双子物語-57話- |
双子57話
ジャンルが違ったとしてもスポーツの大会が開かれる時期は似てることが多い。
私の通う学園でも強豪とされている剣道部が出場するのだけれど
現在ちょっとした揉め事が発生していた。
とはいえ、内容を聞いている限りは試合には影響はなさそうだけど
モチベーションには関わってきそうなので無視はできなかった。
しかし周りはあまり深く関わらないほうがいいと忠告はされた。
なぜなら剣道部の部長は去年熱狂的な生徒会長のファンで継いだ私のことを
良く思っていないからだ。
まぁ、その辺はお話でもよく聞くことだけれどまさか自分に降りかかってくるとは
思いもしなかった。でもここまで色々あったからそういう人がいてもおかしくはないけど。
「はぁ・・・」
本日の生徒会業務が終わった直後の情報に疲れがどっと出てくる。
前々から和解できないままではあったけどココに来てまた問題が浮上してくるとは。
そろそろ解決する方向に進めないとお互いスッキリしないまま卒業を迎えて
しまうことになる。
白黒はっきりつけたい私としてはそれは一番避けたいことであった。
「大丈夫ですか、会長…」
今日は珍しく全員用事があって傍にいるのは一年生の唯ちゃんが私の様子を
見にきていた。相変わらず感情がまったくわからないくらいの無表情で私の傍で
立っていた。
「唯ちゃん、ごめんね」
「いえ。もし倒れられたらすぐ助けを呼ばなきゃなので」
「ほんとごめんね…」
「でも不思議ですね」
「何が?」
暑い中、屋上入り口付近から覗ける所に植えられている大きな木が揺れていると時折、
日陰が出来て間から涼しい風が入ってきて季節の割には快適な場所である
サー・・・という風の音に一瞬遮られながらも私たちは会話を続ける。
「なんで会長ってこんな人気あるんでしょう。確かに天然白髪は珍しいし顔立ちも
綺麗な方だとは思いますが体も弱いし言うほどすごくはないと思ったり」
「本当のことはっきりと言うね…」
ズバッと言われて汗が一筋流れると、唯ちゃんは口を手で当てながら
すみませんと言った。
「まぁ、確かにそうだよね。私もそうなりたくてなったわけじゃないから。
がんばっている内にいつの間にか・・・、周りに恵まれているのかもしれないわね」
「でも会長もがんばってますよ」
「ありがとう」
この子の瞳は全くにごりがなくて真っ直ぐではっきり言われてもあんまり傷つかない。
悪気がなくてただ純粋に不思議に思えたことを知りたがっているように見える。
そういう子だからこそ今の私には楽に感じられるのかもしれない。
「でもね、何となくだけど私から見ると会長さん。何かを抑えていて大人しそうに
しているように見える・・・ます。今から言うのも何ですけど…卒業までに心残りがあれば
…すっきりするまでやったほうがいいと思い…ます」
「・・・」
「あ、色々言ってごめんなさい。でも何かそう見えて、私の勘…ちょっとは当たるし」
「うん、ありがとう」
気を遣うような言い回しで抽象的だったけれど言いたいことは何となくわかった。
というか・・・気付かされた。人気者の先輩に引っ張られ、そのまま良い印象をもらって
無意識に周りに気を遣っていた。三年にもなってまだ表の部分しか出していなかったのだ。
そうだ、私はすごくすっごく負けず嫌いなのだった。
「会長、いい顔してきましたね」
「うん…今ものすごくやる気が満ちてきた。このまま時間切れでうやむやにしてたまるか。
ありがとう、唯ちゃん」
晴れやかな空を見て私は気持ちを強くして思った。
残りの時間は私の好きなように使わせてもらう・・・と。
そう思ったらどこか突っ掛かっていた気持ちが取れたようなスッキリとした気分になった。
***
まずは楓と部長を会わせて待ち合わせ場所の指定をして、楓からの報告を受けた私は
その待ち合わせ場所で待っていた。
待ち合わせ場所にいるのが私とは知らずに待ち合わせ場所に現れた剣道部の部長は
驚きを隠せずに私を見ていた。
「どうもわざわざご足労を」
「どういうこと?」
「うーん、何というか。私と貴女との間にあるピリピリしたものがね。
残ったままだと嫌だから何とか和解できないか相談したかったのよ」
「だったらあんたが自ら来ればよかったじゃない」
「それじゃ貴女は逃げていたでしょ」
