真・恋姫無双 黒天編創始 第6章 「真相」 その2 |
「真相」 その2
「今日で祭りも五日目か・・・楽しいことはすぐに終わるな〜〜」
いつもは表通りほど人気がない西地区も、右を見ても左を見ても人、ヒト、ひと
どちらかと言えば工業区的で、鍛冶屋や小物制作を生業とする人たちが多く住む西地区であるが、店の前に自分の自慢の作品を並べ、気前の良い値段で販売している様子である。
若い女性たちがあまり寄り付かない場所でもあったが、今日は違う。
客商売に慣れていない強面の兄ちゃんが、若い女性たちにちやほやされているのを見るとほほえましく思ってしまう。
「おっ!!旦那っ!!今日も見回り御苦労さんだねっ!!」
「ああ、おっちゃんっ!!どう?慣れない客商売は?」
「たまにはいいもんだね。納品だけじゃなくてウチでも何か売るかね」
「あれ売ればいいじゃん。金属叩いてフクロウみたいな形にするやつ」
「あれかい?売れるんかね?」
「それはお客さんが判断することだから、並べてみたらいいんじゃない?」
「そうさね・・・そうしてみっかっ!!ありがとよっ!!」
「あれま〜〜〜、御遣い様。こんなところで何してんだい?」
「やあ、おばさん。警邏だよ」
「警邏って・・・そんな仕事はもう御遣い様の仕事じゃないだろうに・・・」
「いやいや、机に座って書類仕事だけだと肩がこっちゃって・・・たまには町を見て回りたいし、オレも祭りを楽しみたいんだよ」
「そうかい?でも・・・お一人でってのは」
「あはは、おばちゃんも心配性だな〜〜。大丈夫だって、あとで警邏隊長とも合流するからさ」
「ならいいんだけど・・・そうだっ!!」
鍛冶屋の旦那の奥さんは急に火事場へと戻っていく。
そして再び道へと出てきたときにはみずみずしい桃がその手に持たれていた。
「これ持っていきな。さっき買ってきたばかりだからさ」
「悪いね。んじゃ遠慮なくもらっちゃおうかな」
桃を手渡された男はそのおばちゃんの前で桃をひとかじりした後、その場をあとにした。
その男の名前は北郷一刀
三国の象徴的存在であり、実際の権力を持つ魏・呉・蜀の王様を妻に持つ人物
三国の中心的人物だ。
それ程の人物が護衛を一人も付けずに街を徘徊してるのにはわけがある。
先ほどのおばちゃんには警邏と言ったが、本当はウソだ。
厳密にいえば『警邏に出ている』ということがウソなのだ。
それ以外の言葉はすべてホント
つまり、街を徘徊している本当の理由は・・・
「せっかくの祭りなのに書類仕事で出かけられないって・・・地獄以外のなにがあるんだ」
サボりである。
あまりの祭り関係の書類の多さに目まいがし始め、遂には肩が動かなくなった。
これは気分転換しなければっ!!と考えた一刀はそのまま執務室を脱走したのだ。
白帝城の門番に見つからず出るためにはどうすればよいか・・・と考えていたのだが、案外門番も話が分かる奴であった。
「はぁ〜〜、楽進様には報告しますからね。関羽様には言わないでおきますが・・・」
「ありがと〜〜、凪なら許してくれるっ!!西地区の兵舎にいるって言っといて」
「了解しました。でも、関羽様に聞かれたら答えますからね」
「それはもちろんだよ。何なら、オレが公務で外に出るって嘘ついたって言えばいいからさ。俺の脱走に君のクビをかけるわけにはいかないからさ」
そして今に至る。
おばちゃんからもらった桃をペロッとたいらげた一刀は、上空にさんさんと輝いている太陽の位置を探す
「おっと、もうそろそろ戻らないとな・・・」
指先に着いた桃の汁を手巾で拭きとった後、やや小走り気味に西地区の兵舎へと向かっていった。
「隊長っ!!」
一刀が兵舎へと入ると直ぐに凪が一刀の方へと近づいてくる。
「ったく隊長は・・・直ぐに城から抜け出すから・・・心配するんですよ?」
「ごめんごめん・・・で?愛紗には?」
