鍵大合格も現役で…”

 

解説に一通り目を通し、鍵大の問題に手応えを感じつつ、栞は赤本を閉じる。

 

ストレッチをしながらスマホのディスプレイに表示されている時計に目をやると、時刻は午後11時40分を回ったところだった。

 

 

“後20分で私の誕生日…”

 

栞はベッドの上にドサッと寝っ転がると、天井をボーッと眺めながらここ数年で経験した誕生日の出来事を思い浮かべる。

 

 

2年前は病気で誕生日と同時に命日を迎える可能性があり、そんな中で誕生日一月前に知り合った祐一と誕生日まで接する様になった。

2年前の今、祐一と一緒に入った公園の雪原上に病気の影響で倒れ、そこで誕生日を迎えた。

 

去年は病気を克服しているものの、今度は恋人となった北川が病気で栞の誕生日まで生きられないと言われ、病院で昏睡状態だった北川の精神が栞に会いに来た。

去年の今、栞は公園で北川に死なないでと涙を流しながら懇願し、誕生日を迎えてプレゼントを渡されると同時に北川の精神は消え、雪原上で号泣し続けた。

 

悲しくもあり、嬉しくもあったここ最近の誕生日。

 

今年はどんな誕生日になるのだろう…?

 

もしかしたら……。

 

 

とある期待を一瞬抱きつつも、“そう都合の良い事は起こるものではないですね”と頭をブンブン振りながら、栞は起き上がった。

 

もう寝ようと思って、部屋の電気を消そうと思ったその時……。

 

 

“タンタンタタンタンタタンタンタタンタン……♪”

 

突如、机の上のスマホから着信音が鳴り響く。

 

スマホを手に取ってディスプレイを見てみると…。

 

“え……?”

 

ディスプレイにはとある人物の電話番号が表示されており、栞は思わず目を細める。通話ボタンを押し、スマホを耳に宛がう(あてがう)。

 

「もしもし…。……。はい…。……。はい…。分かりました!!」

 

そう言って通話ボタンを切ると、栞はパジャマを脱ぎ、大急ぎで普段着に着替える。

ハンガーに掛けてあった2枚のストールのうち、クリーム色のストールを羽織ると、“ちょっと出掛けてきます”と言いながら階段を駆け下り、玄関を飛び出した。

 

息急き(いきせき)切りながら、栞はとある場所へと向かって走っていった。電話の主に会う為に…。

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やがて、栞がたどり着いた場所は公園だった。スマホの時計に目をやると、後5分で午前0時になろうとしている。

公園に入り、電話の主を探していると、ベンチに1人の人物が座っているのが見えたので、そこへと歩みを進める。

栞の存在に気付いたのか、ベンチの人物が立ち上がり、栞の元へと歩み寄る。

 

 

「あれ…?美坂…?」

 

その人物は開口一番にそう言った。声の感じからして、どうやら男の様である。

 

「おっかしいな〜…?電話した時は栞ちゃんを呼んだはずだったのに、何で美坂が来てるんだ?」

 

目の前の人物の言葉に、栞がムッとしてその人物を睨み(にらみ)付ける。

 

「私は栞ですよ!!」

「ええ〜、栞ちゃん!!?美坂にしか見えないぞ?」

「そんな事を言う人なんて嫌いです!!この前この姿を見せてるはずですよ!!?」

「ごめんごめん!!ちょっとしたジョークだよ…」

「全くもう……」

 

目の前の人物の反応に、栞はそっぽを向いて頬をプクッと膨らませる。

 

「けど…。改めてこう間近で見てみると、本当にきれいになったよな…」

「こう見えて、色々と努力したんですよ?牛乳を飲んだり、化粧水を使ったり…」

「後、風呂の中で揉んだり……」

「そうそう……。って、何を言わせるんですか!!?」

「はははは…」

「そんな事を言う人なんて人類の敵です!!本当に怒りますよ!!?」

「ごめんごめん」

 

 

そんなこんなやり取りをして、追いかけっこをしているうちに、やがて園内の時計が午前0時を示した。

 

「まあ、ジョークはその辺にしておいて…」

「もう…」

 

目の前の男は栞をからかうのを止めると、シリアスな表情になって栞と向き合った。男の表情に栞の瞳からは涙が浮かび上がる。

 

 

 

 

「誕生日おめでとう。そして……。

 

 ただいま…、栞ちゃん」

 

「えう…、会いたかった……。会いたかった…、です……」

 

