浅き夢見し月の後先 ? 魔法少女まどか★マギカ新編「叛逆の物語」後日談私家版 ? 5?8章
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5.鹿目まどかの場合:その2

 

 ママと話して、まず美容室に行くことにしました。ママが褒めてくれた髪だけれど、やはり普段の生活には長すぎるもんね。

 皆から見られると騒ぎになりかねないからとパパが言い出し、幾分季節外れのパーカーを出してきた。コレを着て行きなさいって。髪の毛を隠すにもちょうどいいので、とりあえず途中でくくってパーカーの内側に収まる程度に纏めました。コレでフードをかぶれば何とかなる…かな?

 

 そんな自分の長くなった髪の毛は、ほむらちゃんの髪の毛の艶やかさを思い出させた。初めて会った時のほむらちゃんみたいな素直な、癖がなくて綺麗な長い髪。その髪の毛の艶やかさを感じさせてくれた時の、涙ぐんだ端正な顔と温かい体温。

 …いつの記憶なんだろう? 円環の理としての私の記憶と力は全く回復していない。まるで何かに妨げられてるかのごとく、本来あるべき円環の理の座に触ることが出来ないからだ。でも不思議と焦りはないのがまた不思議。まるで誰かに抱きしめられて引き止められてるような、そんな、温かい拘束。

 ともかく、少しずつ思い出す記憶は、私にほむらちゃんが何かすごく重要な人だっていうことを教えてくれる。早く学校に行きたいな。

 

 伊達眼鏡とパーカーで装って、ママの車で風見野へ。行きつけの美容室は予約無しで入れるんだそうです。

 でも、今日のママはお気に入りの音楽もかけずに押し黙って微妙な顔つきをしてる。

 

 「…ママ、どうしたの? さっきから変な顔してるよ」

 「そうか、そう見えるよね。…あのね、あたし、あんたの行く末が不安なのよ」

 「え?」

 「あたしはパパを捕まえて学生結婚したじゃない? 和子にはいくらなんでも焦りすぎって当時笑われたけどさ。就職難も不況もあったけど仕事も順調で、仕事と家庭の両立で悩んでたらパパが専業主夫になるってあっさり決めてくれる。可愛い子供も二人生まれた。人並みどころか上から数えたほうがはるかに早いくらい、あたしは幸せよ。

 「でもね、あんたは人としての幸せどころか人をすっ飛ばして神様になっちゃった。あたしにはそれがどういうことなのか理解できてないのよ。…やっぱりね、親としては子供に幸せになってほしいわけさ。でも、あんたの幸せって一体どんなものなのか見当もつかないの。あたしが何かできるのかすら分からない。それが顔に出てたんだね」

 「…」

 

 肉親にも、今の私にも、分からなくなった、私の幸せ。

 そして、「円環の理」の幸せ…、考えたこともなかったし、誰も知らない。そもそも、そんなものがあるのかな…。

 

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6.美樹さやかと佐倉杏子の場合:その2

 

 かかりつけの病院とやらはちっちゃなところで、朝早いからか、爺さん婆さんばっかり。さやかが戻ってくるまでろくにやることもありゃしない。

 置いてあった週刊誌を何冊か流し読みしてみたが、よくわかんねえ芸能人がどうのとかくだらねえことばかりだったので、すぐに投げ出しちまった。テレビもやってるが、どこかの選挙がどうとか偉そうなおっさんが偉そうなこと言ってるだけだ。もうちょっとして選挙にいけるようになったら見てやろうかなとは思うけど、今は興味無いからつまんないだけだな。…そんなこんなで暇を持て余していると、やっとさやかが戻ってきた。

 

 「で、どこが悪いんだって? 頭か?」

 「つまんないこと言ってるんじゃないわよ、あたしの病状に興味はないわけ?」

 「だって熱はあるけど絶好調って言ってたじゃん」

 「まあそうなんだけどさ、お医者さんもどこが悪いかわからないって」

 「何しに来たんだよ、それ」

 「とりあえず解熱剤出してくれるって言うから、熱は下がるよ」

 さやかがひらひらと処方箋をはためかす。よくわかんねーなー。

 

 すぐ近くにある薬屋で薬を貰って用事が済んだところで、さっき待ってた分のストレスを解消したくなったのでちょっと提案してみた。

 「コレで終わりだろ? じゃあ帰りにゲーセンでも行って・・・」

 「一応あたし病み上がりなんだけど?」

 「真っ直ぐ帰るのかよ、つまんねーよ」

 「まだ真っ昼間じゃないの。そこら辺ウロウロしてたら補導されちゃうよ」

 「あたしが補導されるわけねーじゃん。さやかだっていざとなったら何とでも…」

 「そういう問題じゃないでしょー!」

 さやかが突然何かを思いついたような顔をした。そして、ちょっとおねだりをするような表情をしながら、言った。

 「…ねえ、そうだ、ちょっといいかな? 行きたいところがあるんだ」

 

