IS〜歪みの世界の物語〜 |
13.シグVS隼人
「…………」
「隼人、どうした?」
「……………………いや、本当に君って何者?人間なの?」
呆れたような、恐ろしい物を見るような眼で俺を見る隼人。
いや、隼人だけではないな。アリーナにいる観客席に居る人も珍獣でも見てるかのような視線が感じる。しかも、これがほぼ99%以上女子の目線だから、変な汗が出てくる。
…………おかしいな。恐怖とかの視線ならともかく、好奇心に近い目で見られるのは慣れてないのだが……!
とはいえ、周りの眼が気になりつつも、隼人に対する警戒は一応劣らせてはいない。
何故なら今は試合中。開始のブザーなんて、とっくに鳴っている。
隼人は不思議そうに首を傾げたまま、俺に銃を向けてそのまま引き金をおおおぉぉぉ!?
「わっわっわわ!!?」
不意打ち!?いや、ブザーとか確かになったけど!警戒していたおかげでなんとか避けられたけど!
「急に攻撃仕掛けるなよ!?」
「いや〜、つい☆」
「……よし、殺す。“拘束魔法解除1/2”」
イラッとしたので、さらに力を開放した。
銃弾を避けながら隼人の所へ向かって地面を蹴る。すると、隼人も、前方――俺に向かって、高速で突進してきた。
「――――“雷雹”!!」
そう叫ぶと同時に、煌煉の時と同じ右手に黄色の煙が発生する。
煙の中からシグが雷雹と呼ぶ双剣を取り出し、隼人はハンドガンをISの中に収納して大型の太刀を取り出した。
キイイィィィィィィンッッ!!
武器同士が勢いよくぶつかり、ぶつかった衝撃の大きく音が響き渡る。
お互いに、少しも押すことのできない、完全な鍔競り合いの状況に、二人はタイミングを合わせたかのように、同時に微笑んだ。
「……その武器、俺が作った月影の中には入れていなかったはずだが?」
「雪片三型。月影が、僕のために作ってくれた武器だよ!」
隼人が宙に舞う。攻撃を受けたからではなく、ISの力で、上に飛んだのだ。鍔競り合いの状況が無くなるどころか、隼人はシグの頭が見える状況になる。
身の危険を感じたシグがとっさに体を屈ませると、すぐに髪が僅かに削れた。シグが振り向きざまに剣を振るい、返す刀でシグを攻撃しようとした隼人の太刀と再びぶつかり合う。
だが、今のシグが使っている武器は双剣。片方の攻撃を防いでも、完全に攻撃を防切れたわけではなかった。
ガンッ!ガンッ!ガンッ!
剣と装甲がぶつかり合う音。その度に、斬られた装甲は深く刻まれた跡が残る。
隼人の顔がゆがみ、シグは対象的に笑みを見せた。
月影は、全体の素早さを重視にするために、装甲自体は他と比べて軽く、耐久度も高くはない。『一次移行』を終えた月影もそこは一緒のようで、案外楽に傷を入れられた。
ちなみに、シグのペンダントがシールドエネルギーを発動させるのは、『体に血が出るほどの傷や痛みを感じるほどの衝撃が入ったらそれを防ぐ』と言うもの。紙一重で頬が擦れても、減らないようにしている。
隼人が雪片三型を振り、シグが片腕で止め、もう一つの腕で装甲を刻む。
二、三度そんな行動が行われ、隼人がようやく攻撃ではなくて上空に機体を持ってあがらせた。
高さ的に2、3メートル。生身の人間では届かない位置に機体を移動させた隼人は、意地悪そうな顔でシグを見下ろす。
「どうだ、シグ!ここなら攻撃できな」
「“((空連覇槍|ソラヲサスモノ))”」
いつの間にか出していた“煌煉”を持ち、シグがその場で一回転。
“金輪撃”にも似た態勢のまま、遠くに居る隼人に向けて棍棒を振る。―――すると、まるで振った勢いが具現化したかのように、風の塊が勢いよく隼人に向けて放たれた。
「月影」の自動防御システムでも発動したのか、目を点にしていた隼人が紙一重でこの攻撃を避ける。
「…………エ?」
「“空連――――」
「え、わ、うわわっわわあぁあ!?」
空中で慌てながら、俺が放つ風の衝撃波を全て回避……とはいかず、見事にアゴに一発あたり、「げふぅ!?」と隼人が変な声をあげた。
「ひ、卑怯だぞシグ!そんな空中でも攻撃してくるなんて!?」
「普通じゃ攻撃できないところに行った、お前が言うなよ……」
「屁理屈言うな!男らしくないぞ!」
「どっちがだよ!?そもそも、遠くに離れたのは隼人から」
バンッ!
