裏次元ゲイムネプテューヌR
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青年と歯車の国(前編)

 

人も何もない所で、ユウザはただただ目を虚ろに映し、空を見上げていた。

空は青く、雲は白い、いつもどおりの空……けれどこの空は、今まで見た空とは違う空。

己の意味すら見いだせず、 何をすべきか何をしたいのか分からず、思い浮かばず、ただただ雲を、空を見つめていた。

そんな時、黒い影が目の前を遮り、なんだろうと考える間もなく何かに捕まり、狭い部屋におしこまれた。

抵抗する気力も力もなかったユウザはされるがままになるしかなかった。

ばたりと扉が閉まる音がした後、部屋の中が揺れた。なんとなく部屋の窓を覗くと、景色が動いていた。

その時、自分が何処かに連れて行かれる事をユウザはその時初めて知った。

 

なんとなく窓を覗いてみると、今まで見たことがないようなものばかり見えた。

大きな門の片方、掘り削られたような薄暗い岩の壁のトンネル、そこから突き出てる色とりどりな鉱石がほのかに光っていた。

そしてそこには、見たことのない生き物……その中に、世界が変わったあの日に見た怪物もいた。

ユウザはその時改めて、もうここは自分が知ってる世界ではない事を改めて思い知らされた。

洞窟を抜けると、急に強い日の光が入ってきて、思わず目をつぶった。洞窟の暗さになれたからか、しばらくあまり物が見えなかった。

光に慣れて来たので目を明けて見れば、そこは広大な街の中だった。どうやら目を慣らしている間に入国したようだ。

街にはロボットばかりいた。人型、犬型、猫型、鳥潟、色んなロボットが人間と同様に暮らしていた。

賑やかに笑って雑談する者、遅刻しそうなのか慌てて走っている者、おしゃれを楽しむ者、飼い犬(ロボット)と散歩をする者……まるで人そのものだった。

そんな景色を見て、ユウザはふと、「生身の生き物は何処だろう」と思った

 

窓の風景は賑やかな街並みを抜け、寂しげな農地に変わった。そこの家が並んでいるところでユウザは降ろされた。

そこでユウザは自分が乗っている乗物を見た。それは鋼鉄の馬が引く馬車だった。生身は痕すらなく、元からロボットであることを示していた。

ユウザを降ろした後、馬車は街の方向へと走り去っていった、まるで予め決められた事に従うかのように。

そしてユウザに一人の男が近寄り、「ようこそ、((人間|ワレワレ))の村に」と言って手を差し出した。

ユウザはその差し出した手を握り、男もユウザの手を握り返した。

「我々は鋼鉄の身体を持つ((機族|キゾク))の為に、ここで働き暮らしているんだ」と男は言った。

「もしかして、さっき街で見たロボ――ムグッ!?」

ユウザが言いきる前に、男はユウザの口を塞ぎ、「彼らをその名で呼ぶのは失礼だ、聞かれたら処刑されるぞ」と言った。

どうやらこの国ではロボット……もとい機族という機械で出来た者達が中心になっているようだ。

「何時からどうしてそうなったのか」をユウザが聞くと、男はこの国、この世界の歴史を語り始めた。

 

今から数十年前、元々この国を永い間治めていた存在が突如人間となったのが始まりらしい。

女神が人になる、それは女神としての力だけでなく、使命を、責務を、義務を投げだしたという事になる。

ギルドの登場、一企業の過剰拡大、教会の汚職、信仰の固定化、モンスターの大量発生、魔王ユニミデス……それら諸々の事情で狂いまくっていた世界がようやく収まった時に突然の引退宣言。

それが人々の怒りを買い、反乱を起こした。「いきなり辞められても困る」「無責任すぎる」「何がけじめだ」「何を信じていけばいいんだ」と様々だ

女神達からすれば身勝手に聞こえるかもしれないだろう。

だが人間からすれば、長年国務を放っぽって喧嘩三昧してた挙句、そのツケで起きた国のごたごたを長らく解決できてなかったクセに自立する時間も設けず責任ほっぽられれば無理もない

正直ユウザも「自業自得」としか思えなかった、「辞める前にもうちょっと準備や時間が要るだろうに」とも思った。

仮に誰かの差し金だとしても、長年女神に治められてた人間たちに対して、人間を治める存在にしては無責任過ぎるからだ。

そしてその反乱で人々は女神に代わる((存在|シンボル))を自分たちで創り、その((存在|シンボル))が女神派を根絶やしにして国を治め、今に至るらしい。

「こうして聞くと、自分たちが創った存在に治められるって……」とユウザは思った。

 

この国の人間達の一日は長い、朝早く起きて農業をし、昼は機族に関わる部品を作り、出来た部品は夜に来る機族に納めて次の部品の材料を渡される。

正直ユウザにとってはかなりの重労働だった。特に農業は腰にきた。けれどジャンク屋のガラクタ拾いや修理の仕事を手伝って来たから部品作りに関してはまだマシだった。

寧ろ周りには「逸材」と呼ばれるほどに称賛され、回収する機族からの部品の評価も高くなったそうだ。

そうして辛いながらも充実した毎日にユウザ慣れ始めて数週間経ったある日……ユウザを含めた住民全員は、荷馬車に鋼鉄の箱機族に召集された。

機族話によると、人が増えすぎてるから「間引く」という事らしい。その時まだその意味を良く理解して無かったユウザは、「またどこかに移動させられるのか」と思った。

ユウザが世話になっている家族、他数十人の人たちは「間引き」に選ばれ、機族が用意した四角い箱の中に集められた。

その後機族は扉を閉め、スイッチを押すと、箱と何かが唸るような轟音を立て、

箱の扉の隙間から、何やら赤い液体が漏れ出た。

ユウザはそれが何か分かっていた……血だ。

けれどもユウザはあまり状況を理解していなかった。人が入っている四角い箱からものすごい音がしたかと思ったら血が出てきて……

「プレス完了、資材を回収する」機族がそう言うと、小屋を荷馬車に積んで走り去っていった。

「プレ……す?」ユウザは機族が言っていた言葉を復唱した。プレス、圧縮、潰す……潰す?

