真・恋姫†無双 裏√SG 第21話 |
王異伝其四
2年前 王異15歳
それは、なんてことないある日の事。
その日も、いつものように部隊員全員で作戦会議を開き、次の作戦行動について話し合っていた
士希「次の任務が決まった。賊の本拠点の襲撃、そして殲滅だ」
いつも通りの賊退治。
ただ、今回の敵は今までの様な小規模な集団ではなく、賊の頭がいる本隊。
能力は大した事ないが、数が多いらしい
甄姫「ふん、ようやく尻尾を掴んでやったのですから、ここで間違いなく潰しますわよ。
でないと、賊はその数を増やし続けるでしょうから」
璃々「そうだね。今回の任務は、今後の平和の為にもきっと大事な一戦になる。
気を引き締めないとね」
霰「つっても、ただの賊なんやろ?ウチらの敵やないで!」
霰の言葉に、隊員の多くが同意していた。自信があるのだろう。
実際、それだけの戦果を挙げて来たのだから
賈充「張虎さんの言う通り、俺らの隊長についてきゃ、絶対大丈夫っすよ!」
隊員の一人、賈充がそう言っていた。
この時、私は少し嫌な予感がしていた。
恐らく、ここにいる面子なら、手を抜く事はないだろう。
やるんなら徹底的にやるのも、うちのスタイルだ。
だけど、ここにいる全員、多分私も含めて、どこかで慢心していた。
士希なら、私達なら大丈夫と、そう思っていた
友紀「お前達、あんまり士希を持ち上げるな。
これでもこいつ、14歳でうちの最年少なんだぜ?あんまり過信するなよ」
一応、釘は刺しておく。これは自分にも言える言葉だった。
きっと、私もどこかで、士希を過信している
士希「友紀の言う通りだ。俺だって完璧じゃないんだ。
みんなに助けられてる所も多分にある。だからみんな、今回もよろしく頼む!」
士希の言葉に、全員が応と返事をした。
きっと大丈夫。私の考え過ぎだ。いつも通りにしていれば、何も起こらないはずだ
だが、それは簡単に裏切られた
司馬昭隊は、幹部一人に兵士5人の6人一組で行動するのが基本だった。
今回も部隊を5つに分け、包囲網を敷くように圧殺しようとしていた。
それ自体は成功した。
賊はどんどん下がっていき、逃げ場を失い、やがて小さく一塊となった。
きっと全員が思っただろう。私達の勝利だと。
後は消耗試合。今回もいつも通り、私達全員で帰れる
しかし、それはなかなか叶わなかった。賊の最後の抵抗が激しかったのだ。
死に物狂いというやつだろう。
一人一人は弱い筈なのに、なかなか殲滅する事が出来なかった
そして生まれた乱戦。
抵抗は激しいが、徐々に数を減らす賊を見て、あと少しだと考えていた。
気を抜いた。私も、霰も、そして士希も。その結果…
士希「賈充ーーーー!!!」
隊員の賈充が敵の攻撃を受けて倒れた
一瞬、何が起こったかわからなかった。
どうやら賈充は、士希を庇って攻撃を受けたらしい。
背中を深く斬られ、血を多量に流していた。士希の叫ぶ声が、響き渡っていた
その後、賊は殲滅した。その功績もしっかり評価された。
だが、初めて出した犠牲者は、皆の心に深く刻まれていた。
特に士希は、この日を境に目に見えて様子が変わってしまった
それからも、司馬昭隊は任務を与え続けられた。
士希はより慎重に作戦を立てるようになったが、いざ敵を目の前にすると、どこか殺す事を躊躇うようになっていた
そして…
士希「司馬昭隊は、本日をもって解散となる」
士希の口から告げられた解散宣言。
全員が信じられず、反論した。賈充が死んだ事は士希のせいじゃない。
この場にいる隊員も、上層部も、遺族だって、誰も士希を責めなかった。
だがそれでも、士希は解散を命じた。それが、上層部の決定だからと
霰「こんなん、納得できるか!今から抗議しに行ったる!」
霰の言葉に、隊員の多くが賛同して上層部に掛け合いに行った。
残された私、甄姫、璃々さんはそれぞれ黙って士希を睨んでいた。いや、観察していた
士希の目には罪悪感と、怒りと、恐怖が入り混じっているように見えた
友紀「お前、何があった?」
士希「なんでもない。って言っても、お前が信じるわけないよな」
友紀「何かあったから聞いたんだ。当たり前だろ」
こいつの事は、今までよく見てきた。
こいつの一挙一動、嘘を吐く時の癖なんかも、よく分かっている