「ガッ!?」
腹に何かを食らった。
銃ではない、拳一個分くらいの大きさ。
「グっ……衝撃波か……?」
しかも、ただの衝撃波では無い。
隼人を見ると、ホッとしたような安堵と、僅かな驚きの感情が混ざった表情をしていた。
「…………“空連」
こっちには、遠距離かつ連射可能な武器があるのに、隼人は全く近づこうとしない。
それに―――隼人がセシリアと戦った時の事が、頭の中に浮かんだ。
もしかして……と、心の中で思いながら、ダンッ!と地面を強く踏みしめる。
「――――覇槍”?」
「特殊技」を発動させると同時に、放った衝撃波を目で追った。
隼人は俺が出した衝撃波を見て、最初に出した時よりも落ち着いた動作で、いつの間にか出していた片手剣を取り出し―――――
「いよっっと!!」
掛け声とともに、俺が放った衝撃波を、剣を使って『弾き返した』。
事前に予想をしていたとはいえ、いとも簡単に返されるのを目の当たりにして思わず息を飲む。
しかし、先ほどとは違い、衝撃波はあさっての方向へと飛んで行った。
「あはは………やっぱり上手くはいかないな」
隼人が苦笑しながら自分の持つ片手剣を見た。それを見ながら、シグは驚愕の表情を浮かべながら頭の中で必死に、さっきの現象について考えている。
わざわざ面積の多い『雪片三型』で能力を発動させないのは、片手剣からじゃないと発動できないからか……?そもそも、さっきの弾が明後日に行ったのは何故?
……いや、そんなことを考えている余裕はない。
どういう能力かは完璧にはわからないが、隼人は遠距離攻撃の軌道を変更できる能力がある。
つまり、俺の攻撃はほぼ封じられた上に、使えば利用される展開になる。明らかに、不利な条件だ。
「………少し早いけど、使うか!」
一夏と戦った時のように、腰につけている「機械魔法」を起動させる。
その場で水蒸気を作り、辺りを霧で覆った。もちろん、ISがある以上、対戦相手の隼人には効果は無い。
じゃあ、何の意味があるのか?
簡単だ。―――――――俺が、本気を出せる。今の、この状況なら。
「――――――――『死闇』」
「…………不気味な霧だね」
隼人は、最後にシグが見えた場所からはもちろん。その他の全方向からも警戒をしていた。
兄さんは、この霧がある間に負けた。何が起きたのか、わからない。だからこそ、怖い。
最初は霧を出しても意味がないなんて思っていたけど……兄さんが負けた時、シグが霧を出した理由は何となくわかった。
「この霧……僕にじゃなくて、観客の人たちに向けているんだよね?」
僕には周りの人には見えない。シグには、他人には見せたくない『何か』があるのだろう。その『何か』というのが、兄さんの負けた原因に関連するものなら―――――。
「―――――さぁ。さっさと終わらせるぞ」
背後から、声が聞こえてくるのと、ISが霧の中から何かが来るのを反応したのが同時だった。後ろを向くと同時に、黒い何かが、腕につけられていた装甲を切り裂いた。
だけど……やられるだけでは逃がさない!!
「………っ!?」
「捕まえたよ。シグ!」
僅かに見えた黒い物体を掴み、IS任せに思いっきり引っ張った。
動揺したシグの顔が肉眼で見え、霧を払うように大きく振った雪片三型が、シグの体を切り裂いた。
ニヤッとシグに向けて勝利を確信した笑みを向ける。だが、僕の勝利の確信を否定するかのように腹に強打のような強い衝撃が襲った。
シグが拳を引き、殴った場所と同じ場所に蹴りを入れられる。シールドバリアーで吸収できなかったのか、針で刺されたような小さな痛みが広がってきた。
「………っ!まだぁ!」
雪片三型を、遠ざかる足に向けて振るう。だが、先ほどのような肉体を斬った
感覚ではなく、キンッ!と金属がぶつかる音と感触がした。
防がれたっ!?けど!
動揺をすぐに捨て、力任せに体を押し込む。前進に特化した『特攻型』のおかげで、ドアを開けるくらいの簡単にシグの体を押せる事ができた。
このまま地面に叩き落として、僕の勝ちだ!
「――――――っ!させるかよ!」
シグの叫び声が聞こえる中、突然、目の前が黒煙に包まれたかのように真っ暗になる。
だが、それは戸惑った一瞬の事だけだった。すぐに視界が回復して―――シグが、剣の先に居ないことに気づく。
「…………逃げられちゃったか」
煙はまだ晴れない……いや、少しずつ晴れてきている。
シグに残されたチャンスは、一回くらいかな?しかも、刻々と時間は迫ってきている。
「僕だったら………」
僕がシグの立場だったらどうする?