「愛紗様にも一応ご報告させていただきました。帰った時の折檻は覚悟して下さいよ」
「うぇ〜〜〜」
一刀は露骨に嫌そうな顔を凪に見せ、わざとらしいため息をつく。
「でも、警邏も立派な仕事だよねっ!!」
「確かにそうですが、隊長がやるお仕事ではありません。隊長はもう三国の中心的存在なのですから・・・もっとそれらしい仕事をなさってください」
「でもさ、上からじゃ民が今何をしてほしいかとか分からないじゃん。だから、オレが直に民からの声を・・・」
「はぁ〜〜〜、まぁ、隊長らしいですね」
今度は凪が露骨に呆れたと言わんばかりにため息をつく。
「それで?城にはいつお戻りになる予定で?」
「もうちょっと・・・次は東地区を回りたいんだ。ダメかな?」
一刀は満面の笑みを浮かべながら、凪の瞳を見つめ続ける。
「そっ・・・そんな顔しても・・・」
「駄目かな?ダメなら凪も一緒においでよ?」
「じ・・・自分には残っている・・・」
「オレは凪とお祭りまわりたいな〜〜。この頃凪と話せてないしな〜〜〜」
「っっっっっ!!!!」
「で〜と・・・してくれないか?」
この一刀の最後の言葉で凪は顔を真っ赤にしながら俯いてしまい、そして数秒後にウンと一回縦に頷いた。
「でもっ!!で〜とは駄目ですっ!!東地区に警邏に行きましょうっ!!!」
「オレはそれでもいいよ・・・ありがとね。凪」
「で・・・ではっ!!け・・・けいらに・・・」
顔を真っ赤にした凪はそのまま兵舎から出て言ってしまう。
それに付いて行こうとしたその時、ちょうど一刀の後ろにいた兵隊長が一刀に声をかけた
「それもよろしいですが北郷様・・・お昼頃には必ず城にお戻りくださいませ。例の“ぱれ〜ど”の打ち合わせがあるのではないですか?」
「分かってるよ。わざわざありがとうね」
「はっ!では、お気をつけて」
そして一刀は先に行った凪に追いつくために、急いで兵舎から出ていった。
東地区は主に飲食店が立ち並ぶ地区である。
そのため先ほど訪れた西地区の数倍以上のにぎわいを見せている。
今の時刻はちょうどお昼の少し前ということもあってかどの店も行列ができている。
「凪、なんか食べたいものない?」
「今は仕事中ですから大丈夫です・・・」
凪はプイッとそっぽを向きながら照れくさそうにそう言った。
なぜ照れくさそうなのかというとそれは一刀と手をつないでいるからである。
初めの方は今と同じように仕事中だからと断ってきたのだが、結局はつないでしまっている。
「なら、この手も放していいかな〜。仕事中だしな〜〜」
「そ・・・それは・・・」
一刀が手を握る力を不意に弱めると、逆に凪の手の握る力が強くなった。
「だ・・・だめ・・・です」
一刀は心の中でかわいい奴めとほくそ笑んでいると、とある一画に人が群がっている場所があることに気が付いた。
「ケンカか?」
その観衆からは“いいぞ〜〜”“もっといけ〜〜”と言った煽る声も聞こえてきている。
「行ってみましょうっ!!」
凪はそう言ってその場所へと駆け寄っていく。
そのせいで手は解けてしまったが、もしも本当にケンカなら手などつないでいられない。
一刀は名残惜しい気持ちを胸に押し込めて、凪を追いかけながらその場所へと駆けて行った。
結論からいえば、それはケンカではなかった。
ではなぜそこが盛り上がっていたかというと、とある催し物が開かれていたからだった。
その名も『桃饅大食い選手権』
優勝者には桃饅の味が白帝城一と噂されるお店『桃源』の食べ放題券が与えられるそうだ。
参加者は机の数を見るだけでも20数名が参加している様子であった。
しかし、この催し物が開催されて少し時間がたっているのだろうか
もうほとんどの参加者が脱落しており、残る二人の一騎打ちとなっていた。
その両者は一刀も、そして凪も見知った顔であった。
「鈴々に季布じゃないか・・・」
「お二人も参加なされていたのですね。お二人とも非番だったでしょうか?」
