浅き夢見し月の後先 ? 魔法少女まどか★マギカ新編「叛逆の物語」後日談私家版 ? 13?14章
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13.美樹さやかと佐倉杏子と巴マミと百江なぎさの場合

 

 家に帰り着くと、さやかはベッドに横になるなりすぐに寝てしまった。本人が「調子がいい」と言った所で、人間の体にはやっぱり高熱はこたえるんだろう。ただ、寝ちまいやがったせいで、結局のところ、その力とやらと円環の理とまどかちゃんの関係は分かんねえままだ。

 仕方なくあたしは寝てるさやかの頭に冷却ジェルシートを貼ってやり、側で漫画を読みつつ様子を見ることにした。…しかし暇だ。大概の漫画は読み返しちまったし、ゲームを脇でやるわけにもいかないし。そういえば…。

 「午後になったら帰ってくる、って言ってたな」

 さやかを起こして一緒に見に行こうかと思ったが、よく寝ているのを起こす気にもならねえ。暇を持て余してるくらいなら、とりあえず一人で行ってくるか。

 

 「あれ、また来たのかい。まどかはまだ帰ってきてないんだけど、急ぎの用事なのかな」

 チャイムを押して出てきたのは、またお父さんだ。この人、仕事してねえのか? …まどかちゃんがスマホを持ってるのを見た記憶が無いので、一応、家電のほうがいいか訊いておくか。

 「あたしじゃなくて、さやかが用事があるんだそうです。今寝てるので一人で来たんですけど、目を覚ましたら連絡してもいいですか?」

 「さやかちゃんは知ってると思うけど、まどかにはまだスマホを持たせてないんだ。帰ってきたら連絡させようか?」

 「いえ、こちらから電話させます。お邪魔しました」 無駄足か。まあでも、これで教えてやりゃ大人しくさやかも寝てるだろ。

 そんな鹿目まどかの家からの帰り道、向こうから暁美ほむらがやってくるのが見えた。普段の気怠げな雰囲気があるくせに超然とした印象は何処へやら、必死の形相で脇目もふらずに駆けてくる。必死な形相に声をかけるほど親しくも無し、向こうもこちらに目もくれず行ってしまった。

 

 家に帰ると、さやかが目を覚ましてゲームやってた。寝てろよ。

 「杏子、何処行ってたのさ」

 「まどかちゃんちさ。午後になったら帰ってくるって言うから様子見に行ったんだけど、まだ帰ってきてなかったよ。帰ってきたら連絡くれるって」

 「おぉ、さんきゅー! 気が利くねえあんたは」

 しかし顔がまだ赤い。体温を測ると、まだ38.4度ある。貰った薬を飲ませようと思って袋から出した時、ちょっと手が止まった。

 「ところでさやか、薬の説明って聞いたかい」

 「いや、適当に聞き流しちゃった」

 「…これ、座薬だよ」

 「ざやく?」

 「つまり、あー、なんだ、お尻から入れる薬」

 「何それ! どうやって入れるのそんなもん!?」

 「押し込んで入れるんだよ。あたしが小さい頃は、お母さんに入れてもらったんだけど…入れようか?」

 「待って、いくら何でも心の準備ってもんが」

 

 「さやか、杏子ちゃん、お客様が来たわよ。巴先輩と小学生の女の子」 さやかのお母さんの声がした。マミと…小学生の女の子?

 階段をあがる音とノックの音がして、「こんにちわ」という声とともにマミのおなじみの縦ロールがひょいと扉の向こうから揺れて入ってきた。途端、さやかが懇願とも非難とも付かない声を上げた。

 「わ、マミさん、待って待って待って…、やーだー!!」

 「二人とも…、何をしてるの?」 …如何わしいものを見るような顔つきで言われたよ。ああ、まあそう言うだろうな。ベッドの上で、パジャマ姿のさやかのパンツを、あたしが引きずり降ろそうとしてるんだもんな。

 「いや、まあ、その…へへへ」

 「マミさん誤解しないで! 熱ざましの座薬を入れるだけの話なの! 杏子! あとで自分で入れるから今は待ってよ!」

 「…分かったわ。ちょっと部屋を出てるから、済ましちゃって…。ごめんねなぎさちゃん、一緒に少し外で待ってましょう」

 

 「えーと、ちょっと腰を折られちゃったけど改めて」 幾許のジュースとマミが持ってきたお見舞いのお菓子を前に全員が座った所で、マミがとりあえず仕切る。その脇には、下を向いてモジモジしている小学生の女の子。誰だ?

 「この子は…」

 「なぎさ?!」 さやかが突然声を上げた。「お菓子の魔女! 何でココに?!」

 なぎさ、と呼ばれた小学生が顔を上げてこっちを見ると、あたしとさやかの顔を見て驚愕した表情を見せる。

 「あ、青い服のお姉ちゃんと赤い服のお姉さん!」

 「え? 二人共、知り合いなの?」 マミは、いきなり話の腰を折られたことより、二人が既知であるほうに気が行ったらしい。…ちょっと待て、赤い服のお姉さん、だと? あたしの魔法少女姿をこの子は見たことあるのか?

