恋姫OROCHI(仮) 弐章・弐ノ弐ノ弐 〜少女の名は〜 |
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「記憶喪失だな」
早速呼び戻した華佗に少女を診てもらった結果は、記憶喪失だった。
その少女はと言えば、華佗の診察中も俺の腕を掴んで離さなかった。
おかげで俺も華佗の正面に座る破目となり、俺まで診察を受けてる感じだった。
しかも時折、この娘が頬ずりや首筋の匂いなどを嗅いでくるので、ハッキリ言って落ち着かない。
「記憶喪失〜?」
騒ぎを受けてやってきた風が、半分寝ている顔に?マークを浮かべる。
「そうだ。頭や身体を強く打つなどの拍子に、記憶が一時的に失われてしまう症状のことだ。
この娘の場合は、幼児退行も併発してしまっているようだが…
この娘は黄河のほとりに倒れていたのだろう?誤って河に落ちた拍子に、どこかを打ち付けてしまったのかもしれないな」
そないなことあるんかいな、と俺の腕にしがみつく少女を見やる真桜。
「それじゃあ、この娘はずっとこのままなの〜?」
「いや、先程も言ったとおり、基本的には一時的なものだ。ただ症例が極端に少ないため、詳しいことまでは解明されていない。
だから治療法が確立されていないんだ。そうだ一刀。記憶喪失について、何か天の知識はないか?」
思いついた、という感じに俺に尋ねてくる華佗。
「う〜ん…医学を学んでいたわけじゃないから、詳しくは分からないけど…」
と前置きをして、
「記憶喪失はリラックス……心が安らいでるときに、ふっと思い出すことが多いって聞いたことがあるかな?
例えば家族と過ごすとか、森の中を歩くとか、そんな感じ」
「なるほど、理にかなってるかもしれん。となると……」
華佗は俺の右腕の少女を見やり、
「彼女にとっては、この状態が一番良さそうだ」
緩みきった少女の顔から、そう断言する。
「てか隊長、ホンマにこの娘ぉに見覚えないんか?その辺でちょっと引っ掛けたとか、つまみ食いしてきたとか」
「んなことしねぇよ!」
お前は俺のことをどんな目で見てるんだ!
「お兄さんのこと、ご主人様ー、って呼んでるなら、蜀の人ではないのですか〜?」
「う〜ん…見覚えはないけど…」
さすがに俺も、蜀の武官文官を全て覚えているわけじゃない。
でも、ここまで懐いてる娘なら、俺の記憶に残っていると思うけどな。
「何か、身元が分かりそうなものとか持っていなかったのか?」
「そういえば〜」
提げていたカバンに手を突っ込む沙和。
「この娘を見つけたとき、手にこれを持ってたの」
と何かを取り出した。途端、
「あぁ〜〜〜!!」「キャッ!」
沙和に飛び掛って、手にしていたものを分捕る少女。
「大丈夫かいな沙和!おいアンタ、沙和に何さらすねん!」
「いいの真桜ちゃん。沙和、ビックリしただけだから。ごめんね?大事なものだったの?」
へそを曲げてしまったのか、取り返したものをしっかりと胸に抱きしめ、プイッとそっぽを向いてしまった。
「こんなに強い反応を示すとは…いったいどんな物なんだ?」
華佗が沙和に尋ねる。
「どんなって…何の変哲もない木彫りの人形みたいのだったの」
「人形、ねぇ」
もしかしたら何かの手がかりになるんじゃないか?
「ねぇ君。よかったら俺に、それを見せてくれないかな?」
警戒させないように優しく聞いてみる。
「ん!ん!」
すると、コクコクと頷きながら、グイッと俺に向かって差し出してくれた。
手にとってもいい、ということだろうか?
「それじゃ、失礼して…」
そっと手にとって見ると、人形と言うよりは胸像といった方が近い物だった。
長さが大体20cmくらい、直径が10cmくらいの、薪に使うには少し小さい木片に、かなり精巧な女の子の顔が彫られていた。
ニッコリと笑っている女の子の表情は、まるで生きているように感じられる。
風に沙和、真桜、そして華佗も興味深げに、俺の肩越しに覗き込んできた。
「おぉ〜……これは、また…」
「これは…素晴らしい品だな」
「なんやこれ……メッチャ上手いやん」
木彫りの人形の出来に、それぞれの言葉で最大限の賛辞を口にする風、華佗、真桜。
沙和だけは、三人より少し長めに人形を見つめ、
「…この顔って、もしかしてこの娘なんじゃないの?」
「え?」
沙和の指摘に、少女と人形を見比べてみる。
「本当だ。そっくりだ」
服装や髪型が少し違うので気付かなかったが、この抜けるような笑顔は、この娘の特徴をよく掴んでいた。
「すごいよね〜。ねぇ?これって、誰が作ったの〜?」
沙和が子供に話しかけるように、少女に目線を合わせる。
少し警戒していたが、沙和の純粋な様子にそれを緩めると、
「ん!」
と指を指した。その先は……
「…ん?」
「お兄さん?」
「……隊長やて?」
「へぇ〜、隊長こんなに手先が器用だったの〜?」
「いやいや、この娘を助けたときに持ってたものを俺が作れるわけないだろ?大体、俺はこんな春蘭みたいに器用じゃないぞ?」
春蘭は華琳限定だけど。
「しゅんらんさま」
「ん?」
今なんて?