「季布は非番だったと思うけど、鈴々は・・・」
「そうでしたよね・・・一緒に愛紗様に怒られてくださいね」
「仲間ができちまったな・・・嬉しくないけど」
一刀は小さなため息を付く。
鈴々と季布のお皿の量を見てみると、他の参加者の2倍に刺し迫ろうとしている量であった。
「あのまま食べ続けたら潰れんじゃね?あの店?」
「それは困りますね・・・あそこのお店美味しいのに・・・」
などと言っていると店の奥から右へ左へふらふら歩きながら誰かが歩いてきた。
どうやら桃源の料理長さんのようだった。
料理長さんが鈴々と季布の前へと来ると何かを話しているようだった。
そしてその後なぜかその料理長さんが土下座をし始めた。
三人の会話の内容は一刀と凪の位置からは聞こえてこないが、料理長さんが何かを嘆願していることだけは分かった。
そしてその場に駆け寄っていった司会者らしき人が大声で叫ぶ。
「これ以上作るとお店に大損害が残りますので、これにて終了といたしますっ!!優勝は2名っ!!張飛将軍と許?将軍ですっ!!お二人には桃源の食べ放題券が送られます」
ここで鈴々と季布大きな拍手が送られた後、お開きとなった。
それから少したった後、桃源から何やらチラシのようなものを手に持った二人が出てきたところを見計らって二人は声をかける。
「鈴々、季布、やったな」
「あっ、お兄ちゃんなのだ」
「おッ!兄ちゃん、見てくれたんだ」
「みてみて〜、桃源の食べ放題券もらったのだ〜」
鈴々は手に持った紙を一刀に見せつける。
そこには確かに「桃源食べ放題券」と達筆の字で書いてある。
「僕ももらったんだよ〜〜」
季布も鈴々と同じように一刀に見せつけた。
「よかったな。でも、すごいよな〜」
「でも鈴々は春巻きと決着つけたかったのだ」
「僕だって本当はもっと食べられたんだからな〜〜。桃源のおっちゃんが土下座しなけりゃ、勝ってたのは僕だね〜」
「にゃにお〜〜〜っ!!勝ってたのは鈴々なのだっ!!桃源のおっちゃんが土下座した時、鈴々の方が一つ多く食べてたのだっ!!」
「いいやっ!!僕の方が早かったね」
「鈴々なのだっ!!」
食べ放題券を握りしめながら二人の視線は交差して火花を散らしている。
「なんなら、今から勝負の続きをしてもいいんだぞ」
「望むところなのだっ!!次は一芳亭のシュウマイで勝負なのだっ!!」
そのままの勢いで駆けだしそうだったので一刀は鈴々の、そして凪が季布の首根っこをつかんで制止させた。
「にゃっ!」 「にゅっ!」
「駄目ですよ。お二人ともほどほどにしなければ・・・」
「そうだぞ。それに鈴々、お前今日の仕事はどうした?」
「あ・・・あぅ・・・、それは言わないお約束なのだ・・・」
「ダ〜〜メっ!もうそろそろ帰らないと愛紗に怒られるぞ」
「ぐっ・・・分かったのだ・・・」
「まぁ・・・オレも人のこと言えないんだけどな」
「お兄ちゃんもお仕事ほったらかしているのだ?」
「ぐっ・・・それは言わないお約束だ」
このやり取りを見ていた凪は遂に笑いをこらえることができなくなり、クスッと小さく笑ってしまう。
「隊長もそろそろ戻らないと・・・愛紗様の雷が落ちますよ」
「そうだな。怒られ仲間もできたことだし・・・帰ろうか。鈴々」
「分かったのだ・・・あぁ・・・帰りたくないのだ・・・」
鈴々は一刀に首根っこを掴まれたまま手足をぶらんとさせる。
その状態で一刀はトボトボと白帝城の方へと戻っていった。
「凪は警邏の続きをするの?」
「はい。そのつもりですが」
「なら、僕も手伝うよ。どうせ、今お城に帰っても流琉何も作ってないだろうし・・・」
「そうですか。なら、よろしくお願いします」
凪は季布を地面へと降ろした後、二人並んで東地区の奥の方へと進んでいった。
その後、鈴々と二人で白帝城へと戻ると城門前で仁王立ちする鬼(愛紗)の姿があった。