「・・・」
私の言葉が図星だったのか言葉を詰まらせる部長さん。最初に顔を合わせた時より
少し汗が滲み出ているのが見えた。
こういう場面では私も少しはピリピリしていたりすることもあるけれど
今の私は不思議と平静で話をできていた。いつもみたいな穏やかな声ではないけど。
相手のことを考えて真剣に話していた。
そのことが相手にも伝わっているのだろう。睨みを利かせながらも誤魔化そうとは
せずにちゃんと私の話に耳を傾けていた。
「で、何がしたいの?」
「えっとね、私って一度気になったら最後までにはスッキリしないとずっと残って
嫌な性質なの。ずっと私を敵視したい貴女には悪いけれど」
一歩一歩相手に近づいて止まった頃には部長さんの目の前で止まる。
それこそ顔が近づいてしまいそうなほど近く迫って私は続きを呟くように言った。
「私、徹底的にやるよ」
「・・・」
「もちろん危害を与えるわけじゃない。要は…部長さんを含めた周りの人たちに
支援をするわ、不満がでないくらいにね」
「バカなの? もう時間もないのに、後一週間ほどで本番があるのよ」
「バカで上等、やりもしないで諦める性格してないから。無理というのは結果でしかない。
私は無理なことをするんじゃない、無茶をしてでも目的を達成するためにここにいるから」
「・・・!好きにしなさいよ!何かあっても私は無関係なんだから」
「それは気にしないで、こっちで勝手にやることだから。ただ私の意志を伝えたかった
だけだから。じゃあね」
最後に私はみんなに向けるような微笑みを浮かべて、距離を取ってから手をひらひらと
振りながら部長さんの前から去っていった。
さぁ、これから忙しくなるぞ〜と思いながらグッと腕を上に向けて背伸びをしてから
深く溜息を吐いた。
***
これまでのお利口さんだった私の行動が認められたのか、私が必要だったものを
料理部と応援団の部、そして先生からの許可も得られて思ったより簡単に事を進められた。
問題は時間、納得できるものが本番の翌日に仕上げられるかどうかだけが心配だった。
「なぁ、ゆきのん。大丈夫か?」
「うん・・・大丈夫」
と口で言っても足元はややフラついていた。普通の生徒ならちょっと疲れる程度だけど
元々体が強くない私にとってはけっこうな疲労が溜まっていた。
「まぁ何とかなるでしょ」
「当日に倒れたら何にもならんからな、しばらく見てるからな」
釘を刺されてそっから何も言えなくなってしまったが、瀬南の言う通りだろうか。
瀬南はもっと頼れと遠まわしに言っているのだろう。
確かに今はしんどいし手伝ってもらおうかな。
そんな風に気を緩めると帰り際ふらついて瀬南の体に倒れそうになったのを
受け止められて近くにあるベンチに瀬南は指を差しながら言った。
「ほらぁ、言った傍から。そこで少し休んでいこか」
「大丈夫だって…。心配性だなぁ」
軽く迷惑そうな顔をして言ったが、私の傍に多く居てくれるのはとてもありがたかった。
せっかくなので座りながら最近の仕事の話をしている内に少しうとうとして
瀬南の肩に頭をこつんと当てるようにして生徒たちの騒がしい空間から離れて
久しぶりの静かな時間を過ごした。
周りにある木々の葉が風に揺られている音とうっすらと感じる瀬南の匂いと当ててる額
から伝わる温もりが心地良い。暑い時期だけど木々や建物の日陰のおかげで
気温はちょうどよく感じられた。
しばらくそうして休んだ後、何だか幸せそうな表情をしている瀬南と一緒に生徒会室に
戻って最終調整の話をみんなでした。その中には叶ちゃんは含まれていなかった。
彼女も部活が今一番忙しいときだから集中してほしかったから。
以前そう言って説得したのを続けてくれて嬉しかった。
私の気持ちを察してくれているのだろう、そう思って安心していた。
そのおかげか私は目の前のことを集中することができた。
***
学園中で剣道部に対してサプライズ的に潜めながら事を進めていたため、
当日になっての注目され具合に部員全員が驚いていたようだ。
部長が新しくなってからマネージャーもいなくなり色々苦しいと聞いていたから
私が募集をかけて私と一緒に雑用や身の回りのことを
買って出たのも驚きの中の一つみたいだ。
最初は生徒会長が率先していることに戸惑いや喜びや不満などが聞こえてきたけど。
