英雄伝説〜運命が改変された少年の行く道〜 |
同日、12:50―――――
〜海都オルディス近郊〜
「ヴァイス、後5分でオルディスに到着します。予想していた通り、オルディスの前にも領邦軍が展開しているとの事です。」
「そうか。最後の最後まで諦めの悪い連中だったな、貴族連合は。」
「それも下らないプライドの為でしょうね。」
連合軍が進軍している最中のアルの報告を聞いたヴァイスとリセルはそれぞれ呆れた表情をしていた。
「?――はい、ノウゲートです。…………え?……わかりました、伝えておきます。」
その時通信機からの通信に気付いたアルは通信を開始したが、通信の最中で戸惑いの表情をしていた。
「アルちゃん?何かあったのですか?」
「はい、何でもオルディスの防衛の為に展開している領邦軍から一人の貴族と思われる女性が護衛もつけずに現れたとの事でして。」
「え…………」
「何?貴族の女性だと?」
アルの報告を聞いたリセルは呆け、ヴァイスは眉を顰めた。
「ええ。先行部隊を率いていたミレイユがその女性に接触して事情を聞いた際、その女性はカイエン公爵家の長女だとの事でして。その者がクロスベル皇帝の一人であるヴァイス。貴方に交渉をしたいと申し出たとの事です。」
「ほう?確かカイエン公爵家の長女と言えば、”才媛”として有名で、民達にも慕われている女性だったな……」
「一体何が狙いなのでしょう?」
アルの説明を聞いたヴァイスは興味ありげな表情をし、リセルはまだ見ぬ女性の真意を考え込んでいた。
「それでどうしますか……と聞かなくても、ヴァイスの場合は答えは決まっていますね。」
ヴァイスに判断を促そうとしたアルだったが、ヴァイスが好色家であるので女性自らの申し出を断る訳がないとわかっていた為、すぐに苦笑し始め
「フッ、わかっているじゃないか。この俺が名門貴族の淑女の誘いを断る訳がないだろう?」
「ハア……ヴァイス様、せめてメンフィル軍を率いているリフィア殿下に話を通してから接触してくださいよ。本来カイエン公爵家はメンフィルによって裁かれる予定である事もわかっていますよね?」
ヴァイスが静かな笑みを浮かべている中、疲れた表情で溜息を吐いたリセルはヴァイスを見つめて言い
「ああ。さて……民達にも慕われている才女は絶望的な状況でありながら、一体何の交渉をするつもりだ?」
リセルの言葉に頷いたヴァイスはまだ見ぬ女性との交渉に対して、興味ありげな表情をしていた。その後連合軍の本隊がオルディス近郊に到着するとヴァイスとリフィアがそれぞれの護衛であるシグルーンとアルと共に護衛もつけずに連合軍を静かな表情で見つめている女性――――ユーディットに近づいた。
「俺に交渉をしたいと言っていた者はお前か?」
「!……はい。貴方がクロスベル皇帝の一人―――ヴァイスハイト・ツェリンダー陛下でしょうか?」
「そうだ。」
「貴方が…………自己紹介が遅れ、申し訳ありません。私の名はユーディット・カイエン。カイエン公爵家の長女です。…………リフィア皇女殿下。今更謝罪をしたところで許してもらえないでしょうが、父―――カイエン公爵の愚行を”カイエン公爵家”を代表して謝罪させて下さい。…………父の愚行を止められず、貴国まで巻き込んでしまい、誠に申し訳ございませんでした…………!」
自己紹介をしたユーディットはリフィアに視線を向けた後頭を深く下げて謝罪した。
「…………諜報部隊の報告ではお主は内戦に反対し、内戦が起こった後は妹と共に私財をなげうって内戦で苦しむ民達に支援物資を送っていたと聞いている。お主とお主の妹キュアは情状酌量の余地がある上”戦争回避条約”にも当てはまらない為、元々お主とキュア嬢の命を奪うつもりはなかったが……我が盟友たるヴァイスハイト皇帝に何の交渉をするつもりなのじゃ?」
ユーディットに謝罪されて少しの間目を伏せて黙り込んでいたリフィアはやがて目を見開いて静かな表情で問いかけた。
「私達”カイエン公爵家”が貴族として存続できるように……そして父と共にメンフィルに裁かれる立場である母の助命の為の交渉をしたく、ヴァイスハイト陛下に申し出ました。」
「……なるほど。メンフィルと同盟を結んでいる皇帝の要請なら、さすがのメンフィルも考え直すと判断したのですか。」
「母君の助命の為と仰いましたが、父君であるカイエン公自身の助命はしないのですか?」
ユーディットの説明を聞いたアルは納得し、ある事が気になったシグルーンは真剣な表情で尋ねた。
「……はい。エレボニア皇家である”アルノール家”に対して反旗を翻し、更には内戦を引き起こした元凶の一人である父は内戦によって苦しみ続けたエレボニアの民達や内戦に巻き込んだメンフィル帝国に対する”償い”をする必要がありますので、父の助命をするつもりは一切ありません。」
「……俺に交渉したいという理由は理解した。では聞くが俺がお前の交渉に応じた所で、クロスベルに何のメリットがある。」
話を戻したヴァイスは真剣な表情でユーディットに問いかけた。