そのまま執務室へと連行された二人は愛紗のお説教をBGMに書類仕事を進める羽目になってしまった。
鈴々は普段書類仕事なんてやらないが、今日は罰ということで一刀の手伝いをさせられている。
頭の上にはいろいろな記号が浮かんでいるであろう鈴々の顔を見て、少しだけ癒される一刀であった。
そしてそれから幾ばくかの時間が過ぎて・・・
「なぁ愛紗〜〜、今日はもういいだろ〜〜」
「鈴々、文字が躍っているように見えるのだ〜〜」
一刀は机に突っ伏しながら、鈴々は眼をクルクルとまわしながらそう言った。
「まぁ、今日はこのくらいにしておきましょうか・・・。ったく・・・ご主人様?朝のうちにやっておけばこんなに大変な思いをしなくて済んだのですよ?」
「ああ・・・説教はもうやめて・・・耳がキーンってする・・・」
耳を押さえながらそう言う一刀を見て、愛紗は小さくため息をつく。
「それではこれを書庫に運びましょう。私も手伝いますから、ご主人様はこちらの書類の山を持って下さい。鈴々はこちらの書類の山だ」
「うぇ〜〜い」「うぇ〜〜〜いなのだ」
一刀は自分の席から立ち上がり、ウ〜ンと体を伸ばした後、愛紗が指さす書類の山を持ち上げる。
鈴々も同じように背中を丸めたり伸ばしたりした後に、自分の身長の2倍はあろうかという書類の山を担いだ。
そして二人は先導する愛紗のあとについていくのであった。
書類を書庫にしまった帰り道、一刀は廊下の窓から外を眺める。
「もうこんな時間か〜〜」
空はすでに茜色に染まっており、もうすぐ夜になるという時間帯であった。
「愛紗、パレードまであとどれくらい時間がある?」
「そうですね。あと1刻半といったところでしょうか」
「ならさ、少し部屋で仮眠とってきていいか?」
「別にかまいませんが・・・」
「ありがとっ!パレードの時間になったら起こしに来てくれるかな?」
「かしこまりました。衣装にも着替えてもらわないとなりませんので、月も同行させます」
「んじゃ、それでっ!よろしくっ!」
一刀は愛紗に手を振りながら、自分の部屋へとつながる廊下を駆けて行った
自分の部屋に戻るために一刀が階段を下っていると、蓮華が階段を上ってくるのが見えた。
「やぁ、蓮華。お疲れ様」
「ああ、一刀・・・お疲れ様」
「どうしたの?疲れてる?」
「うん・・・まぁ仕方ないわ。お祭りの運営側としてはこれが当たり前だと思うし・・・」
「たまには休まないと駄目だよ?蓮華は根を詰めすぎるところがあるからさ」
「うん。あともう少ししたら休むことにするわ・・・それじゃあね」
蓮華は笑顔で手を振りながら階段を上っていった。
しかし、その笑顔は無理に作っているものであると直ぐに分かるものだった。
「蓮華、絶対ここ最近休んでないな。そういえば、蓮華とお祭りもまわれてないし・・・時間はまだありそうだし・・・よしっ!」
「なにが『よしっ!』なんだ?北郷?」
声が聞こえた方向を見てみると、そこには階段を上ってくる冥琳の姿があった。
「愛紗から聞いたぞ、北郷。また抜け出したらしいな」
「あっ、冥琳。ちょうどいいところに・・・蓮華ってさ、この祭りの間にお休みってあったっけ?」
「んっ?いや・・・ほとんどなかったと思うが・・・」
「んじゃあさ、いまから蓮華を誘って祭りに行っていいか?」
「おいおい・・・これからパレードの準備があるんだろうが」
「でもまだ1刻ほどあるじゃん。着替えなんてそんなに時間がかからないしさ」
「しかし・・・」
「さっき見かけた蓮華・・・すごく疲れてそうな表情してたんだよ。ちょっとした気分転換もした方が、民たちにいい笑顔を送れるってもんだろ?それに俺、蓮華と祭りまわってないしさ。だから頼むよっ!冥琳・・・」
一刀のお願いに顔をしかめる冥琳であったが、右手をあごの辺りに当て何かを考えている。
「まぁ・・・たしかにお前の言い分も一理あるな・・・」