私は気にせずにやれることを進めているとやがて部長以外の子とは軽く話し合えるくらい
には溶け込んでいた。
先輩後輩関係なく親しい感じに。そのリラックスした空気が功を奏したのかこれまでの
練習試合の結果とはかけ離れた好成績をたたき出していった。
そうこうしているうちに団体戦決勝間近で私が作ってきた差し入れをみんなに
渡していく。みんなありがたそうにそれぞれ口にしていた。
選手みんな試合に支障が出ないように適量を口にしてから笑顔だったものが
すぐに試合をする眼差しに変わって準備を始めた。緊迫した空気がびりびりと
私にも伝わってくる。
部長さんだけは私の眼を見ることはなかったけど、一緒に来た子の差し入れを
受け取っていたのを見ていたから少しホッとした。
熱気溢れる決勝戦、邪魔にならないように応援をしているとみんなの願いが
通じたのか常勝強豪校からギリギリの勝利を得て私達の場の空気が感動で満たされた。
後日にまだ個人種目があるのだけどそれすら忘れるくらいの応援していた側、
試合をしていた側の一体感がこれまでにないくらい感じられた。
試合後の表彰や片付け諸々が終わってから学園に戻ってきて残り僅かの時間に
私と部長さんは人気のない場所に移動していた。
「いやぁ、今日は大変だったけど充実したわね〜」
「・・・なんでここまでしてくれたの?」
「言ったじゃない。私の中でスッキリしたかっただけ」
「それだけ?」
「大体そう。それ以上のことを聞かれるとそうね・・・先輩の影響もあるかもしれない」
「美沙先輩の?」
「うん、私自身そんなに周りのこと気にしないから不思議だった。
周りの笑顔を自らの糧にしていたあの人のことほんと不思議だったけど
今は何となくわかるかもね」
「・・・」
「部長さんが私のこと嫌い続けるのは仕方ないとは思うけどずっと
そんな気持ちのままじゃつまらないじゃない。なんでスッキリさせないのかなぁって
最近になって私も思ったんだけどね。どうだった?」
私の問いかけに部長さんはしばらく黙ってからちょっと照れくさそうな言い方で。
「わ、悪くはなかったわよ」
後輩たちの顔を見ていたらって消え入りそうな声が追加されていて私も思わず笑みを
浮かべた。どこかつっかえたまま卒業していたら私はもどかしい部分を残していたかも。
「よかった」
ちょっとしみじみしながらこの終わった後の感覚を噛みしめて二人で過ごした。
こんな日はもう二度とないだろうから。
***
その日の全てが終わった夜は倒れるようにベッドの上に乗って気を失うように
眠りに就いた。すごく疲れていたのだろう、夢を見ることもなく溶けていくように
沈んでいくように眠っていたようだ。
周りからすると心配になってしまうくらいの様子だったみたいで起きた後に
同室の叶ちゃんにものすごく心配されて逆に驚いてしまった。
「ごめんね」
「もう、いいです・・・。それより満足したんですか?」
「うん、今回はね。後もう少しだけ、わがままさせてもらおうかな。
もちろんそれ以上にしっかり生徒会も他もがんばるけどね」
「あんまり無理しないでくださいよ。見ていてハラハラするんですから・・・!」
「わかってるって」
「それに・・・私もがんばってるから・・・もう少し時間を」
「それもわかってるよ」
「先輩・・・」
がんばってる可愛い後輩の私の見る瞳が可愛くて頭を撫でて抱きしめた。
忙しくてかまってあげられなかったのは可哀想だったから今日この日の余った時間は
彼女のために使おうと思った。
残り少ないこの学園の時間を無駄に使わないように、多少無茶をしても
私がしたかったことを成し遂げようとこれからもがんばるのだった。
体に負担がかかろうとも、彼女と周りの子たちがいれば何とかなりそう何でもできそう
だという確信が出てくるのであった。
続く
説明 | ||
妹編。学園のほとんどの人たちと仲が良くなった生徒会長の雪乃。その中で唯一先代生徒会長のことしか認めないで雪乃に嫉妬に似た敵意が向けられていた。雪乃はそのことでもやもやが残っていて、しかし行動を躊躇う内にある人から背中を後押しされる。二人の関係は改善されるのだろうか。 | ||
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