うみみちゃん、パニック! |
うみみちゃん、パニック!
「うみみ、うみみー」
どこかで、私を呼んでいる。
「うみみ、尻尾!」
「えっ」
尻尾がどうしたって?
っと、自分の足を見てみる。
わわっ、尻尾に戻ってる。
気が付けば、まわりは人だかりが出来ている。
「ああっ、これは!、これはぁ」
あわてて叫んでも、状態は変わらない。
まわりの人だかりは彼女を囲むようにして、彼女の尻尾をさすったり、手を合わせて拝んだりしている。
「あーーー、もういやーー」
そこで人の手から逃げようとして、転げてしまう。
「ごとんっ」
鈍い音がして、人々が消え去る。
それと入れ替わりに、彼女の目の前にひっくりかえった時計が現れる。
「くうぅ」
どうもベッドから落ちたらしい。
目をこすりながら、起き上がり、時計をよく見る。
「あひぃ、遅刻、ちこくぅ」
既に、時刻は出掛ける時間の10分前である。
のんびり起き上がっている場合ではない。
跳び起き、身支度をする。
今度行く中学の制服はまだ出来ていないので、前の中学で着ていた制服を着て行く。
「転校生の特権よ」なんて、母は笑って言うが、この時代に2日も掛かるなんてどういうことだろう。
きっと、旧式機つかってるんだわ。
今が初夏でよかった。前の制服の冬服が着られるから。
まあ、いざとなれば、私服でもいいんだけどね。
おっと、そんなんこと考えている暇はない。
寝間着を脱ぎ、制服を着る。
素肌に布地の感触が心地良い。
最初、服を着たときは、ぐわぐわして気持ち悪かったのだが、今となっては肌擦る感触がなんとも言い難い気分である。
でも、胸を締め付けるブラだけは慣れないというか、してないけどね。
第二次成長期に入って、父がいろいろうるさく言うようになったけど。
「父が乳のことで……」くすっ。
ああ、いかん、まだねぼけてる。
頭をポカポカ叩きながら、洗面台で顔を洗い、歯を磨き、居間に顔を出す。
「おはよー」
「おは…」
父の返事を聞き終わる暇なく、
「行ってきまーす」
「ちょっと、待ちなさい」
今度は母だ。
「なに?」
半歩玄関に足を踏み込みながら、振り返る。
「朝ごはんは食べないの?」
母が茶碗持ったまま畳み掛ける。
「そんな暇ないわよっ」
「それに何で起こしくれなかったのよー」
「何故って、遅刻も転校生の特権よ」
「……………」
相手にした私が馬鹿だった。
「行ってきます」
元気良く、玄関を飛び出す。
私、美海海深。14歳の人魚の女の子。
私が生まれ育ったのは、多くの人魚と人間がいっしょ住んでいる海上都市 深碧都(ふかきあおきみやこ)。
それが何の因果か、父の仕事関係で北に数千キロ離れたネオ東京都なんていう田舎に住むことになったかわいそうな中学生。
父は海洋技術研究事業団の主任技術者。割と偉いらしい。
母は年齢不詳の人魚。私が聞いても、歳だけは教えてくれない。
ネオ東京都。
それは、今世紀初頭に起こった未曾有の大震災に見舞われた旧東京都になりかわり、東京湾上に構築された海上都市である。
大震災後、首都機能は全国に分散されたが、依然として首都はここであった。
きっと、天皇制のせいね。
皇居は今でも昔以上に森林の度を深めていて、世界遺産的だし。
それにしても「ネオ」なんて恥ずかしい定冠詞をよく付けたものだと思うが、父は言う、「超」とか「スーパー」じゃないだけ、まだましと。
「新東京」は首都圏一円に蔓延していたから、最初から却下されたらしい。
まあ、なんにしても、私の生まれた深碧都にはかなわないけどね。
いけない、そんなこと語ってる暇ないわ。
ああ、急がないほんと、遅刻しちゃうかな?