「しゅんらんさま」
「え??」
何故か、少女の口から春蘭の名前が出てきた。
「春蘭のこと、知ってるの?」
「?」
首を傾げ、頭に?マークを浮かべる少女。
ただ単に俺の言葉をオウム返しにしただけなのか?
でも俺は、春蘭さま、とは言ってないしな…
「なら、これは春蘭さまが作ったんかいな?」
「ん〜ん!!」
不機嫌そうに首を振ると、またしても俺の方を指差してくる。
「う〜ん……」
堂々巡りだ。
「どこかにお兄さんのそっくりさんでもいるんじゃないですか〜?」
「なのかなぁ〜?」
ポリポリと頭をかく。
こう言っちゃなんだけど、その辺にいる顔でもないと思うんだけどなぁ。
「それより、隊長はしばらくその娘についていてあげるといいの。外のお仕事は私と真桜ちゃんでやっておくから」
「その方がいいだろう。一刀と一緒にいるのが一番、この娘にとって安定した状態にあるようだ。
なるべく俺の方も、時間が空いたらこちらに顔を出すようにしよう」
「なら、書類仕事は風が手伝うですよー」
沙和の案に華佗も賛意を示し、風も乗ってくれる。
「そうか?それじゃあ、お言葉に甘えるとしようかな」
まぁ、書類仕事ならこの娘と居ても少しは出来そうだし。
「貸し一つやで、隊長」
「いや、代わりに二人の分の書類仕事もするつもりだったんだけど…」
「それはよろしゅう頼むけど、貸しは貸しやん」
と真桜に押し切られ、飯をおごる約束をさせられてしまった。
…まぁ、いいけどね。
「さて、それじゃあ……あ〜、そう言えば華佗。確か、この娘の名前は分からなかったんだよな?」
「あぁ。問診の時には答えられなかったな」
「お人形にも名前とかはなかったのー」
お兄さんが聞いたら喋ってくれるのでは〜?
と風。
いつまでも名無しじゃ可哀想だし、ダメ元で聞いてみるか。
返した人形を見ながらニコニコと笑っている少女に、
「ねぇ?君の名前、教えてくれるかな?」
「?」
聞いてみるが、先程のように?を浮かべる少女。
そうだよなぁ。ドラマとかで見ても、名前が一番思い出せなかったりするもん…
「こなみ!」
「え?」
「こなみ!」
少女は自分自身を指差し、同じ言葉を口にする。
「こなみ……小波、かな?それが、君の名前なの?」
「ん!ん!」
持っている人形と同じ笑顔を浮かべながら、コクコクと勢いよく頷く、小波。
かくして、記憶をなくした少女・小波と過ごす不思議な生活が、しばらく続くことになった。
説明 | ||
どうも、DTKです。 お目に留めて頂き、またご愛読頂き、ありがとうございますm(_ _)m 恋姫†無双と戦国†恋姫の世界観を合わせた恋姫OROCHI、41本目です。 今回は陳留編の二本目。 かの少女の正体が明らかになります。 色々と思索して頂けたようで、嬉しい限りです^^ まだかなり先の話になりそうですが、本編だけでなく幕間として戦国・三国を入り混ぜた拠点フェイズのようなものを考えています。 もし、見てみたい組み合わせやシチュエーションなどありましたら、是非コメントなどでお知らせ下さい^^ まだ出ていない娘でも構いません。 随時募集しております。 なお、実際の地形や距離とは異なった表現があります。 その辺、お含みおき頂ければと思いますm(_ _)m |
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コメント | ||
楊 文暦さん>お見事でした^^よろしければこれからもお付き合い下さいm(_ _)m(DTK) スネークさん>どうなんでしょうね〜?やはり、強い縁が必要なのではないかと!(DTK) いたさん>ありがとうございます^^(DTK) 水無月 零さん>ある種、元祖人蕩らしですがw(DTK) ウィングゼロさん>小波でした!記憶喪失は少し斜め上でしたかね?(DTK) やった☆でも記憶喪失は予想外・・・。これからの展開楽しみにしてます。(楊 文暦) 小波ちゃんだったか、しかも記憶喪失とは…思い出すきっかけはやはりあの男なのだろうか…モゲロ(スネーク) ふむふむ……次回が楽しみ!(いた) 小波〜…そっちは妖怪人たらしじゃないよ?まあ小波はかう可愛いのでいいのですが…(水無月 零) …小波か…しかも記憶喪失とは(ウィングゼロ) |
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