 しかしもう、なぎさという女の子は大興奮。ひたすら皆の大活躍を説明しだす。するとさやかがそれを聞いて、色々と頷いたり補足したり。あたし達が大活躍する、あたし達の知らない話で大盛り上がりの二人を前に、あたしとマミは困惑した顔を見合わせた。

 「でですね、マミおねえちゃんがすごいでっかい大砲を持ってくるんです! すげい大きな馬車みたいな電車みたいな車に引かれてくる大砲におっきなケーキが乗ってて、おねえちゃんが『なんとかフィナーレ!』とか合図するとおっきな弾が飛んでいって、おっきな兵隊をドカーンってやっつけるんです!」

 …何、耳をそばだててるのさ、マミ先輩?

 

 「ええと、要するに、なぎさちゃんは魔法少女だったの?」 マミがなんとかかんとか話に割り込んだ。

 「いや、違いますよマミさん。なぎさは魔法少女じゃないです。前はそうでしたけど」

 「え? 魔法少女だったんじゃないの?」

 「違うんですってば、前はそうですけど」

 …さやかはたまに変わった言動をするせいで、「不思議ちゃん」扱いされることもある。普段は至極全うなのにどうしてかな、と思っていたがやっと分かった。こいつ言葉が足らねえ。

 

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14.美樹さやかと佐倉杏子と巴マミと百江なぎさの場合:その2

 

 分かっていることを説明するというのは実は難しいもんで、知ってて当たり前だと思ってた前提を説明しないでいたら、そもそも相手がそれすら知らなかったということもよくある。特に不可解で複雑に入り組んだ話を説明するというのは大変だ。

 「…という訳なんです」

 マミさんと杏子は頭と首をしきりに捻っている。で、杏子が言った。

 「要するに、さやかと、このなぎさちゃんは、円環の理の手伝いをしてて、その三つ編みメガネの垢抜けない感じの子を助けるために地上に降りてきた…、でいいのか?」

 「そう! さすが杏子!」

 「いいかしら?」 マミさんが繋げる。「それで、あなた達のクラスに最近転校してきたまどかちゃんは、実は円環の理で、私達もあなた達や円環の理と一緒にその子を助ける戦いに赴いたことがある、と」

 「そうそう! マミさんさすが!」

 「「で」」 ハモられた。

 「結局のところ、あなた達がなぜそれを持たされてるのか、そもそも、それは何なの?」

 真正面からマミさんに見据えられた。やっぱりこの人、美人だなぁ…じゃなくて。

 「え、ええと、円環の理が助けようとしていた子の居る所に入ると、記憶が改竄されちゃうんです。それに、円環の理であることを隠して侵入する必要があったので、記憶だけ別の人が持って入ろうとしたんです。どっちかに何かあってもいいように、二人で」

 「で、それを渡されたのが、あなたとなぎさちゃんだと」

 「そうです。なぎさのは、完全だけど本人が今魔法少女でないからパワーが無いし、あたしのはパワーはあるけど…壊れちゃってるし」

 「壊しちゃったし、だろ」 黙れ杏子。ニヤニヤ笑うな、もう。

 「それでだ、そもそも、中途半端に覚えてるあんたも含めて、何故あたしたちは皆これを忘れてるんだ?」

 この杏子の指摘は、あたしが一番困っているところだ。彼女を助けだしたらしいことと、魔法少女だったらしい彼女を回収するために円環の理の従者として地上に赴いたことは覚えている。そこからの記憶が曖昧で、全く繋がりのない今の生活から見ると、これはまるで絵空事の様な話だ。

 

 困っているあたしを見かねたのか、杏子が少し話題を変えた。

 「で、さやか、その記憶だか何だかを鹿目まどかに返したら、まどっちはそのまま天国だかどこだかに帰っちまうのかい?」

 「多分そうだと思う。で、あたしとこの子も一緒に帰ることになるんじゃないのかなー」

 杏子のお菓子を食べる手が止まった。三秒ほどそのまま止まってたかと思うと、唐突に怒りだした。

 「ちょっと待て! なんだよそれ?!」

 マミさんも話に割り込む。「ごめんなさい美樹さん、どういうことかもうちょっと説明してくれる?」

 二人の予想以上の剣幕に、あたしは思わず縮み上がった。

 「あたし達二人は元々、円環の理に回収済みなんですよ。だから、まどかが円環の理に戻れば、あたしたちも連れて帰るんじゃないかなーと」

 「でも、でも」 なぎさが泣き出しそうな顔をした。

 「なぎさのママは入院してるのです。もし、今、なぎさが居なくなったら、ママはきっと死んじゃいます! …パパもきっと困ると思います」

 「あー、でも、もしかしたらの話だし」 しどろもどろで返答するあたし。いや、あたしだって杏子とか家族の皆とか別れるのやだよ?