「だろ?だからお願いっ!!蓮華の時間を少しだけあけてあげてっ!!」
「・・・・・・はぁ・・・、わかった。ただし、半刻だけだ」
「よっしゃっ!!ありがとっ!冥琳。それじゃあ早速蓮華を誘ってくるよ」
一刀は次の冥琳の言葉を聞かないでそのまま蓮華のあとを追うために階段を上っていった。
「ったく・・・私もあ奴の頼みには弱いな。明命・・・いるか?」
「はいっ!!ここにっ!!」
冥琳が天井に向かって話しかけると、姿は見せないまでも天井から明命の声が聞こえてきた。
「話は聞いていただろ?」
「はいっ!!蓮華様と一刀様の護衛ですね?」
「できるだけひっそりとな。それと半刻が経ったら、呼び戻す役目も頼む」
「承知しましたっ!!」
その言葉を最後に天井からトンという軽い音とともに、明命の気配がきれいに消えた。
一刀は階段を上り切った廊下の先に蓮華の姿を見つける。
「あっ!いた」
一刀の声に気がついたのか、蓮華は一刀の方へと振り返ってくれた。
一刀は駆け足気味に蓮華へ近づき
「蓮華、今から一緒に祭りに行かないか?」
「えっ?でもいろいろとやることがあるんじゃないの」
「夜からでいいんだってさ。あと半刻は大丈夫っ!!じゃあ、行こうっ!!」
一刀は蓮華の返事を待たずに腕を引いていく。
「あっ!!ちょ、ちょっとっ!!」
蓮華もなにも抵抗することなく一刀にそのまま引かれていった。
「もうっ!!ちょっと強引すぎるんじゃない?私、まだ仕事残ってたんだけど・・・」
一刀と蓮華は今、表通りを二人並んで歩いている。
本当はもう少し遠くに行きたいところだが、時間が半刻だけと決まってしまっているため遠出ができない。
「まぁまぁ、蓮華最近休みないって冥琳が言ってたし・・・それにオレも蓮華とお祭りまわりたかったからさ」
「ほ、ほんと?」
「もちろん」
「わ、私も・・・ほんとは一刀と一緒に・・・まわりたかった」
蓮華はおずおずとしながらも一刀の方へと右手を差し出す。
それを見て一刀は左手を差し出し、手をつなぎながら歩みを進める。
「あっ、蓮華、あの食べ物知ってる?」
「わたあめ?」
「そうそう、砂糖菓子なんだけどね。天の国では祭りの定番だったんだよ。真桜と一緒にわたあめ機つくってさ。砂糖も調達して・・・結構大変だったんだ」
「へぇ〜〜、ってことは甘いんだ」
「食べてみる?」
「ええ・・・でも、突然出てきたからお金持って・・・」
「そんなのオレが出すに決まってんじゃん」
一刀は蓮華を引っ張る様にして綿菓子矢の前へ行き、強面のおっちゃんに綿菓子を一つ注文する。
おっちゃんは慣れた手つきで竹で作った串に綿あめを絡めていった。
「へぇ〜〜こうやって作るんだ・・・」
「面白いだろ?」
そうこうしている間に綿あめがひとつ完成し、おっちゃんから受け取ると同時に代金を支払う。
「はい。あまいよ?」
「うん・・・そのままかぶりついていいの?」
蓮華の言葉に一刀は一度だけ首を縦に振る。
そして蓮華は小さな口で綿あめにかぶりついた。
「すごい・・・フワフワしていて甘い!!」
「だろ?」
あまりにめずらしい食べ物であったため、蓮華はパクパクと綿あめを食べて行く。
「あっ、私ばっかり・・・一刀も食べる?」
蓮華は手に持った綿あめをそのまま一刀の方へと差し出した。
「それじゃあオレも一口・・・あ〜〜ん」
一刀は口を大きく開けるだけで、いっこうに綿あめにかぶりつこうとしない。
「??たべないの?一刀?」
「えっ?食べさせてくれるんじゃないの?」
「ッッ!!!こんな人前でそんなこと・・・」
ただでさえ夕陽で赤く見える蓮華の顔がより一層紅潮していくのが分かった。
「大丈夫だってっ!誰も見てないからさ。ほら、あ〜〜〜ん」
「んっ・・・、あっ、あ〜〜〜ん・・・」
蓮華は少しずつ、綿あめを一刀の口元に近づけていき、一刀が綿あめにかぶりつく。
「んぐんぐ・・・やっぱり甘いな」
「そ・・・そうね」
