真・恋姫†無双IF 一刀が強くてニューゲーム? 第四話
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 気が付けば、俺は天幕で横になっていた。

 剣戟の音は聞こえず、怒号も聞こえる事も無く、ただただ静寂が広がっている。何故俺はこんな所に居るのか…。

 覚えている限りの記憶を辿るに、戦いは追撃戦に移っていた。俺は確か…。

 

……ああ。倒れたんだっけな。

 

 戦っていて、途中で意識を失ったのだ。気負って無茶をした結果だろうか、みんなは必死で戦っていたと言うのに……情けない。

 たかだか数人を相手にしただけで、この体たらくとは。

 

はは……切ったんだな、俺。

 

 思い出したかのように震えてくる右手を見る。既に洗い落とされたのだろう、血が付いている訳でもないのに真っ赤に見えた。

 殺さないように気をつけたとはいえ、知らずに殺していたかもしれない。深手を負わせて死なせたかもしれない。それに、殺していなくても肉を切る感触は変わらない。

 頬が熱い。愛紗も鈴々も、桃香でさえも、いつもこれを感じられる世界に居たと言うのか。それだけでない、これ以上の熱さも――

 

……そういえば、みんなはどうなったんだ?

 

 不思議な事に、愛紗や鈴々、桃香たちの事を思うと、手の赤みも、頬の熱さも和らいでいく。

 先程から静かだが、戦闘は終わったのだろうか? 桃香達だけではない、星も、白蓮も、みんなは無事なのだろうか……?

 

…行かないと。

 

 体は……大丈夫だ、動く。

 気だるい重たさはあるが、動けない程じゃない。

 

「……行こう」

 

 掛けられていた布を取ると、天幕を出た――。

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「完全なる勝利、だったな! いやぁ、良かった良かった!」

「さすがですね、白蓮殿。お見事でした」

 

追撃戦から戻ってきた公孫賛に、先に戻ってきていた関羽が声を掛ける。本来ならばより親しい劉備が声を掛けていただろうが、その劉備は浮かない顔をして、あらぬ方向を見つめていた。

 

「いやぁ、愛紗や桃香のおかげで…あれ? 桃香、どうしたんだ?」

「それが…追撃戦に入った辺りからあのご様子でして……私にも鈴々にも理由が分かりません」

 

 様子に気付いた公孫賛が声を掛けるが、劉備は応えず、あらぬ方向――ちょうど、本陣がある方を一心に見つめている。

 応える様子のない劉備に、関羽が代わりに口を開く。関羽が知る限りずっとこの状態で、声を掛けても反応の無い様子に心配していた。隣にいる張飛も落ち着かなさそうに桃香を見上げている。

 

「そうか…」 

「はい。何か桃香様の身にあったのでは…」

 

「…おおかた、姿の見えぬ北郷殿の事だろう?」

 

 困惑の声を上げる公孫賛と関羽に、別の所から声が掛かる。二人が振り返ると、追撃から戻ったのだろう趙雲が、ちょうど馬から下りて来るところだった。

 

「そう言われれば…確かに北郷の姿が見えないな。追撃には加わってなかった筈だが、どうかしたのか?」

「さて…それは私とて分かりませぬ。ただ、伯珪殿のところに何も報告が無いとするなら、無事なのでは――」

 

 

「――ご主人様ね、倒れたんだ…」

 

 

『!?』

 

 それまでずっと黙っていた劉備が唐突に口を開く。

 告げられた内容に三人は絶句して劉備を振り返った。張飛にいたっては不安げに劉備の服の裾を握っている。

 

「初めはね、私と後ろで指揮を執ってたの…。でも、膠着する前線に、一兵でも必要だって言って…」

 

 訥々と語る劉備。その口調に悔しさのような物が混じっている事は四人とも気付いていた。

 

「止めた方がいいと思ったけど、ご主人様、笑って『行ってくる』って…。思えば初陣なのに、笑うのだって無理してたはず…!」

 

 劉備の大きな瞳には涙が滲んでいる。が、それを拭おうともせずに拳を握り締めて独白する姿、その自分で自分を責めているような様子に、皆圧倒されて何も言えない。

 ここまで感情を露わにする劉備なんて関羽も張飛も、ましてや公孫賛も見た事がなかった。

 

「それでね…ちょうど追撃戦に移る直前に様子を見に行ったの。もう私が前線に出ても大丈夫だろうと思って…そしたらね、血まみれになりながらもご主人様は立ってた。返り血だけで怪我はしてないようだけど、すごく辛そうで、痛そうで…」