 

涙を流しながら、栞は男の胸元に飛び込み、そんな栞を彼はギュッと抱きしめる。

 

「ヒグッ…、ヒグッ……」

「栞ちゃん……」

「ヒグッ……。お帰りなさい…、潤さん……」

 

栞はしゃくり上げながらも、その男の名前を口にした。

 

その男はヨーロッパへ病気の治療をしに行った北川潤であった。

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「もう潤を眠らせてあげてください」

「分かりました」

 

 

1年前の今、ヨーロッパの病院に入院していた北川は心肺停止状態に陥り、担当医師達の必死の蘇生措置にも応えず、

見舞いの為に単身渡欧していた麻宮家の叔父の懇願により、蘇生措置が中止されたのだった。

 

 

「日本時間の2月1日0時マル5分。キタガワジュン……」

 

医師の1人が腕時計に目をやり、北川の死亡宣告を行おうとした時だった。

 

 

 

 

“ピッ……、ピッ……、ピッ……”

 

突如、北川の体に繋がっている医療機器が北川の心臓の鼓動を報せたのだ。

 

「潤……?」

「信じられない…、何度心マしてもカウンターショックをかけても戻らなかったのに…、どうして……?」

「奇跡だ……」

 

予想だにしなかった出来事に医師達はもちろん、麻宮家の叔父も驚いた。

 

「おいっ!!何をしている!!?心臓が動いたとはいえ、まだ心拍数は少ないぞ!!」

「そ…、そうだ!!……を更に2mg注射!!」

「患者の心停止に備えて、カウンターショックと心マスタンバイ!!」

「もたもたするな!!急げ!!」

 

北川の心臓が再度動き出したことで、再び現場が慌ただしくなった。

 

 

“北川くん……。妹……。それに翔太君……。お前達が潤を戻してくれたのか……?”

 

北川への治療再開の様子を、麻宮家の叔父は少し離れた場所から見ながら、北川の亡くなった両親、及び翔太の姿を思い浮かべ、そして涙を流した。

 

“ありがとう…、ありがとう……。神様…、皆……”

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「ジャンボパフェをお腹を壊すくらいに食べまくって、潤さんの事を忘れてやるんです!!」

 

それからおよそ16時間後、祐一達が栞の見舞いに来た事で栞が笑顔を取り戻した直後のこと……。

 

 

“タンタンタタンタンタタンタンタタンタン……♪”

 

「ちょっと待って、誰かから来てる…」

 

香里のスマホに着信音が鳴り響いた。ディスプレイを見てみると、久瀬からだった。

 

「もしもし、久瀬君?」

“美坂さんか…!?たった今、姫里さん達から北川の安否に関する連絡が来たんだ…”

「本当に!!?どうだったの!?」

“何とか持ちこたえる事が出来たそうだ…”

「それ本当の事なの!!?」

“ああ…、ただ……”

 

電話の向こうの久瀬は、話の内容とは裏腹にどこか悲痛な様子だった。

 

「ただ…?」

“ただ……。日本時間の今日の午前0時頃に一度心停止を起こして、何度蘇生措置を行っても心拍数が戻らなかったらしい…。

 死亡宣告がされる直前に心臓が動き出したそうだけど、心停止の時間が長かった影響で眠りから覚めなくなってしまったそうだ……”

「そう…、分かったわ…。ちょうど今栞の部屋にいて、相沢君達もお見舞いに来てるから伝えるわね…。ちょっと待っててくれる…?」

 

久瀬にそう告げると香里はスマホの保留ボタンを押し、悲痛な面持ちで話の内容を栞達に伝えた。

 

「そんな…、北川君……」

「何てこった……!!せっかく戻って来たってのに、心停止のせいで眠りから覚めないだなんて……!!」

「うぐぅ…、北川君……」

 

香里からの話に祐一とあゆと名雪は悲しそうな表情を浮かべる。

 

 

「なんだ…。眠りから覚めないってだけで、まだ生きてるじゃないですか……!!?」

 

4人が北川の話で絶望する中、栞だけは妙にポジティブな様子を見せる。

 

「栞……?」

「考えてみてくださいよ…?潤さんは死ぬところで戻って来たんですよ…?