「ん?もしかして蓮華、照れてる?」
「・・・あっ、あれ何かしらっ!!」
今度は蓮華が一刀を引っ張る形でとあるお店の前へ引っ張っていく。
その行動は明らかな照れ隠しであった。
「へぇ〜〜、こんなのあったんだ」
そこはかわいらしい小物が売られているお店であった。
「最近できた店なのか・・・それとも祭りだけの期間限定開店の店なのか・・・」
「そんなのどうでもいいじゃない。ねぇ、この髪飾り見てよ」
蓮華は軒先においてあった髪飾りを手に取った。
そして、自分の髪へ押しつけるようにしながら一刀へ見せる。
「似合うかな?姉様がつけてるのと似ているかな?」
「うん、まぁ蓮華は何つけても似合うけどね」
「う〜〜〜、そんな言葉が聞きたいんじゃないのに・・・」
一刀の感想が気に入らなかったのか髪に押しつけていた髪飾りを軒先に戻し、蓮華は他の髪飾りを物色し始める。
「なら、一刀はどれが私に似合うと思う?」
「えっ、う〜〜ん、そうだな〜〜」
蓮華に言われて一刀も店内の小物に目をやったその時
「ッ!!」
急に首筋が冷やりとする感触に襲われた。
どこからか見られているような気がする。
一刀は後ろを振り返り、その視線を探す。
しかし、表通りの人込みからこちらをみているようなあやしい人物はいなかった。
一刀は不意にその小物屋の向かいに建つ建物を見る。
どうやら宿屋のようでその屋号は“風緑庵”というらしい
「おかしいな・・・」
一刀は頭をポリポリとかいて、再び店内の小物を眺めようとした時
「ッ!!!!」
再び首筋に悪寒が走った。
先ほどの感覚とは比べ物にならないほど強烈なもの
「ん?一刀?どうしたの?」
そんな様子に気が付いた蓮華が一刀の方を見る。
「一刀様っ!!」
そして、それとほぼ同時に小物屋の天井から明命が姿を現した。
「えっ!?明命っ!!どうしたのよ?急に・・・」
突然姿を現した明命に一刀と蓮華はもちろん、周りの客も何事かと明命の方を見ていた。
「あ・・・れ?おかしいですね」
「なにが?」
「確かに僅かな殺気が感じ取れたのですが・・・」
「殺気っ!?」
「いえ・・・私の気のせいのようです・・・」
「気のせい・・・明命が?」
「はい・・・私も感覚が鈍ってしまったのでしょうか・・・」
明命は背中の武器に手を駆けながら、警戒を続ける。
「とりあえず一刀様、蓮華様。もうそろそろ半刻になります。これ以上はパレードに差し支えますよ。もうそろそろお戻りください」
「えっ・・・もうそんな時間か」
一刀は西の方角へと沈んでいく太陽を見つめながらそう言う。
「じゃあ、私たちも戻りましょうか。短い時間だったけど楽しかったわ」
「ああ、それは俺もだよ。これでパレードでも民に満面の笑顔を見せれるな」
「ふふっ・・・そうね」
「あっ、さっきの髪飾り、記念に買ってあげるよ」
「えッ!!ホントにっ!!!」
一刀は一番初めの蓮華が興味を持った髪飾りを手に持って、店員さんのもとへと歩いていく。
そしてかわいらしい袋に入れられたそれを蓮華に渡し、蓮華と明命、そして一刀の三人で白帝城へと帰っていった。
END
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どうもです。 1年ぶりですかね。もうプロットも忘れた・・・ とりあえず、出来上がっていたものを投稿します。 一応マイペースで続けていくつもりです。 気長にやっていこうと思っています。 |
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誤字情報です。 「季衣」の名前が『季布』になってますよ?(劉邦柾棟) 更新まってました!最後のさっきは咲蘭ですな〜一刀と接触するのももうすぐかな?(nao) |
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