 

 劉備の独白は続く。北郷一刀が戦況の変化に気付かない程消耗していた事、それでも戦いに行こうとした事、無理やりに止めたらそこで意識を失った事―。

 全てを語り終えた時には、劉備の目からは涙が溢れ、笑顔の似合う可憐な顔はクシャクシャに歪んでいた。

 

「私が初めに止めていれば! 一緒に戦う事ができていれば! あんなになるまでご主人様が戦わなくて良かったのに…っ!」

 

 無力感が言葉の奔流となって流れ出る。劉備自身が戦えないという事が言葉に拍車をかけていた。

 

「私のせいで、ご主人様が…っ! 私が……私が、天の御遣いだって、巻き込んだから…っ!」

 

 誰も答えられない言葉。違うと分かっていても、四人とも口を開けない。

 しかし、その答えられないはずの言葉に、

 

 

「――それは違うぞ、桃香」

 

 

 答えが、返ってきた――。

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 天幕を出て歩いていると、ちょうど本陣の前辺りで五人が話しているのが見えた。どうやらみんな無事だったらしい。

 しかし、喜べる雰囲気ではないようだ。

 愛紗も鈴々も、星や白蓮も険しい顔をしている。桃香は横顔に涙を溜め、背中を震わせ、今にも崩れ落ちそうな弱々しさを身に纏っていた。そのみんなの姿に、話している話題が良くない内容である事が分かった。

 

 もしかして、俺が戦場で倒れた事が尾を引いているのだろうか?

 あれはただ、俺が優柔不断で甘かっただけだと言うのに―

 

 

「私のせいで、ご主人様が…っ! 私が……私が、天の御遣いだって、巻き込んだから…っ!」

 

 

「!?」

 

 桃香の言葉が聞こえた。

 今まで何を言っていたのか分からなかったが、その一言で全てを理解できた。

 話しているだけではなく、俺が不甲斐無いばかりに、桃香にいらない心労までかけていた。

 

「――それは違うぞ、桃香」

『!?』

 

 桃香をはじめ、みんなが振り返る。急に注目を浴びる事、それも驚きの眼差しというのは何となく気まずさを感じるが、構わない。

 

「それは違うんだ、桃香」

「ご主人様!? 無事だっ…あ…」

 

 桃香の前まで歩み寄り、改めて声を掛ける。

 滂沱と流れる涙が桃香の真情を物語っているようで、悔しかった。他ならぬ俺のせいで泣かせてしまったと思うと、胸が痛んだ。

 気か付けば、俺は桃香を抱きしめていた。

 

「桃香は悪くないんだ。俺が、覚悟が足りなかったせいなんだ…だから…」

「違うっ。私がご主人様を巻き込んだから―」

「いいや、俺は俺の意思で桃香達についていくと決めた。天の御遣いである事も、戦う事も、俺が決めたんだ」

「……」

 

 この華奢な肩にどれだけの重圧を感じていたのだろうか。自分で起つと決めた時も、このように震えていたのだろうか。

 

「全部俺の意思だよ。みんなに協力する事も、一緒にいる事も、四人で誓ったのも、俺の意思だ。だからこうして立っている」

「…で、でも……辛そうで、痛そうだった…」

「辛いし、痛いよ。情けないけどね? でも、これは選択した事の代償だよ。俺が背負う事であり、桃香が背負う事じゃない」

「でも…」

「いいんだ、桃香は優しすぎるよ。何かを成し遂げるには、何かが成し遂げられなくなる。俺の場合は、それがこれだっただけの事、これは俺の物で、桃香が背負う事じゃない。…ただ」

「……」

「何と言うか…うん、背負うんじゃなくて、知っておいて欲しい。残酷な事だけど……人が、こういう思いをしているって、こう感じているって、知っていて欲しい」

 

 今ここで俺一人の事を背負ってこんなになっていては、この先、桃香が土地を持って人が集まった時、潰れかねない。残酷な事だけど、ここで立ち止まっているようでは駄目だ。

 とはいえ、何も感じなくてはそこいらの権力者となんら変わらない。

 先に待つ平和の為に、その時背負うべき物の為に、ここで余計な荷物は持たせられない。

 

「いつか、桃香に力が付いて、背負えるぐらいの責任が生まれたら、そのときに背負えばいい。そのときは俺も、愛紗も鈴々も、一緒に背負うさ。な?」

「当たり前です!」

「そうなのだ!」

 

