浅き夢見し月の後先 ? 魔法少女まどか★マギカ新編「叛逆の物語」後日談私家版 ? 20章 |
20.自称悪魔の場合と、鹿目まどかとその家族の場合
「ふぅ…」
私は、人心地を得て周りを一瞥した。見渡すかぎりのそちらこちらに魔法少女たちが倒れている。死屍累々、と表現したいところだが、皆、意識を失っているだけで誰一人として死んではいない。私が怒りのままに振るい、彼女達を打ちのめした力は、私自身ですら驚愕するようなものであったというのに。やはり私の力の根幹たる「因果の糸」は魔法少女の消滅を許さないのだ。
「ドールズは…」
姿が見えない。個々の戦況がまずくなってきたあたりで、こちらを顧みず撤退させた。そういった指示には素直に従う子たちなので撤退はしたと思うが、自信はない。まどかの状況を把握できた時点で全員を回収しよう。…どんな形であれ。
落ち着いたところで、ダークオーブに意識を集中させて、「まどかの痕跡」を探す。いかな位置が判るとはいえ、これだけの人数が倒れている中を探すのは容易ではない。しばらく歩き回っているうちに美国織莉子と呉キリカを見つけたが、無視する。
美国織莉子は、戦略を誤ったのだ。
まどかを円環の理に戻すというなら、私になどには目もくれず、その事のみ集中すべきだった。その鍵は美樹さやかと百江なぎさが持っていたというのに。
もし美国織莉子が美樹さやかと百江なぎさに接触し、彼女達をまどかと会わせた後にインキュベーターにフィールドを開かせていたなら、私は為す術もなくまどかを見送ることしか出来なかったろう。しかし、美国織莉子は自らを頼み、私を打ち負かすことでまどかを円環の理に戻そうとした。美樹さやかと百江なぎさの存在を知らなかったわけではないだろう。二人は円環の理の従者として地上に降り、私の起した事象の改変に巻き込まれたわけだから。自らの力量を見誤ったか、私の能力を過小評価したか。しかし、どんな理由であれ、美国織莉子達は敗北し地に伏している。
すなわち、ただ、それだけの事だ。
暫く探し回ると、巴マミの下で抱きかかえられるようにして倒れている百江なぎさを見つけた。巴マミを押しのけ、百江なぎさの胸に手をあてる。意識を探り見つけた、心の奥底に厳重に封じられた硝子の小箱。これこそがまどかの記憶だ。
私は、心にしっかりと固定された小箱を力づくで引き剥がす。泣き声とも悲鳴ともつかない叫び声をあげる百江なぎさ。すると、頭に突きつけられるマスケット。巴マミだ。
「…やめなさい…暁美さん、でないと…」
私は、彼女の指先を操り、マスケットを撃たせた。
発射音に、驚愕と恐怖と後悔が綯い交ぜになった「あっ!?」という悲鳴が加わる。
弾丸が私のこめかみから前頭部を抉る。どっと流れる血と、朦朧とした意識で支えていたであろうマスケットが手から滑り落ちる音。
「貴方が命がけなように、私も命がけなの。私の望む結末は、貴方にとっても悪いものではないわ。だから、今は寝ていなさい。もうすぐ終わりよ」
意識を失って崩折れる巴マミ。私の言葉が聞こえたのかどうかは、分からない。
美樹さやかは、佐倉杏子と折り重なるようにして倒れている状態で見つかった。その周りには何人もの魔法少女たちが意識を失って倒れているが、彼女たちを飛び越えて二人のところへたどり着く。
美樹さやかを仰向けにして、先程と同じように胸元に手を当てる。美樹さやかの意識下にある小箱はまるで食べかけのケーキのように破損していたが、やることが変わるわけでもない。百江なぎさの時と同じように力づくで引き剥がす。
刹那、美樹さやかが目をカッと見開き、手にしていた刀を横薙ぎに払った。私の左腕から胸元にかけて走る刃。辛うじて切り落とされずには済んだものの、左腕の半ば以上と胸元が断ち切られ、血が溢れる。
