ミラーズウィザーズ第二章「伝説の魔女」13
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「ずいぶん意味深ね」

〔これでも三百と数十を生きておる。主ら、生まれたての尻の青いガキとは違って単純ではないのでの〕

「自分で言うか……」

 しかし確かに重みのある言葉だった。さすがに二十年(はたとせ)も生きていないエディには出しようのない重みだった。

(……そういえば、ユーシーズが魔女ファルキンだってことは、言葉通り三百歳越えてるんだよね。魔女戦争始まったのって中世の話だし。よく生きてるよね。魔女って『不老』の魔法も使えるのかな? 見た目シワシワのおばあさんなのを隠す為に、私に『変化』してるんだったりして)

 そんなエディの考えも、心の声とらやでユーシーズに伝わっているはずだったが、彼女は無視をしていた。

「じゃあ結局、封印している私たち魔法使いを恨んでいるとか、人を殺し回ったりはしないんだよね?」

〔さぁ、どうかのぅ……〕

「よかった〜。もう『魔女』と戦うことになるんじゃなうかって、内心ビビりまくってたんだから」

 手を胸にあてて、エディは本当に安心したと繰り返す。

〔人の話を聞いておるのか?〕

「うん、大丈夫。これでも人を見る目はあるつもりだから。あなた悪い人じゃないよ」

 それはエディの確信だった。あの洞窟で彼女が魔女ファルキンだと確信したのと同様の強い確信。エディは自分の予感を信じて疑わない。

〔ふん。言っておれ。我はいくつもの国を焼いた『魔女』じゃ、そんな甘い認識をしていると寝首をかかれるぞ〕

「うん。ありがと。注意するよ」

 ユーシーズのきつい忠告を全く信じていないエディ。彼女にユーシーズ・ファルキンは仕方がない奴よのと渋い笑顔を見せた。それではエディの確信の方が合っているように見える。

「あ〜。戦わないでいいと思ったら気が抜けちゃった。今日はもう帰って寝よ。特訓もなし」

 元気よくベンチから立ち上がると、エディは声を漏らして肩を回した。まるでユーシーズに完全に気を許していると示すがの如く。

「私は帰るけどあなたはどうする?」

 それは講義が終わった生徒への問いかけのようだった。エディにはユーシーズを『魔女』として扱う気がないように見えた。

〔どうもせぬ。我の身体はずっと地下で寝ておる。そしてこの我はずっと漂うだけの存在じゃ。どうもせぬわ〕

「じゃあ私と一緒に来る?」

 意外な言葉にユーシーズはベンチから浮き上がり、エディの正面に回り込んだ。そしてしっかりとエディの顔を見据える。

〔何を言っておる。馬鹿馬鹿しい。なぜそんな我を誘うような言葉を言う〕

「うんと、ずっと一人みたいだから寂しいのかなって、それに顔が私と一緒だから、なんとなく他人の気がしないというか」

〔馬鹿を言うでない。我は魔女ファルキンぞ。寂しいなぞとふざけたことを〕

 魔女が声を荒げる。そのユーシーズの言い分に、今度はエディが起こるように言う。

「ふざけてなんかないよ。あなた私以外には見えないし声も聞こえないんでしょ? だったら部屋に来てもマリーナも気にならないだろうし」

〔平然と間抜けたことを言う奴よの〕

 ユーシーズは今日一番の呆れ顔をした。エディはそれが逆に嬉しく思う。

「だって私馬鹿だもん」

 エディはそう言い切る。同じ顔同士が睨み合うように相対する。二人とも顔は真剣だった。

 月夜の対峙。先に降参したのは三百年以上生きるという魔女だった。

〔くはははは。言いよるな、主〕

 楽しそうに腹を抱えて、幽体の魔女は笑っていた。

「うん。だから行こ」

 エディは手を差し伸べる。幽体の彼女にはその手をとることは叶わない。それでもユーシーズはエディの手を握った。久しい感触にユーシーズは戸惑いと懐かしさを覚える。

 ずっと独りで地下に眠っていた。

 独りが当たり前だった。

 もう誰とも会えぬと、封印される時にそう覚悟したはずなのだ。その覚悟が揺らいでしまう。

 二人はまるで双子の姉妹のように、寮までの帰途を並んで歩いた。

 一人はしっかりと大地を踏みしめ、もう一人は風に乗るように。そして二人は本当に生まれたときから側にいるような、愛おしく狂おしい姉妹のように。

〔馬鹿な子よの。こんなとんでもない時になんて……〕

 ユーシーズ・ファルキンの呟きはエディには全く聞こえていない。

 その魔女の忠告がどれほど正しいのかも知らずに。

説明
魔法使いとなるべく魔法学園に通う少女エディの物語。
その第二章の13
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魔法 魔女 魔術 ラノベ ファンタジー 

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