「……カイエン公爵家が全ての元凶でありながら私と私の妹キュアは畏れ多くもラマールの民達から慕われています。私達自身、新たな祖国となるクロスベル帝国に忠誠を誓い、クロスベル帝国やクロスベル皇家の方々のお役に立つ為に働く所存であります。」
「―――なるほど。ラマールの民達に慕われているお前達自身が俺達に忠誠を誓えば、ラマールの民達もそうだがラマール州の統括領主であったカイエン公爵家がクロスベル帝国に忠誠を誓えばラマールの貴族達もある程度納得し、俺達クロスベルに対する反乱の可能性を低くできる上、領地経営がやりやすくなるな。」
「それだけではありません。本来なら爵位剥奪どころか一家郎党処刑されてもおかしくない立場である私達”カイエン公爵家”を救った所か配下として新たな国造りに携わらせた事で、国内の人々は当然として、諸外国に対してもクロスベルが簒奪者の国ではなく慈悲深く、また懐が広い国であると印象付ける事もできます。」
「言われてみればそうですね。」
「フッ、”才媛”という噂は本当だったようだな。まさか”そこ”にも気付いていたとはな。」
ユーディットの説明にアルは納得し、ヴァイスは感心した様子でユーディットを見つめていた。
「――それらに加えて”ヴァイスハイト陛下個人”に対するメリットもあります。」
「ほう?」
「なぬ?それは一体何じゃ?」
ユーディットの言葉が気になったヴァイスは興味ありげな表情をし、リフィアは眉を顰めて尋ねた。
「それは…………―――カイエン公爵家のクロスベル皇家への忠誠の証として私自身がヴァイスハイト陛下の側室として嫁ぐからです。」
「フッ、そう来たか。」
「ヴァイスは好色家として有名ですからねぇ。」
「何せ自分が好色家である事を公言していたくらいじゃからな……」
「……ですが実際カイエン公爵家の長女である彼女がヴァイスハイト陛下に嫁げば忠誠の証となりますわね。」
ユーディットの決意を知ったヴァイスは静かな笑みを浮かべ、ヴァイスの性格を分析してヴァイスに対する有効な交渉して来た事にアルは苦笑し、リフィアは呆れた表情で呟き、シグルーンは納得した様子で呟いた。
「陛下の護衛の方が仰ったように皇帝の一人たるヴァイスハイト陛下は多くの跡継ぎを残す為に多くの女性と関係を持つ事を好んでおられると話に聞いております。自画自賛をするつもりではございませんが、多くの貴族達から求婚され、将来を期待されていたルーファス卿の正妻の候補の中でも筆頭であった私の身体でしたら、陛下もご満足できるかと愚考いたします。」
「何?ルーファス・アルバレアの正妻候補の筆頭に上がっていただと?」
「……そう言えば諜報部隊の報告でそんな話があったな。確かカイエン公爵自身がルーファス・アルバレアに持ちかけていたそうじゃ。」
「”総参謀”であったルーファス・アルバレアはカイエン公爵の右腕といってもおかしくない立場でしたからね。しかも”四大名門”の跡継ぎですから、自慢の娘の嫁ぎ相手として相応しいと思ったのではないかと。」
ユーディットの話を聞いたヴァイスは目を丸くし、ある事を思い出したリフィアは静かな表情で呟き、シグルーンは推測を口にした。
「確かに言われてみればそうだな…………――――だが、何も忠誠の証の為だけに俺に嫁ぐ訳ではないだろう?大方、皇帝である俺に嫁ぎ、クロスベル皇家との縁を作る事で地に墜ちたカイエン公爵家の立場を建て直し、あわよくば俺との間に産まれて来た子をクロスベル皇帝の跡継ぎにすると言った所か?」
「そのような畏れ多い事は考えておりません。私は野望に満ちていた父や父の野望に賛同した兄とは違います。かつて”四大名門”の一角であり、古き伝統を誇っていた”カイエン公爵家”が貴族として存続できればそれだけで満足です。」
不敵な笑みを浮かべて問いかけて来たヴァイスの推測に対し、ユーディットは静かな表情で答え
「私の身体はヴァイスハイト陛下の思うがままにして頂いて構いません。ですがその代わり妹には……キュアには手を出さないで下さい……!そしてどうか母の命を助けてください……!お願いします……!」
身体を震わせつつも決意の表情でヴァイスを見つめ、頭を深く下げた。
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外伝〜才媛の交渉〜前篇 | ||
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コメント | ||
マジロン様 まあそうですね。今までのパターンを考えたら 本郷 刃様&K'様 そもそも正妻がいるのに嫁ごうなんて考えていないかとw(sorano) リウイとヴァイスどっちが組し易いかと言えばヴァイスでしょうからね。リウイは、ほら怖ーい嫁さんがいますし……(K') ヴァイスの方が色々と事が進みやすいですからね、リウイだとイリーナが色々と大変でしょうしww(本郷 刃) あーヴァイスの方だったか。まぁ結局惚れて側室入りは確実なんでしょうね(マジロン) |
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