 「おー! 早い!」

 「それ見ろ! 言ったとおりでしょ! 今のあたしは絶好調なんだってば!」

 

 さやかが行きたいと言い出したのは、通学路。小川の脇の巾の広い歩道で、通学時は生徒でごった返すけど、今くらいの授業が始まってる時間は比較的閑散としてる。絶好調っぷりをアピールしたくなったんとかで、100mダッシュするつもりらしい。まあここなら真っ直ぐだし、邪魔なものもないし…、転んだら痛いかもしれないけどな。

 少し離れてクラウチングスタートのポーズをとったさやかを脇目にベンチに腰掛ける。さやかは、くっとお尻を上げたかと思うと猛然とダッシュした。早い。思わず声が出た。

 

 「ちょっと待て、これ高校生のトップレベルより速くねえか?」

 「そうかもね。…ほら、コレでちょっと測ってみてよ」とスマホを渡された。あたしは今、自分のスマホを持ってない。おばさんから買ってもいいよとは言われているが、なんせ居候の身だ。昔みたいな無茶ができないから、バイトできるようになるまではお預けのつもりでいる。まあ、さやかとセットで行動してれば今のところは不自由しないしな。

 目配せを合図にスマホのストップウォッチをスタートする。やっぱ速い。駆け抜けたさやかを確認してスマホの停止ボタンを押して画面に目を落とす。

 「…11秒80! …えーと、確かに速いんだけど、よく考えたら、あたし高校の記録知らねえや」と苦笑いしながらさやかの方を見たら、両膝を地について頭を抱え、微動だにしてない。

 「どうしたさやか! 転んだのか?!」駆け寄って覗き込んださやかの顔は、真っ青でひどく動揺していた。辛うじて言葉をひねり出す。

 「…ああ、しまった、どうしよう! あたし、とんでもないことしちゃったかもしれない…」

 

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7.巴マミと百江なぎさの場合:その2

 

 「ま、魔法少女?!」

 突拍子もない言葉が彼女の口から出た。確かに私は魔法少女だが、明言してるわけでもない。知ってるのは仲間内だけで、見滝原の平和を守るという使命から云えばあえて知られるなんて以ての外だ。そもそも、魔法少女の存在なんて、みんな知ってるのかしら?

 「ちょっと待ってお嬢ちゃん、…えーと、お名前は?」

 「百江なぎさ、です」

 「じゃあ、なぎさちゃん。そもそも、その魔法少女って何処から聞いたの?」

 彼女は途端にモジモジと俯いて、ランドセルにぶら下がっていた、一つ目に手足の生えたような変わった形の編みぐるみを指先で弄りだす。小さな声で一言。

 「…夢の中」

 「そう、その夢に私が出てきたの?」

 「そうなのです。あのね、何か広いところで、何人かのお姉ちゃん達と一緒に私も大きな怪獣と戦う夢なんです。で、でも、夢って起きるとすぐ忘れちゃうでしょ? 何か大きなロボットとか沢山の綿とか恐いお人形とか出てくるんだけど、ちゃんと覚えてたのがお姉ちゃんなのです」

 困ったことに、彼女の夢の話は訳が分からない。学習活動で行った小学校で、低学年の子の取り留めもない話を延々と聞かされたのを思い出したけど、助けを求めているのに放っておくわけにもいかないじゃない。とりあえず、先を促す。

 「それで、黄色いリボンを使って空中ブランコをやって、なんか沢山鉄砲を撃って敵を倒すんですよ、お姉ちゃんが」

 私は一瞬驚愕した。おそらく顔に出たんじゃないかしら。なぜこの子が私の戦闘スタイルを知ってるの? ぱっと、思わずなぎさちゃんの手を取る。当然、彼女の手には魔法少女の証であるソウルジェムの指輪は無い。

 「ご、ごめんなさい。…続けてちょうだい?」

 「あ、うん、えっとね、その前に、わたし、何か貰うんです。で、言われたのです。『あの子を助けるためにこうする必要があるの。大事に持っていて頂戴ね』って。で、で、わたし、それを、その人に返さなきゃいけないんです!」

 

 …話を反芻して、頭の中を整理してみた。なぎさちゃんは誰から何を貰ったのかしら。そして、私、というか、魔法少女との関係は何?

