紙の月2話 小さな一歩は偉大な一歩 3/3 |
「えっと、君は誰?」
「ボク? うん、そうだな……」
腕を組んで知らない少年は考え始めた。名前を聞いたけれど、考えるような事なのかとデーキスは不思議に思った。
「思い出したよ。ボクの名前は『スタークウェザー』って言うんだ!」
「思い出したって忘れてたの? 自分の名前なのに……」
「うん、興味ないから」
何だか変わった子だとデーキスは感じた。見たところ服装はちゃんとしているので、彼もフライシュハッカーに気に入られている子なのだろうか。思い返しても、ブルメたちと一緒にいた記憶はなかった。
「君、何の話してたの?」
目を大きくさせるスタークウェザーを見て、デーキスはケンとはまたちょっと違うタイプの、友好的な少年だなと思った。
「ええと僕、まだ自分の超能力の使い方をよくわからないんだ。それで、ケンに……」
「スタークウェザー! 君はまだ食料を貰ってないだろう。早くフライシュハッカーのところに行くんだ!」
ケンがデーキスとスタークウェザーの間に割って入り、二人の会話を中断させた。このスタークウェザーが現れてから、ケンの様子は明らかにおかしかった。先ほどのケンとウォルターのように、仲が悪いとか嫌っているというより、怯えているようにデーキスは感じた。
「そうか、彼を待たしていたんだ。君、それじゃあね」
スタークウェザーはふらふらとほら貝塔へと向かっていった。彼が塔の中に入って行くまで、ケンはずっとスタークウェザーの警戒していた。
「ごめんよ……突然、大きな声を出してしまって。まさか、あいつと出くわすなんて思っても見なかったんだ」
「僕は別にいいけど、ケンは彼の……スタークウェザーの事嫌いなのかい?」
「嫌いとかそんなんじゃないよ。君はまだ知らなかっただろうけど、あいつは……」
デーキスは今まで都市の中で生まれ、都市の中で育った普通の人間だった。ゆえに、スタークウェザーの身体から放たれる、その違和感に気づかなかったのも無理はなかった。
「あいつは人殺しなんだ。それも、生まれつきのね」
デーキスはケンと別れ、一人瓦礫の山を歩いていた。ケンはスタークウェザーを人殺しだと言っていたが、未だに信じられなかった。
「『サイコパス』って知ってるかい? 罪を犯す事に何の躊躇いもない人間のことさ。スタークウェザーは、そのサイコパスって奴で、平然と悪事を行うんだ」
ケンはあの後、スタークウェザーについて語ったが、デーキスには信じられないような話だった。
デーキスは知らなかったが、この都市の外にはセーヴァの子たちだけではなく、様々な理由で都市から追放された者たちが存在するとケンは言った。
彼らはセーヴァとは無関係であるが、一方でセーヴァの子どもたちを憎悪しているという。その原因が、スタークウェザーにあるらしい。
スタークウェザーは、その都市から追放された連中を見境なく殺して回っているという。あまり、姿を見えsないのも、セーヴァもといスタークウェザーから逃げまわっているためだ。
「目撃した子も何人もいる。彼が自分の能力でその人達を殺しているのをね……」
「彼の、能力って……?」
「実際に見たことがあるわけじゃないけど、僕とは違うタイプの念動力か何かで、体の一部を吹っ飛ばすらしいんだ。それも、少しずついたぶるように……」
ケンの話によると、スタークウェザーは楽しんでいるかのように笑いながら、時間をかけて殺すらしい。その話を聞き、犯罪者がセーヴァとなるという事を改めて思い出した。
「何故、そんなやつがフライシュハッカーのお気に入りかは分からないが、スタークウェザーの方も、フライシュハッカーの言う事には素直に聞くんだ」
しかし、殺人癖だけは止めることなく、何度フライシュハッカーから注意を受けても、しばらく経つと再び殺人を行うのだ。
「同じセーヴァだとしても、あいつには気をつけた方がいい。絶対に彼と二人っきりにはならないようにね。何だかあいつ、君に興味持ったみたいだから……」
話が終わった後、デーキスはウォルターを待たせている事を思い出し、例の廃墟となった劇場へと向かっていた。スタークウェザーの事もあって、一人で向かうのは心細かったが、ケンを連れて行ったらウォルターは怒りだすだろう。それにケンの方にも、デーキスについていけない理由があった。
「僕も君たちの例の場所ってやつが気になるけど、フライシュハッカーにスタークウェザーの事をまた報告しなきゃね。今行けば、あいつも監視できるしその方が安全だと思うんだ」
別れる直前に、超能力の使い方について話が途中だったことを思い出したデーキスは、手短にその使い方を教えて貰うことにした。
「頭の中でイメージするんだ。僕の場合、念動力で物を掴む時に右手を動かして、自分の手で掴むように念じているよ。本当は念じるだけで超能力を使えるけど、ソッチの方が思い通りに物を動かしたりできるんだ」
「でも、僕はまだ、自分がどんな超能力を使えるかも分からないんだ……」
「僕の時は偶然セーヴァになった時に、超能力で遠くにある物を動かせるか試してみたら見つけたものだから、あまり分からないや。ウォルターにも聞いてみたらいいんじゃないかな?」
都市から出る時に能力を使ったが、あまり憶えてない上に、人を傷つけていた。自分の超能力はケンやウォルターとは違い、恐ろしい物なのかもしれない。そのため、デーキスは自分の能力を知りたい一方で、知りたくないという恐れもあった。
最後、そんなデーキスにケンは言った。
「大切なのはどんな能力かじゃなくて、どのように使うかだよ。もしかしたら、意外な使い方が思いつくかもしれないし、まずは自分に何ができるか、そこから考えていけばいいんだ」
デーキスは歩きながらケンの言葉を頭の中で繰り返した。すると、一歩一歩前へ進むことに、勇気が湧いてくるような気がした。
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