真・恋姫†無双〜江東の花嫁〜(弐) |
(弐)
袁術の客将として怠惰な日常だけが過ぎていく。
雪蓮はその憂さ晴らしのためか、それとも元々好きだったのか、酒を呑むことが多くなった。
その度に冥琳の小言が飛んでくるが当の本人は気にしていなかった。
「つまんないわね」
酒を飲むという行為すら楽しみを感じなくなりかけている中で雪蓮は一人、城下を散策していた。
名門袁家という名の元、栄えているのだろうという考えはここに来てすぐに捨てた。
民は表向きは普通の生活はしている。
だがその影では袁術の我侭ぶりに振り回されてひどく疲弊していた。
袁術と初めて対面した時、雪蓮は思わず苦笑いを浮かべかけた。
お嬢様育ちでいかにも世間を知らないチビ。
それが第一印象だった。
(これなら再興も早く出来そうね)
冥琳や祭も同じ考えだったようで、三人でそのことを話していた。
だが予想以上の我侭ぶりにその考えをなかなか現実的に進められなかった。
何度となく利用されるだけされ、ねぎらいの言葉一つで済まされる。
孫家再興のために我慢はしているが正直なところ飽きていた。
「やってられないわね」
怒りを通り越して呆れてしまう雪蓮の目に映ったのは一人の怪しげな人物だった。
「流星が黒天を切り裂く時、天より御遣いが舞い降りる。御遣いは天の智を以って世に太平をもたらすであろう」
いかにも胡散臭い占い師を雪蓮は気にも留めずに通り過ぎていく。
「おや、策殿ではないか」
「あら、祭」
酒を飲むようになってからよく二人で冥琳に隠れて呑んでいた。
「こんなところで何をしておるのじゃ?」
「見ての通りかしら」
「ふむ」
それだけで通じるものがあったのだろう、祭はあっさりと納得した。
「袁術の命令はどれも個人的理由ばかりでいい加減にしてほしいわ」
「そうじゃの」
「お酒を飲もうとしたらしたで冥琳が五月蝿いし」
「まったくじゃ」
前者の話よりも後者の話の方に激しく同意する祭。
暇があれば酒を飲んでいる祭に冥琳は夢に出てくるほど注意していたが、まったく効果がなかった。
「早くこんなところ、出て行きたいわ」
孫家再興のために我慢しているとはいえ、限度というものがある。
各地では黄巾党なるものが朝廷に対して反乱を起こしている。
そんな中で雪蓮は何もせずにいる自分が歯がゆかった。
「まぁこればかりは機会を待つしかないからの」
祭にしても先代の孫堅が死ななければここまでひどくならなかっただろうと幾度となく思った。
「嫌なことはほれ、これでも呑んで忘れることじゃ」
酒の入った入れ物を掲げると、雪蓮は笑みを浮かべる。
「そうね。冥琳に見つからないよう二人で呑みましょう」
そう言って祭と共に歩きだし、城下外に出た。
青空が憎らしいほど広がる中、二人が歩いていると祭がこんなことを話し始めた。
「先ほど街の中におった妖しげな占い師が面白い事をいうとったぞ」
「ああ、あれね」
こんな乱れた世の中だからこそ、ああいった狂言を言いたくもなる。
どこにでも見かける風景だと雪蓮は思っている。
「しかし天より御遣いとは、また面白い事をいうものじゃ」
「そうかしら」
そんなものが存在したからといってこの国が変わるわけはない。
漢の帝ですら凡庸以下だと聞く。
「私にはどうでもいいことだわ。それよりもお酒でも呑みましょう」
それのほうがより現実的だった。
祭もそれ以上は『天の御遣い』の話をせず、適当な場所を見つけて二人で酒を酌み交わした。
大した話題もないまま酒を飲み干す頃には陽も暮れていた。
「さあて、そろそろ帰らないと冥琳が怒っているわね」
「おお、そうじゃ策殿、すまぬが先に戻ってもらえぬかの」
「あら、なにかあるの?」
「権殿と尚香様にちと土産をの」
何かと妹達を気にかけてくれる家臣に雪蓮は口には出さないが感謝をしていた。
「わかったわ。それじゃあ屋敷で冥琳のお説教でも聞いておくわ」
今頃、頭を抱えながら自分達の帰りを待っている冥琳。
どの仕草をとっても雪蓮のお気に入りだった。
星の輝きがまだ始まらない下、雪蓮は酔ってもない酔いを醒ましながら歩いていると、星が流れた。
いつものように一瞬で消えるだろうと思ったが、それは今日に限って違った。
こちらに、というよりも自分の帰り道先にそれが馬で大地を駆けるより早く落ちていった。
「なにかしら?」
気になって落ちた先に向かうと何かが地面に転がっていた。
近づくとそれは人であり、見た感じ男だった。
それよりも雪蓮が気になったのが、その者が着ている衣服だった。
薄暗くなり見えにくくなっていたがなぜか白く光り輝いているような、不思議なものだった。
「生きているみたいね」
生死の確認を終えるとどうしたものか考えた。
ふとその時、あの妖しい占い師の言葉が脳裏を駆け抜けていく。
「流星が黒天を切り裂く時、天より御遣いが舞い降りる。御遣いは天の智を以って世に太平をもたらすであろう」
