魔法使いとおひめさま
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むかしむかしある所に、一人のおひめさまがおりました。

おひめさまは元は普通の女の子でしたが、偶然拾った光る石が身体に入り、おひめさまになりました。

おひめさまになった女の子は、大きくならなくなった代わりに、人を超えた力

ぞの後皆がおひめさまの元に集い、国を築いていきました。

おひめさまは国を治め、国を護る事が使命になりました。

おひめさまは国のみんなに親しまれていましたが、おひめさまはそんな事を望んではおりませんでした。

おひめさまが望んでいたのは、友達と遊んだり笑いあったり……そんなでした。

けれどおひめさまにそんな事は許されません、使命によってがんじがらめにされているからです。

仕事の合間、おひめさまは窓の向こうを覗きこみました。

そこには笑顔で溢れている人々がいました。追いかけっこをする男の子、可愛い服を着ておしゃべりしながら歩いてる女の子

おひめさまはそれを見て憧れ、そして羨ましがってました。その気持ちを振り払うため、仕事に没頭してました。

「おひめさま、そんなに根を詰めていては倒れられてしまいます」と言われるほどに、盲目に、自分の中の少女を封じ込めて。

こうして女の子をおひめさまにした光る石は、身体の成長だけでなく、心の成長までも止めてしまったのです。

 

ある日、おひめさまは気晴らしに外に出ました。

街中を歩くおひめさまを見る皆の目は、珍しいもの見るような、縁起物をみるような……少なくとも、人を見るような目をしておりませんでした。

おひめさまはそんな人々の視線が嫌で嫌で、自然と街の外へ外へと足が進んでいきました。

いかに国を治めているとはいえ、中身はなった時と同じ小さな女の子のまま、何時になっても慣れるわけが無く、何時になってもその心は変わらないままでした。

そうして気付けば国の外、おひめさまは空を見上げてふと思いました、「どうしてこうなっちゃったんだろう」と。

ふいにおひめさまの目から、涙がぽろぽろと流れていきました。

そんな時「どうしたの、おじょーさん?」という声が聞こえ、おひめさまははっとして、声がした方に顔を向けました。

おひめさまに声をかけて来たのは、ボロボロのマント、泥だらけの長袖、色あせた長ズボンというみすぼらしい格好をした一人の青年でした。

「……汚い」とおひめさまはじと目で言うと、青年は「お金が無くて……」と苦笑いをして言いました。

 

青年は自分の事を魔法使いだと言いましたが、おひめさまは「胡散臭い……」と信じませんでした。

青年は自分が魔法使いだという証拠に、魔法を見せる事にしました。

掌から仄かな火の玉を作り出し、火の玉から鮮やかな橙色と山吹色の剣を取り出し、剣から激しい炎を吹き出して見せました

おひめさまにとって、見世物の魔法はそこまで珍しくありませんでしたが、橙と山吹の剣は目に留まり、「他はありがちだけどこんなの見た事がない」と大絶賛

青年は辛口評価にちょっと肩を落としつつ、剣を掲げて「どの世にもこれと同じものはございませんから」と自慢しました。

おひめさまはそんなザンネンな青年を見て少し微笑み、大層気に入ったのかお手頃価格で泊まれる宿に案内しました。

その日から魔法使いの青年は、おひめさまの話し相手になりました。

 

