Power of Love
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イズーと相楽くんが付き合いだした。

 

 

瞬く間に学園内の大部分がこの話題でもちきりとなった。今年が始まってまだひと月ちょっとしか経ってないけど、間違いなく今年一番のニュースとなるだろう。

 

私だってビックリ仰天したもん。

 

 

それにしても・・・。なんかしっくりこないなー。イズー、大丈夫かな。

 

高柳のときは半分ネタみたいな感じで冷やかしてしまったけど、今度はそういうわけにはいかない。

 

だって、あの相楽深行だよ?

 

女王様と言われる宗田真響と(あ、ついでに高柳も)学力首位争い。中3のあんなハンパな時期に転入してきたにもかかわらず、すぐにそつなく解けこみ、さらに人望も厚くて男女問わず大人気でモテモテ。

 

非の打ち所もなさそうなイケメンとイズー・・・。ううう、心配で仕方ない。

 

相楽くんの人柄を疑ってるわけじゃないけどさ、イズーって、あのとおり大人しいし。何でも言うこと聞きそうだから・・・とかないよね?

 

私がいくら気にしても余計なお世話だろうけど。なーんか、イズーって放っておけないんだ。

 

 

 

そんな私の心配をよそに、ふたりの交際は順調のようだった。っていうのも、イズーがどんどん可愛くなっていくから。

 

恋する女の子は可愛くなるって真実を目の当たりにした感じ。

 

もうね、瞳の輝きが違うよ。イズーの隠れファンたちは絶望の淵からごろんごろん転がり落ちていってますよ。

 

 

相楽くんと話してるイズーは頬を染めて幸せそうだ。私は心からよかったねと思った。

 

 

 

 

移動教室に向かう途中のこと。

 

イズーや他の女子とかとA組の前を通ったときに、友達と廊下にいた相楽くんがイズーを見つけた。イズーはというと、気づいてないのか相楽くんのほうをまったく見ていない。

 

そして、彼が口を開きかけたとき、

 

「相楽くん、さっきは勉強教えてくれてありがとう。優しくて、とても分かりやすかった」

 

A組の女子が教室から出てきて相楽くんにすれ違いざま声をかけて行った。イズーがビクッと肩を震わせてそっちを見る。

 

目鼻立ちがハッキリしてるので、宗田真響ほどではないにしろ、けっこう人気のある女子だ。振り返って意味ありげな視線を寄こした。

 

 

なんだー、あれ。感じ悪いな。

 

つーか、相楽くんも相楽くんだよ。なんであんな女子に。

 

 

ヤツは(もうこの段階で私の中では『ヤツ』でいい)声をかけられて一瞬固まっていたが、素早くイズーに駆け寄った。

 

「違うから」

 

「えっ なにが?」

 

いきなり詰め寄られて、イズーが目をまん丸にしている。

 

「ふたりじゃない。クラスの連中に頼まれて数学の小テストのヤマ張りをしただけだ」

 

「・・・そうなんだ」

 

 

なるほど。あの女子は、わざとイズーが誤解するように言ったわけだ。しかし、ヤツのこの焦りよう・・・。なんか思ってた人と違うんですけど。

 

もしかして、ものすごくイズーのこと好きなのか・・・?

 

ちらと彼女を見ると、イズーはちょこんと小首を傾げて苦笑した。

 

「友達が多くていいね」

 

 

ええええええ!! 違うよね! 彼氏が言いたいのはそういうことじゃないよね!?

 

 

「いや、そういうことが言いたいんじゃなくて・・・っ とにかく、勘違いをするなよ」

 

「・・・勘違い? あ・・・も、もしかして、実は友達があまりいない、とか」

 

「友達がどうのから離れろっ ・・・誤解をしてないのなら、もういい」

 

気遣う表情を見せながらおろおろしてるイズーと、目をそらしながら困ったように首の後ろに手をやる相楽くん。

 

イズーにまったく意図が伝わってないみたい。このふたりって、いつもこうなのかな。

 

 

・・・相楽くんがなんとなく不憫に見えるのは気のせいだろうか。

 

 

私はついプッと吹き出してしまった。相楽くんが少し顔をしかめたので急いで笑いを引っ込める。

 

すまん。でも、面白かったから。

 

私は相楽くんに対する認識を少しあらためた。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

人がどことなく自分にかえるというか、素が出る場所。ずばりそれはトイレだと思う。

 

お店だってトイレを見ればそのレベルが分かるし、どんなに可愛い子でも洗面台をびちゃびちゃにしてたりすると、うわあって思うし。

 

そして、げに恐ろしきは女子トイレ。

 

怪談話だって女子トイレが舞台だしさ。なんで男子トイレじゃないんだよ。怖くてトイレに行けなくなって、泣いたこともあるんだからね!

 

それはさて置き、噂話や悪口だって、みーんな女子トイレから発生すると言っても過言ではない。

 

事件は会議室で起きてるんじゃない、女子トイレで起きてるんだ!!

