紙の月2話 小さな一歩は偉大な一歩 2/3
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恐らくあの彼が、セーヴァの集団のリーダーであるフライシュハッカーなのだろう。白い髪に整った顔立ち、どこか人間離れしている雰囲気を醸し出している。

「皆、おはよう」

 彼はデーキスよりほんの少しだけ年上くらいの子供にも関わらず、その話し方は堂々としていて大人のように威厳が感じられた。

「今回集まってもらったのは、太陽都市にいる反都市国家集団の連中から手に入れた情報を伝えるためだ」

 反都市国家集団という単語にデーキスは思い当たることがあった。都市にいた頃、ニュースで何度も見た。彼らは通称アンチと呼ばれ街なかに爆弾を仕掛けたり、政治家の人を襲ったりする危険なテロリスト集団だ。アンチの殆どがセーヴァであると言われていた。

「この太陽都市は他の都市以上に排他的で、外に出るのは容易いが、中に入る方法は限られている。従って、食料等の援助は今までよりも厳しくなる、と……」

 聞いていたセーヴァたちがざわざわと不安そうに騒ぎ始める。フライシュハッカーは少しの間、じっとその様子を見ていたが、突然会場に響かんばかりの声を上げた。

「だが、僕に一つ考えがある! 頼りにならないアンチの連中に代わって、僕の言うことを聞いて欲しい。そうすれば、今まで以上に食料にも、着る服にも困らなくなる!」

 フライシュハッカーの宣言に、期待と不安でよりざわめきが大きくなる。

「次の集会を楽しみに待っていてくれ。食料が欲しい者は、この後ブルメに名前を言って貰ってくれ。嘘は言わないように。バレたら食料を貰えなくなるぞ。では、解散だ」

 そう言うと、フライシュハッカーは背を向けて舞台奥へ消えていった。反対に、今まで後ろにいたブルメたちが大きな袋を担いで前に出る。あの袋の中に食料が入っているのだろう。セーヴァの子たちが我先にと舞台の前に集まる。

「ほら、とっとと飯を貰いに行くぞ」

 ウォルターは立ち上がると、周りの子たちを無理やり押し分けながら、人だかりの中へ消えていった。一方デーキスは、ウォルターの様に強引に進めず、人の波に飲まれていた。ようやく舞台前に来た時には殆どの子が食料を渡され、外へ出て行った後だった。残っているのは、デーキスよりも幼い子どもばかりだ。

「や、やあ……」

 まだ残っていた子どもたちに食料を配っているブルメに、デーキスは声をかけた。ブルメはデーキスを無言で睨みつける。

「さっき会ったの憶えている? ほら、集会が始まる前に……」

「名前」

「へ?」

「名前!」

 ブルメに怒鳴られ、デーキスは名前を言わなければ食料が渡されないことを思い出した。

「えっと、デーキス……デーキス・マーサー……」

 デーキスが名前を告げると、ブルメは無言で食料を投げ渡した。都市でも売られている缶詰の固形食料だ。

「ありがとう……」

「貰ったなら、早くどいて。まだ残っている子がいるんだから」

「あ、ごめん……」

「最後にひとつ言っておくけど、あんたのことなんか知らないから」

 そう言うと、もうデーキスには用がないと言わんばかりに、ブルメは残っていた子たちに食料を配り続けた。すっかり消沈したデーキスはトボトボと会場を後にする。

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 デーキスがほら貝塔の一階まで戻ると、入口の前でウォルターが退屈そうに待っていた。

「一体何やってたんだよ。遅すぎるぞ」

「ごめん……」

「その様子だと、ブルメのやつに相手にされなかったな? バカだな、あんな偉そうなやつとなんか話そうとするからだ」

 さらにうなだれるデーキスを見て、ウォルターは深い溜息をついた。

「ほら、何時までも落ち込んでなんかいないで、さっさとあそこに行くぞ。」

 あそこというのは、先日見つけた劇場の廃墟のことだ。まだ他のセーヴァたちには見つかっていないようで、気に入ったウォルターはあの場所を、自分たちだけの秘密の集合場にしようと提案したのだ。他のセーヴァたちに見つからないように、食料や大切な物を隠すのが目的らしい。

「ほら行くぞ。あそこで今日の予定を考えるんだからな」

「待って!」

突然呼び止められ、デーキスたちが声を聞き振り返ると、一人の少年がこちらに駆け足で向かってくる。ウォルター以外に知っている子はいなかったが、明らかに少年はデーキスたちに声をかけたようだった。

「君、最近入ったばかりの子だろ。僕はケン、ケン・アラナルドって言うんだ。よろしくね」

 ケンと名乗る少年はデーキスの前まで来ると、朗らかに微笑んで手を差し出した。突然呼び止められて警戒していたデーキスだったが、ケンの屈託のない様子に、思わず握手を交わした。