 俺が向けた視線に、愛紗も鈴々も応えてくれる。四人一緒という事を改めて感じられて、とても心強い。

 そうだ、俺もそうしよう。彼女達とともに行くと決めたんだ、背負うものができるまでに、沢山知って歩いていこう。

 

「俺たちだけじゃないさ。星も白蓮も、手を貸してくれるさ…な?」

「ああ!」

「勿論だ!」

 

 星も白蓮も、力強く応えてくれる。頼もしい仲間に、俺は頭が上がらなくなりそうだ。

 一人で考えて分からないときは、みんなに手を借りよう。

 

「だから…な? 桃香」

「……うん」

 

 背中に桃香の腕の感触。倒れた時と同じ暖かさが、俺の胸元に感じられた。

 

「ありがとう、ご主人様…」

「どう致しまして」

 

 見上げてくる桃香に、もう涙は流れていない。涙の跡には、輝かんばかりの、それでいて暖かみのある笑顔が浮かんでいた。

 やはり桃香はこうでないと。

 

「…それで、北郷殿はいつまで桃香殿を抱きしめているおつもりだ?」

「ん!?」

「えっ!?」

「桃香もやるなぁー」

「ご主人様! そ、そろそろお離し下さい、兵の目があります…っ」

「鈴々もするのだーっ!」

 

 優しい気分に浸っていたが、星の一言に我に返る。

 いやぁ、なんかすんげー柔らかい物が肋骨の辺りに……じゃなくて!

 

「あっ、す、すまん!」

「う、うぅん! どう致しまして!?」

 

 咄嗟に桃香を離す俺。今すごい顔赤くなってないか心配だ。

 桃香も同じことを感じたのか、目を合わせられないでいる。お互い、相当気が動転しているようだ。

 というか、咄嗟だったから聞き逃したが、今ヘンな答えが返ってこなかったか…?

 

「お熱いようで…ふふ、良きかな良きかな」

「こら星! あまり変な事を言うな!」

「うーっ、お姉ちゃんだけずるいのだ!」

「北郷も、場所を考えろよなぁ」

 

 四者四様の言葉に、俺は何も言えなくなる。せっかく良い所だったのに…。

 

「ほ、ほらみんな疲れてるでしょ!? 早く城に戻ろう!」

 

 桃香は桃香で露骨な話のそらせ方するし…これは暫くからかいのネタになりそうだ。

 

「……ま、いいか」

 

 とはいえ、それは喜ばしい事だろう。

 戦場での殺伐とした雰囲気を少しでも和らげられるなら、人身御供にでもなろうというものだ。

 

「? ご主人様、どうかした?」

「いや、早く帰ろうってね」

 

 覚悟は決めたが、未だに迷いは晴れない。でも、こうして俺を信じてくれる仲間が居る。

 悩み、考え込んでしまう事はあるだろうけど、それでも進めなくなるという事はなさそうだ。

 

「さぁ、さっさと帰ってみんなで休もうぜ!」

 

 これから先、まだまだ困難はあるだろう。

 この世界が“あの”世界だとしたら、今はスタート地点に過ぎない。しかし一人じゃない、頼りになる仲間がいる。立ち向かうには十分だ。

 頭上一面に広がる青空に、俺は決意を新たにした――。

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 その後、城に帰った俺たちはささやかな祝勝会を開いた。その席で、桃香達は白蓮の元に留まる事が決まり、今後も力を貸していく事になった。

 

 俺も一緒に留まる事になったが、力を貸せているかは微妙だ。何度か盗賊討伐の機会はあったが、俺は桃香に前線に出るのを止められていたからだ。一応指揮は執っていたし、勝利を収めているのだから足手まといではないと思う。それでいいのかとは思うが、それどころではないのが現状だ。

 ここ最近は盗賊相手なのに辛勝することが多くなってきていた。

 指揮云々の話ではない、盗賊の数が減らないのだ。倒しても倒しても次から次へと現れ、こちらが消耗していく一方という状況が続いている。白蓮によれば、俺たちだけでなく地方でも盗賊や野盗が横行し、民衆に被害が出ているらしい。

 

 嫌な胸騒ぎを覚え、日に日にそれが大きくなる中、ついにそれは起きた。

 

 地方太守の悪政に耐えられなくなった民衆が、民間宗教の指導者に率いられて武装蜂起し、官庁を襲ったらしい。官軍に鎮圧されて解決するはずの事件は、官軍の敗北と言う形でより大きく膨れ上がった。