「あ……あ、あ……あ、あ、あ、あ、あ」

全てを理解した瞬間ユウザは崩れ去り、悲しみ、苦しみ、恐怖、否定、驚愕……それらがぐちゃぐちゃに混ざり合って抑えられなくなって、そして……

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

周囲の住民は、まるで見慣れたように、当たり前な様に、いつも通りに明日の為に家に帰っていく。

ユウザは今あるこの現実を、真実を、事実を受け入れられず、受け入れることが出来ず、狂い、悶え、泣き叫びつづけた。

その時ユウザは、この国が狂っていることを初めて認識した。

 

気が付くとユウザは見慣れない部屋の中にいた、どうやら泣き疲れてそのまま寝てしまった所を誰かがここまで送ってくれたようだ。

「気が付いたか?」と声がした。起き上がると一人何かを黙々と作っている青年がいた。

周りを見ると、部屋の壁にびっしりと銃がかけられていた。

「これって本物?」とユウザが聞くと「当たり前だ」と青年は返した。

「何の為に」とユウザが聞くと青年は「あのガラクタ共をぶっ壊す為だ、このイカレた国ごとな」と言った

話を聞くと、青年もユウザと同じく馬車に連れられてこの国にきたらしい。

初めは悪くないなと思っていたが、ユウザ同様「間引き」によって親しい人たちを失ってからは考えが変わった。

他の住民は「間引き」を当然の事としており、何とも思ってなかったらしく、青年もそのとき初めて、この国が狂っている事を思い知らされた。

 

「お、よーやく起きたかー」という声と共に、ぞろぞろと人が部屋に入って来た。

どうやら皆、ユウザ同様国の外から連れられた人達で、青年と同じこの狂った国を壊す為に集っているようだ

「お前はどうする?」と青年はユウザに問いかけた……が、青年は直後に「聞くまでもなかったか」とつぶやいた。

「貧しい生活に追い遣られるまでならまだ良い、けど人を簡単に「間引く」という事を当然のようにするのは可笑しい、それが常識何て可笑しい」

そうユウザは思っていた。

「あんな理不尽が当たり前だと言うのなら、こんな非常識が常識だっていうのなら……そんなもの、俺がぶっこわしてやる!!!」

そう心の中で誓ったユウザの脳裏には、改変前の世界で起きた出来事がフラッシュバックしていた。

逃げ惑う人々、それを捕えて喰い漁るモンスター、ガラスのように砕け散った故郷、家族、思い出……そんな理不尽が、無情が、外道が、頭の中に浮かび上がっていた。

こうしてユウザは青年たちの仲間に加わった、この狂った世界を壊す為に、その先なんて何も考えずに……

その後日、部品の回収に来た((機族|ロボット))をメンバーの一人が破壊し、もう一人が移動手段である鉄馬車を奪取し、破壊したロボットの外装を着込んで成りすました。

そして乗り手以外のメンバーは積荷に紛れて身を隠した荷馬車は、目的地である機械王という国主のいる城に向かって走り出した。

戦いにおいてど素人だが、この国に来て日が浅いからこそ出来るユウザに任されたのはただ一つ、『機械王を殺す事』

機械王の城内に入り、確認する為に近づいた((機族|ロボット))が部品に手を出した瞬間、その額に風穴があき、仰向けに倒れた

それが戦闘開始の合図となり、メンバー全員が一斉に飛び出し、散り散りになって暴れ出し、その隙にユウザは機械王の元に急いだ

薄れた警備を潜り抜け、追っ手を振り切り、大きな扉を抜けた先には……大きな王座に寄りかかって座る、歯車だらけのブリキの身体を持つ、大きな大きなロボットだった。

 

「何用だ」と鈍くきしんだ音を立てて巨大なブリキは語り出しだ。

「イナ、何も言うな。我を倒しに来たのだろう?この国を変えるために」

ユウザは「そうだ」と答えた。「愚かな」と((機械王|ブリキ))は返し、ギギギと音を立てながら語り出した。

この国の機械たちは自分の命、心で動いてるから、機械の皆が機械王の分身という事で尊いという事

そして人間はほっといても勝手に増えていくから、間引く必要があるという事。

「ふざけるな!!」とユウザは叫んだ。「そんな事の為にミンチにする必要なんて……!!」

ユウザは目の前で親しい人を失ったのは3度目である、一度目はジャンク屋の皆、二度目は義父やジャンク屋店長、そして三度目は、この国で会い、居候する間に親しくなった家族。

「そんな国、あってたまるか!」とユウザは銃を取り出し、((機械王|ブリキ))に向けて引き金を引いた。

ぱぁんと乾いた音が鳴った。それと同時に、((機械王|ブリキ))は倒れたそしてこの国に平穏が訪れた。

こうしてこの国は、機械の支配から解放されて穏やかになっていった。

そんな国から、ルウィーへと鋼鉄の馬車が駆けて行った……機械王が倒されてから最初の一人目として乗っていたのは、ユウザだった。

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