ケンは服こそ汚れてボロボロだが、健康的な小麦色の肌、気品のある顔つきは育ちの良さを思わせている。他のセーヴァの子たちとは全く雰囲気が異なっていた。

「どうも初めまして……ええと、僕は……」

「知ってるよ。デーキスって言うんだろ? 会場で聞いていたからさ」

 どうやら、ブルメとのやりとりを見られていたらしく、恥ずかしくなったデーキスは赤面した。

「ああ、ごめん。僕はただ最近来たばかりの君に、挨拶しようと思っただけなんだ……」

「おい、アラナルド。こっちはテメーになんか用はないぞ。さっさと失せろ」

 ウォルターがケンを睨みつけた。デーキスにも分かるほど、ウォルターは敵愾心をむき出しにしていた。

「いや、ウォルターはそうかもしれないけど、僕は彼の方に用があるんだ。彼の能力がどんな物かについて聞きたくて……」

 ケンの言葉にデーキスはハッとした。セーヴァになった者が使える力。所謂超能力と呼ばれるもの。つい最近セーヴァになったデーキスにも、その超能力が使えるのだ。

「そうかよ。じゃあ、デーキス。そのお坊ちゃんにお前の能力を見せたら、例の場所に来いよ!」

 ウォルターはエアーボードを持って一人掛け出した。同時に、辺りに強い風が吹き始める。

「くれぐれも、そのお坊ちゃんには例の場所を教えるなよ!」

 

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まだ、本人から聞いたわけではなかったが、ウォルターの能力は恐らくあのエアーボードに関連するものだろう。いくらエアーボードが風の力を利用すると言っても、空を自由に飛ぶ程の浮力は生み出せない。せいぜい十数秒滑空できる程度だ。

恐らくウォルターは自分の能力で、エアーボードの浮力を得ているのだろう。セーヴァの持つ超能力なら不可能ではないだろう。

「どうも、彼には嫌われちゃってるみたいだね……僕、何か怒らせるようなことしたかな?」

 ウォルターの後ろ姿を見送りながら、ケンが呟いた。

「それで、君の能力の事だけど……」

「え? えっと、それは……」

 デーキスは申し訳無さそうに口ごもった。実のところ彼自身、自分の能力がどんな能力かわかっていなかった。都市から逃げる時、その能力を使ったはずなのだが、あの時の事は殆ど憶えていなかった。

「もしかして、自分の能力が分からないのかい?」

 デーキスはコクリと頷いた。

「そうか、まだ能力に目覚めたばかりだから、使い方もよくわからないのか……」

 ケンは少しの間俯いて考え込んでいたが、何か閃いたのかパッと顔を上げた。

「参考になるか分からないけど、僕の能力を見せてみようかな」

 そう言うと、ケンはデーキスから少し距離をとった。

「え? ちょ、ちょっと待って……!」

 慌ててデーキスはケンを制止した。ケンの能力がどんなものか分からないが、もしかしたら、相手の身体をバラバラにふっとばすようなものかもしれない。そんな事はたまったものではない。

「大丈夫、僕の能力は大したものじゃないから安心してくれ。怪我とかさせるつもりはないよ」

 ケンは穏やかな声で言うと深く深呼吸し、右手をデーキスに向かってかざした。

「そのまま、右手を前に出して……」

 デーキスは言われるまま、恐る恐る右手を差し出した。同時に、どうか右手が無くなりませんようにと心の中で何度も祈った。

デーキスは急に頭に軽い痛みを感じた。不思議なことに、その頭痛はケンから送られてきているのではないかと考えた。この頭痛がケンの超能力ではないか、と……。

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「うわっ!」

 突然、右手を誰かに握られるのを感じた。しかし、自分の周りには誰もおらず、少し離れた位置にケンがいるだけだ。

「驚いたかい? これが僕の能力だ。『念動力』とでも言うのかな? 触らなくても、動かしたりできるんだ」

 ケンの能力が分かってほっとしたデーキスは、改めてケンの能力に驚いた。先ほどの念動力は触った時に、直接触られたように体温まで感じることが出来たのだ。まるで、透明人間が自分の手を握ったようだった。

「凄いや! 本当に超能力を使えるんだ!」

 デーキスが実際にセーヴァの超能力を体験したのは、これが初めてだった。

ウォルターの能力は実際に見せて貰ったわけではなく、それらしき物を眼にしたぐらいで、他のセーヴァたちとはあまり交流しないので、セーヴァが超能力者だということを実感していなかった。

「そんな驚くことじゃないさ。僕の能力なんて、目に入ったものなら何でも触れるけど、重い物は持ち上げられないし、ブルメとかの方がよっぽど凄いよ」

「ブルメの超能力を知っているの?」

 ブルメの名前が挙がったので、デーキスは思い切って訪ねた。ブルメについて知らないことは何でも知りたかった。自分はまだ、ブルメについて何も知らないのだ。

「彼女…彼はよく自慢してるからね。『この能力のお陰で、自分はフライシュハッカーに選ばれたんだ』ってね……」

 ケンが言うには、ブルメの能力とは機械を自由に遠隔操作できるらしい。それも、故障していようと、操作方法が分からなくても、可能であればブルメの思い通りに動くのだそうだ。

「例えば、浄水器なんかも電源がなくても、ブルメなら動かせるんだ。きれいな水はここでは貴重だけど、ブルメの意志一つで解決できる。だから、フライシュハッカーは彼を重用してるんだ」

 ブルメが機械を動かす姿を想像した。多分、先ほどのケンのように腕をかざして、機械に念じて動かすのだ。超能力者というより、まるで魔法使いみたいだなとデーキスは思った。

「これがセーヴァの超能力なのか……どうやれば使えるの?」

「どんな能力かは人それぞれだけど、コツはね……」

 話の途中でケンは何か気づいたのか、話すのをやめてしまった。その視線はデーキスの後方に注がれていた。

 気になって振り向くと、何時からいたのか、一人の少年がデーキスの背後に立っていた。ケンとは対照的に、白く透き通った肌をした子だ。ジロジロとデーキスの事を眺めていた。

 

説明
分け方は適当なので、許して頂戴

誤字、脱字を発見したので修正。
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超能力 小説 少年 オリジナル SF 

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