私は海深の父である。名前はまだない。
海深にあいさつも無視されて、ひじょーに哀し。
このままでは父としての威厳が……。
「おとーさん。なに一人で語ってるんですか、あなたも遅れますよ」
年齢不詳の妻がつっこみをいれる。
「ああそうだな、じゃ、行ってくる」
「行ってらっしゃい、気を付けてね」
私は海深の母である。歳は秘密である。
「………」
だれも突っ込んでくれないので、つまらない。
さて、その頃、うみみちゃんは、銀河通りをひた走っていた。
「ひゃー、遅刻遅刻遅刻!」
北斗通りとの交差点もわき目も振らず、通り抜ける。
「次の昴通りを右折してーっと」
「わあっ」
っとそこで、何かにぶつかる。
「ばごーん、めちゃっ」
どうやら、昴通りの角にちょうど誰かいたみたいである。
その誰かを突き飛ばした反動で、うみみちゃんは後ろに跳ね飛んでしまう。
ぶつかった相手も、前のめりにつんのめって倒れている。
「ありゃー、あいたたた」
うみみちゃんは跳ね飛んだ拍子に打った腰をさすりながら、起きあがる。
相手の方はと言えば、まだうつ伏せに倒れている。
「あちゃー、これは転校早々縁起が…良いのかな悪いのかな」
うみみちゃんも、お年頃である。
少女コミックでは、とてもよくあるシチュエーションにちょっと期待しながら、倒れている相手に近づきながら声を掛ける。
「だっ大丈夫ですか、お怪我はありませんか」
「うむ、DAIジョブじゃ、DAIジョブじゃ」
なっなんだこいつは!もしかして制服着たお年寄りなのでは?
起きあがった姿を見て、うみみちゃんと同じ中学生だと言うことは分かったが、どうも、変である。うさんくさい。
「…はずれだわ」
っと、声には出さないがつぶやく。
彼は振り返りながら
「わしはDAIジョブじゃが君はどうか…」
うみみちゃんの姿を見て、彼の声が止まる。
「おおおー、君は人魚じゃな」
うわー、なんでばれてるの?
「なっ、なに言ってるのよ。そんなはずないじゃない」
いや、相手にしないでこの場は逃げた方が良いかもしれない。
っと、実際、今は遅刻寸前でこんなことにかまっている暇はない。
落ちているカバンを拾って、とっとと駆け出して行く。
その後ろ姿を見送りながら、彼もつぶやく。
「そうじゃ、学校に行かねば。遅刻じゃな」
立ち上がった彼は、うみみちゃんが駆けて行ったのと別の方向に駆けて行った。
さて、遅刻寸前のうみみちゃんはなんとか、校門までたどり着いた。
「ひー、やっぱり、走るのは大変だよぉ」
人魚姿の時と比べて、人の姿の時の足はとても細い。
まあ、それは人間の友人に太い足はスタイルが悪いと聞いたため、うみみちゃんが、細いスタイルを選択したからなのだが。
中略
(学校に着いて職員室に行く。生徒会長(人魚)と会い、転校前に会った時の回想、
うみみちゃんの行く学校はかなり自由度がある気楽な学校、人魚もいるがそれを隠している子も少なからずいる。
などと会長と話したのを思い出すうみみちゃん。なお会長は人魚だと隠していない。
先生に連れられてお決まりの新しいクラスで紹介、「折々」というデータ端末の説明とかいろいろ
午前中の授業と昼休み、まわりの席の子との歓談、
午後の授業開始)
ふと見ると、折々の隅で先生印が踊ってる。
「なんだろ、なんか注意されることしたかな?」
っと、通知窓を開こうとしたとたん、強制的に先生の顔がアップで表示される。
「うわぁっーー」
思わず大声を上げて、周りから注目を浴びる。
「どしたの?」
隣の席の真美ちゃんがのぞき込み、あきれる。
「先生、趣味わるー」
「岩本さんには用ないの、早く授業に戻りなさい」
「はーい」
っといって、真美ちゃんは席に戻る。
「えっと、それで、何の用ですか?先生」
っと、先生のアップに向き合う。
「あ、お父様から緊急の連絡が入ってるの。普通は取り次がないんだけど、とっても緊急だと言うことで」
っと、いきなり画面が切り替わる。
「うみみー、出動だっ」
「うわぁぁぁぁ−」
思わず、折々を払いのけてしまう。
再び、教室の注目を浴びる。
「あっ、気にしないで授業続けてください」
愛想笑いしながら、周りを見回す。
真美ちゃんが心配げに再び、のぞき込み、ちょっとため息。
そして、うみみちゃんの両肩をポンッっと叩く。
「いろいろ、大変だねぇ。うみみちゃんも」
「変なおっさんからメールが来たら、私に回して」
「発信元突き止めて、たーったき潰してあげる」
真美ちゃんは机に片足掛け、中指立てながら正面向いて叫ぶ。
えっと、誰に意志表示してるんだろう。真美ちゃんも良くわかんないなぁ。
「はぁ。一応これは父なんで…。もし来たら、そのときはお願いね」
「まーかせて、じゃ授業に戻るから」
真美ちゃんは気前よく返事をして、再び授業に専念する。
うーむ、なんか、いろいろと変わった人多いなぁ。このクラスは。
ここの陸の人は皆こんな感じなのかな。
「おーい、おーい」
なんか机の下で声がする。ああ、忘れてた父さんだ。
「なによ、授業中だってのに、邪魔しないでよ」
落ちている折々を見下ろしながら、返事をする。
「授業どころではない、緊急事態が起こった。すぐ出動するぞ」
はぁ?何の話?出動って何?