 勢いに乗った民衆はあっという間に大陸の三分の一を掌握し、ついに世は動乱の時代を迎える。この反乱を甘く見ていた漢王朝は、討伐軍の全滅に動揺し、混乱し、ついには恐慌に陥った。官軍は当てにならないと、地方軍閥を頼る事にしたようだ。昨日、俺たちのところに早馬が来た。

 世を乱す逆賊、黄布党を討つべし、と――。

 

「ごめん、遅れた」

 

 侍女に案内されて玉座の間に入った俺は、白蓮に桃香、愛紗、鈴々、星と、そろっていた一同に頭を下げた。

 

「休んでいる所をすまないな、急に呼び出して」

 

「いや、構わないよ。皆揃ってどうしたんだ?」

「北郷も、この城に朝廷の使者が来たのは知っているよな?」

「ああ、黄布党討伐の命令だろ? やっぱその件か?」

「そうだ。それについて、私は参戦する事に決めたのだがな……」

「?」

「あのねご主人様、白蓮ちゃんがね、これは私達にとって好機じゃないかって」

「好機? 何の?」

「桃香様が独立するための好機という事です」

「ああ。黄布党討伐で手柄を立てれば、朝廷より恩賞を賜る事になる。桃香が頑張れば、それなりの地位に就けるはずだ。そうすれば今よりもっと多くの人を守ることが出来る。残念ながら、私の力は大きくは無い。もっと力を付けたいとは思うけど、時間がかかるだろう。そんな私に桃香を付き合わせていいものかと思ってな」

「なるほど…」

 

 白蓮の言う事も尤もだ。しかし、その言葉に裏を探ってしまうのは俺も強かになったと言う事だろうか。

 思うに、白蓮は俺たちの扱いに迷っているのだろう。客将としてはすでに名高い星が居る。それなのに最近、名を上げ始めた桃香達がいては、太守として体面が悪い。一つの集団の中にリーダーより有能で、かつ名声を得ている人間は必要ないというのも頷ける。

 ならば、功名の機会に手柄を上げさせ、独立させるのが無難なやり方だろう。人の上に立つ者として、当然の事だ。

 人のいい白蓮の事だ、純粋に桃香のことを考えた結果なのだろう。それに、今まで休む場所を与えてくれ、名を上げる機会をくれたのだ。感謝こそすれ、下手に勘繰るのは失礼と言うものだろうう。

 

「…そうだな。いい機会だし、そろそろ俺たちも自分達の力で頑張るとしようか」

 

 白蓮の恩に報いるためにも、夢を実現するためにも、ここは行動を起こそう。

 

「でも、鈴々たちだけで大丈夫かなぁ?」

「それは分からないけど、いつまでも白蓮の世話になる訳にはいかないよ」

「そうですね。しかし、我らには手勢がありません。それが問題です」

「だよねぇ…どうしよう、ご主人様ー」

 

 立ち上がると決めたのはいいが、前途は多難なようだ。これは、見通しが甘かったか…?

 

「何、手勢が無いなら街で集めればよい。な、伯珪殿?」

 

 何も言えない俺たちに、意外な所から助け舟が出た。

 

「なに? お、おいおい星…私だって討伐軍を集めなくちゃいけないんだから、そんなの許せるはず――」

「伯珪殿、今こそ器量の見せ所ですぞ」

「ぐぬぬ…」

「それに、伯珪殿の兵は皆勇猛ではありませんか。義勇兵の五百や千、友の門出に贈ってやれば良い」

「む、無茶言うなよぉ…」

「私も勇を振るって働きましょう、それでいかがです?」

「むぅ〜…分かった!贈るよ!! …あんまり集めないでくれると助かるけど」

 

 渋々ながら答えてくれた白蓮に、感謝と申し訳なさが同時に湧き上がってくる。

 

「…じゃあ、集めさせてもらうよ。桃香、愛紗、手配は任せていいかな?」

「うん! まっかせてー」

「御意。早速行動に移りましょう」

「はぁ…こうなったらとことん祝ってやるよ!」

「ごめん…ありがとうな。この恩はいつか、頑張って返すようにするから」

「ふふっ、期待しないで待ってるよ。…星! 兵站部に行って、武具と糧食を供出してやってくれ」

「了解した。では北郷殿、一緒に参ろうか」

「おう」

「鈴々もいくー!」

 

