十三番目の戦獣士7
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「……とりあえず、村に帰るか」

 

 

 

呆然と魔物の消えた場所を眺め続けていた鈴花(リンファ)と晶(アキ)だったが、刻路(コクジ)の言葉に二人そろってハッと顔を上げた。

 

「…う、うん……そうだね!」

晶はすぐに立ち上がり、鈴花が立つのを助けようとする。

魔物に操られていたときに負った鈴花の足の傷は深かった。応急処置で巻いた足の布が赤くにじんで痛々しい。

 

「それじゃ歩けないだろ。おぶってやるよ」

 

操られているとはいえ、傷つけてしまったことを、申し訳なく思っていた刻路が、鈴花に背を向けてかがんでみせた。

鈴花は「大丈夫よ」となんでもないように立ち上がろうとしたが、大きく体勢を崩して倒れそうになった。

刻路と晶が支えるために、とっさに鈴花に手を差し出す。

ところが突然、鈴花を中心にボウンと爆発が起こった。

 

「鈴花!?」

 

晶が悲鳴に近い声を上げた。鈴花に何があったか確かめたいものの、煙にまかれて様子がわからない。刻路もごほごほと堰をしながらも必死に煙を散らす。

しばらくして煙が晴れると、二人はそこに、黒い影を見た。

 

「魔物!? いや……黒豚ぁ!?」

 

刻路は、顔を険しくしていたが、意外なものの登場にすっとんきょうな声をあげた。

鈴花がいたはずの場所に、黒い生き物がうずくまっていた。刻路の言う通り、大きな鼻を持った黒い豚そのものだった。

 

「……ぶたって言うなって……」

「へ?」

 

豚の方から微かに聞こえた聞きなれた声に、刻路は首をかしげた。

 

「いつも言っとろうがっ!!」

 

小さくなっていた黒豚が突然に刻路に突進した。

フイをつかれた刻路は簡単に突き飛ばされ、近くにあった木に激突した。

 

「〜〜〜〜〜いいってぇえええ〜〜〜〜〜」

 

刻路が何度も体験している、この感覚。間違いない。

 

 

「鈴花!? どうしちゃったの、その体!? 猪?」

 

晶も目を丸くした。

 

「わっかんないわよもう、なにこれ……美女が台無しよぉ……」

 

鈴花が猪になった。その上話すことができる。信じがたくとも、声も口調もそのものだということが、鈴花に間違いないことを証明している。

 

 

猪には到底無理と思える、前足で顔を覆う格好。

そんな鈴花を撫でながら、今度は刻路と晶はただ、顔を見合わせていた。

説明
自己満足に書いている十二支の小説です。
余談ですが、十二支に猪を入れているのは日本と一部の国だけのようです。
本当は豚なんですが、日本にはあまりなじみがなくて猪になったらしいです。
…というわけで、鈴花は豚から離れられない運命にあるわけです。
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コメント
これは魔物のがほどこした封印なのかな。前足で顔を覆う格好の鈴花は可愛いかも、声に出したら吹っ飛ばされそうだけど。(華詩)
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