まるでその言葉どおり。
あの占い師の言葉どおりになるとは、さすがの雪蓮も多少の驚きを覚えた。
「とりあえず連れて帰れろうかしら」
男の衣服の襟を掴み、引きずるようにして屋敷に戻った。
さすがに城下に入ると引きずるわけにはいかなかったので背負う事にしたが、自分よりも重みを感じさせた。
(冥琳が見たらどう思うかしら)
男を連れて戻ったとなれば慌てる姿が見られる。
それがまた可愛い。
そんなことを思いながら屋敷の門をくぐった。
「雪蓮!いったい何処に行っていた・・・・・・・の?」
言葉途中で冥琳は思わず眼鏡がずれ落ちた。
そして表情が次第に信じられないものを見るかのように驚きに変わっていく。
「拾ったの」
あっさりと言い退ける雪蓮はそのまま部屋の奥に入っていく。
唖然としている冥琳の後ろから祭が饅頭の入った箱を持って戻ってきた。
「ただいま戻ったぞ・・・・・・・どうしたんじゃ、冥琳?」
「さ、祭殿!い、一大事です」
普段見ることのない慌てる冥琳の姿に祭はつい笑みを浮かべた。
「どうしたのじゃ?」
「し、し、し、しぇ・・・・・・」
「策殿がどうした?」
まさかと思い箱を持ったまま奥に部屋に向かった。
「策殿!」
袁術の手の者が来たのか、またはどこぞやの賊が侵入したのかと思った。
冷静に考えれば雪蓮ほどの人物がそれらに負けるはずがないのだが、万が一のことを考えて飛び込むと、ちょうど寝台に男を寝かしている最中だった。
「あら、祭、おかえり」
「賊はどこじゃ?その者か?」
寝台に近づいて男を見下ろすと目を閉じていた。
害がないと分かると一息ついた。
「策殿、この者は?」
「帰り道に拾ったの」
まるで落し物を拾ったかのような口調。
「し、雪蓮!祭殿!」
ようやく正気に戻ったのか冥琳が入ってきた。
「冥琳、静かにして。眠っているんだから」
「あ、え、す、すみません・・・・・・」
雪蓮に注意されると冥琳は大きく深呼吸をして自分を落ち着かせる。
「しかし変わった着物じゃの」
見たことのない衣服。
どことなく白く輝いて見えるよな気もするが、それは気のせいだろうと三人はそれぞれ納得した。
「とりあえず目が覚めるまで寝かせておきましょう」
雪蓮にそう言われ、二人は彼女の後に続いて部屋を出て行った。
(座談)
雪蓮 :で?
水無月:はい?
雪蓮 :どこに一刀が出たの?
水無月:最後だけですけど?
雪蓮 :これは出たというのかしら?
水無月:・・・・・・・とりあえずは出たということで。(滝汗)
冥琳 :雪蓮、この者が怯えているから睨むのをやめたらどう?
水無月:おお、味方だ!(涙)
冥琳 :一応、言っておくけど私は雪蓮の味方だから。この子を抑える私の立場も考えなさい。
水無月:申し訳ございません(><)
雪蓮 :とりあえず次回から一刀が本格的に出てこれるみたいよ。だから今回は我慢してあげてね。
冥琳 :あとこの話は本編に沿いながら新しい話なので誤解せぬようよろしくお願いするわ。
水無月:それがSSですから!(復活)
祭 :儂は饅頭を肴に酒でも呑もうかの
雪&冥:祭(殿)・・・・・・
説明 | ||
今回のお話は袁術の客将として過ごす雪蓮と一刀の出逢いです。そしてそこから少しずつ雪蓮達の運命が変わっていきます。 | ||
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コメント | ||
一刀の空気感がハンパないww(ロックオン) areare様>誤字脱字修正いたしました。ありがとうございます。(><)(minazuki) 今更ですが脱字報告です。1P 「つまないわね」→「つまんないわね」だと思うんですが違いますか?(areare) ついに一刀と遭遇。意識は・・・まだ戻らない。(ブックマン) 一刀次第でどう転ぶか(;´∀`)といった感じですw(minazuki) 一刀の扱いが気になるところですね^^ここからどう活躍し、序章に繋がっていくのか楽しみです!(だめぱんだ♪) 一刀登場!・・・・・・・・・・・・したけど、ほとんど荷物扱いですねwww(フィル) ついに来た、たねb(ry) じゃなかったw さて、この後どうなるだろうか〜期待です^^w(Poussiere) ついに来ましたね。北郷が。若干原作と変わってるみたいなんでこれからを楽しみにしています。(りばーす) 誤字報告です 冥林:この子を抑える私に立場も考えなさい⇒この子を抑える私の立場も考えなさい じゃないでしょうか^^;(本郷) この物語の一刀て強いんですか?(ゲスト) |
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「管路」「雪蓮」「一刀」 | ||
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