双子物語58話 |
双子58話
暑い夏は終わりを告げ、一番忙しい時期を乗り越えて生徒会室の中では
半ば魂抜けたような表情で残っている仕事を進めている。
忙しくないからかそれぞれ頭の隅で「卒業」のことについて過ぎっていることだろう。
そういう私もそんなことを考えながら作業をしていた。
残された時間内で私のやり残したことといえば・・・。
考えて思いついたのは創作部のことについてだった。
今までは私と顔見知りばかりで活動していて来年には人数が足りなくなる。
需要どうこうより私達に気を遣って入ってこないような空気を感じた。
私としてはどんどん新しい人が入って欲しかったんだけど。
だから私は来年以降も存続してもらいたいために動くことにした。
誰にでも気楽に創作ができるような居心地の良い場所に改善して
広めたいと思っていたから。
まずは生徒会の人物が中心になっているから敷居が高くなっているのかもしれない。
どうすればいいのかと考えながら、創作部の部室に辿り着いた私はドアに手をかけて
開くとそこには何か一生懸命書いている叶ちゃんの姿があった。
私にはあまり見せないような真剣な顔を見て私は声をかけ辛くなり、言葉を飲み込んで
音を立てないように、そのまま見続けていると私の視線に気付いた叶ちゃんがものすごく
驚いて飛び上がるようにしてから後、叶ちゃんは書いていたものを後ろに隠していた。
「せ、せせせんぱい!?」
「あ、ごめん。邪魔しちゃったかな」
「そそそ、そんなことないです!」
真っ赤になっている叶ちゃんが可愛くて謝りながらもついつい見てしまう。
小さい体でも一生懸命に力強く活動をしている彼女を見るのが私は大好きだから、
無意識に目が追ってしまうくらいに。
でも最近ちょっとだけ引っかかることがあるけど、明確な言葉があるわけではなく
そこがもやもやして変な気分になる。一度どこかで嫌ってほど味わった気がするのに。
でも叶ちゃんみたいな良い子にそんな要因は思いつかなかった。
気になることといえば、最初よりも私の近くにいることだった。
嬉しいことだけど、自分のことよりも私のことを優先しているように感じていて
そこが心配の一つではある。
「先輩はどうしてここに?」
「え、うん…。私の卒業後にここがなくなるのはもったいないから、
どうしたら新しい部員が入れるか考えていたところ」
「そ、そうですか・・・」
私の言葉に少し落ち込んだ様子を見せる叶ちゃん。徐々にこうして近くでいられる
時間がなくなっていくと敏感な反応を見せるが、離れ離れになるわけじゃないし。
1年くらい待てばもしかしたら一緒の大学や一緒にいられる日が来るかもしれない。
だから本当はもっと気楽であってほしいのだけど、私も先輩に対してそういう気持ちが
あったからそんなこと言える立場ではなかった。
「大丈夫、時間はまだそれなりにあるから。なるべく一緒にいられるようにしよう」
「はい!」
「あ、でも部活はサボっちゃだめよ」
「は・・・はい・・・」
念押しでちょっと強めに言うと図星だったのか自分の両手の指でぐりぐりするような
仕草をしながら私から少し視線を外した。
ちょっとだけ元気になったように見えて少しホッとして叶ちゃんの邪魔にならない
ように戻ろうとして振り返ったら後ろから声をかけられた。
「あの先輩・・・居てください・・・」
「創作の邪魔にならない?」
「そんなことはないです!」
「ふふっ、じゃあ見ないようにするね」
まるで飼い主を引き止める犬のようなちょっと寂しげな表情を見てしまったら
無視して帰るわけにもいかない。
いつもの部長用の席に座って叶ちゃんのがんばって書いている横顔を
見ていると思わず口角が上がる。
この何でもない時の雰囲気が大好きですごく落ち着く。
落ち着きすぎて気が緩みきったせいか、考えていたこれからのことを
口走ってしまう。
「あのさ、この部活ね。私の代が終わったときにね。それで終わって欲しくないからさ」
そこにいるのは他には叶ちゃんしかいないのだから叶ちゃんに言っているように
思うだろうけど、私としては誰かに言ったつもりじゃなくて頭に浮かんだ言葉をそのまま
口に出していたのだろう。
「後のことは叶ちゃんに任せようかなぁとかちょっと考えてる」
「そんなこと言わないでください!」
その直後、いきなり怒鳴るような声を出す叶ちゃん。いや、正確には悲しそうな声で
大きな声を上げていた。あまりの急さに私は驚きの表情を素直に浮かべた。
「か、叶ちゃん?」
「嫌です・・・。先輩が卒業するのなんて嫌です・・・!」
悲鳴にも近い声で我慢していたであろう言葉が吐き出されていた。
それから続く言葉に私が感じていた嫌な予感を思い出させてしまった。
「先輩がいなくなったら私もう何もできないです・・・!!」
『雪乃がいなかったら私ダメになっちゃう!だから・・・!』
「嫌・・・」
あぁ、そうか。彩菜と同じような傾向がこの子にもあったんだ…。
まるで依存したように、元々あった芯のような部分が丸ごとくり貫かれていて
空洞のようになっているんだ。
私はそんな芯の通った叶ちゃんが好きだったのに・・・。
悲しいのに涙が出そうで出ないこの寂しさ、虚しさ。
私の中でまだ愛する気持ちがあったけれど、それとは別にこのままではいけない。
距離を空けなきゃいけないっていう本能的な部分が強く私の中に語りかけていた。
そういう関係は関係で良い人もいるかもしれない。
だけど私は片方がいなくなったら生活が成り立たなくなるような関係ではいたくない。
「叶ちゃん…」
「先輩…」
私は泣きじゃくる子供のようにしている叶ちゃんの肩の上に手を優しく乗せて
諭すようになるべく冷静に言うように心がけた。
手はわずかに震え、本当はこんなこと言いたくはなかったけど。
お互いに一度気持ちの整理をつけようと強く自分に言い聞かせながら。
「私達…一度最初からやり直そうか・・・」
「え・・・」
「最初に会った頃のような先輩後輩の仲に・・・」
「え・・・うそ・・・でしょ・・・先輩・・・ねえ・・・」
叶ちゃんは私の前まで立つと私の肩を手で掴んで少しばかり強く揺する。
ぼろぼろと大粒の涙を零して眉間のシワを強く寄せて必死に訴えてくる。
だけど話をすればするほどその気持ちは強くなっていった。
だって、あの時と彩菜と同じ目をしていたから。
「私は・・・最初の頃の信念みたいなのを持っていた叶ちゃんが一番好きだったよ」
そう言って力強く叶ちゃんの手を外すと私は彼女の前からゆっくりと離れて
部屋から出ていった。その後、叶ちゃんは私を追いかけることはなかった…。
頭が真っ白になりながら、とぼとぼと私が歩いた後の道には涙が一粒ずつ落ちて
残っていた。
続
説明 | ||
卒業間近に遣り残したこと、部活のことを雪乃は何とかしたかった。しかし一度ついたイメージをそう簡単には変えられないことに気付く。だから頼りになる後輩に任せたくなって叶に問いかけるも…。 | ||
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