璃々「私も士希君に何かあったとしか思えない。それって私達にも話せない事なのかな?」
璃々さんの声音はとても優しい。だけど、表情は至って真剣だった
士希「今回の件は、例え璃々さんでも言えません。
ただ、これは俺や、俺の家族の問題が絡んでいるだけです。深く詮索はしない方がいい」
家族の問題。その言葉を聞いた璃々さんの表情は、確かに変わった。
確かに士希の家族は多少おかしい。
あの素性の知れない面子に、軍さえも相手に出来る程の過剰な戦力。
それに、士希の父親の零士さんは、あの北郷一刀と同郷と聞く。
恐らく、それに起因しているのだろう
甄姫「ふん、私は興味ありませんわ。解散するならそれまでの事。余計な詮索もしない。
これが貴方の意思ではなく、上層部の決定である以上、私達が出来ることもない。
ただ少し、ほんの少しだけ、残念に思うだけよ」
そう言って甄姫は出て行った。
口ではツンツンしているが、あいつが士希を信頼していたのは間違いない。
少しだけと言ったが、間違いなく残念に思っている
璃々「士希君はそれで……ううん。なんでもない。
だけど、私はいつでも士希君の味方だから。だから、いつでも頼ってね」
璃々さんも、そう言い残して去って行った。ここには、私と士希の二人だけ
友紀「お前、これからどうするつもりだ?」
士希「さぁ。城勤めは今日限りだし、明日からうちの店を手伝うか、それともどこか別の所に行くか」
士希は私を見ていなかった。どこか別の所を、ぼんやりと見ている。
それが、なぜかとても哀しくて、寂しい
士希「あぁそうだ。友紀、一つ頼みを聞いてくれないか?」
友紀「頼み?」
士希「あぁ。秋菜と凪紗、あの二人の面倒を見てやってくれないか?
本当は兄貴である俺が面倒を見た方がいいんだろうけど、それも叶いそうにないからさ。
だから、俺の代わりにあいつらを支えてやって欲しい」
現在、士希の妹の秋菜は新兵として、凪紗は訓練生とした軍に入隊している。
士希は以前、その事を誇りつつ、あいつらの面倒を見る事を楽しみにしていた。
それを、私に任せてきた。士希の、本心からの頼みだと直感した
友紀「………」
だが、私はその頼みをすぐに受ける事が出来なかった。
こいつが辞めるなら、私も辞めようか。辞めて、こいつについて行きたい。
憎しみも、復讐も、目標も捨てて、こいつの隣を歩いて行きたい。
そう思っていた。思っていたけど…
士希「頼む」
士希のその一言が、その目が、私を頷かせてしまった。
士希は私が頷いたのを確認すると、少し微笑んで、ここから出て行ってしまった。
私が伸ばした手は、士希に届く事はなかった
数日後、部隊は正式に解散となり、士希は退役、私を含めた他の隊員も、散り散りとなってしまった。ただ、甄姫と璃々さんを除いた隊員は皆許昌に残った。士希が解散と退役の際に、「この許昌を守って欲しい」と言ったから。隊員は皆、涙を流しながらも強く頷き、将来有望であったにも関わらず許昌の兵として、残る事にした。
璃々さんは、他に目標があるらしく、士希が退役して間も無く退役した。
だが璃々さんは最後に「必ず許昌に帰って来るよ」と言っていた
甄姫は、曹孟徳の娘、曹丕に一目惚れしたらしく、その子の教育係、護衛、目付役になったと聞いた。あいつに女好きの気があったのは知っていたが、まさかガチだとは思わなかった
私と霰は、士希の頼みである妹達の面倒を見るべく、警邏隊に所属する事にした。
私は秋菜を、霰は凪紗を見る事になった
秋菜「本日付けで警邏隊所属になりました、夏侯覇と申します。
若輩の身故、ご鞭撻のほど、よろしくお願いします!」
これが秋菜との初めての出会い、と言うわけではなかったが、こうしてちゃんと相手にするのは初めてで、私は少し驚いていた。
彼女の目は、士希にとても似ていた。
かつて、誰かの為に、平和の為に戦う覚悟をしていた、あの士希の目に…
一年前 王異16歳
警邏隊に所属して一年が経とうとしていた。
秋菜の面倒を見て、訓練生から新兵となった凪紗の面倒もちゃんと見ている。
あいつらに厄介ごとが及ばないように、独自で街に出ては情報収集をし、大事になる前に片付ける。
秋菜の目にはそれがサボっている様に見えているみたいだが、私はあまり気にしなかった。
というか、半分はサボっている様なものだった。
情報収集を理由に酒を飲んだり、麻雀したりしていたから。