 心臓が止まったなら、死ぬ事を選ぶ方がずっと楽なはずなのに、戻って来たって事は潤さんは生きて闘う事を選んだって事ですよ……!!?」

「でも……」

「大丈夫です……。潤さんが生きてくれてる限り、私はずっと待ち続けますから……。

 来年は大学受験で忙しいですけど、春休みとか夏休みは時間が空いたら潤さんの世話をしにヨーロッパに行きますから……。

 ヨーロッパにいない時もヨーロッパの潤さんに毎日電話して、励ましますから……。

 だから…、潤さんが生きてる限りは私は絶望しないって……、そう久瀬さんや妹さん達に伝えてください……」

 

涙を流しながらだったが、栞は精一杯の力強い笑顔で香里にそう伝える。

 

「分かったわ…、久瀬君にはそう伝えるから……」

 

栞の笑顔に、悲痛だった他の4人の表情もいくらか明るくなる。

香里はスマホの保留ボタンを解除すると、久瀬に栞の言葉を伝えるのだった。

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そして2ケ月後の春休みと半年後の夏休み、北川の世話の為に渡欧した栞は受験勉強の合間を縫って北川の世話をしていた。

眠り続ける北川は栞に反応する事はなかったが、それでも栞は献身的に世話を続けるのだった。

 

 

そして夏休みの帰国する日、いつも通りに北川の世話をし、病室を出る間際、栞は北川の耳元でボソッと囁いた(ささやいた)。

 

「愛してます、潤さん。私はお婆さんになっても潤さんの事…、待ってますから……」

 

その言葉の後、北川の唇にキスをし、病室を出ようとしたその時だった。

 

 

「栞……、ちゃ……、ん……」

「潤さん!!?」

 

突然聞こえてきた北川の声。それに驚いて振り向くと、唇の他に指先と瞼(まぶた)が動いているのが確認出来た。

 

「潤さん…!!?目が覚めたんですね…!!?」

「……。ああ……」

 

その言葉と同時に、北川の瞼が開いた。

 

「栞……、ちゃん……?」

「潤さん!!」

 

 

目の前の目覚めた北川に、栞は思わずベッドの北川の胸に顔を埋め(うずめ)、号泣するのだった。

 

「ヒグッ…。良かった……、です…。潤…、さん……」

 

 

その後、担当医や看護師達による処置が施される中、帰国の為に病室を出なければならなかった栞は、去り際に北川に、

 

「潤さん!!どんなに苦しくて辛い(つらい)事があっても絶対に負けないで、無事に戻って来てくださいね!!」

「ああ……」

「約束ですよ!!?」

 

そう言うと、栞は右手の小指を差し出した。北川も右手小指を差し出すと、栞の小指に絡ませる。

 

「「指切りげんまん嘘ついたら針千本飲〜ます!指切った!!」」

 

と、指切りで約束を交わして日本に帰国した。

 

 

栞の帰国後、北川は苦しい治療とリハビリを行う事となり、あまりの辛さ(つらさ)に何度も弱音を吐いて涙を流したが、

その度に栞は電話越しに優しく、時に厳しく励まし、そのメッセージを力に北川は治療とリハビリに耐えてきた。

 

 

冬休みもまた渡欧する予定だったが、入院中の北川から“独りでも頑張って見せるから受験に専念してくれ”というメッセージを受け取り、

海の向こうで必死に闘い続ける北川を信じて、栞もまた北川にメッセージを送りつつ学業に励み続け、現在に至るのだった。

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「そう言えばこの前電話した時は、退院するまでにもうちょっと時間がかかりそうだって言ってたのに、何でここにいるんですか?」

 

北川の抱擁が解かれた後、栞がした質問の内容に北川が一瞬ピクッと反応し、そして冷や汗をダラダラ垂らしながら引きつり笑いを浮かべる。

 

「ごめん…、あれはウソなんだ」

「ウソ……?」

「実は昨日退院して帰国して、ついさっきこの街に着いたところなんだ」

 

北川の発言に栞は呆気にとられ、それによりクリーム色のストールが肩からずり落ちる。

 

 

「栞ちゃんの誕生日になった瞬間に再会するってサプライズは、ドラマみたいで良いと思ったんだ。

 ちなみにウソといっても、お金を出してくださった人達には退院する事は報告してるよ。

 麻宮の叔父さんはもちろん、久瀬や倉田先輩にも報告してるし、水瀬のお母さんや翔太のご両親にもね」

「じゃあ…。お母さん達も……?」

「うん。栞ちゃんのご両親にも前もって伝えてあるし、栞ちゃんへのサプライズの事も話したらOKしてくださったんだ。

 とりあえず、ドラマみたいな再会も出来た事だし…」

「騙して(だまして)たんですね…!?」

 