 

 

 

トイレで用を済ませると私は、イズーと手を洗いながら、さっきの英語で眠りこけてた真夏が怒られてウケたねーなんて笑い合っていた。

 

ちなみに私もイズーも、きゃっきゃとトイレに連れ立って行くタイプではない。偶然だっただけ。

 

 

「鈴原さん。ちょうどよかった! 話があったんだ」

 

 

唐突に声をかけられて振り向いてみれば、数日前の嫌みったらしかったA組女子とその友達が立っていた。

 

「私に?」

 

イズーがハンカチで手を拭きながら目を瞬かせる。この無防備さ。多分イズーはあのときの女子だと分かってないね。

 

A組女子たちは互いに目を合わせてうなずいた。

 

「あのね。実は・・・私、ずっと相楽くんのこと好きだったの」

 

「・・・えっ」

 

「だから、お願い。鈴原さんはあきらめてくれないかな。相楽くん、優しいから断れなくてあなたと付き合ったんだろうけど、やっぱり違うなって思っても言えないと思うの。鈴原さんから離れてあげて? ねっ?」

 

 

はああああ!? なに言ってんの、このひと!

 

イズーたちがどっちから告白したのか知らないけど、今まで他の女子を断ってた相楽くんが、イズーと付き合ってるんだよ? 現実から目をそらすなっつーの。

 

強い口調で頼めば、イズーが言うこときくとか思ってるんでしょ。

 

 

「あのさあ・・・」

 

「ミ、ミユー」

 

私が臨戦態勢をとってギッと睨んで食って掛かると、イズーはあわてて私の腕を掴んだ。

 

それから唇をきゅっと結ぶと、意を決したように女子たちに向き直った。

 

「・・・私ね。もう、自分からあきらめたくないの」

 

イズーに真直ぐ見つめられて、女子たちは予想外だったのか、たじろいだ。

 

「頑張っても意味がないって思ったこともあったけど、そうじゃないって教えてもらったの。私はその人を失望させたくないし、その人の言葉を信じるよ。だからもし、相楽くん本人が私から離れたいって言ったら、・・・そのときはそのとおりにする」

 

震える両手を握りしめて、イズーはキッパリと言った。

 

「でも、私からは離れたくない。・・・私も、相楽くんが好きだから」

 

 

・・・こりゃ、驚いた。

 

入学した当初、あんなにもびくびくしていたイズーが、こんなに強くなったとは。

 

アンジェリカが乗り込んできたときに、恋すると強くなる乙女?とか言ったこともあるけど、あのときとはまた全然違う。

 

背筋をぴんと伸ばしたイズーの横顔は、凛として綺麗だった。

 

 

「い、意味分かんない。・・・行こ」

 

そのイズーに負けて女子たちがそそくさと去っていくと、イズーはへなへなとしゃがみこんだ。

 

わわ、綺麗なおさげが汚れる! 私はサッとすくい取って救済した。

 

「イズー、よく言った! えらい!」

 

彼女の肩をなでると、震えが伝わってくる。イズーは膝に顔を埋めながら言った。

 

「・・・本当はいろいろなことが夢みたいで。不安がまったくないと言ったら嘘になるの。心の奥底では、本当かな?って思ってしまうこともあるし。でも・・・相楽くん、いつだって本当のことしか言わないから」

 

イズーはひとつ深呼吸をして、ゆっくり立ち上がった。

 

「私もね、信じる努力から始めようと思うの。自分に自信がないからといって、怯えていないで」

 

 

だいぶテンパってるな。

 

イズーからこんな話を聞くのは初めてだ。本来こういうことは宗田さんに聞いてもらってるんだろうな。

 

でも、イズーは私にちゃんと視線を合わせていて。肩を撫でていた私の手を握り返して。

 

ありがとう、と言われて、こっちこそお礼を言いたい気持ちになった。イズーが私に思ってることを話してくれたのが、とてもとても嬉しかったから。

 

 

 

トイレから出て教室に向かっていると、途中でまた相楽くんに会った。

 

イズーはギクッと顔を青ざめ、それから真っ赤になって、脱兎のごとく踵を返して逃げ出した。

 

分かる、分かるよ。心の中がいろんな感情でカオスになってるんだね。

 

 

相楽くんは呆然とイズーの背中を見送ると、私を見やった。

 

「・・・何かあった?」

 

お得意のポーカーフェイスが崩れまくってますよ、相楽くん。

 

このひとも大概変わったよね。

 

「気になる?」

 

ふふんと見上げれば、相楽くんは眉根をよせた。その余裕のなさに免じて教えてさしあげましょうかね。

 

あのイズーがあれだけ勇気を振り絞ったんだから、相楽くんにはその倍がんばっていただきたい。

 

 

さっきのやりとりを説明すると、相楽くんはイズーが走り去った先へと猛ダッシュして行った。

 

 

うむ。倍どころか5倍はがんばってくれそうな勢いである。

 

 

 

 

 

 

終わり

 

 

 

 

 

 

私の脳内では、交際開始後すぐにがんがんオープンにしてるイメージなので(深行くんが牽制も兼ねて☆)、最初のうちは周りから何かと言われることもあるかなと。

 

泉水子ちゃんも腹をくくったので「強くならねば」とがんばったり、そして深行くんは周囲の空気に聡いので、きちんと泉水子ちゃんをフォローしてほしいという願望を詰めました。

 

イマイチ泉水子ちゃんに伝わってないのはお約束ですが(笑)

 

 

説明
RDG6巻後です。
高校1年の3学期で波多野美優視点。みゆみこの交際はオープン設定です。
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タグ
レッドデータガール 波多野美優 

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