いい息抜きにはなっていたし、私自身もそれなりに楽しかった
だが、物足りなかった。
秋菜も凪紗も優秀で育て甲斐がある。警邏隊の仕事もそれなりに多い。
それでも、物足りない。
理由はわかっている。あいつが居ないから。
居なくなって初めて気付いたが、私はあいつに、かなり依存していたようだ。
あいつが居ないだけで、どこか無気力になっていた
そんなある日…
凪紗「王異さん、この資料なんですが、何処に片付ければいいんですか?」
大量に資料を持っていた凪紗に足を止められ、持っていた資料の内容を確かめて資料館に案内してやる事にした。
資料の内容は戦闘記録。
過去の戦の記録、誰が、どんな策で、どれくらいの戦果と被害を出したかを綴った資料だった
友紀「なんでまた、こんなもん持ち出してんだ?」
凪紗「自分はまだまだ経験不足ですから、こういうものを見て学ぼうと思って」
凪紗は、一言で言えば向上心の塊のような奴だ。学ぶ事に貪欲で真剣。
ただ、集中し過ぎて若干周りが見えなくなる事もある。
今だって、他の資料を開いて自分の世界に入っている
せっかくだし、私も見てみよう。
そう思うや否や、私は手近にあった資料を一つ取る。
内容は16年前の赤壁の記録。
この時の私は、確か魏がボロ負けしたやつだよなぁ、なんて思いながら記録を開いた
蜀と呉による連合、連環の計によって繋がれた船、火計、その火を煽るように東南から吹く風、蜀呉側の被害、魏側の被害…
友紀「……!?」
そこで、私は見てしまった。魏側の被害にあった人員の名前。
こうして名前が残るということは、当時それなりの階級だった事がわかる。
魏の副将、趙昴。私の父の名だ…
心臓がドクンと大きく鳴り、全身から熱い汗が噴き出る。
忘れかけていた感情が、全て戻って来たようだった
記録には、無感情に父の死因が綴られていた。
蜀呉による火計で部隊は壊滅寸前となり、最期は蜀の馬超将軍の手で討たれたと、簡潔に、記されていた
ようやく掴んでしまった手掛かり。私はもう、止まらずにはいられなかった。
馬超に関する資料を集められるだけ集め、人物、能力、経歴、全てを叩き出した。
そして調べていくうちに、もう一つの件にも辿り着いた
姉の趙月は、かつて馬超の部隊にいた
偶然とは思えなかった。
きっと姉は、あの優秀な姉なら、馬超が父を殺した事にも辿り着いたはずだと思った。
そこからは、ありもしない想像が私を支配した。きっと姉も、馬超に殺されたんだと
私の全身が、黒いもので支配されていく。
とうとう辿り着いた仇。私の家族を奪った張本人
馬超猛起、お前は必ず、私が殺してやる
そして私は…
現在 王異17歳
花栄「おーい、王異さーん、起きてくださーい」
花栄に体を揺すられ、私は目を覚ました
友紀「悪い、もう着いたのか?」
目を擦り、馬車の中から顔を覗かせる。
目の前には、少し大きめな、だけど許昌よりは小さな街が広がっていた
武松「あぁ。仕事を済ませるぞ」
私と武松と花栄は馬車から降り、体を伸ばした。かなり眠っていたらしく、体が少し硬い
友紀「それにしても、たった三人でやれんのか?五胡の代表を拉致るなんて」
花栄「やれんのかじゃなくて、やらなきゃいけないんですよ。それに、まぁ大丈夫なんじゃないですか?事前情報が確かなら、案外警備は薄いらしいし」
花栄は大きな弓を包みにしまい、それを担ぎながら言った。
私も、小太刀を腰に差し、上着でそれを覆い隠した
友紀「さて、なら本番だな。やってやるか」
これも全て、私が全てを取り戻す為に…
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こんにちは! Second Generations王異伝其四 王異の過去後編 |
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真山さん> すいません、誤字がありましたね(笑)(桐生キラ) 秋菜は秋蘭の娘、夏侯覇です!(桐生キラ) 秋菜が夏侯淵?(真山 修史) 本来なら司馬昭を天下に近づけた賈充が死んでしまったか……(ohatiyo) |
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