「…へへ、これで最後の戦いってわけか」
真っ青な顔とふらつく体、立っているのもやっとのはずだろうが、美樹さやかは戦意を失っていない。私に深手を負わせたことで対等に持ち込んだと思っているのだろうか。だとすれば、彼女もまた、美国織莉子と同じように私を侮っていたことになる。
私は、美樹さやかの持つ超回復力と同じ能力を作用させた。みるみる塞がる傷口。
「戦いですって? そんなものはとうに終わっているわ」
間髪をいれずに、私は名も知らぬ魔法少女の能力である衝撃波を放った。
巴マミのリボンで拘束した後に、倒れ伏した美樹さやかから改めてまどかの記憶を引き剥がす。この強固な固定は、本来、インキュベーターからの奪取を防ぐためのものだったのではないだろうか。しかし、それを実際に引き剥がし奪ったのが、「ソウルジェムの中の世界」に助けに来てもらった私自身だとは。
激痛で意識が戻った美樹さやかが、か細い悲鳴を上げた。しかし、彼女にはもう私の手から逃れるすべはない。
そして私は、ついに、此岸に在るまどかの記憶と力、すべてを手に入れた。
* * *
「ただいまー」「おかえり二人共、遅かったねえ」「ただいま、タツヤ」「おかえりなあいー!」
家に帰ると、ちょうどご飯の準備ができていました。
「やれやれ、今日は結局ママがまどかを独り占めか。僕は千客万来で大変だったってのに」
「役得々々。食事もしてきちゃおうかなって思ったんだけどさ」
「一報入れずに外で食事なんかしてきちゃダメって、今までさんざん言い含めておいたのを思い出してくれたんだね」
「後が怖いしねー」
パパに怒られるママって、私は実はまだ見たことがない。…そういえば、千客万来って?
「ねえパパ、千客万来って、誰か来たの?」
「皆、まどかのお見舞いだよ。さやかちゃんを始めとして五人くらいかな。皆に『実はズル休み』って言うのは心苦しかったよ」 パパは苦笑いして言った。「なんか用事があるとかで、二人が帰ってくる前に皆帰っちゃったけどね。後でお礼を言っておきなさい」
「はーい」
ご飯の間は、今日行ってきた報告と、お見舞いに来てくれた人の話。風見野の神様トラブルの話が中心になるかと思ってたら、ママと一緒に遊んでたことにパパがひたすら悔しがるという展開に。
「なんだよー! 中学生になった娘と男親が遊びに行く機会がこれからどれだけあるっていうんだよ!」
今日来た中では、ほむらちゃんがやはりパパとママの印象に残ったようだ。
「いい子だと思うけど、何かまだ隠し事がありそう」との意見で一致してた。
そして後片付け。食洗機に頼るのは良くない、ってのがパパの持論で、洗い物は私とママの係。
そして、その時、私が変わりました。
「ママ、パパ、タツヤ…、私…呼ばれてる…」
「え、ま、まどか?!」
* * *
美樹さやかからまどかの力を引きはがし、それを手に入れて暫くしたとき、私は不可解な感覚に襲われた。手に入れたまどかの記憶と力に対して、存在の根本から沸き上がる妙な焦燥感。まさか、もしや。力と記憶と、そして、因果の糸が呼びあっているのだ。三つが呼びあい、一体になろうとしている。
狼狽、理解、そして絶望。一瞬にして感情が一巡する。
私は、自らの意図に反して、まどかに力と記憶を戻してしまったのだ。
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No.757156の続きです。ほむらとまどかは一体どうなってしまうのか…。あと本編に直接には絡まないので詳しく書いてませんけど、ほむらの、まどか一家からの評価はどうなの?! | ||
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