 杏子とマミさんが何となく目を合わせた。

 「…となると、鹿目さんにこれを返さないほうがいいのかしら?」

 マミさん、凄いことを言い出したよ!?

 「いや、マミさん、これ返さなきゃ困るよ。そもそも円環の理の持ち物だし、あたし達の手に余るもん」

 「だったらさ、まどっちに、帰るときに二人を連れて行かないように言ったらいいんじゃねえの?」

 「それよ! さすが佐倉さんね!」

 いやいやいや、そんな安直な! …まあ、それで上手くいくならあたしもそれがいいんだけどさ。

 

 「じゃあ、その記憶と力を返す際に、鹿目さんに二人をここに残してくれるようにお願いするとして…」 神をも恐れないな、マミさん!

 「私は鹿目さんという子とちゃんとお話したこと無いんだけど、どんな子なの?」

 「えっとですね、可愛らしくてちょっと引っ込み思案、但しこれと決めたら梃子でも動かない子です。あたし達が考える神々しい『円環の理』からはだいぶかけ離れた印象かな」 まどか、すまん。お願いだから聞いてたりしてないでくれよ。

 「だよなー。…しっかし、あんたが言うことを否定するわけじゃないけど、あの鹿目まどかが『円環の理』だって? しょっちゅう授業中落書きしてて怒られるし、英語以外はそんなに成績も良いわけじゃないし。いい子だけどさあ」

 一拍置くように、お菓子を摘んで杏子は続ける。

 「なんか、あたしらが考える神様っぽい『円環の理』から外れすぎてねえ? だったら、何考えてるか分かんねえ暁美ほむらのほうがまだそれっぽいぜ。まあ、あっちは神様というよか魔女とか悪魔のたぐいだろうけどさ」

 頭のなかをスパークが弾ける。突然思い出した、間近に迫る、あの暁美ほむらの憎たらしい顔。

 『神の理に抗うのは当然のことでしょう?』

 「それだぁっ! それだよ、杏子!」

 突然張り上げた大声に、全員がビックリした顔をする。

 「な、なんなの美樹さん?」

 「暁美ほむらだ! あいつがこの状況の首謀者なんだよ! あいつ、『悪魔』を名乗って円環の理の一部をもぎ取っていったんだ。で、もぎとった一部をまどかに戻して、たまたまカバン持ちで地上に居たわたしとなぎさを巻き込んで世界ごと改竄したんだ!」

 皆ポカーンと口を開けてる。簡潔に説明したつもりなんだけどな…。

 

 暁美ほむらのことを覚えてる範囲で説明した後に、杏子が思い出した様に言った。

 「そういや、さっき暁美ほむらを見たぞ。まどっちの家に向かってたみたいだけど」

 「え、待って、え?」

 突然の杏子のセリフに脳みそがストップした。今日は使い過ぎてるからオーバーヒートだ、これ。

 「さっきまどっちの家に行ってきたって言ったろ? その帰りにすれ違ったんだ」

 「…何で早く言わないのよ!」

 「いやだって、そんな事になってるとか知らねえもん」

 オーバーヒート気味の頭で必死に考える。……まずい、これは凄くまずいぞ。ほむらがまどかの家に着いた時には、たぶん、まだ、まどかは帰ってきてない。でも、帰ってくるのを待ってたりしたら…。

 「…杏子、マミさん、なぎさ、一緒にまどかの家に行ってくれる?」

 「えぇ? またぁ?! だってまだ帰ってきてないって…」 杏子がちょっと抵抗した。しかしあたしの決意は揺るがない! ちょっと熱があるけど!

 あたしの顔をみて諦めたらしい杏子が、二人に言った。

 「…マミ、なぎさちゃん、ちょっと外に出ててくれるかな。この直球勝負娘を着替えさせるからさ」

 

 杏子に、この時期としては幾分厚着をさせられ、頭に無理やり新しい冷えピタを付けられた結果、いささかみっともない格好になったあたしは、夕闇迫る中、三人と一緒にまどかの家に向かう。夕御飯の前には帰ってきたいなぁなどと話をしている内に、杏子がこんなことを訊いてきた。

 「でさ、さっきの『三つ編みメガネ』の名前、思い出したかい?」

 「…それがね、さっぱりなんだよ。最近そいつを見たことあるような気もしてるんだけど、…なんて名前だったっけかなぁ…」

 

 

説明
No.756014の続きとなります。杏さやとマミなぎの二組が合流して相談しますが、何やら不穏な雰囲気が。あと、熱ざましって謂えば座薬ですよね!
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