 「貰った人は覚えてる?」

 「ごめんなさいなのです。何か偉い人から貰った、としか覚えてないのです」

 「何を貰ったの?」

 「よく分からないです。わたしの中にあるのですけど、どうやって人に見せることが出来るのかも分からないのです」

 「…両手を出して、私の手を握ってみて」

 意識を集中して、私の右手に繋がれた小さな両手を介して「彼女の中にあるもの」を探ってみる。薄ぼんやりした彼女の意識の中に、確かに何かが存在しているのが分かる。形が在るわけではないけれど、強いて例えるなら白い羽が入ったガラスの宝石箱のようなそれ。しかしそれは厳重に鍵がかけられ、しっかりとなぎさちゃんにつなぎ止められていた。まるで奪い取られることを恐れるかのように。

 

 「…ねえなぎさちゃん、最近お家に見かけない悪そうな人とか来た?」

 「いえ、そんなことはないです」即答された。

 魔法少女を狙う悪の組織とか、魔法少女の壊滅を企む悪魔とか、そういうのがありそうとか短絡的すぎなのかしら。一時思案してみる。…これは私だけじゃ手にあまる話だわ。美樹さんと佐倉さんにも相談してみたい。

 「なぎさちゃん、私、仲間の子たちにちょっと相談してみようと思うの。放課後にまたここに来てくれる? みんなに会わせてあげる」

 「分かりました、学校終わったらまた来ます」

 スマホで時間を確認する。…遅刻しちゃう! 急がなきゃ!

 

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8.暁美ほむらの場合:その2

 

 休み時間、教室の外に出た私は不思議な違和感を感じた。ありえないはずの曲がり角とありえない空間。そのうち、そのありえないはずの空間はいつか見たことのある異空間へと変わっていた。極彩色のファンシーな空間とソリッドなチェック模様の床、ところどころに見え隠れする異形の使い魔。

 間違いない…これは、魔女の結界だ。

 久しぶりにスマートに誘導された。この学校を知っているものでなくては、こうは見事には誘導できない。まれに見る強敵の予感に、口元が歪んだ笑みを浮かべたのが自分でも分かる。ふと、気配を感じて後ろを振り向くと、そこには、白いドレスのような衣装を纏った少女と、黒いコートのようなものを着て眼帯をつけた少女の二人が立っていた。

 

 「ようこそ」 白い衣装の少女が言った。

 「この結界には見覚えがあるわ。会ったことがあったかしら」

 「お忘れになったの? 貴方にとって痛恨のミスだったはずですけれども、悪魔さん?」

 「事を成就した今となっては、昔のミスなど些末事よ。貴方が思うほどには、一々覚えているほど貴方の存在は重要ではないの」 言葉を受けて、白い衣装の少女の端正な顔が不快そうに歪む。

 挑発の為に言ったものの、無論彼女らのことは覚えている。イレギュラーが頻発し、痛恨のミスでまどかを失った苦々しい思い出が頭をよぎる。しかし、事を成就した今となっては彼女らの存在が些末事であるのは、事実だ。

 「前のようにいきなり襲いかかっては来ないんだね。攻守を違えたとはいえ、余裕あるじゃないか」 黒い少女が言う。

 余裕があるというよりも、状況の把握と時間稼ぎが目的だ。今まで私を討伐に来た魔女ー元の魔法少女にして、円環の理に回収された者達ーは、誰も彼も無闇矢鱈に私に対峙してきた。「悪魔の討伐」に選定されるだけに、自らの能力に自信があってのことだとは思うが、挙句私の結界に取り込まれ、矛を交えることすら出来ずに叩きのめされて逃げ帰ることになった。しかし、今回は、過去の私を知った者たちを送り込んできた。特に、相手側の結界に引き込まれた状況は初めてだ。他者の結界に取り込まれた状況で、どこまで私の能力が使えるのか試してみたくもある。

 白い魔法少女が眉をひそめて、はっと思いついたように叫ぶ。「時間稼ぎよキリカ! 急いで頂戴!」

 

 「避けるのが旨いんだね、悪魔さん。でも、逃げているだけでは世界は変わらないんだ」 鋭い爪が寸断無く襲って来る。回避地点には水晶のような球体が飛び交い、私の逃げ道を塞ごうとする。しかし、白い魔法少女の表情に幾分焦りが見える。当然だ、彼女には分かっている。彼女の能力である予知は「世界を変えた」私には通用しないことが。

 「飽きたわ」 思わず口に出た。黒い魔法少女との間合いを大きく取り、言う。

 「二人は知ってると思ってたわ。…悪役ってね、自ら手を下さないの」

 間を詰め、襲い掛かってくる鉤爪が鋭い金属音とともに静止する。鉤爪とぶつかり、それを抑えこんだのは、巨大で真っ黒い編み棒。

…セッカク楽シクアソンデタノニ、コンナツマラナイコトデ呼ビ出サレルナンテ面倒ダワ。

…邪魔ナ子タチネ。切リ分ケテ箱ニシマッテシマイマショウヨ。

…アタシハ嫌ヨ。セッカクノオ洋服ガ汚レテシマウワ。

 呼び出した三人を従えて、白と黒の魔法少女二人に言い放つ。「此岸の淵は我らの舞台よ。貴方達二人は既に観客。分を弁えずに舞台に上がるなら、彼岸の向こうへ送り返してあげる」

 

 

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