北川の言葉に栞が俯き(うつむき)ながら、ドスの利いた声で引きつり笑いを浮かべる。

続けて積もっていた雪で雪玉を作り始める。

 

「ま……。まあ、退院が報告したより早まったって考えれば……」

「潤さんなんて…。潤さんなんて……!!」

「栞ちゃん…?」

 

「大っ嫌いです!!」

 

 

そう言うと、栞は足元の雪玉を北川に投げつけ、雪玉の威力に北川は尻餅をつく。

 

「し……、栞ちゃん……?」

「ウソつく人なんて大嫌いです!!人類の敵です!!」

「そうね…、人類の敵よね……」

 

その時、栞の後ろからドスの利いた声が聞こえてきたかと思うと、直径1メートルほどの雪玉を転がしながら、ある人物が北川に近づいてきた。

 

「し…、栞ちゃんが2人……?」

「あら…?あたしの事忘れちゃったのかしら?」

「じょ…、冗談だよ…!!美坂……」

 

栞の後ろの人物の不気味な笑顔に北川の表情が更に蒼ざめていく。栞の姉、香里だった。

 

「あたし達を騙していた事に加えて、去年栞を悲しませた事…。身をもって償ってもらおうかしら…?」

「そうですね…、お姉ちゃん……」

 

そう言うと、香里は大きな雪玉を持ち上げた。

 

「ヒイッ…、助けて〜!!」

「「待ってくださ〜い(待ちなさ〜い)!!」」

 

目の前の2人の恐ろしいオーラに、たまらずに起き上がって一目散に逃げる北川、そして雪玉を持って北川を追いかける美坂姉妹。

3人はしばらくの間、公園内で追いかけっこをするのだった……。

 

「助けて〜!!殺される〜!!」

「待てー!!」

「待ってくださーい!!」

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「あら。戻って来たんですね、北川さん。良かったわ〜。

 それにしても鬼ごっこですか…?楽しそうですね…♪」

 

偶然、公園前を通りかかった秋子はそんな3人の追いかけっこを、公園の外から頬に手を添えるポーズのまま、楽しそうに眺めていた。

 

「私も子供の頃は雪の中でも鬼ごっこしてましたっけ?懐かしいわ…。今度交ぜてもらいたいものですね…♪」

 

 

「助けてー!ひいいー!」

「待てー!」

「待ってくださーい!」

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“北川さんが息災なご様子で何よりです”

 

それから十数分後、天野美汐のスマホに栞から動画付きで、北川がこの街に戻って来たという件名でメールが届き、それを見た美汐が表情を綻ばせる(ほころばせる)。

 

 

“しかし…。メールの件名からは全く想像もつかないこの動画の中の北川さん……。一体何が……?”

 

が、添付の動画を目にした途端、美汐は呆れた表情を浮かべる。

 

 

動画には、“人類の敵でごめんなさい…。もうしません…”と、うわ言のように繰り返しながら、

少しご立腹な様子の目の前の栞に謝り続けている、顔面ボコボコの雪だるま姿の北川が映されているのだった…。

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それからおよそ3週間後、鍵大の入試が実施され、真琴と美汐は合格する事が出来たが、栞は医学部というだけあって予想以上に高い点数を要求され、不合格に終わってしまった。

北川は直前まで入院していてセンター試験を受けられなかった事に加え、他の大学入試をこなす体力が戻っていなかった事もあり、今年度も受験を断念した。

 

栞は他の医大には合格していたものの、鍵大医学部を志望する北川の為に一緒に浪人する事を選択し、2人で一緒に勉強に励んだ。

その甲斐あって、翌年度の鍵大医学部の受験では見事に揃って合格し、無事に鍵大医学部への入学を決めた。

 

 

それから更に半年後……。

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「栞〜、急がないと次の講義に遅刻するぞ〜!!」

「待ってください、潤さ〜ん!!」

 

 

「こうやって見てると、あいつら完全に夫婦だな〜…」

 

鍵大キャンパスにて、遠くから白衣姿の北川と栞を眺めながら、祐一は呟いた(つぶやいた)。

 

「うん…、そうだね〜…」

「あなた達には言われたくないわよ…」

「そうだよ、祐一!!」

 

祐一の言葉に相槌を打つあゆ、そんな2人に名雪と白衣姿の香里はツッコミを入れる。

 

「まあ、実質夫婦みたいなものだから当然よね…」

 