「ここで見るお城の景色はね、何処で見るよりもきれいなのよ」

おひめさまは自慢げに得意げに、魔法使いに自分の国を案内をしました。

そして魔法使いの反応を見て、徐々に少女らしい笑顔を出すようになりました。

けれどもやっぱり、周りの人達の視線が気になっていました。

けれども魔法使いに心配はかけさせまいと、おひめさまは魔法使いの前では気丈に振る舞いました。

そんなある日の事、二人はお団子屋でお団子を食べていました。

ふと、「奇跡はあると思うんだよ」と魔法使いは言いました。

今ここで、おひめさまと一緒に食べている事が、一期一会の奇跡だと言いました。

その瞬間、おひめさまは皆に「奇跡を産みだしてくれている」と言われている事、そしてそれにこたえるために必死だった事を思い出しました。

そして魔法使いに「奇跡なんてないのよ」と言いました。

「私が出来る事なんてみんなと大差ない」「私は皆と変わらない」「私はただ歳を取らなくなっただけ」「私は大きくなれなくなっただけ」

今までせき止められていた川から水が一気に流れるように、おひめさまは自分の感情を抑えきれなくなっていました。

「なのにどうしてそんな事言うの?」「どうして私を苦しめるの?」「あなたも私を分かろうとしないの?」「信じていたのに」

重くのしかかっていた義務が、責任が、重圧が、そして不意に魔法使いが放った一言が、おひめさまを狂わせてしまいました。

「結局私はひとりなんだ、皆同じなんだ、誰も分かってくれないんだ、分かろうとしてくれないんだ、国の皆も!外の人たちも!貴方も!」

自分の中に溜まりに溜まっていた濁った感情を魔法使いにぶつけた直後、おひめさまはハッと我に返りました。

驚いたような顔、「なんだなんだ」と言う顔を見て、おひめさまは頭の中が真っ白になってしまい……

「あ、あの……私、わたし……っ!」

何も伝えられず、謝る事も出来ず、その場から逃げ出して、暫く自分のお城に引きこもり、ふさぎ込んでしまいました。

 

それから長い永い年月が経ち、あの時の後悔と時の流れで、おひめさまの心は荒んでいってしまいました。

信じるのも疑うのも怖い、あるのは国を護り続けた責任とそれと相対して生まれた((片意地|プライド))だけ。

国の皆が離れて行ってしまうようになってからは、何とか国を滅ぼさないようにしようと必死でした

国はおひめさまのように閉鎖的に、なんやかんやで反政府組織と繋がりをもってしまい、最早なりふり構っていられなくなってました。

そうしているうちに、新しく出来た国のお姫様達が、おひめさまの元に殴り込みに来ました。

おひめさまは国を護る為に戦いましたが、敗れてしまいました。

しかもそれを国の皆に晒してしまった事で、誰も彼もがおひめさまから離れて行ってしまいました。

更におひめさまに従えていた大臣が実は反政府組織で、その期に講じて国を乗っ取ってしまいました。

こうしておひめさまは何もかも奪われて、戦いに疲れたお姫様共々、牢屋に入れられてしまいました。

 

牢屋の中、最近出来た国のお姫様達は、これからどうするかを考えてました。

けれど、威厳も権力も信頼も失ったおひめさまは最早嘆くしかありませんでした。

もうおひめさまには何もありません、友人もいなければ仕える者もいません。

「もう全部おしまいよ……」そう呟いたその時、「ならここから始めよーぜ、新しくさ」と懐かしい声が聞こえました。

おひめさまが、俯いてた顔を上げて見るとそこには、あの頃と全く変わらない、魔法使いの青年の姿がありました。

他の国のお姫様は、どこからともなくいきなり現れた魔法使いに困惑していました。

「これが女の子に戻れる最後のチャンスだ」と魔法使いは言いました。

「そんな事、出来るわけない、仮に出来たとしても、国やそこに住む人たちは……」とおひめさまは言いました。

魔法使いはニタリと笑って「大丈夫、君を負かしたそこのお姫様達に任せればいい」と答えました。

「君は十分頑張った、お姫様として十分の責務を果たした、だからここらで交代してもいいんだよ。」と魔法使いは手を差し伸べて言いました。

正直おひめさまは、今でも辞めたいと思っていました。けれどおひめさまとしての長年のプライドと責任が重くのしかかっていました。

それを清算するためのけじめを付ける事を、おひめさまは決めました。

 

一方、当主の座を乗っ取った大臣は、どうすればカメラ映りが良いか、色々と試していました。

「当主としての初舞台、出来るだけかっこよく映らなければな」と気合十分でした。

こうしてやっと決まったのか、放送を始めた直後、爆音とともに下から太い火柱が、城内を貫きました。

すぐ後ろにいた大臣は「なんだなんだ」と大騒ぎ。ようやく落ち着いたところで振り向けば……

「よう、けじめを付けにきたぜ」と男勝りな言葉使いを発したおひめさまと、橙と山吹の剣を担いだ魔法使いがおりました。

なんと魔法使いは、下から牢屋を無理やり突き破ってしまったのです。

「お姫様対策として頑丈にしたはずなのに……」と焦る大臣に、二人は武器を向けて

「さあ、夢から褪める時間だ」と声を揃えて言いました。

「こうなったら今度こそ完膚なきまで叩き潰してやる」と大臣は巨大な鎧に身を包み、二人に立ち向かいました。

二人は阿吽の呼吸で大臣の攻撃をひらりとかわし、初めてとは思えぬ連携で、あっという間に大臣を倒してしまいました。

そしておひめさまはカメラの前で「私は今からおひめさまを辞めます」と、国の皆に、世界の皆に伝えた後、魔法使いと一緒に何処かへと行ってしまいました。

国は他のお姫様が治める形で事なきをえました。しかしこれまで治めていたおひめさまの行方を知る者は、誰もいませんでした。

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