かがみ様への恋文 #2
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「団長、体育館裏にお姉ちゃ……じゃなかった。対象はいません」

 

「わかったわ。引き続きそのまま対象が来ないか見張っていなさい!」

 

団長、と書かれた腕章を冬服の左袖に付けていたのはこなただ。

教室のストーブの前と言う名の指令室から、携帯電話で団員に指示を出していた。

 

「団長よ。みさきち、柔道場裏に対象は現れた?」

 

「いぃや、来ねぇよ」

 

普段はあまり交流のない日下部みさおではあるのだけれど、

かがみの一大イベントと聞いて臨時団員に志願したのだ。

 

「だんちょ?、寒いんだからもう戻ってもいいかぁ?」

 

木枯らしが吹き荒ぶ季節。

来るかどうかもわからない対象を屋外でいつまでも待ちつづけるのは辛いはずだ。

 

「そうしているうちに対象が現れたらどうするつもり!?しっかり見張っていなさい」

 

温かい部屋にいる団長はノリノリだ。

 

「じゃあ団長交替しようぜ。私にも団長やらせろよ?」

 

「なに言ってるの! みさきちが教室を出る対象を見失ったからこうやって張り込んでいるんでしょ!」

 

こなた団長は指令室から顔を出して階段を見張っていた。

それは屋上へ行くときに必ず通る所だ。

 

今日、体育館裏か、柔道場裏か、屋上のどこかに対象が現れるはずだと期待し、張り込んでいた。

ひょっとしたら他の場所の可能性もあるのだけれど、それ以外に思い当たらなかった。

それに、ひょっとしたら今日じゃないかもしれないのだけれど、

今日行われるに違いないと信じて疑わなかった。

 

団長は、ふと窓から見える屋上に目をやった。

 

そこには、昨日かがみに手紙を渡した男の子の姿が小さく見えた。

 

考えればわかりそうなものだと思うのだけれど、

ポカポカと温かいストーブのせいで頭の働きが鈍ったのかもしれない。

 

「まさか」そんな思いが過った刹那、かがみの姿が視界に入ってきた。

 

「かがみがいた! かがみが屋上にいたよぉ!!」

 

団長ごっこなんてすっかり忘れてしまったらしい。

こなたは携帯電話を取り出して叫んだ。

 

こなたは教室を飛び出し、慌てて階段を駆け登った。

 

ほどなくみさおが駆けつけた。

 

さらにしばらくおいてから、息を切らせたつかさがようやくやってきた。

 

「お、お姉ちゃんはぁ?」

 

そう発するのがやっとのようだ。

 

「ここからじゃ全然声が聞こえないよ」

 

屋上に通じるドアを少しだけ開いてそのすき間から覗いていたこなたがぼやいた。

 

ここから二人の様子を覗き見、もとい監視するつもりでいた。

 

 

一方のかがみは、ホームルームが終わると鞄を掴んですぐに教室を飛び出した。

 

嫌な予感がしていたのだろう。

 

「放課後、屋上で待っています」

 

昨日かがみが受け取った手紙にそう書かれていた。

 

だからこれから向かおうとしていたところだ。

 

気がかりは、いつも一緒に帰っている二人。

昨日手紙を受け取ったときも一緒にいたあの二人。

 

「今日は予定があるから先に帰って」

 

昨日の今日でそんなことを言えば、面白がってこっそり着いてくるに違いない。

 

かがみはそう思った。

だからこなたとつかさには一言も告げなかった。

 

そして、屋上へ通じるドアの前へ立つと、大きく深呼吸をした。

 

ドアの向こうで既に手紙の主が待っているかもしれない。

そう思うだけで胸の高鳴りが大きくなった。

 

ドアのノブに手をかけたときがドキドキの最高潮だった。

 

一歩外へ踏み出すと、十数メートルくらい先に少年の姿を見つけた。

 

ただし、背を向けて蹲っていたからかがみには気づいていないようだ。

 

「こんなに寒いっていうのに。なにやってるのよ、あの子は……」

 

冷たい風を遮るものがなにもない屋上で少年は凍えていた。

 

上着すら来ていないのだから当然だ。

 

さっきまでのドキドキはとたんにどこかへ消えてなくなり、

代わって、呆れたように言葉が漏れた。

 

少し歩いてすぐ後ろまで近づいても、

彼はかがみに気づかなかった。

 

「待った?」

 

はっと振り返った彼のちょうど目の高さ。

それは、憧れのかがみの、短めのスカートが風になびいている高さだった。

 

けれどもそんなことに頬を染めている場合じゃあない。

慌てて立ち上がってかがみに向き直る。

 

この間の抜けた少年が、逢沢優一という一年生だ。

 

(夜も眠れずにずっとドキドキしてた私がバカみたいじゃないのよ……)

 

がっくりと、かがみは心の中でつぶやいていた。

 

「柊先輩、来てくれてありがとうございます」

 

まず最初に言った言葉がそれだ。

 

「あの……それで……手紙の事なんですが……」

 

「そうね」

 

かがみの答えは昨日の夜に出ていた。

 

ついさっきまではそのはずだった。

ちょうど十数メートル後方のドアの内側に立っていたときまでは。

 

でも、今は答えが揺らいでしまった。

 

「そうね」から次の言葉を発するまでの一瞬の間に、かがみはもう一度考えていた。

 

今まで面識のなかった後輩からつき合ってほしいと言われて、

『イエス』とも『ノー』とも答えは今もでない。

もしかすると、ここ数分の出来事のおかげで

『ノー』の方に傾きかけている可能性は否定できないけれど。

 

でも、やっぱり相手の事をまったく知らないのだ。

 

それに、かがみには断らなければならない理由はなかった。

生まれてからずっと。

 

じゃあ友達からと言うことで、つき合ってみようかな。

 

昨日の夜、そう決めたはずの答えを、かがみは再検討していた。

 

かがみは今まで、未だ見ぬ彼氏というものを幾度となく夢想した事があった。

けれども、その相手が年下であった例は一度もない。

 

そして今、目の前にいる年下の男の子がこんな感じだ。

 

ちなみに、格好いいと言うよりかは可愛いと形容したくなるような子。

かがみと同じくらいの背丈だから、男の子にしては小柄な方だろうか。

 

「いいわよ。友達から、って事でよければ」

 

結局、かがみはそう答えた。

 

「本当ですか!?」

 

「嘘じゃないわよ」

 

さっきまで不安で曇っていた彼の表情が突然晴れた。

 

両手を高くふり挙げて、ぴょんと跳ねながら喜んでいた。

 

(私とつき合えるのがそんなに嬉しいのか?)

 

ふとそんな疑問が心に浮かんだ。

 

優一がはしゃいでいる分だけかがみは冷めていた。

 

けれど、素直にはしゃいでいる優一を見ると、まんざらでもなかった。

 

「年下か……。まぁ、確かに可愛いわよね……」

 

ただし、恋のときめきなんてものはすっかりなくなっていたけれど。

 

「さ、戻るわよ。寒いんでしょ?」

 

ほどなく、ドアの前でもたもたしていて逃げ遅れた一団はかがみに発見されてしまった。

 

「あんたたち、なにやってたのよ!!」

 

その怒りは周囲にいた四人ともを縮み上がらせる程の迫力だった。

こなた、つかさ、みさお、それから優一の四人ともをだ。

説明
かがみがラブレターをもらったら……。
という設定で書きはじめた話の第二話目。
もらったラブレターの返事をする話です。
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