北川と栞の姿を眺めながら、香里は淋しそうに微笑む。

 

 

鍵大医学部に入学が決まると同時に、栞は美坂家を出て、北川のアパートで結婚を前提にした同棲を始めたのだった。

 

 

「それにしても、医学部はこれから解剖実習だってな。あいつら大丈夫かな?」

「分からないわ。それでも医者になるって決めた以上、最初に乗り越えないといけない壁でしょうね」

「乗り越えられるよ。だって2人は重い病気を乗り越えてきたんだから…」

「そうだよね、名雪さん。北川君と栞ちゃんなら、きっとどんな壁でも乗り越えて良いお医者さんになれるよね」

「お前らがそう言うんなら、違いねえだろうな〜」

「全くよね」

 

4人がそんな会話をする中、北川と栞は手を繋いでいた。

その様子を見ながら、香里は高校時代に北川に振られた事を思い出すのだった。

 

“あいつらったら、お似合いで本当に羨ましい(うらやましい)な〜…。けど見てなさい…!!

 もっと自分を磨いて、いつかは素敵な彼氏を見つけて、北川君(あいつ)にあたしを振った事を後悔させてやるんだから…!!”

 

香里は北川と栞に嫉妬の視線を送りながら、祐一達と一緒にその場を離れるのだった。

 

 

「急げ〜」

「引っ張らないでくださ〜い!!」

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自分の病を知り、独りずっと闘い続けた少年…

 

 

 

 

孤独に打ち勝ち、苦しみに打ち勝ち、かつそれを人に見せることなく笑い続ける…

 

 

それは想像を絶する苦しみで…

 

時にはくじけそうになったこともあり、時には泣いたこともある…

 

 

そして心が折れそうになり…

 

 

もうだめだと思ったその時…

 

 

一人の少女に支えられた…

 

 

その少女も少年と同じく、独りずっと病と闘っていた…

 

 

共に病が治った今、これからは別の大きな苦しみを幾度となく経験することになるだろう…

 

 

でも…

 

 

 

 

 

 

与えられた人生を2人で精一杯…

 

 

精一杯生きていこう…

 

 

 

 

 

 

お互いの存在は2人に大きな決意をもたらした

 

 

 

 

 

 

これからも2人は永遠(とわ)に支え合って歩み続けていくだろう

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という訳で執筆を再開して2ヶ月、ついに完結を迎える事が出来ました!!

第1部完結から実に11年もの間隔が空いてしまいましたが、ずっと楽しみにしてくださってた読者の方々には大変申し訳なく思います…m(_ _;)m。

 

さて北川君の追いかけっこのシーンですが、実はつい先ほど考え付いたものです(^_^;)(ラストのモノローグは最初から構想してましたけども)。

完結編第6話をアップした時は再会シーンをロマンティックな形で終わらせる予定だったのですが、ここでギャグを入れないのはもったいないかなと思ったのと、

第1部ラストを追いかけっこのギャグで締めてるので、それと同じで少し違う形の方が面白くなるかなという理由で入れました。

なので、深夜の雪道ですが秋子さんにも登場してもらいました(笑)。

             

 

 

ところで執筆再開の理由ですが、とある出来事により“構想中の作品を執筆して発表せねば”という危機感が芽生えたからです。

それにあたり、まず停滞している連載SSを片付けなければという使命感が生じ、そして執筆再開から2ヶ月ほどで完結させる事が出来ました。

 

これにてKey系のSSの創作はこれで終わりにします(イラストは2次創作も発表していく予定です)。読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。

 

次からは構想中のオリジナルの作品発表に力を入れていきます。

どこまで受け入れてもらえるかは不安ですが、その作品の最終回まで頑張っていこうと思います。

 

 

最後に北川君と栞ちゃん、これからも色々と辛い事が待ち受けているだろうけど、どんな事があっても決して立ち止まる事なく歩み続けて下さい。

 

2人の、そして他のキャラクター達の未来に幸あれ!!

説明
10年以上前に第1部が終わってから更新が途絶えてしまった、北川君と栞ちゃんのSSの続きです。
10年以上前から楽しみにしてくださった方々には、大変申し訳ない気持ちでいっぱいです…。
当時の構想そのままに書いていきますので、おかしな部分も出てくるかもしれませんが、どうぞ最後までよろしくお願いしますm(_ _)m!!
今回で完結です。

北川君と栞ちゃんは果たしてどうなったのでしょうか?
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