 俺の後ろについてきた鈴々を合わせ、三人で兵站部へと向かうことになった。その途中――

 

「そうだ、さっきはありがとうな」

 

 俺は先を歩く星に声を掛ける。話がすんなり決まったのはあの助け舟のおかげだったが、礼を言うのを忘れていた。

 

「…別段、礼を言われるような事はしておりませぬよ」

「でも、白蓮を上手く乗せて俺達に便宜を図ってくれたじゃないか」

「さてさて、何の事やら?」

 

 おどけて笑って見せた星の顔が真面目なものへと変わる。

 

「それよりも北郷殿、討伐に際しては何か考えがお有りか?」

 

 先程までの顔つきが一転、目に宿る真剣味に、こちらへの心配と興味が感じられる。

 

「…うーん、特に何かあるって訳じゃないかな。鈴々は何かある?」

「鈴々は敵を倒すだけ、作戦とかは任せるのだ!」

「…ですよねー」

 

 あまりにも鈴々らしい回答に苦笑が浮かんでくる。いや、笑ってちゃいけないのだろうけど、こればかりは仕方ない。

 

「まぁ、義勇兵が何人集まってくれるかによるかな? まぁ、相手の情報も不足しているし、まずは情報収集からだろうけど」

「なるほど。しかしあまり悠長にしていては功名の場が無くなりますぞ?」

「そうだろうけど、俺達はまだまだ弱小だからね。多少慎重すぎるくらいでもいい、堅実に動こうと思ってるんだ」

「ふむ……なかなか良く考えておいでだ」

「俺だけならいくらでも行動できるけどね。結果が俺だけじゃなくみんなに影響するからさ」

 

 俺を信じてくれている、主人として立ててくれている仲間達に対して、これも俺が果たすべき責任の一つだろう。

 これから仲間が増えるとより重みを増すだろうし…頑張らないとな。

 

「そういえばさ、星」

「なんでしょう?」

「星って確か、客将扱いだったよな。白蓮の家臣にはならないのか?」

「分かりませんな。今は好意で力を貸しているだけですから」

「なら星は、どっかいっちゃうのかー?」

「さて……それが私にも分からんのだよ。このまま伯珪殿と乱世を戦い抜くか、はてまた徳高き主を探すのか…」

「そうか…」

 

 今は先の見えない乱世。星の答えも尤もな事だろう。でも、だからこそ、願わくば…という思いがあるのは当然かもしれない。

 

「…もし、もしもさ? 星が白蓮の下を去ることになったら……俺達に力を貸してくれないか?」

「……ふむ。それもまた、一つの道ではあるでしょう。しかし……自分の道は自分で見つけたいと、そう思うのですよ」

「そっかぁ…ごめん、不躾だった」

「いや…。本音を言えば、北郷殿にそう言って貰える事はとても嬉しい。ですが…白珪殿に恩がありますからな。それを先ずは返さねばなりません…」

 

 そう言われればそうだ。抜け駆けしたような形になってしまったのが、真摯に答えてくれた星に悪い気がしてきた。

 

「まぁ、恩を返した後は…さてさて? 北郷殿が私と同じ道を歩んでいれば、どこかで道が交錯しているやも知れませんな」

「……俺はそう信じているよ」

「うむ。私もそう信じるとしよう」

 

 俺の考えていた事を見透かしたのだろうか。からかい混じりながら明るい声で頷いた星は、そのまま俺達に背を向けるように兵站部へと案内してくれた――。

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 街で義勇兵を募っていた桃香達と城門で合流すると、いよいよ出発となった。

 

「たくさん集まてくれたねー、ご主人様!」

「そうだな…すまん、白蓮」

 

 城のほうを向いて、俺は両手を合わせる。

 俺でさえ予想できなかった事だ、白蓮は到底想像できなかっただろう。まさか城下の町だけでなく、近隣の邑からも人が集まってくれるとは。しかもそれが総勢六千人にもなろうとは。

 白蓮の引きつった顔、星のおかしそうな顔が忘れない。

 

「人が集まったのは良いのですが…これからどうしましょうか?」

「こうきんとーの奴らを探し出して、片っ端から退治するのだ!」

「さすが鈴々は勇ましいなぁ。でも、それじゃ兵糧が持たないから却下」

「むー、ならどうするのだ? お兄ちゃんはいい案あるのかー?」

「うーん、そう言われると耳が痛いんだけど」

 

 独立準備と共に情報を集めはしたものの、情報が入り乱れていて正直何から手をつけていいのか分からないのだ。行動指針の一つでもあればいいが、それさえも定まらない。

 

「さて、どうしたもんかな…」

 

 みんなでうんうん頭をつき合わせて唸っていると

 

「あの、す…すみましぇん!?  …うぅ、痛い」

 

 何処からともなく声が聞こえてきた。

 うーん、精一杯気張ったのだろうけど、最後噛んでなかったか?

