浅き夢見し月の後先 ? 魔法少女まどか★マギカ新編「叛逆の物語」後日談私家版 ? 21章 |
21.円環の理と円環の理と暁美ほむらの場合
気がつくと、私は空をたゆたっていた。くるりと体を仰向けにすると、眼下に拡がる見滝原。理由も無しに学校の位置を確かめてまた空を見る。翳した手を透かして見えるは満天の星空。夢なのだろうか。
私の体は朧げで、まるで幽霊のよう。空に浮かぶくらい軽いんだから透けてるのは当たり前か。風が吹いたらどこか遠くに流されちゃうかな。折角だから外国とかいいな。まどかと一緒に行きたいけど、今どこにいるのかな。そして私の体に繋がった一本の紐。その先には円環の理。
夢ではない! 意識を保たなければ! 記憶を呼び覚まし、何があったのか必死に思いだそうとする。
…まどかの力と記憶を手に入れた直後、私の持つ因果の糸が呼応し、まどかを円環の理に戻したのだ。
一つ目の一揃い。世界を再構築した際に奪った記憶と力は、イヤーカフスの宝石に安定して封じることが出来ていた。そして今回、二つ目の一揃い。私は焦燥感のあまり、一組目の感覚で二組目も揃えてしまっていた。あの再構成中の世界でならまだしも、条理が支配する今の世界では、生の記憶と力をそのまま私が持ってはいけなかったのに。
そして、そこからの意識は無いが、恐らくそれから今まで、因果の糸がまどかに少しずつ巻き戻されているのだろう。私は、自ら破砕したソウルジェムを因果の糸と交えることによってダークオーブを作り、自らの存在の根源に据えた。そこから因果の糸が巻き取られていっている。だから、私の存在根拠が薄れ、私は宙をたゆたうことになったのだ。
では、まどかは、今どんな状態にあるんだろう? 天空に浮かぶまどかに視線を移した時、信じられないものを目にした。
まどかが、二人いる。
天空を分かつ干渉遮断フィールド、その向う側と此方側に、それぞれまどかがいる。
こちらのまどかは、分割前の円環の理の記憶と、幾ばくかのパワーと、因果の糸とまどかの肉体を纏った円環の理。
むこうのまどかは、分割後の記憶と、強大なパワーを持つが、因果の糸と人としてのまどかの記憶を持たない円環の理。
その二人が干渉遮断フィールドを境にして、二人で話し合っている。鏡越しでの自分との会話のように。
「…ほむらちゃんが私を割いた理由は、私の幸福、を考えた末の事だったんだね」
二人の会話は、因果の糸を通して私にも伝わってくる。まるで糸電話のよう。
「私が円環の理になった状況を考えて、人としてある幸福が必要だって言ってたよ。でも、他の子を腐す必要はないと思う」
…まだ怒ってるんだ。私は頭を抱えた。空に穴があるなら入ってるところだ。
「それはしょうが無いよ。ほむらちゃんが頑張ってくれたのに、他の子のために戻りたいって言ってるんだもん。気持ちを分かってあげなきゃ」
向こうのまどかがフォローを入れてくれた。…嬉しい。
「でも、それはそれとして、そっちの私には戻ってきて欲しいんだ」
えっ?!
「どうして?」
「あのね、ほむらちゃんが記憶をそっちに持っていっちゃったじゃない。だから、今の私は、『私はどうして円環の理になることを選択したのだろう』って行動の基準が欠けてるの。今のところ、機械的に皆を回収してるんだけど、このままだと、私、キュゥべえみたいになっちゃう」
まどかがインキュベーターになる?! 一体どういうこと?!
「キュゥべえって私、宇宙人だと思ってたけど、違ったの。キュゥべえは宇宙人が作った凄いコンピューター、人工知能っていうのかな。あんな感じ。エントロピーの増大に憂いた凄い宇宙人が作った、宇宙を若返らせる決め手として作られたんだよ。ただ、その宇宙人は結局エントロピーの増大は避けられないって結論を出して、他の宇宙に引っ越ししちゃったんだって。まだキュゥべえは頑張ってるけど。
「その宇宙人は、最初、キュゥべえを円環の理みたいにしようと思ってたみたい。でも、理性は持たせたけど感情を持たせなかった結果、キュゥべえは効率を追求して、この地球では魔法少女を魔女化してエネルギーを回収するシステムになっちゃった…。
「ほむらちゃんに持って行かれて分かったんだ。行動の基準って感情にあって、感情の基準って記憶にあるの。だから、戻ってきて欲しい」
「でも…」
干渉遮断フイールドが、二人のまどかの逢瀬を阻む。
私はほくそ笑んだ。干渉遮断フィールドの構築は正解だった。むこうのまどかの意図はどうあれ、向こうからこちらに来たら帰れなくなる。即ち、向こうからこちらに来ることは出来ない。だから、私は、こちら側のまどかを回収してしまえばいい…。
突然、私を恐怖が襲った。
干渉遮断フィールドにまだ穴が空いている。
美国織莉子が命じ、インキュベーターが開放した通路が未だに開いている。こちらのまどかがここを通って向こうに行ったら…。
そして、私の急激な感情の起伏が伝わったのか、二人のまどかがこちらを見た。そして、それと前後して、全ての因果の糸が私から巻き取られきった。
目が覚めると、そこは先程まで居た見滝原の郊外。荒れ地に一人、私は横たわっていた。起き上がり、周りを見渡すと誰も居ない。
本当に夢だったのかもしれない。私は、空を見上げた。
まどかは。
空に浮かぶは満月。私だけに見える、半分に欠けた月ではない。真ん丸なお月様だ。それが意味するものは、一つ。
私はこみ上げる感情を抑えきれず、地に伏して嗚咽した。
行ってしまった。
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