表示がまたもいきなり変わった。
うみみちゃんは今度は何が起こっても驚かないように構えたが、表示されたのは、どこかの事故現場らしい写真だった。
「何、これ?」
写真にオーバーラップして、いろいろなデータが流れ表示されていく。
どうやら、小笠原諸島近海のベースで起こった事故らしい。
「説明はあとだ。今そちらに自衛隊機で向かっている」
なに、自衛隊ってどういう事よ。
「ほら、この前、この機体がいいなって、おまえが言ってただろう」
「ええっ?」
そういえば、この前のシミュレートの時、なんか飛行機がどうのとか言ってたような気がする。
その時は、適当にうんうん、頷いていただけのような気が…。
結局、父さんは自分の気に入った飛行機以外で頷くとブウブウ言ってたからなぁ。
っで、それがどうして自衛隊になる?
「いやー、自衛隊に協力要請したら、あっさり通っちゃって、よかったな」
なーに、うれしそうな顔して言ってる。
ええーっと、つまりどういう事かな?
今までの状況情報を元に推測してみる。
「小笠原で海難事故があったんで、自衛隊に協力仰いで助けに行くっと」
折々の画面の中で父が答える。
「その通りだ。さすが我が娘だ」
答えながら、父は何かいろいろ指示している。
「さすがじゃないでしょう。それに海難救助は海上保安庁管轄じゃないの」
いや、いつもそういう訳ではないことを知っていたが、ちょっと反論してみる。
「保安庁は、別の事故現場に出ているので手が空かないそうだ」
なおも、反論してみる。
「それじゃあ、霧月研究都市の救助部隊は?深碧都にも、人魚部隊がいるじゃない」
そう、どちらの都市国家にも海難救助専門の人魚部隊がいるはずである。
「どちらも、もっと大規模な事故で手一杯だそうだ。えっ?あっ今の話は秘密だそうだ」
「他人に話しちゃいかんぞ」
っと言ってもねぇ。
席の周りを見回す。身を乗り出している真美ちゃんと目が合う。
ここまで騒いでいると、みんな集まってくるよねぇ。
「もう、みんなに聞こえちゃってるけど」
「えっ、なんだ」
父は、どうやら忙しいらしく、こっちの話は聞いてない。
「だからー、ばればれだって」
「あー、もうおまえの学校に着くから、用意していろ」
「あと」
なに?
「折々を床において、授業を受けるのはやめなさい。パンツ丸見え…」
がしっがしっがしっ
おもわず、うみみちゃんは折々を踏みつけまくる。
「はあー、真美ちゃん。こいつの本拠地をたーったき潰してくれる?」
めちゃめちゃな折り目が付いた折々を指さす。
「あー折々げしげしだっ。象が踏んでも壊れないはずなのに」
「こうなっちゃうと、どうやっても無理だよ。今度来たら転送してね」
真美ちゃんは、げしげしな折り目の付いた折々をそっと持ち上げながら、答える。
その時、何か校内放送が入る。
どうも、校庭に出るなと言うことらしい。
事実、校庭で運動している生徒が校舎に急いで避難している。
その時、外を見ていた三津後くんが空を指さす。
「おい、おまえの父親って、あれに乗ってるんじゃないの?」
三津後くんの指さした先には飛行機が浮かんでいる。
「あれって、川崎新明和の試作機じゃないのか?」
あっ三津後くんって、飛行機マニアなんだ。
「世界唯一の超音速VTOL水陸両用飛行艇XCS−1!」
「エンジンは石川島播磨V4000を…」
マニアのおしゃべりなんて聞いてる暇はないわ!
うみみちゃんは頭を抱えながら次の行動を考える。
それにしても、なんか大事になっちゃってる。
えっと、私を迎えに来てるんだから、とりあえずは校庭に出た方がいいんだよねぇ。
「真美ちゃん、ちょっと行って来る。なんか分けわからないけど」
窓の外を見ている真美ちゃんに声をかける。
「あっそれじゃあ、早退ね。授業のメモ、後で見せてあげるから、がんばってね」
何をがんばるんだろう?