 辺りを見回してみるが、まちまちに通行人が居るだけで俺達に用がありそうな人は居ない。幻聴か何かだろうか。

 

「なんだ?」

「はわわ…こっちです、こっちですよ〜!」

「えぇと…声は聞こえど姿は見えず……」

「ふむ? 一体なんだ?」

 

 桃香と愛紗も声は聞こえたらしい。しかし、姿は発見できていないようで…集団で幻聴って、そんな事があるのか?

 首を捻る俺達に、鈴々が何故か頬を膨らませていた。

 

「…みんなひどいことを言うのだなー。小さいからってバカにするのは良くないのだ! こっち!」

「え? …あれ? 君達は…」

 

 鈴々に下から手を引かれて、視線が低くなったところで漸く気付いた。

 

「こっ、こにちゅは!」

「ちち、ちは、ですぅ…」

 

 共にリボンをつけた、可愛い帽子と……えぇと、魔女みたいな帽子を被った二人の少女が、声のようにガチガチに緊張した様子で立っていた。

 

「はいこんにちは。えぇと…どちらさんかな?」

「わ、私はしょかちゅこうめーれしゅ!」

「私はその、えと、んと、ほ、ほと、ほとーでし!」

「にゃー、二人ともカミカミなのだ」

「んー、とりあえず落ち着こっか? もう一度、ゆっくり名前を聞かせてくれるかなー?」

「は、はい…私はしょ、諸葛孔明です!」

「ほ、ほほ…鳳統でしゅ!」

「……!?」

 

 俺の聞き間違いだろうか? 二人とも今、すごい名前を名乗らなかったか?

 

「諸葛孔明殿に鳳統殿か…。貴女達のような少女が、何故こんなところに居る?」

「あ、あのですね! 私達は荊州にある水鏡塾という、水鏡先生という方が開いている私塾で学んでいたんですけど、この大陸の情勢を見るに見かねて」

「力の無い人たちが苦しむのが許せなくて、その人たちを守るために私達が学んだ知識を生かそうと思って、でも私達だけじゃ力が及ばなくて無いも出来ないから誰かに手伝ってもらおうと」

「それでそれで、誰かに協力してもらおうって考えたときに、天の御遣いが義勇兵を募集していると聞いたんです!」

「色々話を聞くうちに、天の御遣いが考えていらっしゃる事が私達の考えている事と同じだって分かって、協力してもらうならこの人だって思ったんです!」

「ですから…あ、あの、私たちを戦列の端にお加え下さい!」

「お願いします!」

「……」

 

 先程までのカミカミな様子からは信じられないような饒舌さで語る二人。真剣な眼差しには熱意こそあれ、嘘や冗談を言っている様子はない。

 信じがたい名前だったが、その片鱗を見せられると信じざるを得ない。儚げな少女とはいえ、伏龍と鳳雛の名は伊達ではないということだろうか。

 

「んー、どうしよっか?」

「戦列に加えるには少々若すぎると思いますが…」

「愛紗、二人とも鈴々とそう変わらないように見えるのだ」

「それはそうだが、お前は一騎当千の武があろう。年若くても戦える。しかし二人は見た所華奢で、戦働きが出来るようには思えぬが…」

「愛紗ちゃん、何も剣を持って戦うだけが戦いじゃないよ。武芸が達者じゃないと戦えないなんて言ったら、私なんてこれっぽっちも戦えないもんね! ……言ってて悲しくなってきたよ」

「それはそうですが…どうしましょう、ご主人様?」

 

 思わず圧倒されて何も言えないでいるのを、悩んでいると勘違いしたのだろうか。三人が各々意見を出して俺の答えを求めてくる。

 というか愛紗、今の桃香の発言、素直に認めてよかったのか?

 

「うぅ…どうせ私は運動音痴で武芸なんて出来ないもん…」

「あー…まぁ、桃香。そう気にするなよ、俺だって似たようなもんだろ?」

「ふんだ! ご主人様は慣れてなかっただけで、武芸はあるもん!」

「……お二人とも、孔明殿と鳳統殿が困っておりますよ?」

 

 ひどいや愛紗、そもそものきっかけは愛紗なのに!