そこで、セシリア戦の事を思い出した。自分が戦ったことではなく、兄さんがセシリアと戦った、あの小説の記憶。
セシリアは兄さんの死角を狙う事で優勢に進めた。けれど、兄さんはそれを見破ったから逆に優勢の位置に立った。
「……わかっている攻撃ほど、怖くないものは無いよね」
しっかりと、剣を構える。けれど、意識は後ろに、攻撃に即対応できるように。
後ろに来るという確信はある。相手は兄さんや僕のような初心者ではなく、セシリア……いや、それ以上に戦闘技術がある。
そんな人が、後ろを狙わないはずがない。
絶対に来る。その確信を持ったまま、隼人は小さく笑みを浮かべていた。
「わかっている攻撃ほど、怖くないものは無いな」
シグは、偶然にも隼人と同じ事を呟いていた。
シールドエネルギーの代用であるペンダントの光は燃え尽きかけている火のように小さくなっている。あと一撃、拳でも斬撃でも攻撃を食らえばなくなってしまうだろう。
けど、それは隼人も似たようなものだ。残量はわからないが、かなり減っている……はず。
装甲は大体破壊したから、あとは生身。“拘束魔法解除1/2”の状態なら簡単に『絶対防御』を発動させることができるほどの威力を与えられる。
「痛っ…………」
傷口が痛み、思わず顔をしかめる。
霧の中での攻防で、隼人が剣で胸辺りを薙ぎ払った時の傷だった。深くはないとはいえ身が削られており、血も出ている。
「……この傷もあるし……外せば終わりだよな」
黒い鎌の『((死闇|シオン))』を少し強く握りしめる。
……頼むぞ、相棒!
心の中で『死闇』に声をかけ、一気に走る。
人の気配がわかるシグにとって、この煙の中でも大体の位置はわかる。隼人の後ろ側に今は居る。
そして、シグは隼人の位置に向けて黒い鎌を『投げた』。
同時に、真上に飛翔する。
「““――――闇の力を受け継ぎし結晶よ。
形を変化させ、大空を翔る翼と成れ―――”」
シグがそう呟くと同時に、さっき隼人を振り切るために使った黒い霧が背中に現れる。
漆黒の翼が、最初からシグの背中に存在していたかのように具現化した。
霧で観客席が見えなくしたのは、これを隠すため。これを使えば、空中を自由に行き来でき、隼人を振り切ったように煙幕代わりにもなる。
「かかったね、シグ!」
鎌をはじく音と、隼人の歓喜の声が聞こえた。
違うぞ、隼人。お前が後ろを警戒しているのは、予想していた。
罠にはまったのは、お前だ!!
鎌を弾いた隼人は、正面に注意が向いている。だからこそ、翼を使って、シグが真上に居ることに気づかない。
「―――――“((空連覇槍|ソラヲサスモノ))”?」
煌煉を振り、衝撃波が生まれる。
その衝撃波の後を追うように翼を羽ばたかせ、自身も隼人の元へと駆ける。
隼人の姿が見え、衝撃波が隼人の頭に直撃した。
衝撃波が隼人の脳天を揺さぶり、シグが懐に入り込むすきを与えてしまう。
「“金輪―――撃”!」
正常に戻られる前に、さらに「特殊技」を叩き込む。
全身に強打されたような感覚のせいか、隼人が苦しそうに目を大きく開ける。
―――――だが、隼人はそれでも、剣を振っていた。
勢いはあまりないが、装甲なんて物がないシグに当たれば、残り少ないエネルギーがなくなる。
回避!……いや、もう遅いっ!?
隼人が笑ったのが、視界の端で見えた。……馬鹿が。まだ、全ての手を失ったわけじゃない!
一か八か。剣がくる進行方向に、右手の平を構える。
全神経を振られてくる剣に向け、タイミングを逃さないように動きを見図る。
「―――――“((零距離の衝撃波|ゼロ・インパクト))”」
刃が「右手の皮に触れると同時に」衝撃波で弱々しく振られた剣を吹き飛ばした。
皮に振られた時点で、本来なら俺は負けだが―――残念ながら、このペンダントは『体に血が出るほどの傷や痛みを感じるほどの衝撃が入ったらそれを防ぐ』。
つまり、皮に触れただけで、血が出るまで斬られていない以上、エネルギーは使われない!
「うおぉぉぉぉぉ!!!」
丸腰になった隼人に、煌煉を振るう。
胴に渾身の一撃が直撃したと同時に、試合終了のブザーが鳴り響いた。
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13作話目です。 あけましておめでとうございます。 書かないといけない小説が溜りまくっているので、それらを消化してきます。更新が遅くなりますが、すいません…… |
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