「あっ、美海、XCS−1に乗せてくれ」
「あーなに?」
三津後くんがなんか言ってる。まあ、とりあえず無視無視。
校庭に出るとちょうど着陸が終わったところだった。
周りはこの飛行機の出した風で砂埃がもうもうと立ちこめている。
その時、飛行機のドアが開き、中から人が出てきた。
あっ父さんだ。父さんが降りてきた。
思わず、うみみちゃんは走り出し、父に近づいた。
「父さーん」
「うみみー」
父は、うみみの姿に気が付き、こちらを向く。
うみみちゃんは間合いを計りながら、加速して近づき、
「マーメイドスペシャルキーック」
「のわーーーー」
うみみちゃんの蹴りをまともに受けてスローモーションで倒れる父。
「父さんのばかー」
「せっかく新しい学校になれてきたのに、これじゃあ、ぶち壊しじゃない」
父は未だに地面に沈んだままである。
「こらー、父さん聞いてるの」
うみみちゃんが揺り動かすとようやく父の意識が戻る。
「あああ、おまえ相変わらず、過激だなぁ」
未完。
その後のあらすじ。
このあと、飛行機乗って状況説明受ける。
うみみちゃんの何故私が?に質問にパワードアシストスーツ隊が皆、出払っていて、
使える機体もなく、唯一使える機体がうみみちゃんが試験用に使っている「うみみ専用スペシャル」しかなく、
また、他の人が使おうにもうみみちゃんサイズに作られているため、うみみちゃんに手伝って貰うしかないと言う状況。
危険はないが緊急な作業だということなので手伝う事にする。
現場に着いて、作業開始する。
学校側では、なぜかクラスメイトの一人(朝の変な彼)が秘密のはずの救助隊のモニタリングを見ており、ひょんなことから学校中に流されてしまう。
そんなことも知らずに、順調に作業をこなしていき、救助完了する。
作業を終え、戻ろうとするうみみちゃんに危機が。
突如現れた正体不明の大型怪生物に捕まってしまううみみちゃん。
捕まえているだけで、危害を加える訳でもないが埒が開かない状態。
学校側で、さっきのクラスメイトがその生物の正体に気づき、うみみ父に連絡。
父から母へ更にうみみちゃんへと対策が伝えられ、そのためにアシストスーツを脱ぎ、
人魚の姿に戻るうみみちゃん。
学校側で、うみみちゃんが隠していた、人魚だということがあっけなくばれる。
うみみちゃんが怪生物に接触し、母から伝えられた呪文を暗唱すると怪生物は小さく姿を変えて、小さな玉子になってしまう。
怪生物は人魚族の使役生物なのであった。
玉子を回収し母艦へ戻るうみみちゃん。
いろいろ後始末とかシャワーとかあって、学校に戻る。
もう授業も終わっていると思ったが、クラスの皆と生徒会長が帰らず待っていて歓迎してくれる。
もうわだかまりなくクラスに溶け込むうみみちゃん。
大団円
使役生物が何故うろついていたか原因がわかる。
太平洋人魚族の王がお忍びでネオ東京都を(泳いで)訪れていて、その後を追って来たのだった。
うみみちゃんを捕まえたのは、懐いてきたからで、王の気配でも着いてたのでは?ということだった。
そういえば、少し前に若作りの薬を王が欲しがり渡していた事を思い出す母。
それを聞いて朝の変な彼を思い出すうみみちゃん。さらに救助隊の情報流したのも彼だったと聞いていた。
実はうみみ父が秘密理に王に会い学校への体験入学&暗証コード(とりあえずなんでも出来ますコード)を教えていたのだった。
すぐにバレてうみみ母に大目玉くらう王&父であった。
おわり。
説明 | ||
中学生人魚のうみみちゃんが転校早々巻き込まれた海洋事故救難作業。 はたしてうみみちゃんは無事生還できるのかっ、などと煽ってみる。 大昔に書いた未完発掘小説 …書いてから14年経ってます。今世紀初頭っていつだよ。もう過ぎちゃった気がする。 タイトルの元ネタはもちろんアレです。 当時、勢いで書いたので、細かい所をあと送りにしてこの状況。 いろいろ読み返すと恥ずかしいので手はほとんど入れてません。 ので読み辛いです。 未完なのですが、寂しいので未完部の終りまでのあらすじがついてます。 |
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