 

「ゴホン! ……それで、仲間になりたいという話だったね?」

「はわわ……はっ!? はい!」

「あわわ……そ、そうですぅ!」

「うん、いいよ」

「はわ!?」

「あわ!?」

「か、簡単に決めるねご主人様…」

「宜しいのですか、それで?」

 

 あっさりと承諾した俺を、みんな妙な目で見てくる。なんだよ、仲間になりたいって言ってくれたのを、頷いただけだろうに。

 鈴々に至っては笑っているだけだし、何なんだ、どこか変だったろうか?

 

「桃香の言うとおり、戦うのは武芸だけじゃないだろ? それに俺は、この子達がきっと俺達を助けてくれるって、そう信じてる」

 

 この二人がかの有名な“諸葛孔明”に“鳳統”だとしたら、三国志を代表する智謀の士だ。そんな二人が俺達に力を貸してくれるというなら、これからの戦いにも希望が持てる。

 

「そうですか…。ご主人様がそう仰るならば、私に否はありませんが…」

 

 頷くも納得は出来ていないのか、愛紗は渋々といった表情を見せる。

 そういえば、関羽・張飛と諸葛孔明は初め仲が悪いんだったか? にしては鈴々は特に何も無いようだが。

 

「それにしても…」

 

 黄布党討伐の時期に孔明や鳳統が劉備陣営に加わるなんて話は聞いたことが無い。この世界は単純な三国志の世界という訳ではなさそうだ。

 

「? どうかした、ご主人様?」

「いや、何でもない」

 

 案外、俺がこの世界に来た事で物語が変わっているのかもしれない。歴史の流れが違っているのかもしれない。

 しかし、どう変わろうと俺にとっては現実であり、ここにいる桃香達にもそれは変わらない。ならば、これからの道を歩くのは俺達自身の力によるものだ。

 前途は多難で、何処まで出来るかは分からないけれど……今俺は一人じゃない。俺を支えてくれている仲間と共に、この世界を生き抜いていこうと思う。

 そのための仲間は、多い方が頼もしいってものだろ?

 

「…そういう訳で、二人とも俺達に力を貸してくれるかな?」

「は、はひっ!」

「ががっ、がんばりましゅ!」

「ありがとう。…俺は北郷一刀、一応、天の御遣いって事になってる」

「わ、私は、姓は諸葛、名は亮、字は孔明で真名が朱里です! どうぞ朱里と呼んで下さい!」

「えと、んと、姓は鳳で名は統で字は士元で真名は雛里っていいます! あの、宜しくお願いしますっ!」

「朱里に雛里、だね。こちらこそ宜しくな!」

「はいっ!」

「は、はい! …えへへ、朱里ちゃん朱里ちゃん、真名で呼んでくれたよ…」

「うん! 良かったね、雛里ちゃん!」

「うん!」

 

 ほのぼのと会話する二人はなんとも微笑ましい。

 

「…さて、じゃあ早速だけど二人の意見を聞かせて欲しいんだ。俺達はこれからどうすればいいと思う?」

 

 少々唐突だとは思ったが、俺は二人に意見を求めてみた。一瞬真面目な顔に戻るも、二人ともどこか申し訳なさそうな顔つきに変わる。

 …はて、何だろう?

 

「あの…新参者の私達が意見を言っても良いのでしょうか?」

「へ?」

 

 予想外の言葉に一瞬、呆気に取られた。なんと奥ゆかしい子達だろうか。そんな事いちいち気にしなくてもいいのに、仲間になったんだし。

 とは言え、二人からすれば無理もないか、二人とも大人しめの性格のようだし。

 

「当然さ。二人ともこれからは仲間なんだ、遠慮は要らないよ」

「は、はい!」

 

 率直に言葉で表すと、嬉しそうに返事をくれる朱里。雛里もコクコクと何度も頷いてくれている。

 

「では…私達の勢力はまだ出来たばかりで、黄布党討伐に乗り出している他の勢力と比べると極小でしかありません。ですので今は、黄布党の中でも小さな部隊を相手に勝利を積み重ね、名を高め

 

る事が重要だと思います」

「何? 敵を選べというのか?」

 

 朱里の案に愛紗が反応する。戸惑った朱里は言葉を切ってしまった。

 雛里に至っては朱里の背中に隠れてしまっている。

 

「そ、そうですけど…あの……その、えと…」

 

 続きを切り出そうとしているのだろうが、言葉は出ないでいるようだ。察するに、呼びかけることが出来ないといった所だろうか。

 ……そういえば、自己紹介してなかったな。

 

「ああ、この子は関羽って言うんだ。ほら、自己紹介しておこう」

「む……ですが――」

「私は劉備元徳、真名は桃香! 私の事は桃香って呼んでね! 朱里ちゃんも雛里ちゃんも、宜しく!」

「鈴々は張飛っていって、鈴々は真名なのだ。呼びたいなら呼んでもいいのだー」

「むぅ…皆が真名を許すなら、私も許さなければならんな。ご主人様が紹介してくださったように、我が名は関羽、字は雲長、真名は愛紗という。宜しく頼む」

「は、はい! 宜しくお願いします!」

「あぅ、宜しくおねがいしますっ」

 

 朱里に倣って雛里も頭を下げる。初対面での自己紹介とは言え、愛紗は堅いな。あれは関羽と諸葛亮が云々ではなく、愛紗の性格だな。

 

「じゃ、自己紹介も済んだ所で続きといこう。愛紗、俺は朱里の言う事も尤もだと思うんだ」

「ご主人様まで…。しかし、些か卑怯では…?」

「誇り高い愛紗がそう思うのは良く分かる、だけど考えてみてくれ。俺達はどう見積もっても弱小勢力だ、大軍相手にするのは無理だ。それよりは、小さくても勝利を重ねて名を上げ、協力してくれる義勇兵を募るべきだと思う」

「そうです。朱里ちゃんの言う通り堅実に勝って名を上げ、義勇兵を募って勢力としての地盤を固めるのが先決です。ただ問題が…」

「問題……どうかしたの?」

「兵糧の事だろう? 兵隊さんが増えていくのは良いけど、補給がしっかりしてないとそれを維持できないだろうからなぁ」

「確かに…。兵糧が無いと兵は逃げ散ってしまいます」

「うー、お腹が減るのは気合でも何ともならないのだ…」

「そういうこと。さて、どうしよう?」

「名を上げつつ、付近の邑や街に済む富豪の方に』寄付を募るか……」

「敵の補給物資を鹵獲するしか、今は解決方法は無いと思います……」

 

 朱里の意見も雛里の説明も的を射ている。名を上げるためにも、補給物資を鹵獲するためにも、相手をするのは小規模な部隊となる。

 問題は、愛紗がそれで納得してくれるかだ。

 

「そうだね。基本方針はそれしかないと思うんだけど…どうかな、愛紗?」

「はい、状況を説明されれば、それしかないのだと分かります。目的がある為の方針ですから、私に否はありません」

「ありがとう。桃香と鈴々は?」

「うん、意義なーし! ご主人様の方針に従うよー」

「鈴々は別に何でも良いのだー」

「何でもって……まぁ鈴々らしいけどさ」

 

 お気楽な言葉に思わず苦笑するも、これで方針は決まった。

 

「それじゃ、方針に沿ってそろそろ出発しようか!」

 

 新しい仲間とこれからの方針を手に入れた俺達は、城門を後にした――。

説明
大変お待たせ致しました、ここに第四話をお送りします。

前回も皆様にはコメントと支援を頂き、誠にありがとうございます。
また、ご指摘頂いた点については自分なりに改善してみたのですが、いかがでしょうか?

少しでも読み易くなっていると良いのですが…。


今回もまた自分なりの解釈で書いてみたのですが、どうも…
真・恋姫†無双の方がメインの構成になってきた気がします。
恋姫†無双のほうがいいという方、申し訳ありません。

あくまで私の腕が未熟なだけですので、どうかご了承下さい。

それでは、今回も読んで頂けると幸いです。

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コメント
皆様、コメントありがとうございます。二大軍師の登場をきっかけに、いよいよスタートを切り始めました。第五話はちょっと変則的ですが、お楽しみ頂ければ幸いです。(しぐれ)
蜀の二大軍師、あわわとはわわの登場ですwww(ブックマン)
さて・・・カミカミのロリ二人が来たことですし・・・本領発揮でしょうね。(りばーす)
一刀のかっこよさに驚きました(cyber)
一刀(の種馬的)パワー全開だwwwww(フィル)
お。おもしゅろかったちゃでしゅっ、えう、ちゅぢゅきたのしゅみにしてましゅっ・・・えうう噛んじゃった。(乱)
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